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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

逆境戦隊バツ1
『逆境戦隊バツ[×]1』
> 坂本康宏著/河崎淳カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4150308681
> ハヤカワ文庫JA
> 620円
> 2006.11.15発行
粗筋:
 騎馬と鞍瀬は、同じ大学の同期入社で来見食品の研究員だ。クラゲの養殖に大量の海水が要るというので、休日返上で海水を汲んでいた。騎馬はそこに現れた社長令嬢で美人の来見三音に、一目惚れしてしまう。しかし、ブサイク・チビ・オタク・運動オンチ・ビンボー・セコくてしかもハゲの騎馬にどんなチャンスがあるというのだ。まさに地獄の七重苦。そんな主人公、騎馬武秀は、ひょんなことからゴレンジャーみたく赤いヒーローに変身できる力を得て、この能力で、社会という名の生態ピラミッド最下層からの大逆転を図ろうとするのだが……。

『逆境戦隊バツ[×]2』
> 坂本康宏著/河崎淳カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4150308742
> ハヤカワ文庫JA
> 620円
> 2006.11.15発行
粗筋:
 変身したときの出来事をきっかけに、あこがれの社長令嬢とドジでオタクでカツラな騎馬がデートすることに。万物創世以来の不思議現象に、来見食品の社内も噂でもちきりだった。
 あまりの幸運に天上界まで舞い上がる騎馬だったが、運命の女神は、醜いオタク男にあまりに残酷な結末を用意していた……
逆境戦隊バツ2

雀部 >  さて今月の著者インタビューは、昨年12月に、ハヤカワ文庫JAから『逆境戦隊バツ[×]』を出された坂本康宏さんです。坂本さんお久しぶりです。
 前回のインタビューからいうと、二年半ぶりくらいですが、いかがお過ごしでしたでしょうか。
 「坂本康宏のWriter's Diary」を拝見しますと、なにか最近職場を変わられたようですが?
坂本 >  四年間ほど、県庁のほうでクライアントサーバー型のGIS(GOOGLE MAPみたいなやつ)の運営・管理をやっていましたが、今回めでたく年季奉公があけまして、愛媛県でも随一の林業地、久万高原町へ赴任して現場で林業の仕事をしております。
 丁度いいので、ここで宣伝しておきます(笑)。
 久万材.com 〜久万林業地からの森林や林業、木材に関する情報発信サイト
雀部 >  カウンタの数字からいって最近アップされたページなのでしょうか。それとも来訪者数が少ないのでしょうか。ひょっとして、坂本さんがリニューアルされたとか。
坂本 >  本年になってから、前任の手によってリニューアルされたようですが、それにしてもアクセスが少ないです。前のインタビューのときもお話しましたが、やはり「森林」や「木材」などのキーワードをたどる人は少ないので、アクセスアップの方法を模索しています。
雀部 >  そりゃ、森林で水着になった、若い女の子の写真をアップするとか、記事に、漫画とかアニメに関するキーワードを入れるとか(笑)
坂本 >  わかりました。その路線で上司に決裁を回してみます(笑)。
雀部 >  ほんとにやるんですか(爆)
 元カメラマンの方の話だと"一昔前のヌード写真(裸婦でしたね)と言えば自然との融合みたいな絵が多かったですね。岩とか洞窟とか大樹とか……"ということなので、可能性はありますよね。
 あと、現カメラマンの方によると、
 1)虫除け対策が大変
 2)その場所へ行くのに時間がかかる
 3)同じ様な絵ばかりなので、バリエーションを撮り辛い
 とのことですが、ぜひ実現して下さい(出来たら凄いですが……)
 やはりサーバーのお守りより、林業の実務のほうが性に合われていますか?
坂本 >  サーバーのお守りは、縁の下の力持ち的な感じなので、本年度からは現場で自分がなにかをやりたいと、密かに意欲を燃やしています。
雀部 >  また成果をWebでご紹介下さい。
 前回のインタビューでおっしゃられていた、既に執筆が完了している「借金取りに追われる子連れ変身ヒーローもの」が、この作品になったんだと想像しているのですが、変更なさったところはございますか。
坂本 >  いえいえ、逆境戦隊は『ゴレンジャー』をパクった『×(Batsu)』という作品の完成した姿です。ちなみに、「借金取りに追われる子連れ変身ヒーローもの」は、「稲妻6(−シックス)」という題名で、徳間書店様に預けてありますので、必ずや出版されると信じております。
雀部 >  そうでした、そうでした。思い出しました(汗)
 『逆境戦隊バツ[×]』が売れて、『稲妻6(−シックス)』も早く出るとうれしいな。
 ところで、巨大ロボット、戦隊ものときたわけですから、『稲妻6(−シックス)』は変身巨大化ヒーロー(ウルトラマンですな)ものなのですか?(笑)
坂本 >  ウルトラマンは『AΩ(アルファオメガ)』がありますから、『稲妻シックス』は、仮面ライダーものです(このなんとかものっていう言い方も変ですが)。こちらのほうも、なぜ変身する等身大ヒーローが、この世に存在するのか、合理的な説明をしていますので、長い目で見守ってやってください。
雀部 >  仮面ライダーものか〜。なるほど、そういう手もあったか(笑)
 『逆境戦隊バツ[×]』は、"バツ[×]1""バツ[×]2"とありますが、このネーミングは、狙われました?(笑)
坂本 >  まさか、僕みたいな売れない作家が上下巻で出せるとは思ってませんでした(笑)。
 編集さんとの相談のなかで、『×(Batsu)』という名前では、内容がわかりにくく、戦隊とか好きな人の目に止まりにくいというのがありました。そこで、○○戦隊□□にすることになったんですが、『逆境戦隊クルミレンジャー』なんて名前にするとなんとなく安っぽい。そこで〇〇と書いてダブルオーと読ませた故事に倣ったんです。
雀部 >  そうなんだ。題名には人知れず英知が詰まっているなぁ。
 主人公の勤めている来見食品は、品種改良したクラゲ肉に社運を賭けているという設定なんですが、これをクラゲにしたのはなにか理由がありますでしょうか。
坂本 >  バツの着想として、地域限定の集団幻覚というのがありました。しかし、集団幻覚をどのような形で見せるのかが問題です。なにか特殊な薬や食物を地域限定で食することがあり得るのか……そんなときテレビでエチゼンクラゲの異常発生と、なんとかこれを地域の特産品にできないか、さまざまに調理しているニュースを見たんです。これだと思いました。
雀部 >  エチゼンクラゲ、あの網にかかって始末に負えないという巨大クラゲですね。あれだけ大量発生するということは、育てるのも簡単だろうなぁ。まあ、水分がほとんどだから、食肉/体積の割合的には難しいでしょうけど。
 クラゲというと、スターリング氏の「クラゲが飛んだ日」や、北野勇作さんの『クラゲの海に浮かぶ舟』とかなにげにSFぽい素材ですよね。クラーク氏の「メデューサとの出会い」なんかもクラゲっぽいし(笑)
坂本 >  クラゲは、古事記でも、久羅下那洲多陀用幣流之時(クラゲなすただよえるとき)という記述がでてくるほど古くから日本人とかかわってきましたし、×のなかでも触れていますが、その生活環は、もうこれ自体がSFだと思われるくらい不思議なものなんです。
http://homepage3.nifty.com/opc/kurage.html
雀部 >  ポリプとかエフィラとか、高校の生物の時間にやりましたなぁ。
 確か、入試に出たぞ(笑)
 冒頭で、鯨が海岸に打ち上げられてるシーンが出てくるのですが、ということは来見食品があるのは、愛媛の海岸近くじゃないですよね?
坂本 >  デビュー作からこっち、「愛媛のような地方都市」を考えて物語をこしらえているのは確かです。でも、県職員という立場もあって、「愛媛」ということにしていないんです。でも、今執筆中の次作では、舞台を完全に愛媛にしてやろうと画策してます。
雀部 >  楽しみにしています。ついでに対岸の岡山もよろしく〜。
 主人公の騎馬くんは、アニメオタクという設定で、かなりその生態がリアルに書かれて―友人に似たような人が(笑)―いるのですが、坂本さんはフィギュアとかは集められていらっしゃいませんか?
坂本 >  僕もけっこうなオタクなんですが、フィギュア集めはしてません(笑)。騎馬を書くときには、できるだけオタク色を排するような書き方をしました。というのも、シン・マシンのあと、2004年の夏頃、この作品に取りかかったわけですが、そのころはオタクにまだまだマイナスのイメージが強かったからです。ですから、一般の人にも読みやすいような書き方を心がけたんです。ちょうど同じころ、ネットの片隅で『電車男』のストーリーが繰り広げられ、オタクの存在が一般人に一目置かれるなんて思いもよりませんでした。
雀部 >  今でもマイナスのイメージのほうが強いと思いますが(笑)
 人事課の実報寺女史は、美人でタカピーでバイトでSMの女王様をやっていたりしますが―実は大好きなキャラです(汗)―これは、市場調査の結果生まれたものでしょうか(笑)
坂本 >  作家デビューして、「俺たちを小説のモデルにすんなよ」と人からよく冷やかされてきました。そんなことはやらないのがポリシーなんですが、×に限って言えば周囲にいる人の濃い部分だけをチョイスして、キャラを練り上げるということをやっています。モノがモノだけに、このキャラのモデルはキミだ! と言えないところが問題ですね(笑)。もちろん、実報寺女史にモデルがいるかどうかなんて口が裂けても言えませんね。
雀部 >  ということは、各キャラには、それぞれモデルがあるんですね!
 女性キャラのモデルさんは、それほど怒らないのではと言う気もします。
 『歩兵型戦闘車両〇〇』と『シン・マシン』では、主人公がつきあっていた彼女に振られてますが、『逆境戦隊バツ[×]』の騎馬くんは、付き合うところまでも達してない(笑)
 これは帯にあるとおり"劣等感を武器に悪と闘うニューヒーロー"という設定だから当然ですよね?『シン・マシン』に見られた圧倒的な疎外感も通り越して、疎外されるのも当然と達観してるし……
 騎馬くんのキャラ設定は、そうとう楽しめた(苦労された?)のではないでしょうか。
坂本 >  喧嘩の強いキャラを書いている最中はワイルドになったり、大なり小なり、キャラクターが背負った業に冒されるというのは、物書きならば誰でも経験することだと思いますが、バツを書いている最中には、原因不明の全身ジンマシンに冒されて大変苦労しました。
 だいたい読者は、騎馬くんみたないキャラクターに共感を覚えませんよね。インパクトを狙うなら、碇シンジ君ぐらい突き抜けていないとメリハリがない。もっというと、潜在意識のどこかで、こういう凡庸なキャラには、共感したくないと思っているじゃないでしょうか。人が殺されても自分が知らない人ならいいやと考えたり、自分をイジメた上司の子を殴ったり、友人を殺しても大好きな女性がデートしてくれると喜んでしまったり、そういうダメダメ人間に、人は感情移入できないし、むしろ軽蔑するばかりでしょう。
 そこで、今回考えたのが「あるあるネタ」を繰り返して、知らない間に共感させるという手法でした。
 強烈な暴走キャラ軍団を、なんとも凡庸なキャラにおさえさせる。これは一つの方法として、ある程度の成功をみたんじゃないかなと思っています。
雀部 >  この圧倒的な劣等感の持ち主が、正義の味方(?)に変身して、活躍できると言うのが『逆境戦隊バツ[×]』のキモだと感じました。
 世の劣等感にさいなまれている男の子たちには、どんなファンタジーよりも勇気づけられる(そして笑える)のが本書だと思います。書かれている時は、戦隊もののバカSF(あ、誉めてます!)と劣等感を持った読者へのエールとどちらの比重が大きかったでしょうか?(笑)
坂本 >  この世の中に劣等感のない人間なんていないでしょう。つまり劣等感を主題にする限り、必ず共感をもってもらえる。これが、バツのコンセプトでした。でも、劣等感だらけの人物がSF的な不思議な力で女性にモテたり、カッコいい人間になっていくようには絶対書きたくなかったんです。どんなにヒドイ状況に陥っても、逃げ出さずに、その場で懸命に頑張っていれば、必ずいいことがある。そんなことを伝えたかったんです。
 バカ小説については、自分のHP「僕の本ができるまで」でも熱く語っていますが、やっぱり僕が他の作家さんと互角以上に戦える土俵は、ここにしかないと思った次第です。なんといいますか、作家という仕事は、自分にしかできないことを、自分にしかできない方法でやり遂げる作業なのかなと、気づいた次第です(気がつくのが遅いという突っ込みはなしです)。
雀部 >  それはひしひしと伝わってきますね。Webでの評判も良いし、再版がかかったらぜひ番外編をお願いします。(>塩澤さん)
 '04年の日記で言及されていた"三人称SFハードボイルド『卑怯者で行こう』(Take the "Hikyoumono"!)という作品の構想がある。これもネタが煮詰まってきて、うずうず感が爆裂しそうになっている。"もバカSF小説なんでしょうか?
坂本 >  卑怯者で行こうも、確かにバカ小説で、宇宙刑事モノをやりたいなと思っていたんです。宇宙刑事なのに、なぜ卑怯者なのかというのポイントですね。こういう小説のネタはいくつもあって、でも書く時間は限られているので困っているのが現状です。書けば、無条件に本になるという立場にもないですし、でも、なんとか一歩一歩短い距離でも前進していきたいと思っています。
雀部 >  これは宇宙刑事モノですか。いよいよ日曜朝の子供向け番組網羅ですね(笑)
 今回は、二度目のインタビューに応じて頂き、ありがとうございました。
 最後にお聞きしたいのですが、ダブルオーの続編『09(オーナイン)』はどうなっているのでしょうか?
坂本 >  オーナインについては、まったくあきらめていませんし、必ず出版できる日がくることを信じてちょびちょび書いています。いずれ機会がやってくると思いますので、必ず皆さんのお手元に届けたいと思っています。
 現在は「42歳の正太郎」というロボットものを、鋭意執筆しています。
 題名が示すとおり、いいも悪いもリモコン次第のアノ話です。僕の著作として、初めて愛媛県を舞台にして、巨大ロボット同士が、あくなき死闘を繰り広げるお話です。もちろん、ただアノ話をひねっただけではありませんので、安心してください。僕の職場たる県庁とか、道後温泉もブッ壊してやりますよ……(笑)
 バツよりも大げさで、バカで、火傷するぐらい熱い話になる予定です。もう、プロットは編集氏に見ていただき、プロットどおり書けたなら出版を前向きに検討していただけるという話になっていますので、今年の夏は燃えます。
 上梓の暁には、どうかよろしくお願いします。
雀部 >  『42歳の正太郎』は、愛媛が舞台なんですか。それは楽しみです。でも、もしベストセラーになったら、いま使われている"ショタコン"が"オッサンフェチ"という意味になってしまうかも(爆笑)


[坂本康宏]
'68年愛媛県生まれ。'90年愛媛大学農学部卒、同年愛媛県庁に就職。公務員生活の傍ら創作活動を続け'01年『歩兵型戦闘車両ダブルオー』で、第三回日本SF新人賞の佳作入選しデビュー。
前作『シン・マシン』が、ハヤカワSFシリーズ Jコレクションから出版されSFファンの注目を集める。
[雀部]
坂本先生のブログにマシンの不調が綴られていますが、私のメインマシンも不調(笑) 起動途中で止まることが多いのですが、毎回ひっかかる所が違うので、マザボか電源を疑っています。PCは、MSDOSの時代から使っているので、それなりの知識はあるんですが、マザボが×だと手に負えません。取りあえず、ノーパソの方に同じ環境を構築中(泣)

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