| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『終末の海』
>片理誠著/佐久間真人イラスト
>ISBN-13: 978-4198619893
>徳間書店
>1900円
>2005.3.31発行
 核戦争後の極寒の地球。圭太少年は、父やその仲間とともに大型漁船で日本を脱出し、南太平洋に浮かぶ海上基地フロート・ナインを目指していたが、船は嵐に遭い座礁してしまい装備の老朽化で修理に奔走する日々であった。そんなある日、彼らの前に巨大な豪華客船が現れた。助けを求めて乗り込んだ大人たちを載せたまま、その船は忽然と姿を消してしまう。それから二年、謎の豪華客船は、何度か圭太たちの前に姿を現すが、大人たちは誰一人帰ってこなかった……。意を決して「箱船」に乗り込んだ子供たちは、なんと、船が完全に無人であることを知る。
 第5回日本SF新人賞佳作入選作品。

『屍竜戦記』
>片理誠著/米田仁士イラスト
>ISBN-13: 978-4198507459
>徳間書店
>905円
>2007.5.31発行
 真ヴァ・シ・ド教の司祭にして屍竜使いのヴィンクは、ナフリ王国に派遣され、親兄弟を殺され人生を狂わされた因縁の竜・棘黒と対峙する。
 竜の鱗には強い防御力があり、通常の魔法はほとんど効かない。竜に対抗するためには、死者を操る禁断の魔法「屍霊術」を増幅し、竜の屍体、すなわち「屍竜」を操るしか方法はなかった!!

『屍竜戦記II 全てを呪う詩』
>片理誠著/米田仁士イラスト
>ISBN-13: 978-4198507954
>徳間書店
>819円
>2008.7.31発行
 真ヴァ・シ・ド教の司祭にして屍竜使いのフレイ・ランダートは、恋人のジュリルラーナらとともに、ナフリ王国に着任した。彼は、本国の次期法王派ロンフォルグ枢機卿から、密命を授けられていた。それは、ナフリ王国の不満分子であるギンギルスタン元老院議員らと通じてこれを操り、王国内に革命を誘発させることだ。双刀の剣士バランシェルの妨害をかわしつつ、任務に奔走するフレイであったが、思わぬことから絶体絶命の窮地に……。

竜とは
 最も大きな大陸フィワンに生息する巨大な獣。頑丈な鱗で覆われ、四本足で1対の翼を持ち、長い尾があり、鱗に覆われた全身は魔法や酸、熱にも耐える。
 体の大きさは平均的な物は20尋から30尋だが、最大は100尋もある。
 性格は非常に獰猛で好戦的。知能が高く、動作は俊敏。魔法や竜息を自在に操る。
 繁殖力は低く、百年ごとに活動期と休眠期を繰り返す性質がある。
 竜には以下のタイプの存在が認められている。
<飛行型><格闘型><走行型><重甲型><水棲の竜>

屍竜とは
 死んで間もない竜の死体を保存処置したもの。屍竜使いはこの脳内に水晶を埋め込みその魂と同化することによって竜を操る。戦闘力は生前の7割程度しかなく、保存できるのも3年間が限度である。

『エンドレス・ガーデン ロジカル・ミステリー・ツアーへ君と』
>片理誠著/星野勝之イラスト
>ISBN-13: 978-4152091581
>ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
>1900円
>2010.9.25発行
 少年が目覚めた時、眼前には蛾の形を模した妖精の姿の少女がいた。ここはダウンロードされた人格たちが暮らす“見えざる小人の国(Crystalline Lilliput)”。彼女はこの電脳空間を管理するメインOSの擬似人格で、少年は今、彼女によって生み出されたばかりだ。システムダウン寸前のこの世界を救うために、二人は40万もの住人の〈不可侵特区〉を巡る旅に出かける。しかし、各特区には侵入者を阻む謎が仕掛けられているのだ。
 崩壊寸前の電子世界を救うため、全住人の割り当て空間〈不可侵特区〉を巡り、開発者十人の持つ〈鍵〉を集める二人の仮想人格。千差万別の特区に仕組まれた謎解きの旅路を描く、驚愕のパズル・クエストSF!

 SFマガジン11月号のインタビューでは、ペンネームの由来とか、巻頭で引用されている『ガリヴァ旅行記』との関連、『エンドレス・ガーデン』がハヤカワSFシリーズ Jコレクションから出されるようになった経緯とかも語られています。ぜひお読み下さい。

雀部> さて今月の著者インタビューは、2010年9月にハヤカワSFシリーズ Jコレクションから『エンドレス・ガーデン』を出された片理誠先生です。
 片理先生初めまして、よろしくお願いします。
片理> よろしくお願い致します。
雀部> 片理先生は、第五回日本SF新人賞に佳作入選された『終末の海』でデビューされたということは当然SFファンでもあられるということですよね(笑)
片理> もちろんですとも! SFは大好きだったですし、大好きですよ! SFを読んで大人になりました! ただ、ちょっと偏食気味だったというか、チョイスが偏っていたかもしれませんが……。日本のSFばっかり読んでたんですよ。なので海外SFについては今でも不勉強もいいところでして……。
雀部> そうとうな思い入れがおありのようで、なんとも熱いですね(笑)
 では、日本SFでは誰がお好きですか。またはどういう作品がお好きだったのでしょうか。
片理> 堀晃さん、石原藤夫さん、横田順彌さん、神林長平さんはネーム買いでしたねー。書店で名前を見かけて「あ、持ってない」と思ったら即買うという(笑)。
 表紙とかあらすじとか中身とか一切確認しないんです。面白いに決まってますから。発見したら即購入。「見・即・購」です(笑)。学生時代は小遣いが常にエンプティでした。
 他にも山田正紀さん、川又千秋さん、大原まり子さん、谷甲州さん、高千穂遙さん……素晴らしい人が沢山いたんですよ。今思い出しても胸がワクワクしますねぇ。俺の青春はあの人たちと共にあったのです。もちろん、こちらの一方的な思い込みであって、あちらは欠片もご存じないことですが(汗)。
雀部> 私も銀背と創元推理文庫のSFは、出たヤツをみずてんで買っていた時期もありました。常にSFに飢えていて、出版されたSFを総て読み昔の本も再読できたという、今から思うと幸福な時代だったような。
 堀先生と石原先生のお二人は日本では珍しいハードSF作家で、いわゆる第一世代のSF作家だと思いますが、他にも色んなタイプの作家の方を読まれていたということは、SF全般を愛されていたんですね。
 翻訳物をあまり読まれなかったのは、なにか理由があるのでしょうか。
片理> SFとの出会いが堀晃さんの『梅田地下オデッセイ』だったので、そこから範囲を広げていったら必然的にこうなりまして(汗)。周りに読書をする友人がいなくて(みんな漫画ばっかり読んでいた)、よそからの影響を全然受けなかったものですから、ある意味、純粋培養という(笑)。ハインラインとブラッドベリは好きだったんですけど、他はそんなに、という感じで。でもそれはちゃんと読んでなかったからで、最近やっと翻訳物の面白さにも目覚めてきました。やっぱり食わず嫌いは人生の損失ですねぇ(笑)。
雀部> 翻訳物の名作の数々が手つかずで残っているとは、ある意味凄いことですけど(笑)
 なぜ『梅田地下オデッセイ』を読まれたのかとか、読まれた感想をお聞かせ下さい。私も堀先生と石原先生の作品は大好きなので。
片理> 元々は高校受験用の参考書を買いに書店に行ったんですけど、勉強したくなくて(笑)、「やっぱりもう一冊、本を読んでからにしよう」と(笑)。現実逃避のための口実だったんです。当時既にミステリーは好きでよく読んでいたので、何か一冊推理小説をと思って店内をぶらぶらしていたら、たまたま平積みにされていた『梅田地下オデッセイ』を目にして、「恰好いい!」と表紙に一目惚れして買って帰ったんですね。
 で、読んだらハンマーで脳天を殴られたような衝撃を受けまして。こりゃ受験から逃げてる場合じゃないぞ、と。あんな下らないもんはさっさとパスして、早くこのSFという素晴らしいジャンルをジャンジャン読まねば!と決意しました(笑)。
 でも私は物凄く幸運でしたね。というのも『梅田地下オデッセイ』には巻末に石原さんの素晴らしく分かりやすい解説がついてるんです。あの解説がなかったら、さすがに中学生には理解できなかったと思います。ハードSFであれほど懇切丁寧な解説が付いているのって、凄く珍しいですよね。とても先駆的な試みだったと思います。
 加藤画伯、堀さん、石原さんのスーパーファインプレーによって、SFファンが一人生まれたんです。おかげで人生が変わりました。狂った、とも言えますが(笑)。
雀部> 『梅田地下オデッセイ』はもの凄く面白いSFだし、石原先生のあの解説の長さは尋常じゃないですよね。もはや解説ではないと言っても良いくらい(笑)
 でもまあハードSFといっても、ほとんどが中学生の理科レベルで理解できるお話が多いんですけど、理解する気がない・忘れてしまっている人が多いのも実情です。
 小松左京先生とか星新一先生、光瀬龍先生等々の第一世代のお歴々の作品はどうだったのでしょうか。私らの世代だとここらあたりが中高生の時のリアルタイム。
片理> 小松さんももちろん読んだんですけど、馬鹿だったので(汗)、よく理解できていなかったんだと思います(汗)。なんか「大人向けのSF」って思っちゃったんですね。
 光瀬さんは何冊か読ませて頂いていて、凄く面白かったです。実は以前、フッと物語が頭に浮かんで「これは傑作になる!」と思って慌ててメモをとって、「いや、待てよ、やけにスルッと出てきたな……こんな凄いアイデアがいきなり俺なんかに浮かぶわけがないぞ」と思って、よ〜く思い出してみたら、昔読んだ光瀬さんの作品そのまんまで、「危ねぇ、危ねぇ!」と真っ青になりました(汗)。
 いや〜、恐いッス。
 星さんは逆に小学校くらいに出会っていて、読みあさってた時期があるんですよ。ただ当時はSFという言葉も知らなくて、単に「凄く面白い話を書く人」って思ってました(笑)。今でも宮沢賢治さんと星新一さんだけは、「一人で一ジャンルの作家」ということに私の中ではなっています。
雀部> 確かにショートショートの分野で星先生を超えることは誰にも出来ないでしょう。
 略歴を拝見すると、大学は文学部をご卒業されてるんですね。『終末の海』を読ませて頂いた感じではてっきり理系(特に工学部あたり)の方だと想像してました。
 やはり、SFを読んで育ってこられたからなのでしょうか(笑)
片理> 文系出身なんですが、その後、システム・エンジニアになってますんで、一応、技術系もちょっぴりだけ囓っているという。理系にももちろん興味はあって、この点はSFの影響が大きいと思います(笑)。でも根っこは文系なんです。
雀部> そうなんですか。そう言えば『エンドレス・ガーデン』の背景はSEとしての経験が活かされてらっしゃる感じを受けましたね。
 よく知っている作家さんだと、電脳作家の東野司さんがそっち系で同じニオイがします(笑)
 SEは、理詰めで物事を考えていかないと(怪しいところを一つ一つ潰していくとか)はまっちゃうので、そういうところが活かされているんのではないでしょうか。
片理> SEと言っても私の場合はほとんどプログラミングばかりをやっていまして、システムを統括するような立場には全くいなかったんですが(汗)、でもそうですね、トラブル対応をかなりやりましたんで、そういう思考方法は骨身に染み込んでいると思います。コンピュータには理屈しか通じませんからね(笑)。「分かってよ〜」で分かってくれるマシンが欲しかったですねぇ(笑)。
雀部> 国文科卒からプログラマーというと、元々そういう資質があられたんでしょうね。『エンドレス・ガーデン』の、そこここの論理性・整合性を必要とする部分にも、それが現れてるように感じました。また文中に、経路積分で有名なファインマンの「反粒子は時間を逆行する粒子と仮定しても波動関数は成立する」というやつは、この間の橋元淳一郎先生へのインタビューで取り上げた時間論の著書にも出てきたので、ほほぅと思いながら読みました。
 SFマガジン11月号のインタビューで、「FLY YOU TO THE MOON」と「罪人たちのジレンマ」が自信作であるとおっしやってますが、実は私が一番好きなパートも「罪人たちのジレンマ」なんですよ。一番最後の落ちには気が付かなかったんですが、SFファンなら有名な「囚人のジレンマ」からの類推でだいたい思った通りに展開していくのが心地よかったです(笑) あとアイテムが楽譜だというのもポイントが高いですね。
 で、この題名をつけたということは、確信犯なのでしょうか(爆)
片理> あの題名はわざとです(笑)。『エンドレス・ガーデン』で描いた特区のほとんどは新規に考えたものなんですが、「罪人たちのジレンマ」だけは昔から持ってたアイデアだったんです。「囚人のジレンマ」を使った物語を、一度、書いてみたかったんですね。人の本性って、極限状態の時に剥き出しになるじゃないですか。その舞台としてうってつけだったので。ただ、凄く苦労しましたけど(汗)。
雀部> 題名は、やはり確信犯でしたか(笑)
 題名に相応しい素敵なパートでした
片理> あの迷宮をクリアする最後の部分は、実は当初考えていたストーリーとは違うんです。本当にアドリブなんですよ、キャラクターたちの。書いててビックリしましたね。こんなことがあるんだ、って。彼らが私を動かしたんです。
雀部> 書いていると登場人物が勝手に動きだすというヤツですね。それは小説の神様が降りてこられたんだと……
 で、一番面白かったのは「FLY YOU TO THE MOON」なんですね、これが。このネタは、長編書けそうですねぇ。ていうか、長編版読みたいですよ。作者のエンデを虐める手際が見事で――SFファンがニヤリとする困難・障害が次々に出てくるし。まあ、エンデ君はそれをクリアしていくわけですが――しかも最後にホロリとさせてくれるしで。
片理> 元々は「小舟で島々を巡る」という話だったんですが、プロットを書いている途中で「あ、全然SFっぽくない!」ということに気付きまして(汗)。急遽、差し替えたんです。「SFなんだから一個くらいは宇宙の話がなくっちゃね」ということで、エンデには月へ行ってもらうことになりました(笑)。ああいう原始的なテクノロジー、アナログっぽいのも好きで、書いていて楽しかったです。調べるのは大変でしたが、でも好きで始めた楽しい苦労ですんで(笑)。「長編版読みたい」と言って頂けるのはありがたいですね。作家冥利です。
雀部> ですよね。宇宙の話が無いのは寂しいですし、あの70年代風の月への宇宙飛行がとても素敵でした。
 それと「罪人たちのジレンマ」でも感じたんですが、音楽が重要なモチーフとなっていることが多いですよね、ワルツも踊れなきゃいけないし(笑)
 片理先生は音楽はお好きなのでしょうか。執筆中にもBGMとして音楽を流されるとかはあるでしょうか。
片理> いや、私は音楽については門外漢もいいところでして(汗)。全然詳しくないんですよ。執筆中も無音ですし。ただ、音楽の世界って凄く歴史があって、きちんとしたルールが整備されているので、もしかしたらプログラムの世界に少しだけ近いのかもしれませんね。使いやすいんですよ、とにかく。特に今回は親和性が高かった、ということなんでしょうね。それと、苦手だからこそ憧れている、という部分もあるのかもしれません(汗)。
雀部> 詳しくなくても音楽の扱い方が上手いということは、やはりお好きなんだと(笑)
 ところで電機製品を買われたとき、必ずマニュアルは読まれるタイプですか。
 私は昔は必ず読んだんですが、最近はまず読みません(爆)
片理> 私も最近はまず(汗)。ただ、実はマニュアル読むのは好きなんですよ。思わぬ機能を発見できたりすると嬉しくて。けど、最近はなかなか時間が(汗)。読めていない本の山が大変なことになっていまして(泣)。全然減らないんです。どうしよう……。
雀部> ありゃ、未読の山は何処も同じなんですね(汗)
 最近の電化製品は、ちゃんと使いやすいように作ってあるから、大抵の機能は想像がつきますからね。昔はマニュアル読まないと見当が付かなかったです。
 子供の頃に時計やラジオを分解されたことはないのでしょうか(笑)
片理> よくぶっ壊してました(笑)。適当にいじったり、ぶん投げたりして……。
雀部> 男の子はたいていやりましたよねぇ……
 『終末の海』を読ませて頂いて、主人公の圭太少年が色々工夫してオンボロ漁船をなんとか維持していく下りは、本当に応援してしまいました。この、何はなくともメカに強い(まあ、強くならざるを得ない状況下なんですが)少年という設定は、SFファンの琴線に触れますね。片理先生自身がモデルということはあるでしょうか。
片理> いやいや、全然(汗)。あの小説はたぶん、誰かに「頑張れ!」って言いたかったんだと思います。つまり、誰かに「頑張れ!」と言われたかったんでしょうね。何しろ落選続きで(泣)、泥沼でしたから……。だから彼は私がモデルなのではなく、私の「理想」だったんだろうと思います。作品て結局、作者にとっては「ライブ」なんですよ。その時その時の自分がどうしたって入りますから。あの頃の私は心が折れる寸前だった、ということですね。
雀部> 私生活がもろに作品に反映している作家というと、フィリップ・K・ディック氏が有名ですが、片理先生もそうだったとは(笑)
 応募作品は、会社員をされながら書かれていたんですか。
片理> いや、『終末の海』を書いていた頃は、もう辞めてからかれこれ5年くらい経ってました。なぜか「俺は絶対作家になれる!」と何の根拠もなく確信していて(汗)、でも実際は退社してから5年間、まったくの鳴かず飛ばずですから、そりゃ凹みますよね(汗)。
雀部> ということは、その間ずっと各賞に応募する作品を書き続けられていたんですか。それはある意味凄い精神力ですね。
片理> 最初の内はそれでも書くのが楽しくて楽しくて、毎日何時間書いても少しも苦じゃなかったんですよ。どんどん上手くなっているのが自分でも分かりましたし。苦しくなったのは壁にぶつかってからですね。これを突破するのは並大抵じゃありませんので。苦しかったですねぇ。でもそれでもやっぱり楽しい部分は残っていて、だからこそ続けられたし、今も続けられているんでしょうね。
雀部> 苦しみの中にも楽しみがあったということは、書くこと自体がお好きなんですねぇ。
 インタビューで、「嵐の海でのたうつ豪華客船」というビジョンが浮かんできたのが『終末の海』を書くきっかけになったとありましたが、《屍竜戦記》シリーズを書かれるきっかけは何かあったのでしょうか。
片理> 『屍竜』も投稿時代の苦しみから誕生した作品で、とにかく何を書いても落選するんで(今思うと落ちて当然だったんですが:汗)、もう何を書けばいいのかが分からなくなってしまって、最終的に開き直って、「自分にとって一番面白い作品よりも更に面白い作品を書いて、それでも落選するんなら、もう諦めよう!」と決めたんですよ。で、その「自分にとって一番面白い作品」が、神林長平さんの『戦闘妖精・雪風』だったんですね。ただその直後に思ったのが「馬鹿を言うな……『雪風』を超えられるわけがねぇ……」ということで、更に落ち込むんですけど(笑)。でもSFでは無理かもしれないけど、ファンタジーにしたら……という風に発想を変えていったらどんどん想像が転がって、結局、『雪風』とは似ても似つかないアイデアになっていったんです。ただ、当時はまだこのアイデアを活かす方法が分からなくて、それでずっと書けないでいました。
雀部> はいはい、そう言われれば確かに。人間vs竜の関係とか、何か分からないけれどひたすら続く戦争状態。ありがとうございます、なるほど『雪風』だなぁ……
 そう言えば『エンドレス・ガーデン』の「妖精と踊れ」は、神林長平先生からですね。
片理> 各章のタイトルは結構インスピレーションで決めてしまっていまして、「妖精と踊れ」は自分でも思いついてから、「これは神林さんの影響を指摘されるだろうなぁ」と思いましたねぇ。変えようとしたりもしたんですけど、そのものズバリの章だったんで、いじりようがなかったんです(汗)。
雀部> なるほど〜。
 《屍竜戦記》一巻目のラストのビジョンが浮かんできて、それがブレークスルーになったとかはございますか?
片理> 『屍竜』の一巻は「全てを失った青年が、最後に一つだけ何かを取り戻す話」で、あの銀色の竜がその「何か」の象徴なんですね。なので自分の中では一巻のラストは凄く自然な流れでした。ブレークスルーというよりは「やっと見えた……」という感じでしたね。
 ちなみに『エンドレス・ガーデン』は、私の中では「40万の世界をジグザグに駆け抜けていった、2つの彗星の物語」となっております。
雀部> ははぁ、それは言い得て妙ですね >「40万の世界をジグザグに駆け抜けていった、2つの彗星の物語」
 SFマガジンのインタビューを拝見しますと、元々は漫画家志望であられたそうですね。どういった傾向の作品(作家)がお好きだったんでしょうか。
片理> 実は家が漫画禁止で(泣)、その分、漫画に飢えていたんだと思います。小学生のころ友人の家で『ドラえもん』を読んで決心しました(笑)。今考えると漫画家になろうと思ったきっかけもSFだったんですね(笑)。それから松本零士さんの作品とか、『うる星やつら』とかも……って、あ、考えてみたら全部SFだ!
 そうか、漫画でも宇宙とか未来とか、そういうのばかり読んでたんだ。今、気がつきました(笑)。
雀部> 漫画でもSF志向であられたと(笑)
 漫画作品で応募されたことはないのでしょうか。
片理> 持ち込みをしたことが(汗)。まぁ、漫画方面の素質は全然なかった、ということで(泣)。
雀部> 持ち込みをされるということは、相当な自信がないとできないとおもいますけど(笑)
 片理先生の作品の特徴の一つとして謎解きの要素が上げられると思うのですが、ミステリではどんな作品がお好きなのでしょうか。
片理> クリスティーの『そして誰もいなくなった』とか『おしどり探偵』とかが好きです。パズルチックかつドラマチック、というのが理想ですね。バロネス・オルツィの『隅の老人』を最近になってから読みましたが(汗)、これも面白かったです。
雀部> クリスティーは、基本ですねぇ。
 そういえば、『屍竜戦記』の“屍竜には生前の七割程度の戦闘力しかなく、しかも時間が経つにつれて徐々に朽ちていく”という設定にはころりとやられました。SFファンならたぶんみんなが感じていることと思うんですが、なんで映画のゾンビ共はあんなに強いのか、生きてもないし腐りかけているのにおかしいと思っていたんですよ。最近では、生きているときより素早かったりするし(笑)
片理> ただ一方で「生きている肉体には普段リミッターがかかっていて、その能力を100%引き出すことはできないが、ゾンビにはそのリミッターがない」という設定もあって、活きのいいゾンビとして描くこともできたんです。けど、それだと「虚さ」を表現しにくくて、それでああいう形に。やはり「死」の象徴でもあるわけなので、なるべく違いを出したかったんですね。それと、あまり人類を有利にしたくなかったんです。屍竜があっても絶望的な戦いなんだ、という風にしときたかった。あの物語は希望なんてどこにもない世界の中で必死に希望を模索し続ける人々のお話ですので。
雀部> 圧倒的に強い竜との闘いということで、人間側は団結しなきゃいけないのに国同士は元より、内部抗争もしてるし、そういう意味の「虚しさ」も良く出ていたと思います。ただ救いはトーンが明るいので面白く読めますね。
 ところで、ちょっとお聞きしたいのですが《屍竜戦記》シリーズの続編のご予定はあるのでしょうか?
片理> 私か徳間の担当さんのどちらかが出世を致しますと、出してもらえるみたいなんです(笑)。なので頑張っております。『エンドレス・ガーデン』が沢山売れてくれると良いのですが……。
雀部> あれま、そうなんですか。なんか未解決の問題が山積みの展開なので、続きを早く読みたいなぁと思っているんでよろしくお願いします。 じゃなくて、売り上げに協力せねば(笑)
片理> ありがとうございます(笑)。生活がかかっております(汗)。『屍竜3』も920枚ある大作なので、あれを世に出せないのはこちらとしても痛いんですよ〜。トホホ。
雀部> あ、もう続編も完成してるんですね! それはぜひ世に出して頂かねば(笑)
 大学では何を専攻されていたのでしょうか。
片理> 文学部国文学科です。専攻は「中世文学」。卒論は『今昔物語』でした。専攻に「未来文学」があれば良かったのに(笑)。
雀部> 「未来文学」いいですねぇ。私も受講したいです。そういえば大阪商業大学には、SFの講座があって、学長さんが自ら講義されてます(笑)
 『今昔物語』の説話ですか、ああいうものが創作の根底にあるのでしょうか。
片理> どうなんでしょう。あまり意識したことはありませんが、でも芸術作品というよりはエンターテイメントですからね、中世文学の多くは。そういう傾向は、当時既にあったのかもしれませんね。
雀部> そうですよねえ。映画もテレビもない時代ですから。琵琶法師とかの活躍の場があったことでしょう。
 早川書房、しかもJコレから書き下ろし作品を出された感触はいかがでしょうか。
片理> 大変だったですけど、面白かったですね。担当になって頂いた編集さんがとてもユニークなかたで(笑)。普段、私は「全体をあと○○ページ、削ってください」みたいな指示を受けることが多いんですけど、その編集さんは「こっから……ここまでのボリュームを、倍にしてください!」と(笑)。増やせという指示を受けたのは初めてで(笑)、こういう編集さんもいるんだなぁ、と。でもそのおかげで面白い作品になったと思っています。
雀部> 「増やせ!」というのは、確かに珍しい指示かも。
 読み始めて最初の〈不可侵特区〉の毒アザミのパートで「うへっ。やるなぁ」と(笑)
 現実の地球上を模した特区ということで、そこでの冒険がそのまま地球の現状の説明にもなるし、〈CL〉でどんなことが出来るかもよく分かりますね〜。
片理> 最初の内はどうしても説明的なパートが多くなってしまうんですけど、それをどう面白く読んで頂くかというのは、実は凄く難しくて、毎回脂汗を流しながら書いてます(汗)。「やるな」と言って頂けると嬉しいですね(笑)。
雀部> こういう仮想空間での冒険だと、長所としてはいかなる設定でも出来るという自在性がありますが、『エンドレス・ガーデン』のように各パートによって設定が違ったりすると、ネタというリソースを激しく消費するという欠点もあるのではないでしょうか?
 まあ、読者の立場からすると、面白いから全くOKなのですが(笑)
片理> 思いっきり消費しましたねぇ(笑)。たぶん普通の小説5、6冊分くらいのアイデアは入ってるんじゃないでしょうか。早川書房の担当さんも「このエルヴィンというキャラクターの日記の部分だけで、普通は何冊か書けますよね」と言われてました(笑)。まぁ、またそのうち書こうとは思ってるんですけど。とにかく一切出し惜しみはしないことにしていました。ああいうの考えるの好きなので、また何年かしたらどっさりたまると思います。今回使えなかったアイデアもありましたしね。そもそも一番最初のプロットではガリヴァズ・フレンドは10人ではなく12人だったんですよ。長くなりすぎてしまうので、カットしましたが。なのでその二人分のアイデアは丸々浮いているんです。いつか活かせたらいいな、と思ってます(笑)。
雀部> 二人分のうちの一つは「CL地下オデッセイ」でお願いします(笑)
 エルヴィンの「出口のない夢」のパートで、各部屋の描写密度の濃さにリソースの限界を超えているんじゃないかと訝しむシーンがありましたが、あれはSEさんにとってはどうやっているかは自明ですよね。片理先生も、MS-DOSの時代からPCをいじられていたんでしょう?あの当時は、1Mに満たないメモリのやり繰りに心血を注ぎ、ATOKなんかも常駐させずに、プログラム毎にバッチファイルに記述して、終了時には切り離すとかやってましたから。
片理> MS-DOSの時代は苦労しましたよねぇ! 640KBしかないコンベンショナルメモリには皆、苦しめられてました(笑)。誰もが自然とやりくり上手になっていったという(笑)。autoexec.batとconfig.sysですよね。懐かしいなぁ(笑)。
雀部> それ、それです(笑)→autoexec.batとconfig.sys
 『エンドレス・ガーデン』は、スキャンした人間の擬似人格を量子コンピュータ内で走らせる話なんですが、実際のところ片理先生は、それが可能だとお思いでしょうか。
 個人的には、“いくら精巧に出来ていても、地図は地図で山ではない”という見解に同意するものでありますが。
片理> 私も元々は難しいだろうなと思っていたのですが、コンピュータの進歩の仕方を見ていると(MS-DOSの頃から考えたら凄まじい進化ですよ、今って)、これだけ圧倒的なパワーがあったら、そのうち力業で何とかなっちゃうかも、という気もしてきて、自分でもよく分からないです(汗)。作中でも結局、人間の脳の謎すべてを解き明かせているわけではないんですよ。でも圧倒的なスペックで「コピー」はできてしまう、という。案外本当にそうなるかもなぁ、という気もしてます(汗)。その前に脳の全てを解き明かしちゃって欲しい、という気もしますけど(笑)。SF作家は、面白ければ何でもあり、ですんで(笑)。
雀部> 美を重んじる日本人としては、力業は美しくない気もします(爆)
 今回はお忙しい中インタビューに応じて頂きありがとうございました。
 最後に、現在執筆中の作品、近刊予定などございましたらお教え下さいませ。
片理> 今、幻狼ファンタジアさん向けの作品を書いています。『エンドレス・ガーデン』の執筆が遅れに遅れてしまったしわ寄せで、真っ青になっています(泣)。頑張ります!

 それと日本SF新人賞と小松左京賞の出身者で『NEO ─Next Entertaiment Order─』(次世代娯楽騎士団)というチームを作りまして、今、みんなで何か楽しいことをやれないかと色々と悪巧みをしています(笑)。その内何かをお届けできれば、と思っています。
雀部> 楽しみにお待ちしております。>『NEO』と“幻狼ファンタジア”と、《屍竜戦記》シリーズの続編!!


[片理誠]
1966年生まれ。東京都在住。駒澤大学文学部卒業。会社員生活を経て、第5回日本SF新人賞に佳作入選した『終末の海 Mysterious Ark』でデビュー。骨太のファンタジイ巨篇〈屍竜戦記〉シリーズで注目を集め、本格SFの担い手としても高く期待されている。
[雀部]
『エンドレス・ガーデン』の作中で提出されている主人公が解き明かしていく“謎”なんですが、私にわかったのは、「妖精と踊れ」と「罪人たちのジレンマ」の二つだけでしたねぇ(汗)

トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ