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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『破滅の箱 トクソウ事件ファイル1』
> 牧野修著/角田純男カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4061825437
> 講談社NOVELS
> 900円
> 2010.8.4発行
 金敷署のはみ出し者が集まる、生活保安課防犯係特殊相談対策室。通称“駄目な方のトクソウ”。訪れるのは、自称霊能力者や呪われた青年、宇宙人を警戒する男など、奇妙な人々ばかり。しかも、警察官の方もくせ者揃い(笑)個人的には、死んだ人間が見える野口キアラ巡査が好みです。幽霊みたいなもので、キアラにしか見えないけど、会話もできる(爆)金敷市で凄惨な事件が頻発するのは、いったい何のせいなのか?街に蔓延る〈悪意〉の源には何があるのか!

『再生の箱 トクソウ事件ファイル2』
> 牧野修著/角田純男カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4061827226
> 講談社NOVELS
> 900円
> 2010.8.4発行
 凄惨な殺人が頻発した、“地獄の季節”から約二年。金敷市は、表面上は平穏な生活を取り戻している……
 一見善良そうな人々が殺人を犯したり、怪しげな団体〈家族の教会〉も出てきます。政治絡みの話もあるし、トクソウの中からも次々と犠牲者が……
(全然関係ないのですが、某密林の書影の帯は、1と2が逆につけてあります。どうしたんでしょうねえ(笑))

『そこに、顔が』
> 牧野修著/大武尚貴カバーデザイン
> ISBN-13: 978-4043522149
> 角川ホラー文庫
> 629円
> 2010.11.25発行
 「そこに顔が」そんな言葉を残して、大学教授だった高橋の父が自殺した。疎遠だった父の遺品整理で見つけた日記には、不気味な人体実験の経緯と、黒い影のような“顔”につきまとわれる妄想(?)が書かれていた。
 その“顔”を見たものは、必ず死ぬ!

『死んだ女は歩かない』
> 牧野修著/カラスカバーイラスト
> ISBN-13: 978-4344820500
> 幻冬舎コミックス
> 900円
> 2010.9.30発行
 かつては病気を根絶する革命的技術だった“医療虫”。その暴走により、感染すると怪物に、そして死するとゾンビとなる男達。しかるに女達は、感染すると異能の力に目覚めるのであった。その感染した男達を集め隔離している千屍区。そこに治安部隊の隊長しして、乾月は赴任する。女性は、乾月はその力で得た体内の「地獄」を駆使し、様々な事件を解決しながら、最愛の弟を殺したヤツの手がかりを探していた。

『死んだ女は歩かない 2 あくまで乙女』
> 牧野修著/カラスカバーイラスト
> ISBN-13: 978-4344821958
> 幻冬舎コミックス
> 900円
> 2011.3.31発行
雛乾月:腹に開いた<虚無>から様々な武器を取り出すことが出来る
無苦:射撃の達人。自分の傷を他人に、他人の傷を自分に移動させることができる。
輝十字:戦闘のエキスパート。超音波で敵を破壊することができる。
 今回は、千屍区のシン所長に懸賞金がかけられ、怪物たちの襲撃が始まった。そのイベントの裏で糸を引くマダム・スカムの魂胆とは……

『グイン・サーガ・ワールド2』
> 栗本薫・久美沙織・牧野修・宵野ゆめ・今岡清著/天野喜孝カバーイラスト/天狼プロダクション監修
> ISBN-13: 978-4150310431
> ハヤカワ文庫JA
> 660円
> 2011.8.15発行
外伝三作同時連載
収録作:
「氷惑星再び」栗本薫著:遺稿発掘(グイン・サーガの原型である「氷惑星の戦士」の続篇)
「星降る草原」久美沙織著:草原の民たちの愛憎を描くミステリロマン
「リアード武侠傳奇・伝」牧野修著:ノスフェラスに暮らすセム族の冒険譚
「宿命の宝冠」宵野ゆめ著:沿海州レンティアの陰謀劇
「日記より」構成・解説:今岡清(初公開)
「エッセイ いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女――中島梓という奥さんとの日々――」今岡清著

雀部> 今月の著者インタビューは、『グイン・サーガ・ワールド』に「リアード武侠傳奇・伝」が収録され、同じく8月に『晩年計画がはじまりました』を出された牧野修先生です。
 牧野先生お久しぶりです、よろしくお願いします。
 早いもので、前回『傀儡后』の著者インタビューをさせて頂いてから、もう8年経つんですね。
牧野> ご無沙汰しております。時間が経つのがあまりにも早すぎて、八年なんかあっという間です。歳をとればとるほど時間の流れは加速度的に速くなっていくわけで、ここから先は時間が滝のように流れ落ちていると言われると、そうだろうなあと信じちゃいますよ。
雀部> 確かに早いです。年単位じゃなくて、一日も早く過ぎていきますね。ちょっと油断していると、すぐに眠くなってしまって(汗;)
 端から拝見してますと非常に順調に著作が刊行されているように感じてるのですが、秘められたご苦労はおありでしょうか。
牧野> 苦労というか、お尻に火がついた状態でひたすら走り続けています。止まったらきっと死ぬんだと思います。いや、ほんとに。
雀部> サメとか回遊魚が、泳ぎ続けてないと呼吸が出来ないようにですか(笑)
 『破滅の箱』『再生の箱』二部作なんですが、「環境(建築物)→脳に影響」理論がいかにもありそうで、SFファンにもお薦めと感じました。それと野口キアラ姉貴は、SFファン垂涎の憧れの女性ですね。私の中では『ニューロマンサー』のモリイと双璧です。
 他にも、かなりキャラが濃い面々を揃えてるなぁと感じましたが、これは狙い通りですか(笑)
牧野> 警察ものをやろうと思ったときに、やはり互いに仇名で呼び合うアレをやりたいと思いました。組織を描くわけですから、チームプレイの面白さを出したいと思って、最初に考えたのがキャラクターです。当初のアイデアでは、短編連作で毎回新人刑事がやってきて、事件は解決するけどその刑事は死んじゃうという、むちゃくちゃなものだったので、とんでもない一芸キャラクターばかりを大量に考えました。
 途中から完全な長編にすることが決定し、プロットを練り直していく過程で、キャラの数をどんどん削っていきました。その時にいくつものキャラを取り込んで、煮込んだようにキャラがどんどん濃くなっていったような気が。
 基本的には警察チームの類型をなぞる形でキャラクターを作っていったのですが、それがいつの間にかあんなことに……。
 たとえば伊丹三樹子室長は最初成田三樹夫をイメージして書いていまして、当初はもっともっと下世話なキャラクターでした。あまりにも下品なので、これでは読者の賛同を一ミリもいただけないという編集者判断で今の形になりました。
雀部> 仇名というと、ボス・殿下・マカロニ・ジーパンとか言うヤツですか(笑)
 それにしても、三樹子 ← 三樹夫のイメージだったとは。全く気付きませんでした(汗;)
 いえ、濃いキャラは大好きなので別にかまわないんですけれども(笑)
 ということは、ラストでちょっと救われた感じになるのは、キアラ姉貴の特殊能力があってのことなのですが、これも編集者判断で最初からあの能力を持たせようという話になっていたんでしょうか?
牧野> ビターな感じのする高村薫さんの『マークスの山』だって仇名で呼び合っていますから、やはり仇名と殉職は警察小説の花ですよね。
 しかしうるさいぐらい濃いめのキャラをつくっているので、結局仇名は無しになってしまいました。その分殉職たっぷりめ。
 キアラは後半の主役にすることがかなり最初から決まっていたキャラでして、あの能力も最初から決まっておりました。
雀部> 『マークスの山』は私も大好きなんですが、そう断言されても〜(笑)
 殉職たっぷりめなのは、牧野さんの小説なら覚悟の上ですよ(爆)
 『そこに、顔が』は、ミラーニューロンが*を模倣するというアイデアやパラ言語などのガジェットがSF的だし、謎解きの要素もありで楽しめました。あと『破滅の箱』『再生の箱』に引き続き、あの人が実は!という意外性も面白かったです。この“あの人が実は!”と読者を驚かせる展開は、最初から考えてらっしゃるのでしょうか。
牧野> 私はミステリーに関して門外漢なので、謎とその解明を中心にして物語を組み立てるようなことがどうしても出来ないのです。
 どちらかと言えばああいったサプライズは小説の楽しみの一つというか、おかずの一品ですね。アクション、恋愛、恐怖、なんかの詰め合わせで物語を作っていくときの一つ、サスペンス要素の一部でしょうか。
 でもだからといって最後にぽんと投げ入れて済むような仕掛けでもないので、こういったサプライズはやっぱり最初から仕掛けを考えていることが多いです。
 今回もかなり最初の時点で考えて、伏線を作っていきました。
雀部> やはりそうですか。読者としては、うまく騙された時の快感が確かにありました。
 現在二冊出ている『死んだ女は歩かない』『死んだ女は歩かない 2 あくまで乙女』のシリーズなんですが、題名面白いですね。最初、なんのこっちゃ?と思いますもの。『(死んだ男はゾンビになって歩くが)死んだ女は歩かない』だったとは(笑)
 この題名はスパッと決まったのでしょうか。
牧野> タイトルは本当に悩みます。短編のタイトルは勢いで決まっちゃうことが多いのですが、長編は悩み出すとどうしようもなくなります。
 そんな中、『死んだ女は歩かない』はかなりあっさりと、早い時点で決まりました。長編のタイトルでは、かなり気に入っている方です。決まったときにはほっとしました。
雀部> インパクトがあって、ちょっと内容を知りたくなる題名ですね。
 乾月のお腹の<穴>は、どう考えてもドラえもんの四次元ポケットですよねぇ(笑)
 後書きで、<強い女>が好きだと力説されてますが、SFファンはすべからく強い女性に対する憧れがありますね。SF映画だと、やはりシガニー・ウィーバー扮するリプリー!
牧野> 実際乾月が腹から武器を取り出すときに、その名を呼びながら出す、というのも考えたのですが、やり過ぎだと思って止めました。
 すべてのSFファンが〈強い女〉を好きかどうかはわかりませんが、SFには戦う女の系譜がありますよね。ダーティーペアのようなスペオペから『七瀬ふたたび』の火田七瀬まで、戦う女の原型は日本SFの初期の段階でいろいろと出てきたような気がします。戦闘少女とSFを離して考えることは難しいかもしれませんね。
 リプリーは2から本格的に戦う女になっていきますよね。最終的には人外になっちゃうし。そういえば映画版『バイオハザード』のミラ・ジョボビッチも人外になっちゃいますよね。戦う人外女性といえば『イーオン・フラックス』ですが、シャーリーズ・セロンの実写版よりもピーター・チョンのアニメ版は人外度が高くて、まるでサガノヘルマー。
 SFとはまったく関係がありませんが、最近の凶暴な女で楽しかったのは『冷たい熱帯魚』の村田愛子です。演じる黒沢あすかはでんでんの怪演の陰に隠れてしまっていますけど、なかなかの素晴らしいビッチぶりでした。
 強い女でホラーとなると、これまた山ほどあって、最近ではジャック・ケッチャム原作の『襲撃者の夜』という人食い家族映画がなかなかの強い女ぶりでした。
 そしてそのさらに続編である『「ザ・ウーマン(The Woman)』もとんでもない強い女映画なのですよ。予告編しか見てないけど、早く本編が見たいです。
 しまった。
 強い女話になるとついつい喋りすぎてしまいます。
 自重します。
雀部> 以前某BBSのSF会議で、SFに登場する強い女の人気投票をやったことがあって(笑)
 アニメでは、ナディアとかも人気が高かったです。
 『死んだ女は歩かない 2』で、間野の行動におびえる乾月ちゃんに萌えちゃいました。あそこは萌えポイントですよね?(笑)
牧野> どうにも私には萌えるという感覚が良く理解できていないようなので、あそこらへんが萌えるかどうかはよくわかりませんが、狂った恋愛というのも、きちんと書いてみたいテーマではあります。
 そうそう、宣伝しなきゃ。
 ええと、十月末に『死んだ女は歩かない 3――命短し行為せよ乙女』が刊行されます。とうとう最終回。強い女総出演。強い女版怪獣総進撃でございます。
 間宮も友情出演するよ。そして愛と感動のフィナーレが。
 少し嘘ついてます。
雀部> あれ、もうすぐ最終巻がでるんですね。心して待たせて頂きます。
 ところで、『グイン・サーガ・ワールド』についてなのですが、最初にお話が来たときの感想をお聞かせ下さい。
牧野> とにかく驚きました。正当な後継者や、作家の立ち位置としてグイン・サーガというものに近い方がいくらでもおられるでしょうから、まず「どうして私に?」と思いました。
 次に思ったのは、私に出来るのかということです。百冊を過ぎたファンタジー・シリーズの、続編ではないにしろ、外伝に位置するものを書く不安はものすごかったです。最初は無理ですとお断りすることも考えましたから。何しろ小心者ですしね。私の脳内のグインファンからのプレッシャーに、何も言われる前から潰されそうでした。
 でもそれだけ重責を感じるものは、つまりそれだけ魅力的なんですよね。あのグイン世界で小説を書かせてもらえるんですから。
 まあ、私のところに注文が来たということは、ある意味イロモノというか「伝統からずれた部分担当」を求めてこられたのだと思って、最終的にはお引き受けしました。
雀部> 確かに、今岡さんも「牧野さんについては、編集部に候補としてあげてもらうまでは思いつきもしなかったのですが、どういう風にグイン・サーガが料理されるか、ある意味いちばん楽しみにしていた人でもあります。」とおっしやってますね。でも牧野さんは私の中では、王道ファンタジーの傑作『王の眠る丘』を書かれてる作家さんなので、至極当然な感じがしました。
 その「伝統からずれた部分担当」(笑)を執筆されるにあたって、気を付けられているところはありますか。
牧野> 久美さんがインタビューで応えてらっしゃいますが「カラオケで桑田佳祐さんの曲を歌うとなると、どうしてもみんな『ああ』なるでしょう」という例えはものすごく的を射てるなあと。強い個性を持った作家が百巻以上紡いできた物語を相手にしたら、みんなどうやっても「ああ」なるだろうなと。そこで久美さんは「ファンのかたがたに、できるだけグインらしい『まだ読んでない話』を届けたい」と思われるわけですね。ものすごくファンに対して誠実な態度であると思います。と同時に、「ああ」なってもそれを自分の作品として御していける自信と決意が見られる。
 ところが、私がそれをやってもヘタなパロディにしかならないだろうなと。どうせ「ふざけてんのか、てめぇ!」とお叱りを受けるなら、まったく別の角度からグイン・ワールドを描こうと考えました。そのためにはグインの世界を別の視線で見ている誰かの存在が必要でした。
 具体的には二つの方法があったと思います。一つは今までグイン・ワールドに存在しなかった語り手を出す方法。我々の世界の現代人でもいいし、宇宙人でもいい。もう一つはグイン・サーガの中にあって異人である存在の視点で語る。
 私は後者を選びました。
 人ではない、しかし独自の文明を持ったものの一人称で描くこと。
 舞台をノスフェラスと定めることで、それは決定しました。
 つまり征服者であり支配民族であった白人視点の歴史観を、被征服者、被支配民族の側から語り直すような視点の変化ですね。
 グイン世界のセムは未開の蛮人ですが、それは文字文化が存在しないからそう見えるのであり、彼らには彼らなりの独自の文明が存在し、その内面は深く内省的であるという仮定で書いています。
 今あなたに撫でられている猫が、あなた以上に思索的哲学的存在である、というような視点はSFでは馴染みのものではないでしょうか。
 グイン世界を描いている三人称が、決して公正な第三者の持つ視点ではないと考えることで、一人称で語り直し「ああ」なることから遠く離れようとしたのですが、この試みが多くのファンにとってどうであるのか……悩ましいところです。
 私としてはグイン・サーガの懐の深さに甘えているところがありますね。
雀部> なるほど。久美さんとはアプローチの仕方がだいぶ異なるわけですね。
 「リアード武侠傳奇・伝」第二話では、怪物ムワンブがナイスです。ジョン・カーペンター監督の映画に出てきそう(笑)
牧野> どうしてもホラーが身についてしまって、どこかでホラー風味が出てきてしまいます。一話二話のイメージは、セムによる怪奇大作戦なんですよね。一話完結で奇怪な事件が起こってそれを彼らなりの知識と理屈で解決するという。構成はミステリーで文体はホラー。
 そしてクサレの役は岸田森(笑)。
 このまま一話完結で延々クサレを主役とした連作短編を書いていたい気もしますが、そうもいかず、第三話からグイン世界にはないはずのアレを中心として話は急展開します。乞うご期待。
雀部> え〜っ、《怪奇大作戦》をイメージされてたんですか(驚)
 「アレ」何でしょうか。わくわく(笑)
  (前半終わり・次号に続く)


[牧野修]
1958年大阪生まれ。大阪芸術大学芸術学部卒業。1992年『王の眠る丘』(ハヤカワ文庫JA)で第一回ハイ!ノヴェル大賞を受賞しデビュー。1999年『スイート・リトル・ベイビー』(角川ホラー文庫)で第六回日本ホラー小説大賞に佳作入選。2002年『傀儡后』(ハヤカワ文庫JA)で第二十三回日本SF大賞を受賞
[雀部]
ホラーだけでなく、作品毎に様々な顔を見せてくれる牧野先生。シェアワールドものに加えて、今回は田中啓文先生との共作にも挑戦していらっしゃいます。

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