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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『火星ノンストップ』
> 山本弘編/増田幹生カバー/浅倉久志・伊藤典夫・他訳
> ISBN 4-15-208651-3
> 早川書房
> 1700円
> 2005.7.15発行
収録作:
「火星ノンストップ」ジャック・ウィリアムスン
「時の脇道」マレイ・ラインスター
「シャンブロウ」C・L・ムーア
「わが名はジョー」ポール・アンダースン
「野獣の地下牢」A・E・ヴァン・ヴォクト
「焦熱面横断」アラン・E・ナース
「ラムダ・1」コリン・キャップ

『まだ見ぬ冬の悲しみも』
> 山本弘著/森山由海カバー
> ISBN 4-15-208699-8
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 1700円
> 2006.1.31発行
収録作:
「奥歯のスイッチを入れろ」
「バイオシップ・ハンター」
「メデューサの呪文」
「まだ見ぬ冬の悲しみも」
「シュレディンガーのチョコパフェ」
「闇からの衝動」

『トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS』
> 山本弘著/白根ゆたんぽカバー
> ISBN 4-86248-009-8
> 洋泉社
> 1500円
> 2006.3.13発行
 宇宙が赤外線の波長よりも小さく縮む。異次元からの攻撃でボストン消滅。怪獣の群が横須賀襲撃。ロケットで地球を動かす。実はこの世界はフィクションだった……
 ということで、好評だった前作『トンデモ本?違う、SFだ!』に続く第二弾。
 小説だけでなく、映画・マンガ・テレビにおけるユニークで面白いSFを大紹介。

雀部 >  今月の著者インタビューは、1月末にハヤカワSFシリーズ Jコレクションから『まだ見ぬ冬の悲しみも』を出された山本弘先生です。山本先生、前回の『神は沈黙せず』の著者インタビューに引き続き、よろしくお願いします。もう一年半経つんですね。
山本 >  早いものですね。
雀部 >  山本先生の早川書房デビューを心待ちにしていたファン(私だ!)にとって待望の一冊なのですが、この本の前に、早川書房の“ヴィンテージSFセレクション「胸躍る冒険篇」”『火星ノンストップ』を編著されてますよね。この編著のお話があったのと、SFマガジンに短篇掲載の依頼があったのは、どちらが先なのでしょうか?
山本 >  ヴィンテージSFセレクションの話があったのは2004年10月でしたね。その少し前、『SFマガジン』の2004年4月号に「時分割の地獄」(短編集『審判の日』に収録)を掲載していただきました。これが僕の実質上の『SFマガジン』デビュー作ということになります。
 で、次の作品について打ち合わせするために早川書房に行ったら、編集部のKさんという方が『トンデモ本?違う、SFだ!』を読んでくださっていて、「アンソロジーの編者をやってもらえないか」と持ちかけられたんです。『火星ノンストップ』のあとがきでも書きましたけど、僕は若い頃からSFアンソロジーを編むのが夢だったもので、二つ返事で引き受けさせていただきました。
雀部 >  なるほど納得です。
 まさにSFファンの夢を実現! いいなぁ。SFマガジンにデビューは、SF作家としての夢でしょうし、ダブルで叶ったわけですね。
 『火星ノンストップ』に収録された作品は、どれも心躍るものばかりで、私も大好きです。「ラムダ・1」だけは、全然記憶になくて、石原先生のデータベースで検索したら、65年にSFマガジンに掲載されていたんですね。もう定期購読していたんですが、記憶に無い(汗) 
 これも、タウ空間のおどろおどろしい描写が素晴らしいし、ラストの落ちも効いているし、〈ニュー・ワールズ〉誌掲載とは思えない(笑)
 良い作品のご紹介ありがとうございました。
山本 >  そう言っていただけると嬉しいです。
 60年代のSFマガジンには、まだまだ埋もれてる傑作がたくさんあるんですよね。クラークとかハインラインとかの短編なら、後になって短編集に収録されたわけですけど、コリン・キャップとかレイモンド・F・ジョーンズみたいなマイナーな作家の作品は、どこにも再録されずに忘れられてるものが多い。それが悔しいんですよね。
雀部 >  レイモンド・F・ジョーンズといえば『騒音レベル』!この著者インタビューでも名前が出るのは三回目。それも日本SFの大御所の記憶に残っている短篇ですね。
 関連質問なんですが、3月13日に刊行された『トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS』も良かったです。う〜ん、山本先生とSFの嗜好、似ている(笑)
 前作は、そうとう評判が良かったようですね。
山本 >  バカ売れはしなかったんだけど、読んだ方からの反応は良かったですね。前にも言ったと思いますけど、「『マイクロチップの魔術師』を読んでみたい」という読者からのメールが来たり。これでちょっとでもSF人口を増やすのに貢献できたんじゃないかと思うんですが。
雀部 >  増えたと思いますよ〜。
 本来なら全部の項目について逐一お聞きしたいところなんですが、そんなご無理を聞いて頂くわけにもいかず、特に同志感をもった作品についてだけお聞かせ下さい(笑)
 まず、ローマーの『突撃!かぶと虫部隊』。ローマー、大好きなんです。『タイムマシン大騒動』も大好きですが。機会があれば、ぜひレティーフ・シリーズをまとめた短編集の編者もお引き受け下さい。訳者は、酒井昭伸さんで(酒井さんは、某所でのハンドル名が"retief"というくらいのファンですので)
 あの脳天気なストーリー展開と、昔のアメリカSFらしいおおらかさとユーモアのセンスは、ちょっと他に例を見ませんよね。
山本 >  ええ、ツッコミどころ満載なんですけどね(笑)。SFの歴史上で言えば、それこそ忘れられてもしかたのない二流作品なんだけど、愛着はありますね。あのイラストの印象もあるんでしょうけど。
 そうそう、本の中で、イラストレーター「つぐもとれい」の正体をご存知の方はご一報くださいとお願いしたら、さっそく読者の方から情報の提供がありました。どうも加藤直之氏と宮武一貴氏の合作ペンネームだったらしいです。
雀部 >  そうだったんですか。なんか昔のパルプマガジンぽい味を上手く出したイラストで妙に作品にマッチしてましたから。
 タイムマシンつながりということでお聞きするのですが『トンデモ本?違う、SFだ!』にも名前が挙げられているハリイ・ハリスンの『テクニカラー・タイムマシン』は、どうでしょう。ユーモアのセンスが、ちょっと似ているような気もしますが。
山本 >  ああ、『テクニカラー・タイムマシン』! あれも楽しい話で、けっこうハマって何度も読み返しましたね。『かぶと虫部隊』とかもそうだけど、ユーモアSFってどうもシリアスな作品より格が下みたいに思われてるところがありますよね。SF評論家の方なんかは、まず評価しない。だったら僕が取り上げてやれ、と思ったんです。
 最近だとザコーアー&ゲイネムの『プルトニウム・ブロンド』。あれもバカバカしくて気に入りました。
雀部 >  ほんと大受け(爆) 堺さんによると「超すちゃらか近未来ハードボイルド・コメディ」ということですが(笑)
 人を笑わせるって、ほんとは泣かせるよりも難しいですよね。まあ、理想的なのは「面白うてやがて悲しき」というヤツかも知れませんが。
 アメリカのユーモアSFとは少し湿度が違うんですが、イギリスのSFは、どうでしょうか。エリック・フランク・ラッセルの「宇宙のウィリーズ」なんか、最初に読んだときは、腹の皮がよじれるほど笑わせてもらいました。
山本 >  すみません、ラッセルは『メカニストリア』ぐらいしか読んでなくて。ただ、本でも書いたように、ダグラス・アダムスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』は大好きでしたね。もちろん『宇宙船レッド・ドワーフ号』も。
 アメリカSFのギャグって心底から脳天気なんだけど、『銀ヒチ』や『レッド・ドワーフ』のギャグって、バカをやっててもその奥に深い何かを感じさせてくれるんですよね。思想を真剣な顔して声高に叫ぶんじゃなくて、ギャグに偽装してぶつけてくる。『神は沈黙せず』の冒頭に引用した『レッド・ドワーフ』のクライテンの台詞なんか、まさにそうでしょ? 大真面目に語られたら引いちゃうけど、ああやってギャグにされると、笑いながらも納得しちゃう。
雀部 >  確かにそういう側面はありますね。くさい科白でも、ギャグのなかに混ぜちゃうと妙に納得しちゃうとか(微妙に違うかも^^;)
 ギャグSFというと、山本先生の『ギャラクシー・トリッパー美葉』が大好きなんですが、これってストーリー展開は『銀ヒチ』がヒントになっていたんですね。そしてその『美葉』が『キノの旅』の設定に影響していたとは。こうして名作のエッセンスは受け継がれていくんだ(しんみり)
 前からお聞きしたいと思っていたんですが、『美葉』に出てくる宇宙航法がありますよね、あの科学常識の谷間を微妙にすり抜ける珍妙な――あ、SF者として誉めてます(笑)――アイデアはどこから出てきたんですか。(『美葉』シリーズの紹介はこちら
山本 >  どこからと言われても困るんですけど、昔からああいう屁理屈を考えるのが好きなんですよ。やっぱりラインスターとかベイリーの影響なのかな? 超光速とかタイムトラベルとか巨大怪獣とか、現代科学では不可能なんだけど、それを話の上で「ある」ことにするにはどうすればいいか、頭をひねるのが楽しいんです。「ワープ航法」みたいな手垢のついた手は意地でも使わないぞ、みたいな……ひねくれてるのかもしれない(笑)。
雀部 >  SFとかミステリでは、ひねくれているのは、長所ですとも!(笑)
 映画の項では、なんといっても『妖星ゴラス』。当時、小学5年生だったのですが、ゴラスとの衝突を避けるために、南極にロケット推進装置を建造して、地球の軌道を動かすという発想には、とことんしびれました。当時は、小学校に巡回映画というのが来ていて、SF映画の原点は講堂で観た『地球防衛軍』あたりなんですけどね。
山本 >  ああ、昔は小学校の講堂でよく映画を上映してましたね。僕も『大魔神怒る』か何か見た記憶が……。
雀部 >  大魔神のころも巡回映画やってたんですか。
 で、ゴラスは、近所にあった映画館(三番館くらいか?)で観たのですが、併映が『江戸忍法帖』。これは当時の小学生には刺激が強かった(笑) ゴラスは、けっこう事細かく覚えているのですが、こっちのほうは、裸のおネェちゃんの後ろ姿しか印象に残ってません(爆)
 映画館で観た最初のSF映画は『ガス人間第一号』で、あの可哀想なラストシーンは忘れられません。
山本 >  昔の東宝特撮って、『ラドン』とか『美女と液体人間』とか、ああいう異形のものが炎に包まれて滅んでゆくラストシーンが、情感がこもっててジンとくるんですよね。
 僕の場合、自分一人で観に行った最初の映画が『フランケンシュタイン対地底怪獣』でした。これもラストで、バラゴンを倒したフランケンシュタインが、燃え盛る山火事をバックに、地中に沈んでいっちゃう。後になってテレビで見たら、いきなりラストでタコが出てきてビックリ(笑)。
雀部 >  あ、それ私も見たことがある>>タコ
山本 >  一時期、特撮ファンの間で「タコが出てくるのは海外版だ」という誤情報が広まってたんだけど、実際には海外版にもタコは出てこないらしい。撮影したものの、公開前にカットされたらしいんですね。なぜそれがテレビで流れたのかは謎なんですけど。
 DVDにはタコ・バージョンも収録されてるんですけど、見たらカットされた理由、分かりますよ。タコが出てきたとたん、プッと噴いちゃうから(笑)。だいたい、フランケンシュタインが激闘の末にようやくバラゴンを倒したら、いきなり何の伏線もなしに、湖から大ダコが――湖からタコってのも変なんだけど――這い出てきて、フランケンシュタインを水中にひきずりこんじゃう。じゃあ、この映画の最強はタコか!?って(笑)。「そりゃまずいだろ」って、誰でも思いますよね。
雀部 >  ぶはは、テンタクルス強し(爆笑)
 テレビ編では、やはり『アウター・リミッツ』。中一の時の放映ですが、本格SFドラマということで、まあ毎回楽しみにしていました。
 それよりちょっと前の『ミステリーゾーン』はいかがでした?
山本 >  本放送で見た時は小学校低学年だったので、ストーリーはよく理解できなかったんですが、「狂った太陽」とか「生と死の世界」とか「亡霊裁判」といったエピソードは、印象的な場面が断片的に記憶に残ってましたね。高校の時に深夜に再放送があって、あらためて見直して、よくできたドラマだったんだと感心しました。当時、関西では、裏で『宇宙大作戦』の再放送をやってて、いつもどっちを見るか悩んでました(笑)。
雀部 >  あ、それはほんとに悩ましい(笑) SFファンなら『宇宙大作戦』かな。
 スタトレは、岡山では深夜枠でやってました。
山本 >  プロデビューした後でもういっぺん見た時は、こっちも目が肥えてきてるから、アラが見えるかと思ったら、そんなことはない。今度はサーリングの脚本の上手さに感嘆しましたね。短いドラマなのに、毎回きちんと人物造形がされているうえに、会話にすごい緊張感があるんです。今みたいに派手なアクションや特撮が売り物のドラマじゃないですから、登場人物の会話だけで視聴者を惹きつけなきゃいけない。プロットを思いつくことは誰でもできても、あの台詞は並大抵の腕じゃ書けませんよ。
 去年、AXNで放映した時にまた見たんですが、やっぱり面白かった。何歳になっても面白い、奇跡のような番組ですね。
雀部 >  文春文庫から『ミステリーゾーン4』まで出てますよね。大部分が、SF作品も数多いリチャード・マシスンとチャールズ・ボーモントの二人の原作だし、レイ・ブラッドベリの作品もあったりして、豪華ですから。
 まあこういう話は何時間でも続けていたいし、続けられるんですが、そうもいかず(爆)
 古手のSF者だったら“おっ、そうだ、そうだった”と思わず膝を打ち、そうでない人は“昔のSFにもこういう面白さがあるんだ”と納得させる本が、この『トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS』だと思います。
 というわけで、やっと『まだ見ぬ冬の悲しみも』へと(笑)
 基本はバカSF――例えば、バリトン・J・ベイリーの『時間衝突』――なんだけど、様々なバリエーションがある好短編集になっていて読み応えがありました。
 最初の「奥歯のスイッチを入れろ」は、この題名の元々のネタは、山本先生の「秘密基地」でも明らかにされている名作SFですけど、普通は『サイボーグ009』を思い出しますよね。
山本 >  ええ。もともと『009』で描かれているような加速状態での戦闘を小説で描いてみようという発想でしたから。『009』以外にも『エイトマン』とか『600万ドルの男』あたりの設定もごっちゃになってますけど。

 何でそういうパロディ要素を入れたかというと、僕がそういうのを好きなこともあるけど、実は予防策の意味もあるんです。『RETURNS』でも問題にしたけど、最近はネットで「パクリ冤罪」が多発してるんですよね。ちょっとでも似た要素があると「パクリだ!」と騒ぐ奴がいる。それが嫌だったから、これは過去の作品へのオマージュですよ、元ネタがありますよ、というのをかなり露骨に明示することにしたんです。
 加速剤とか加速装置という概念自体、ウェルズの時代からある古典的なアイデアだから、誰が使ってもいいはずなんです。古くからのSFファンなら、そんなの暗黙の了解で通じちゃうんだけど、最近は決定的に読書量の少ない連中がネット上で好き勝手に発言してますから、注意しないとどんな冤罪をかけられるか分かったもんじゃない。
 もっとも、『009』や『エイトマン』さえ知らない読者には、そういう配慮も無意味なんですけどね(笑)。主人公がテスト機のパイロットで、リフティングボディ機の着陸時の事故で重傷を負うというのも、今や元ネタが分からない読者の方が多いかもしれませんねえ……。
雀部 >  『バイオニック・ジェミー』との関連も(笑)
 人工筋肉に**を使うアイデアには感心しました。巨大ロボットものを見るにつけ、モーターなんかだと立ち上がりのスピードが遅いんではないかと、常々感じてたもんで。
山本 >  まさにその通りで、従来のモーターとか空気圧とかじゃそんなスピードもパワーも出せないだろうから、未来の技術を設定したんです。クラークの第三法則みたいなもんで、半世紀とか1世紀ぐらい未来だったら、こんな魔法のような技術が実現してても不思議はないだろうと。
雀部 >  「バイオシップ・ハンター」は、生きている宇宙船というアイデアを一捻りして、人類のアイデンティティを絡ませて面白かったです。古くは、シェクリイの「専門家」とか、バクスターや日本でも橋元淳一郎先生が書かれてますが、う〜んそう来たかという感じ(笑)
 この落ちの付け方は、アーサー・C・クラークの「星」へのオマージュですよね。
山本 >  いや、「星」はぜんぜん意識してませんね。「専門家」は好きな作品ですけど。
 地球人というのが知的生物としては特異な種だという発想は、SFの中によく出てくるんですよね。ただ僕の場合、「地球人はこんなに優れている」という自画自賛にも、「地球人はダメなんだ」「滅びるべきなんだ」という自虐思想にも、いいかげん飽き飽きしてたもんで、いいとも悪いとも決めつけたくなかった。イ・ムロッフとかウォッチャー種族みたいに、銀河に大昔から存在して、いろんな知的生物を観察してきた種族が、地球人の欠点だらけの文明もまた知的生物のひとつの形態だと認めてくれる……というのが、僕的には理想のビジョンなんですけどね。
雀部 >  う〜ん、そうだったんですか(汗)
 ところで、「メデューサの呪文」、2005年度の『SFマガジン』読者賞を受賞、おめでとうございます。
山本 >  ありがとうございます。
雀部 >  私もこの作品は大好きなんですが、最近ではテッド・チャンの「理解」とかも同系統の作品ですよね。この系統の話は、その肝心の“言葉”自体を出さずにどこまで説得力を出せるかだと思いますが、かなりそれに成功していると感じました。
 で、山本先生は、フレドリック・ブラウンがお好きだと言うことを鑑みると、この短篇は「史上で最も偉大な詩」へのオマージュだと感じたのですがいかがでしょう?
山本 >  どっちかというと、『モンティ・パイソン』の「史上最強のギャグ」ですね(笑)。
 あと、ホフスタッター&デネットの『マインズ・アイ』(TBSブリタニカ)に収録されたクリストファー・チャーニアクの「宇宙の謎とその解決」なんてのもありました。ただ、この小説の発想は、背景にある「言語文明」というアイデアの方が先で、「言語兵器」というガジェットはそこから導き出したものなんです。
雀部 >  ありゃ、外れたか(爆死)
 なるほど「言語文明」→「言語兵器」なんですね。まあ、言語文明がある程度完成されてなければ、言語兵器は出来ないと考えられますから。
山本 >  人類はミームを創造したけど、人類の文明はまだ遺伝子という概念にとらわれてる。最近の皇室をめぐる論争なんてそうでしょ? 天皇制ってミームの問題のはずなのに、なぜかみんな遺伝子にとらわれてて、Y染色体がどうこう言ってる。僕なんかあの騒ぎを見てて、イーガンの「ミトコンドリア・イヴ」を連想しちゃうんですけど(笑)。
雀部 >  わはは。みんなそういう見方が出来れば、皇室の方々の気分も楽になりますよね。
山本 >  文明は進歩するにつれて、遺伝子よりもミームの比重が大きくなってきてると思うんです。行き着くところまで行ったら、遺伝子の存続にはもはや意味がなくなって、ミームの方が重視されるようになる。さらには肉体や物質が重視されなくなって、現実に存在する人工物とそのミームが等価になってゆく。極端な話、建築家は実際にすごいモニュメントを建てなくても、その設計図とかCGの完成予想図だけで、実際に建てたのと同じように賞賛される……そんな文明もあるんじゃないか、と思ったのがきっかけなんです。
 考えてみると、SFってまさにそういうもんじゃないですか。タイムマシンの出てくる面白い物語を生み出せば賞賛される。タイムマシンが現実に存在するかどうかは、作品の価値に関係しないでしょう?
雀部 >  まさに!
 人間の本質は、情報ですよね。
山本 >  まあ、結果的に言語兵器が表に出ちゃって、言語文明というアイデアがかすんでしまったのが残念ですね。それについては、今度出る長編で語り直しますけど……。
雀部 >  いや、かすんではないと思います。人間の思考が言葉に縛られたものである以上、言語文明という概念は、よく考えられたアイデアだと。今度出される長編に期待してます。できれば、音楽文明とか味覚文明とか触覚文明とか色々出てきて欲しい(笑)
山本 >  味覚ネタだと梶尾真治さんの「地球はプレイン・ヨーグルト」がありますからね。あれを超えるのはなかなか難しい。
雀部 >  そういや、五感シリーズに挑戦されている浅暮三文先生も、現時点では味覚がまだ残ってますねえ。
 「まだ見ぬ冬の悲しみも」は、この題名を付けた時点で、つかみはOK!だったような(笑) 未来だけではなく、過去へ向かった時にも「**は、**する」というアイデア一点勝負の潔さ。壮大な前振りと、ほんと、バカSFの面目躍如ですね!
山本 >  ええ。僕は自分の小説を、情念がこもっているものと、単に計算だけで組み立ててるものに二分してるんですけど。これは後者ですね。ハッピーエンドになりようのないアイデアなんで、どうにも心がこめられない。だったら逆に、論理の遊びに徹すると割り切って、読者の感情移入を拒否するようなキャラクターにしてやれと思ったんです。
 だから主人公はすごく痛い大馬鹿野郎で、同情の余地がないし、ヒロインもものすごく嫌な女(笑)。登場人物に同情せずに、純粋にバカ話を楽しんでいただきたいと思います。
雀部 >  はい、楽しめました(笑)
 反対に、どうしても主人公に感情移入しちゃうのが、「シュレディンガーのチョコパフェ」。これって、なんか理想のSFヲタク世界のような(笑)
山本 >  自分でも、最後に出てきたあのガチャポンはやってみたいです(笑)。
雀部 >  私も、わたしも(小躍)
 これこそ『発狂した宇宙』ですよね??
山本 >  ああ『発狂した宇宙』の結末は似てますね。でも、どっちかと言うとハーネスの「現実創造」が下敷きになってるんです。宇宙を破壊する装置が簡単にできちゃうところとか、悪役がああなって主人公とヒロインがああなる……というのは、実は「現実創造」の結末と同じなんです。
雀部 >  そうだ、「現実創造」が大好きだと後書きに書かれてましたよね(汗)
 で、「秘密基地」で知ったのですが、山本先生は、こういう奥様と結婚されていたとは。う〜ん、羨ましいというか。大多数のSFファンの妬みと反感をかってもしかたがないですね。お幸せですねとしか言いようがありません!!
山本 >  まあ、確かにすごく幸せですね。わがままに振り回されはしますけどね(笑)。
 結婚して実感したのは、共存するためには主義主張とか趣味の違いとかを容認し合わなくちゃいけないということですね。実は「シュレディンガーのチョコパフェ」の原形を書いたのは20年前、独身時代だったんだけど、読み返してみると、あのテーマは今の自分の方がすんなり受け入れられますね。当時はそれこそ頭で計算して書いてただけなんだけど、今は現実になってる。20年前に今の自分を予言してたような。
雀部 >  日々実感しております(笑)>結婚とは、主義主張とか趣味の違いとかを容認し合う
 「闇からの衝動」だけはちょっと毛色が違っていて、ホラー仕立てなんですね。
山本 >  本当は『審判の日』に入れるはずだったんだけど、角川の編集さんに「この作品だけ毛色が違う」と言われて、収録を見送ったんです。『まだ見ぬ……』が出た直後にその編集さんが電話をかけてきて、「収まるべきところに収まりましたね」って(笑)。
 『本の雑誌』4月号で大森望さんが「人としてちょっとどうかと思う場面もあるが、話のネタとしては最強」と評しておられて、「人としてどうかと思う」というのは僕も書きながら思ってたことなんで(笑)、的確な評価に嬉しくなりました。
雀部 >  そういう誉められ方もあったとは(笑)
 そういや、これは、触覚文明の短篇とも言えますね。
 つい最近、アヴラム・デイヴィッドスンがモデルの短篇、アイリーン・ガンの「遺す言葉」を読んでいたので、とても興味深く読ませて頂きました。
 ほんと「シャンブロウ」なんかは、他の人が同じアイデアで書いたら、とてもあれだけ妖艶な異星人――しかも邪悪で異質にもかかわらず魅力的――は登場させられない。C・L・ムーアのミーム(もしあれば)も、日本の地で増殖できてさぞかし喜んでいるでしょう。
山本 >  ムーアのミームはありますよ。僕はそれを強く受け継いでますから。
 これで「シャンブロウ」を読んでみたい人が増えてくれれば嬉しいですね。読みたい人は『火星ノンストップ』に収録されてますからどうぞ、と(笑)。
雀部 >  そうなんだぁ。では、ムーア女史がハードSFを手がけたなら、この作品こそかくやと思われるようなSFも、お願いします。
 さきほど、長編が出るという話をお聞きしましたが、題名とかも決まっているのでしょうか。
 それと、他に近刊予定のご著書がありましたらご紹介下さい。
山本 >  角川から5月頃に『アイの物語』という長編が出ます。実は元々、前のインタビューで言っていた、AIや仮想現実を題材にした短編集だったんです。間に書き下ろしでブリッジを入れて、『火星年代記』みたいに全体としてひとつの大きな話になれば……という構想だったんですが、どうしてもそれぞれの話に出てくるテクノロジーが矛盾してて、同じ歴史の上に並ばない。
 それで「そうだ、『火星年代記』じゃなく『いれずみの男』で行こう」と。女性型のアンドロイドが少年に、時代も境遇も異なる7人のヒロインの物語を語る、という形式を思いついたんですね。
 ところが、やりはじめたら書き下ろし部分の方がはるかに多くなって、最終的に『神は沈黙せず』と同じぐらいの厚さになっちゃった(笑)。編集さんが「これはもう短編集じゃなく長編でしょう」というので、長編として売ることになりました。
 あまり内容を書くとネタバレになっちゃうんですが、テーマは「フィクションであることの素晴らしさ」です。厚いけども、基本的にライトノベル的なノリで書いてるんで、『神は沈黙せず』よりはるかに読みやすいと思います。「泣けるSF」を目指しましたので、ぜひ読んで泣いていただきたいと(笑)。
雀部 >  それは楽しみです。ぜひ泣かせていただきましょう!
山本 >  あと、『サーラの冒険』最終巻(富士見ファンタジア文庫)が7月頃に出る予定で、今、必死で書いております。編集のHさん、遅らせてごめんなさい(笑)。こっちも泣ける話になる予定です。
雀部 >  山本先生、お忙しい中、二回目のインタビューに応じて頂きありがとうございました。泣けるSF、笑えるSF、考えさせられるSF、SFファン全員、首を長くしてお待ちしております〜。
 ご主人の趣味に理解のある奥様にもよろしくお伝え下さい。それにしても羨ましいことよ……


[山本弘]
SF作家。ゲームデザイナー。1956年京都生まれ。洛陽工業高校電子科1987年、ゲーム創作集団「グループSNE」の一員となり、作家およびゲームデザイナーとしてデビュー。現在はSNEから独立してフリーで活動している。『時の果てのフェブラリー』《サイバーナイト》《ギャラクシー・トリッパー美葉》などのジュヴナイル作品で人気を博す。
代表作として『ラプラスの魔』『パラケルススの魔剣』『サイバーナイト』『ギャラクシー・トリッパー美葉』『妖魔夜行』(角川スニーカー文庫)『サーラの冒険』(富士見ファンタジア文庫)『時の果てのフェブラリー』(徳間デュアル文庫)など。小説以外では『トンデモノストラダムス本の世界』(洋泉社/宝島社文庫)『トンデモ大予言の後始末』『山本弘のハマリもの』(洋泉社)『こんなにヘンだぞ!「空想科学読本」』(太田出版)など。2003年超常現象の分析から神の存在に迫る大作『神は沈黙せず』を発表、日本SF大賞候補となった。
【山本弘のSF秘密基地】http://homepage3.nifty.com/hirorin/
[雀部]
ハードSF研所員。山本先生とSFの趣味がとっても似ているのに気がついた。
『まだ見ぬ冬の悲しみも』は、バカSFが大好きなSFファンに大推薦。

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