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Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[とりこ]

『星の綿毛』
> 藤田雅矢著/菊池健カバー
> ISBN 4-15-208526-6
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 1575円
> 2003.10.31発行
粗筋:
 どことも知れぬ砂漠の惑星。<ハハ>と呼ばれる銀色の物体の通った後には、緑を貯えた土地が砂漠の中を帯のように延びていき、人間たちはそこにまとわりついて収穫し、暮らしを営んでいた。そうしたムラのひとつに住むニジダマは、その緑の帯の端っこ、再び土地が干からびて砂漠に帰っていくところで、他の子ども達と落ち穂拾いをしていた。
 道具を作るというトシという存在にあこがれるニジダマは、ある日砂漠を越えてやってきた交易人の世話をする役に指名される。過酷な環境を耐え抜くために全身の皮膚をウロコで覆った異形の男ツキカゲは、ニジダマの心を見透かしたかのように交易人になって一緒にトシに行こうと持ちかけた……

『捨てるな、うまいタネ』
> 藤田雅矢著
> ISBN 4-87290-155-X
> WAVE出版
> 1365円
> 2003.5.31発行
内容:
 捨てていた食べ物のタネが、芽を出し、葉を広げ、樹になる!!
 今日のおかずに使ったカボチャのタネ、デザートのリンゴのタネ…。そのタネ、まいたら芽が出ます!
 捨てていたタネが芽を出し、葉を広げ、樹になるまでをわかりやすく紹介。今すぐタネがまきたくなる一冊。

デビュー作『糞袋』

雀部 >  今月は、去年の10月にハヤカワSFシリーズ Jコレクションから『星の綿毛』を出された藤田雅矢先生です。藤田先生、よろしくお願いします。
藤田 >  こちらこそ、よろしくお願いします。ただ、先生はやめましょう。落ち着かないので、藤田さんでいいです。
雀部 >  はい(笑)
 女性ファン代表として、とりこさんにインタビュアーとして加わってもらえることになりました。とりこさん、今回もよろしく。
とりこ >  ふ、「藤田さん」では不遜にすぎるような・・・(どきどき) よろしくお願いいたします。
雀部 >  藤田さんのデビュー作は、第七回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作の『糞袋』。で、同書の著者略歴を拝見すると「京都大学SF研究会に所属した」と書いてあって、お〜そうなのかと思ったのですが、・・・
とりこ >  わたしは藤田作品は『蚤のサーカス』が初めてでした。装丁、挿画がたいへん魅力的な本で、思わず手にとったのですが・・・ぱらぱらめくると本文もたいへん懐かしい世界で、すっかり魅せられてしまいました。
 SFマガジンをチェックするようになったのもここ数年のことだったので、「飛行螺子」が掲載されてはじめて、藤田さんがSFと深くゆかりあるかた(?)なのだと知りました。
 そういえば「異形コレクション」にも寄稿されておいでですし・・・・・・(不勉強、申し訳ありません!)
雀部 >  『蚤のサーカス』も楽しい本でしたねぇ。
 SFファンの藤田さんがなぜ『糞袋』のような江戸時代の京都を舞台とした作品を書かれようと思われたのでしょうか。差し支えなければお教え下さい。
藤田 >  大学生(いや高校生かな?)の頃から、ハヤカワSFコンテストなどにSF短編を応募していました。第12回のときには参考作になりましたけど、載らなかったですね。その後、SF冬の時代に入り、ハヤカワSFコンテストも無くなってしまったので、SFの人でも応募できそうなのが、日本ファンタジーノベル大賞だったんです。北野勇作さんとかも、そうじゃないですか。『糞袋』は実は4度目の応募で、はじめはもっとSFっぽい作品を応募していたのですが、ちょっと傾向と対策を考えまして、こういう蘊蓄系にシフトしてみました。一応SF(スカトロ・ファンタジー)ではないか思ってますけど(笑)。
 その流れで2作目の『蚤のサーカス』も蘊蓄系といえばそうですね。このときは、ぜひ土橋とし子さんに装丁をとお願いしました。
雀部 >  つまり受け皿が無かったってことですよね。ここにも冬の時代が(笑)
 しかし、スカトロ・ファンタジーってのは、良いですねぇ。新しいSFの定義だ(笑)
とりこ >  ・・・ス、スカ・・・・・・(そんなSFはイヤとか言いたいのをこらえ、でも『糞袋』はタイヘン面白く拝読したので、いろいろ言いたいことが混乱しつつ)
 そ、そういえば「日本ファンタジーノベル大賞」ご出身で、その後素敵なSFを書いてくださる作家の方って、多くおいでですね。なんて素晴らしい賞なのでしょう!
(※非シャレ)

高校時代の小説同人誌がいまも続いてるなんて!

雀部 >  日本ファンタジーノベル大賞は、六回目くらいまでは本当にSF方面を書いてくださる作家のかたが多かったですね。一回目の酒見先生にもSFぽいのありますし。
 ところで、京都大学SF研究会では、どういうことをされていたのでしょうか。
藤田 >  当時は、大森望さんとか、いまは東京創元社の編集者をされてる小浜さんとかもいて、毎週土曜の午後に百万遍の「らんぶる」という喫茶店に集まっては、うだうだとSF話をして過ごしてました。その後、夕食を食べて、誰かの下宿に流れこむというパターンで……。
 ただ、京大SF研は海外SF派が多くって、創作系の人はマイナーでした。その一方で、高校生の頃からコピー誌の「零(ゼロ)」というSF創作の会を主宰していたので、創作の方は主にこちらでという感じでしたね。
雀部 >  大森望さんや、小浜さんとご一緒だったんですね。濃いなぁ(笑)
とりこ >  ハイレベルな集まりだったのですね。
 SF大会にも当時から参加なさっておいでだったのでしょうか?
藤田 >  初めて参加したのが1981年のDAICON3で、おーこんな集まりがあるんだ!と、EZOCON2までは毎年行ってましたが、その後少しごぶさたで、2000年のZero-CONからは子連れ参加です。大学の頃は、京都なので星群祭とかにも顔を出してました。京フェスの第1回は、当然ですがスタッフでしたね。ゲストの大原まり子さんを駅までお迎えに行きました。このところ、ご無沙汰してますけど……
とりこ >  あ、わたし、京フェスにはここ4年ほど、毎年遊びに行かせていただいてます。ホントに楽しいイベントで、・・・・・・うわー、なんだかもうますます頭があがりません!
雀部 >  お二人とも生え抜きのSFファンでいらっしゃるなあ。
 「零(ゼロ)」の主宰を20年以上続けられたとのことなんですが、こちらではどういう作品を書かれていたのでしょう?
藤田 >  薄っぺらいコピー誌なので、ショートショートか短編がほとんどです。昔は、けっこう異世界ものが好きでした。どこかの惑星の妙な生き物の生態とか、人工太陽が迷路のような壁面を移動している世界とか、そんな作品を書いてよろこんでました。そういう意味では、『星の綿毛』はそんな昔を引きずっている作品ではあります。
 『糞袋』も書き出し部分が、「高瀬川茶乃湯事件見聞」という短編で零114号に載ってます。いちおう、「零」はいまもほそぼそと続いて(最新号は154号)まして、忘れた頃に出ます。
雀部 >  現在154号ですか。まさに「継続は力なり」ですね。アニマ・ソラリスも今月50号なんですが、「零」を目標とさせて頂きます。(50号記念に、藤田先生よりサイン入りのご著書を頂いております。50号記念の寄せ書きコーナーをご覧ください)
 人工太陽が迷路のような壁面を移動している世界って、SFファンとしてはもの凄く興味がありますね。
とりこ >  高校時代の小説同人誌がいまも続いてるなんて、それは、すごいことですね!
 20年前というと、まだコピーやワープロの普及前でしょうか。もしや、肉筆回覧・・・?
藤田 >  ようやくコピーが1枚20円ぐらいでできるようになった頃で、創刊からしばらく手書きコピー誌でした。その後、ワープロ、パソコンと紙面は進化しましたが、どこか紙媒体にこだわりがあって、web化されずいまもコピー誌です。その分、個人のHPやってます(http://www.d2.dion.ne.jp/‾fujitam)。コピー誌の方は、やめるきっかけが無いだけかも(笑)。
雀部 >  目指せ!200号ですね。
 またそこから、新しい発芽が……

妙な植物の世界

とりこ >  『星の綿毛』を読みながら、わたしは、宮崎駿作品をなんとなく思い浮かべました。
 といってもアニメのほうではなく、漫画のほうなのですが・・・ 「シュナの旅」の農場の風景、「ナウシカ」の巨神兵とか・・・(←これは「腐ってやがる」からの安直な発想かもしれません)

 失われた(/つつある)文明と農作業、というとりあわせは、たいへんそそる絵面だと思います。出てくると、なんだかもうそれだけで何かのスイッチを押されてしまうかんじなのですが・・・・・・大学時代から農業がご専門とのことですが、農業には何か思い入れがおありなのでしょうか?
藤田 >  昼間は農業関係の某研究所に勤めておりますので、今日も収穫が何とか終わったところで腰が痛いです(笑)。農業というより植物、昆虫、熱帯魚、シーモンキーなどに反応する生物少年(?)のような感じでして、いまなおそういうものとSFにたわむれて暮らしております。
とりこ >  ああ、そうなのですね!

 わたしのうちには、弟の趣味のためクワガタ用菌糸ビンがいつもゴロゴロ転がっていて、ムシ好きの気持ちはわたしにもわかるような気がするのですが・・・・・・>>とりこ家のヒラタクワガタ

 『糞袋』の主人公が「フンコロガシのイチ」と呼ばれたり、『蚤のサーカス』の主人公の少年たちの虫に注ぐ愛情の様子といい、藤田作品に描かれるイキモノや植物には、マニアのツボをくすぐるというか、「ナニが大事なところか、ちゃんとわかってらっしゃる!」と、ピンとくるものがあるというか。
 『星の綿毛』でも、登場人物が精神を乗せる翼魚やラクダ代わりの不思議な生物、それから「イシコログサ」などの植物も、たいへん魅力的だなあと思っていました。
 やはり、ご自分がお好きで、そしてその魅力をよくご存知の藤田さんならではの、フジタワールドなのですね!
藤田 >  そう言っていただけると、とてもありがたいですね。
雀部 >  『捨てるな、うまいタネ』を拝見してから、自分でもなんか植えたい欲求が起こっているんですが、なかなか実現してません(汗)
 診療室に置いてある観葉植物は10鉢ほど、もう15年も育てて(?)います。まあ、タネ類はよく食べてますが(笑)
 初心者が最初にまいてみるのは、何が一番適当でしょうか?
藤田 >  何でもいいんですよ。ゴミ箱に捨てたと思えば、失敗しても気にならないし……でも、イチゴみたいな小さいタネよりは、ビワとか銀杏とかが無難かも。ドラゴンフルーツはサボテンの実なので、タネ蒔くとサボテンが生えてくるので、おもしろいですよ。
雀部 >  今日、ビワをいただきました。う〜ん、どうしよう(笑)
 昔、うちの庭には、イチジクとザクロの木があったんですが……
 夫婦共々「もっと早く、ともかく収穫がしたい」せっかち派なので、ミニトマトあたりが適当ですかねぇ。しかもF1品種の種を買ってきた方がよさそう(笑)
とりこ >  庭に生ゴミを埋めたら、グレープフルーツの種から芽が出てきた、と母が言っていました。すごい生命力ですね。
雀部 >  お、とりこさんはすでに実践されているんですね。
とりこ >  恥ずかしながら、わたし自身はなにも・・・ でも、両親が家庭菜園を借りていて、週末には「ちょっとハタケ行ってくる」という家なので・・・・・・・

 「捨てるな、うまいタネ」は、親子でたいへん楽しく拝読いたしました。

 母は、ちょっぴりグリーンフィンガーの気があるみたいですが、わたしは・・・ダメかもしれません。

 そういえば、母が下の弟のPTAで学校のハタケもいじっているのですが、今年は花壇のチューリップが種化したそうで、持って帰ってきてくれました。こんなのはじめてみた、といって喜んでました。母が言うには、多分近くに蜂の巣があったからこうなったのだろうと・・・・・・
藤田 >  咲いたあとに莢がなったってことでしょうか。別の花の花粉がかかれば、タネが出来ることがあります。品種改良の場合には、わざと別の花粉をつけてタネを取り、それを蒔いて新しい花が咲いた中から良いものを選ぶのですが、花が観られるまで早くても5,6年はかかるでしょうね。
とりこ >  そう、これです!
 あれは手で持って見ると、こう、より面白いです。チューリップって咲いてる姿がまず先入観にあるし、散る姿も見てるので、いくら干からびたってこうなるわけじゃないだろう、というのがあるから。
 すごいおもろいです。

 生えてるとこもロングで見てみたいです。うちのハハが「ホントはねえ、生えてる姿も面白かったのよ〜」といってたのですが・・・・・・こういう姿のときは、葉って、もうなくなっちゃってるのでしょうか?
 フジタ邸のお庭のは、まだ地面につながってますでしょうか? 
 も、もし、もしも、お、お手間でなければ・・・
藤田 >  残念ながら、種子を採るのにカットして分解してしまいました。
 要は、花びらの落ちた芯のところ(ここが子房です)が大きくふくれただけです。莢が熟れる頃には、葉っぱはもうありません。
とりこ >  ありゃあ、残念です。(^_^;)
雀部 >  『星の綿毛』に出てくる植物、またはモデルになった植物の写真もおありでしょうか?
藤田 >  ありますよ、イシコログサ。学名Lithopsです。
 石ころみたいでしょう。動物に食べられないように擬態しているということです。ちなみに、こいつは植物のくせに脱皮します。
とりこ >  これはすごーい! 
 知らなかった! 実在するんですね! >イシコログサ画像

 もう、こう、目の中に星が入ってるかんじで「イシコログサって、本当にあったんだ・・・!」(「ラピュタ」の口調で)
藤田 >  あ、あと大きくなると、こんな感じで花も咲きます。
 タネはできますが、綿毛ではありません。(;^^)ヘ
とりこ >  動物に食べられないように、・・・って、ニンゲンはこれ、食べられないんですか?
(なんか、美味しそうに見えますが・・・白あんとか入っていそうな。)
藤田 >  中味はたぶんアロエみたいですが、確かアルカロイドを含んでいたと思いますので、食べない方が無難です。
雀部 >  食べたらトリップできるとかは? ないですよね(笑)
 そうか、イシコログサ→アルカロイド→トリップ→仮想都市という流れもあるか。
とりこ >  フジタ邸(または、フジタ研究室? 職場?)にも、あるんでしょうか?
 わたしのうちでも育てられるんですか?
 手のひらに乗せてみたいです。。。こいつ、根っこないですよね?
 そんなことしたら、死んじゃうのかな?
藤田 >  いろいろありますよ。冬場に0℃以上が保てれば、大丈夫です。根っこもあります。原産地では、岩砂漠に頭だけ出して埋もれているそうですが、水を求めて根っこはかなり長かったりします。
 『捨てるな、うまいタネ』がそこそこ評判がいいので、こういう妙な植物の写真集+入手・栽培法+ふじたまのエッセイという本を出そうと、来春に向けて動いているところです。
雀部 >  それは楽しみです。
 育てるにはブルーベリーなんか、どうなんでしょう。難しいかなぁ。
 なんか老眼にも効果がありそうなので、興味があるんですが(爆)
藤田 >  ブルーベリーは、ツツジの仲間なのでタネはケシ粒みたいです。
 アントシアンが摂りたければ、紫芋とかどうです。芋だけでなく、芋づるの方は糖尿にもいいとか……おー、妙な植物の世界が!
雀部 >  そうですか。あまり小さいのは難しそうですね。
 長男が川越の近くに居るんですが、あそこは芋が名産で、たしか紫芋もお土産にあったなぁ。今度買ってこさせよう(笑)
 最近はペットの癒し効果とかが喧伝されているようなのですが、植物を育てる癒し効果というのは、どうなのでしょうか?
藤田 >  園芸療法とかあるらしいので、きっと癒し効果はあるでしょう。植物を相手に仕事をしている人は、少し長生きとかいう統計があると聞いたことがあります。本当かどうか知りませんけど、もしそうならその分たくさん本が読めて、映画も観られるし、よいなぁと。
とりこ >  うちの母は、園芸=癒し、いつも主張してます。でも、ハタケ頑張ると植物の世話にへとへとになるから、疲れて早死にするかも・・・、とも言ってました(勿論、冗談ですけど☆)

 「わたしもう植物の奴隷だわ」とか、時々、言ってます・・・・・・・ハハが植物の奴隷になるんじゃあ、『星の綿毛』とは逆のパターンですね。(って。)

植物ものSF談義

雀部 >  映画はどういうのを観られますか?
 SF映画も?(笑)
藤田 >  SF映画観ますよ。でも、近頃は観る回数も減りました。一番最近観たのは、『イノセンス』ですが、あーいうのはちょっと波長が合わなかったです。『ロード・オブ・ザ・リング』はいいですね。『マトリックス』も最後は何かナウシカのようで、いっそのことスミスが巨大化でもすればおもしろいのに……と。最近は、みんな子連れで行ってます。『スター・ウォーズ』も子どもと一緒に観られるとは夢にも思いませんでしたよ、25年前は。あと古いのだと、『ダーククリスタル』なんか好きです。
雀部 >  お、『ダーク・クリスタル』。パペットムービーの大傑作ですね。英語版のビデオ持ってます。植物というと、やはり“愛は植物を救う!”『サイレント・ランニング』なんかはいかがでしたか?(笑)
藤田 >  おぉ、いいですねぇ。あのロボット(デューイでしたっけ)の水やる姿が……
 そうなると植物ものというよりは、ロボットものですか。
 あとは、ウルトラマンのグリーンモンスも好きです。
雀部 >  さすが、植物学者さんだ(笑)
 『星の綿毛』の後書きに、「オールディスの『地球の長い午後』やプリーストの『逆転世界』、山田正紀の『宝石泥棒』の世界に魅せられてしまった」とありますが、ディック氏の世界はどうでしょうか?
藤田 >  ディックも大好きです。以前、SFマガジンのディックの特集号だったかにも書きましたが、あの現実が際限なく剥がれ落ちていくディックワールドはたまりません。影響も受けていると思います。中でも短編がいいですよね。『パーマー……』の原型とも言える「パーキィ・パットの日」なんか特に好みです。
雀部 >  『星の綿毛』を読んで、最初にディック氏の作品を連想したんですよ。ツキカゲが翼魚の傷口をなめて、―青臭い!「けっ、ニセ者か」とつぶやくシーン。ゴライアに流れで穫れた一番出来のいいものを供えに行くところで、確信に変わりました。
 ツキカゲが、青臭く感じたのは、成分的には何なのでしょうか?
藤田 >  青臭いんだから、クロロフィルですかね……一応理科系ですが、場面が浮かんで感覚的に書いていることも多いです。で、理由はあとから考える(;^^)ヘ.。クロロフィル持っていても、他の色素もあって、緑色じゃない植物もありますから、翼魚もきっと鯖みたいな色してて、少しは光合成もしていると。
雀部 >  じゃ、ムラ人たちも、少しは光合成をしてるんだ。
 植物タンパク質ベースで、人間と同じ―もちろん遺伝子学的には違うのですが―ほぼ人間と同じ行動が出来、同じような精神活動ができる生命体を生み出すことは可能でしょうか?
藤田 >  うーん……『星の綿毛』の世界では可能です、ということにしておきましょう。
雀部 >  ではでは、人間の細胞に葉緑素を取り込み(ミトコンドリアのように)栄養の一部を光合成で補うというのは理論的にはどうでしょうか。
藤田 >  藻と共生しているイソギンチャクとかいますからね。そんな感じで、できるんじゃないですかね。あーお腹空いたといって、太陽を浴びる。海水浴とかで陽にあたると、もうお腹いっぱいとか、雨が降ると水分は足りるけどちょっと小腹が空くって感じでしょうか。妙な感覚ですね。
とりこ >  髪の毛に葉緑素・・・ってのは、新井素子の『グリーン・レクイエム』でしたか。
雀部 >  髪の代わりに藻をはやすというのは、ファンタジーノベル大賞優秀賞の森青花さんの『BH85』ですね(笑)
とりこ >  髪じゃなくて、ボディペイントとか、タトゥーみたいな感覚で、皮膚の一部にオシャレで入れて光合成でエネルギー補給できちゃうから、もう皮下脂肪要らなくなって、だからダイエットにいい、とか。

 光合成しすぎると逆に皮下脂肪として貯め込まれちゃうから、お肌の露出過多には気をつけなくっちゃ、とか、そういう、ファッションに貢献する光合成、みたいなのも面白いかもですね。

 で、このテクノロジーが末端まで行き渡り、とある日、お風呂屋さんで刃傷キズの893さんが、背中いっぱいの光合成タトゥーを・・・「漢たるもの、おてんとさんさえあれば身一つで!」とかいって・・・
雀部 >  わはは。食糧問題解決か!(笑)
 植物がらみでついでに質問しちゃいますが、『星の綿毛』の世界は何げに植物ベースですよね。これは、『地球の長い午後』もそうなんですが、遠未来においては、動物より植物のほうが、生き残る可能性は高いとお考えでしょうか?
藤田 >  植物のような独立栄養生物なら、いまの地球の環境で光と水があればまず飢死することはないでしょうから、劇的な環境変化があっても、動物よりは生き延びると思います。
雀部 >  じゃ、植物があるなら、人間も当分大丈夫なんですね(爆)

イメージ喚起力の強い人は要注意?!

とりこ >  わたしもディックは好きなのですが、でも、お話を伺うまで藤田作品とディックを結びつけて考えたことはなかったです。
 藤田さんのエッセイも「フィリップ・K・ディック・リポート」で拝読しているのに・・・・・・(※ハヤカワ文庫/SFM2000年6月号のディック特集号に寄稿のエッセイが収録されています)

 でも『蚤のサーカス』も、そう言われてみると、終盤はディック的な展開ですね。懐かしい雰囲気やサーカスなどに気を取られ、衛生博覧会、とか、そんなことばかり考えていましたが・・・
藤田 >  『蚤のサーカス』の最後は、一気に書き上げた覚えがあります。書き上げてしばらくしてから、読者になって読みます。そのときに、面白くないとダメですね。
 ワープロができてから、長編は書きたいところから書いてみたりもするんです。
 ちなみに、『糞袋』はあとがきがはじめのうちに書かれています。
雀部 >  え、『糞袋』の後書きって、そうなんですか。
 実は、『星の綿毛』を読んだときに「あ、これはラストシーンのイメージが最初にあったのでは?」って感じたんですよ。
藤田 >  ムラ人を従えて移動するハハのイメージは昔からあって、ずっと書きたかったのですが、『星の綿毛』のラストは、本当に飛んでいってしまおうかとか、いろいろ迷った結果、あんな感じになりました。
雀部 >  ラストシーンが最初というわけではなかったのですね(^_^ゞポリポリ
 最初読んだとき、上空からの俯瞰で、ただ一面の砂漠のなかで、ハハを先頭にしたグリーンのベルトがつ〜っと一直線に伸びているところが浮かんできて、ああ一幅の絵やなぁと感じました。
 『星の綿毛』は、出だしはファンタジー風で、だんだんSFになってくるんですけど、私なんかは「あ〜、来た、来た!」と喜んじゃいましたが、こういうSFになる展開はやはりSF者の魂がそうさせたのでしょうか?それとも、早川書房の本ということを意識されたのでしょうか?(笑)
藤田 >  やっぱりJコレクションですからね。ほかの出版社では出してもらえないくらい(笑)SFするぞーって意識はありました。
雀部 >  やっぱり。
 藤田さんは、小説を書かれる際に、まずイメージが浮かんでくる方ですか、それとも文章から入られるほうでしょうか。
藤田 >  イメージが浮かんでくることが多いですね。それをどうやって、文字にして読者に伝えられるかという感じです。
雀部 >  いや、それは伝わってきました(^o^)/
とりこ >  藤田作品を読んでいると、立ち上がってくるビジュアルは、どの作品も、とても鮮やかだと思います。ビジュアルだけでなく、色とかにおいとかも、・・・・・・
(糞袋は、ほんとにもう、読んでて困りました!)
藤田 >  『糞袋』の方は、読者の方の想像力にもかなり依存しているんですよ。
 最後のゲラで、「糞」とかそういう言葉をなるたけ使わないようにしたんです。
 それでも、イメージ喚起力の強い方は、読んでいて気分が悪くなるようで……
雀部 >  藤田さんは、逃避文学としてのファンタジーについてどう思われますか。
 耐え難い現実世界から離れて、空想の世界に遊ぶことに生き甲斐を求める子供ってけっこう居るような気がしてます。で、そういう手段を持たない子供たち(ファンタジーとかSFとは無縁の)は、どうにもならなくなって、現実世界で極端な行動に走るような気がしてます。
藤田 >  そういう空想世界に遊ぶ子供だったので、そんなに「逃避文学」と卑下しなくてもいいのではないかと……みんなSFしろとも言いませんけど(笑)。

人間の方を改造して環境にあわせる方が…

雀部 >  いえ、別に卑下しているつもりはないんですが(笑)
 『糞袋』は時代ファンタジーとでもいうべき作品(伝奇小説かな〜?)でしたが糞袋という題名そのものからも伺えるように“人間なんて、つきつめれば所詮糞の詰まった袋にすぎない”という醒めた科学者の視線が感じられ、普通のファンタジーとはひと味違っていて、SFファンにも面白く読めました。
 で、どうなんでしょう、やはり藤田さんは、人間なんて偉そうにしているけど普通の生き物とどこも違わないじゃないかとお考えでしょうか。
藤田 >  やっぱり人間はたいした生き物だとは思いますが、いばり散らすことはないのではと考えます。そうですね、宇宙へ出て行く際にも、テラフォーミングは魅力的ですが、その惑星にとっては最大の環境破壊でしょうから、人間の方を改造して環境にあわせる方が世界として受け入れられます。押しつけがましい宣教師的な考えより、郷にいれば郷に従えタイプです。
雀部 >  同感です。
 SFでは、わりと多いですよね、その惑星の環境に合うように肉体を改造しちゃう話。
 まあ、ラファティ氏のように蜘蛛になったりするのは願い下げですが(笑)
藤田 >  小松左京先生の短編で、確かそういうのありましたよね。宇宙のどこかで、まったく違うようなタイプの生物が出会うのだけれど、どちらも何かのマークを持っていて、それで互いに人類の遠い末裔同志だとわかるような話。
雀部 >  小松左京先生の「再会」ですよね。(ハヤカワ文庫JA『神への長い道』所載。コマ研の方に聞いてきました^^;)
 小松先生は、ほんとあらゆるタイプ・アイデアの話を書いてらっしゃるから。
 クローンとかはどうでしょう?私は条件付きの賛成派なんですが。
藤田 >  種として遺伝的多様性を持っていないと、様々な環境変化に対応できないですから、クローンは危ないでしょう。スター・ウォーズのクローン兵とか、みんな一気に病気になっていちころとか……作物ではそういう例はあります。品種改良も今はよかれという方向でも、時代が変われば困るってこともあるでしょうし、いろんな人がいる方がおもしろいのでは、と思いますけど。
雀部 >  多様性は確保しなくちゃいけませんよね。私の考えていたのは、臓器のクローンなんですが、これくらいなら許されるかと。まあ、手や足も含めて。
 では、人間の品種改良はどうでしょう。たとえば、『終わりなき平和』のように人間の持つ攻撃性を回避する手段が遺伝学的に可能だったら、人類はそれを採用すべきでしょうか。
藤田 >  それはもちろん、ティーラ・ブラウンの「幸運の遺伝子」です。これなら、即採用です。ニーヴンえらい!
雀部 >  ニーヴンのアイデアの中でも最高傑作ですよね(爆)
 最後に、近刊予定とか、これからの執筆予定をお教えください。
藤田 >  先ほどあげた植物ものが来春に向けて、それからこの前SFマガジンに載った「月当番」を気に入ってくださった児童系の出版社があって、絵本化に向けて話が進んでます。こちらは画家の先生のご都合もあって、来秋かな。好評であれば、続編が出るかも。
 あとは休日作家なもので、どんどん書いてというほどパワーはないのですが、短編はSFマガジンなどで、またお目にかかれることでしょう。
 そのほか、この冬に日本ファンタジーノベル賞作家の新年会というのがあって、そのときにみんなでペリーローダンのようなことをして遊べないかという話が出て……でもファンタジーノベルの面々ですからね。紆余曲折を経て、短編競作のような形で現在進行形です。これもどうなるか、わかりませんけど。
とりこ >  ・・・ファンタジーノベル受賞の皆さまによる短編競作・・・・・・なんて豪華なメンバーでしょう、ラインナップ考えただけで鼻血が出てしまいそうです。すごい! 
 実現、本当に楽しみにしております。

 あと、口を挟み損ねてしまいましたが、『ロード・オブ・ザ・リング』をいいと仰っていただいて、実はすごく嬉しかったです(わたしも大好きなのです)! 
 それから「月当番」は、SFM読者賞でも人気だった「計算の季節」「奇跡の石」、それから前述の「飛行螺子」などとも通じる、ふんわり柔らかなフジタワールドの魅力たっぷりの、とても素敵な作品でした。
 絵本化を、たいへん楽しみにしております。
 もちろん「月当番」続編も、それからSFMなどへの新作のご寄稿も、とっても楽しみです。
雀部 >  私も、ファンタジーノベル受賞作家による短編競作は、とても楽しみです。
 今回は、お忙しいところ、色々質問に答えて頂きありがとうございました。
 さらなる植物の世界の開かれんことを。
藤田 >  こちらこそ、楽しいひとときをありがとうございました。
 最後におまけで、「流星獅子咲き牡丹」という朝顔の花を……
とりこ >  本当にどうも有難うございました。


[藤田雅矢]
'61年京都府生まれ。京都大学農学部卒業。農学博士。農業関係の研究所勤務の傍ら、執筆活動を行う。'95年『糞袋』で第7回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。日本SF作家クラブ会員。'99年「奇跡の石」で第十二回SFマガジン読者賞受賞。
ホームページ:FUJITAMA World http://www.d2.dion.ne.jp/‾fujitam/
[雀部]
開院祝いにもらった観葉植物を、もう15年ほど育てています。一鉢も枯らしてないのは、毎日有線の音楽を聞かせているからか?(笑)
[とりこ]
アニマソラリス50号、おめでとうございます!
「とりイカ」:http://picnic.to/‾toriika/
(放置プレイ中…)

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