雀部 |
|
挿し絵希望します!
とういことは、ラストのほうの高次元細胞体が出てくるところなんかのイメージもはっきり見えるんでしょうか? |
平谷 |
|
まず、挿絵の話ですが、ご存じのようにぼくは美術教師ですので絵は描けます。デビュー前は自分のイラストでカバーを飾ることを夢見ていましたが……。作家になってプロの方にイラストやオブジェでぼくの作品を表現してもらえるようになって、考えを改めました。やはりプロの方とは実力が違いすぎますよ(笑)。そのうち口絵でもやらせてもらえればとは思ってますが。 |
雀部 |
|
「平谷美樹・私設ファンページ」のトップページにあるアッシュ(『レスレクティオ』)の画なんか凄いですが。これを見て以来、『レスレクティオ』を読むとこの顔が出てきます。 |
平谷 |
|
ありがとうございます。すべての作品ではないのですが、時々イメージを固めるためにイラストを描いてみるんです。アッシュのイラストもその一つ。
そのほかに『エリ・エリ』に出てきたサジタリウスとか、『エンデュミオン・エンデュミオン』や『エリ・エリ』のカバーイラストなんかも描いています。
でも描くたびにプロの方は凄いなぁと思ってしまいます。
さて、高次元多胞体の映像ですが、正しくはどう見えるのか判りません(笑)。
最初の質問でお答えしたように、時間と空間を共有する世界の集合が一つの“胞”になるわけです。一つの世界の人間は、重なり合った他の世界を認識できない。本間鐵太郎が“軌跡”を見るシーンがありますが、あれがもっと複雑に重層的になったものが一つの“胞”になります。それが幾つも連なって多胞体になっていくわけですが、読者が一番イメージしやすい“泡”をモデルに描いてみました。
実際に高次元多胞体というものが存在したとして、どんな姿になるのが正しいのかは判りませんが、遙かな彼方まで、歪に絡まり合い、膨れあがる多胞体の《ハリウッド的映像》は見えています。もちろんできのいいミニチュアで(笑) |
雀部 |
|
複雑に絡み合ったn次元の多胞体を、3次元に投影したところを想像して見るというお話ですよね。想像力貧困につき、絡み合いねじくれた色とりどりの細長い風船が、くっついた部分でお互いの色が混ざりあっているところくらいしか想像できません(泣) |
平谷 |
|
語彙が足りなくて、読む方に明確に伝わる表現が出来ていないのだろうなと思うのですが……。ぼくの頭の中には小説の中に出てくるものよりももう少しはっきりした映像が見えているのですけれどねぇ……。文章修行に励まなければ(笑) |
雀部 |
|
あ、そこらへんが、私が文系ハードSF作家とお呼びする由縁が。そういう文章に出来ないようなことを他人に伝えるために数学があると思うんですが、それを敢えて言葉で説明しようとするところが(笑) |
平谷 |
|
ああ。なるほど。数学というのはそういうものなんですね!
ぼくは中学時代に数学がすっかり嫌いになってしまったので(笑)。公式の暗記が嫌いだったのですよ。「これを覚えてあてはめればよい」というのが。なぜその公式にあてはめれば答が出るのかということを教えて欲しかった。 |
雀部 |
|
そういうのは教えてませんでしたっけ。忘却の彼方だ(泣)
デザイナーという言葉が出てきたので連想したのですが、普遍の極大構造としての高次元多胞体が、デザイナーのファッションショーだとすると、一人一人のモデル(とそのファッション)は、高次元多胞体に相当すると考えていいですよね? |
平谷 |
|
そうですね。我々よりも高次な存在が、自分の理想的な世界をデザインしていくという感じですね。実は、これからの作品にも出てくるので詳しくは話せないんですけれど(笑)
物理学素人のぼくは、理解していないから色々と妙な妄想を膨らませていくのですけれど……、多世界解釈とコペンハーゲン解釈を一緒くたにしているんです。
我々の住む世界に波束の収縮という現象が起こるのならば(収縮するということは、拡散している状態というものも存在しているわけで)我々の世界自体が“収縮する以前の状態”ではないかと。
つまり可能性が重層的に存在していて、それが局所的な収縮をしつつ構築されていく、不確定・不安定な世界であるのは、収縮に向かって進んでいる過渡的な存在であるからではないかと思ったりするんです。こういう世界が無数にあって、究極の世界に向かって収縮しつつある。我々の世界は、まだ選択が終了していない可能性の一つである。
我々の時間は“俯瞰”すると、分断され継ぎ接ぎされ、バイパスが通り、過去と未来が逆転した、無茶苦茶なものである。しかし、我々は時間を過去から未来に“流れる”ものとしか感知できないために、それに気づかない。
あっもちろんネタとしてね(笑)。
でもハードSF研の方に聞かれると鼻で笑われそうな陳腐なネタでしょうね……(汗)
『ノルン』もこれから書く小説も、それが基本的なネタです。
『ノルン』は収縮させていく側の視点ですし、これから書く小説は収縮される側の視点です。 |
雀部 |
|
わっ、それは凄そうなアイデア! イーガン氏の『宇宙消失』には驚愕しましたが、波動関数が収縮する途中ですか。イーガン氏は、波動関数が収縮しては困る存在が存在することは書きましたが、具体像は書いてませんから、平谷さんがそれに成功すれば、これはもう大変なことに。
『ノルンの永い夢』に話を戻すと、ファッションショーは、デザイナーが決めたコンセプトに沿って各々のモデルさんのファッションが出来上がります。で、このデザイナーが一人のモデルさんを好きになってしまい、彼女が目立つようにと若干全体のコンセプトから外れた、しかし素敵な服を着せてしまったと。(笑) |
平谷 |
|
うんうん。でも、それはコンセプトから外れていないのです。「世界のデザイン」はデザイナーの考え方が唯一絶対のコンセプトですから、途中から変わろうが捻れようが、それが「真理」であるのですよ。 |
雀部 |
|
なるほど。
『ノルンの永い夢』は、多次元世界という私のような普通人の想像の埒外にある世界を、美術的なセンスを活かし、子ども達を教えるように分かりやすく描いた傑作だと思うんです。なんとか理解の端っこをかじることができたような気がしました。
あと、『ノルンの永い夢』は、貴種流離譚としても読めますよね。ヴォクト氏が得意の。『宇宙嵐のかなた』とか、主人公は実は**だったというやつ。コリン・ウィルソン氏も大好きだな(笑) |
平谷 |
|
ありがとうございます。書いてる本人はよく判ってなかったりして……(笑)。
転校とか、大阪の大学への進学とか、職場の中での微妙な位置とか、ぼくの中にはけっこう異邦人感覚があるのですよ。「ここはぼくの居る場所ではない」っていうのではないのだけれど「この集団の中でぼくは異質」というのはよく感じます。SF界の中での自分とかね(爆) |
雀部 |
|
そうなんですか。その異邦人感覚が小説を書くのに必要なのでしょうね。
最後に、執筆予定とかこれからの刊行予定とかをお教え下さい。 |
平谷 |
|
はい。2月25日にメディアファクトリーのMF文庫Jから『スピリチュアル』というライトホラー小説が出ます。カバーイラスト、すごくいいんですけど、44歳の男としては気恥ずかしいです(笑)
それから光文社から聖天神社怪異縁起シリーズの第二弾が6月に出ることになってます。タイトルは『壷空(こくう)』となる予定です。
7月頃に角川春樹事務所から『百物語』の第三夜。
10月頃に、同じく角川春樹事務所から、『エリ・エリ』の第三部。
第二部の『レスレクティオ』で「この宇宙の神」について書きましたが(けっこう読みとってくれなかった人が多かったのです……)今回は、近未来のエルサレムが舞台で「人類の神」についての決着をつけようと(笑) 何度も言いますが宗教についてはニュートラルです(爆)
それから、まだ出版時期は決まっていないのですが中央公論新社から本格SFを一冊出します。
昨年、デビューから10冊目を出したのですが、今回これが全部出ると、一気に15冊になっちゃいます(笑)
それでも速筆のぼくですから、8月以降の執筆予定は入っていませんので、禁漁まで釣りにいそしもうかと(爆) |
雀部 |
|
SFファンとしては、『エリ・エリ3』と中央公論からの本格SFに期待します(爆)
8月以降は『全国恐いもの見てある記』を(笑) |
ダン |
|
今日は久しぶりに平谷さんとお話が出来たし、雀部さん、しおさんともお知り合いになれてとても楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。
学校に、釣りに、執筆活動にお忙しいでしょうけれど、これからも平谷さんの作品を楽しみにしておりますので頑張ってください!! |
平谷 |
|
ありがとうございましたダンさん。また岩手に釣りにいらしてください。良い川を何本かみつけてあります(笑) |
しお |
|
今回は楽しい時間をありがとうございました。平谷先生と久しぶりのお話で、懐かしかったです。映像作品できたら、ぜひ知らせてくださいね。観に行きますから。ダンさん、雀部さん、また機会がありましたら、ぜひお誘いください。 |
平谷 |
|
ありがとうね。しおチャン。懐かしかったよ。そのうち岩手で会おう。本物のコーヒーをご馳走するから。あっそれとも酒の方がいいかな(笑) |
雀部 |
|
ダンさん、しおさん、ありがとうございました。今回は、ちょっとユニークなインタビューになり、嬉しかったです。
平谷さん、今回もありがとうございました。15冊の次は、100冊を目指しましょう(笑) |