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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『SFカーニバル』
> フレドリック・ブラウン・マック・レナルズ編/小西宏訳
> 創元推理文庫
> 170円
> 1964.11.13発行
収録作:
「タイム・マシン」ロバート・アーサー
「ジョーという名のロジック」マレー・ラインスター
「ミュータント」E・F・ラッセル
「火星人来襲」マック・レナルズ
「SF作家失格」ネルスン・ボンド
「恐竜パラドックス」フレドリック・ブラウン
「ヴァーニスの剣士」クライブ・ジャクスン
「宇宙サーカス」ラリー・ショー
「ロボット編集者」H・B・ファイフ
「地球=火星自動販売機」ジョージ・O・スミス

『フロリクス8から来た友人』
> フィリップ・K・ディック著/大森望訳/松林富久治カバー
> ISBN-13: 978-4488696108
> 創元SF文庫
> 650円
> 1992.1.31発行
粗筋:
“突然変異で出現した<新人><異人>などの超人に支配された未来の地球。
平凡な<旧人>に属する主人公は、ひょんなことから圧制を打破しようとする地下組織に荷担することになってしまう。彼らの希望はただ一つ、10年前に外宇宙に救いを求めて旅立った英雄プロヴォーニだけだった……”
 地下組織のかわいこちゃんをめぐり、主人公のさえないおっさんと、<異人>である公共安全特別委員会議長との鞘当を織り込みながら、物語は進んで行きます。結末は、ディック氏らしいというか、ホロ苦いというか、欲求不満になる終わり方ではありますね。

『新編 戦後翻訳風雲録』
> 宮田昇著
> ISBN-13: 978-4622080763
> みすず書房
> 2600円
> 2007.6.1発行
取り上げられている傑物のお名前は……
中桐雅夫、鮎川信夫、田村隆一、高橋豊、宇野利泰、田中融二、亀山龍樹、福島正実、厚木淳、三田村裕、新庄哲夫、松田銑、斎藤正直、早川清、桑名一央

『火星のプリンセス』
> エドガー・ライス・バローズ/厚木淳訳/岩郷重力+WONDER WORKZ装幀
> ISBN-13: 978-4488601454
> 創元SF文庫
> 620円
> 2012.3.2発行
 お馴染み《火星シリーズ》の一作目
 ディズニー映画化に際して、お色直しで再登場。
 ヒーロー誕生から丁度100年!。
 表紙が武部画伯の画でないのは、これなら映画とぶつからないだろうという配慮からとのことです。

『原色の想像力』
> 大森望・日下三蔵・山田正紀/岩郷重力+WONDER WORKZ装幀
> ISBN-13: 978-4488739010
> 東京創元社
> 1100円
> 2010.12.24発行
収録作:
高山羽根子「うどん キツネつきの」(第1回創元SF短編賞 佳作)
端江田仗「猫のチュトラリー」
永山驢馬「時計じかけの天使」
笛地静恵「人魚の海」
おおむら しんいち「かな式 まちかど」
亘星恵風「ママはユビキタス」
山下 敬「土の塵」(第1回創元SF短編賞 日下三蔵賞)
宮内悠介「盤上の夜」(第1回創元SF短編賞 山田正紀賞)
坂永雄一「さえずりの宇宙」(第1回創元SF短編賞 大森望賞)
松崎有理「ぼくの手のなかでしずかに」(第1回創元SF短編賞 受賞後第1作)
第1回創元SF短編賞 最終選考座談会 大森望・日下三蔵・山田正紀・小浜徹也

『原色の想像力2』
> 大森望・日下三蔵・堀晃/岩郷重力+WONDER WORKZ装幀
> ISBN-13: 978-4488739027
> 東京創元社
> 980円
> 2012.3.22発行
収録作:
空木春宵「繭の見る夢」(第2回創元SF短編賞 佳作)
わかつきひかる「ニートな彼とキュートな彼女」
オキシタケヒコ「What We Want」
亘星恵風「プラナリアン」
片瀬二郎「花と少年」(第2回創元SF短編賞 大森望賞)
志保龍彦「Kudanの瞳」(第2回創元SF短編賞 日下三蔵賞)
忍澤 勉「ものみな憩える」(第2回創元SF短編賞 堀晃賞)
酉島伝法「洞(うつお)の街」(第2回創元SF短編賞 受賞後第1作)
第2回創元SF短編賞 最終選考座談会 大森望・日下三蔵・堀晃・小浜徹也
『あがり』
> 松崎有理著/toi8カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4488018146
> 東京創元社
> 1600円
> 2011.9.30発行
「あがり」第一回創元SF短編賞受賞作
  女子学生アトリと同じ生命科学研究所にかよう、おさななじみの男子学生イカルは、尊敬するジェイ先生の死後様子がおかしかった。夏のある日、彼は研究室の機械を占有しある実験をはじめた。その秘密実験の予想だにしなかった顛末とは……
「ぼくの手のなかでしずかに」
  素数分布についての有名な予想を証明することが生き甲斐の数学者。彼は、ある日書店で数学好きとおぼしき可愛い女性と接近遭遇するのだが……
「代書屋ミクラの幸運」
  駆け出しの代書屋が先輩代書屋に紹介されたのは、あまり予算の無さそうな応用数理社会学講座の研究者だった。このままだと首にされてしまうので、ぜひ有用な論文を書き上げたいとの依頼だったのだが……
「不可能もなく裏切りもなく」
  このままでは辞めさされる。半年で論文を書くことが至上命令と化した二人の研究者の出した結論は、「遺伝子間領域の存在理由について」の論文を共著するしかないのだ!
「へむ」
  画だけには天才的な閃きを見せる少年と、彼を認めた転校生の少女。医学部の地下通路に潜む不思議な生き物たちとふたりの交流を描いたノスタルジックな短編。

雀部> 今月の著者インタビューも先月に引き続き松崎有理さんです。しかも今月は、松崎さんの担当で東京創元社のSF担当編集者でもある小浜徹也さんもご参加下さることになりました。
 小浜さん初めまして。よろしくお願いします。
松崎> ほら小浜さん小芝居小芝居。
小浜> はいはい、小芝居はしませんからね。
 雀部さん、はじめまして。「アニマ・ソラリス」は創刊の頃から存じあげています。10年以上こつこつと続けられているのには本当に頭が下がります。
 今日はよろしくお願いいたします。
雀部> 目にとめて頂きありがとうございます。
 先月号でも話が出てるのですが「月刊アレ!」の11月号「私が薦める私の本」のコーナーで、松崎さんと小浜さんのミニ対談が収録されてます。
 どう読んでも先生と生徒さんの会話のように思えて仕方がないのですが(笑)、小浜さんから見た松崎さんは、作家としてはどういう方なのでしょうか。
小浜> 「先生と生徒」ですか。しまったな。自分でも自覚しているのですが、「先輩ぶる」ことが多々ありまして。見透かされたかのようでお恥ずかしい。
松崎> あの、補足しておきますと。わたし違和感はまったくありませんよ。むしろ自然だと思ってます。だって歳も10ちがうし、出版関係の知識経験は比をとったら無限大くらいにちがうわけだし。
雀部> あ、私としても端から拝見しまして、なんか微笑ましい先生と生徒との関係だなぁと思ったわけで、他意はありません(笑)
小浜> お気遣いいただいた発言、有り難うございます(笑)
 しかし早速の質問が「松崎さんが作家としてどういう方か」というのは難問です。きわめて普通でもあり、すこし変でもあり。大胆でもあり、ナイーブでもあり。じつに常識人でもあり、あんがい世間知らずでもあり。
 でも少なくとも、第一回の短編賞受賞者としておつきあいするにあたっては、人物的に不足なし。めぐりあわせに感謝しています。
雀部> なんか褒められてますよ〜(笑)
松崎> それをいうなら。わたしもめぐりあわせにはものすごく感謝しています。小浜さんはおよそ、デビューしたての新人作家がさいしょにつく担当者としては考えうるかぎりで最高のひとです。
 と、これまでにあちこちでなんどもいってるのですが、そのたび当人は「比べたこともないくせにわかんないでしょ」って反論するんですよ。でも比べようがないと思いませんか。だってふつうは、作家デビューって一回きりで、したがってさいしょの担当者というのもひとりきりなんですから。そう人生って対照(=control)のない実験の連続なんです。もしあのときああだったら、というもうひとつの選択肢を、時間をさかのぼってやってみるわけにはいかない。
雀部> しかし、人生を対照(=control)のない実験と例えられるとは、根っからの理系(実験系?)ですねえ……
 あの対談で“舞台を固定したのは効果的かどうか”という質問が出てましたが、結果としてどうだったのでしょうか。
小浜> 発端からお話ししますと、短編賞の受賞作を、そのあと一冊の本にするのにどうやって展開するかというのは重大事なのです。そのためには登場人物か、それに準じたものを連続させる、というのが一番で、ぼくらが選択したのが〈北の街〉の大学でした。
松崎> だって「きょうびの短編集は連作にしないと売れない」って小浜さんが強固に主張するから。
小浜> そういえばそんなこといったな。というか、短編賞のみんなには必ずそういってるな。
松崎> 連作短編集は創元のお家芸で。ほんとはわたし、相互に関連のない短編がいっぱいつまってる本がすきなんですけどね。
 しかしこれこそ対照のない実験ですよ。もし『あがり』が北の街を共通舞台とした連作短編集でなかったらどうなるのか、は永遠にわからない。
雀部> 舞台となった某大学出身者としては願ったり叶ったりで楽しませて頂きました。
松崎> そういっていただけるととてもありがたいです。っていうかばればれですね舞台。
雀部> 著者略歴に書いてありますからね(笑)
 東京創元社というと、私たちの世代は創元推理文庫にはながらくお世話になってきました。ハヤカワの銀背は高いので、SFの文庫を買うとなるとまず創元推理文庫。帯に“SF入門を兼ねた傑作ベスト・テン”とあり、コレだと思い買ったのが、フレドリック・ブラウン編の『SFカーニバル』でした(中2の時。当時170円)。ジュブナイルSFは小学校の頃から読んでいたのですが、初の大人向けSFがこの本でした。
 早川書房のSFだと福島さんとか森さんとかのお名前が出てくるのですが、当時創元推理文庫のSFは、どなたが責任者だったのでしょうか。
小浜> 1970年代いっぱいまでは、バローズの翻訳紹介で知られる厚木淳が中心でした。SFの、というよりも、彼の得意分野であった本格ミステリをはじめとする、創元の出版物全部の責任者だったわけですが。このあたりの話は、宮田昇さんの『戦後「翻訳」風雲録―翻訳者が神々だった時代』や、この記事でも読むことができます。
雀部> 厚木先生のインタビュー記事の紹介ありがとうございます。
 創元推理文庫と早川書房とのSF出版に対するスタンスの違いがよく分かる記事ですね。
 宮田昇さんの『新編 戦後翻訳風雲録』も読んでみましたが、昔良く見た翻訳者のお名前が多くてとても懐かしかったし、隠れたエピソードも面白かった。宮田さんて、元は早川書房に勤められていたんですね。早川書房と東京創元社(早川清氏と厚木淳氏)の軋轢の話も初めて知りましたし、お二人の性格的な違いもなるほどと思いました。
 なかなか出版業界も大変なんですね。
小浜> そのへんについては、とても面白い時代だったんだなあと思います……としかいいようがありません。ただしその時代に自分がいたとしても、すぐに脱落してた気が(笑)。
 ぼく自身が学生だった80年代前半、その後創元に入社した80年代半ばは、サイバーパンクの到来もあって、SFだけでなく本当に早川全盛の時代でした。早川への強烈な憧れがあった中で、自分がどんな仕事をしていけばいいのか、色々と複雑な気持ちがありました。でもまあ、これはあくまでも個人的なことですね。
雀部> SF研出身者としては当然な気持ちなのでしょうね。
 創元推理文庫では、『SFカーニバル』の次が『73光年の妖怪』で、そこからブラウンのミステリ部門も含んだショートショート集、ブラウンのミステリ本制覇という順番で。
 厚木さんの引いた路線にのっかってました(笑)
 小浜さんと松崎さんは、創元推理文庫ではどういったところを読まれて育ったのでしょうか。
小浜> 『SFカーニバル』はぼくも大好きでしたよ。収録の「ジョーという名のロジック」(ラインスター)とか最高でした。ブラウンもずいぶん読みました。でも最初読んでたのはミステリで、初めての文庫ミステリは『完全殺人事件』(ブッシュ)でした。でもすぐミステリに飽きてSFへ。
 もっともぼくらの世代は、創元の文庫よりも主に早川の文庫で育ったんです。でも『銀河帝国の興亡』(アシモフ)の最初の三部作は創元版で読んだし、クラークの『銀河帝国の崩壊』は改稿版の『都市と星』よりも好きだったし、『渚にて』(シュート)は本当に好きで好きで、数年前に新訳版を刊行しました。
雀部> そうか、小浜さんの世代だと物心ついたときにはハヤカワ文庫SFがあったんだ。
小浜> まだ「ハヤカワSF文庫」でしたけどね。あれっていつから変わったんですっけ。
雀部> 手元にあるハヤカワ文庫の背表紙を見てみると、'74年の初頭あたりから、ハヤカワ文庫SFに変更されたみたいですね。
小浜> あー。その頃でしたか。なんかもう少しあとのような気がしてたんですけど。
雀部> 私は、もう少し前(ハヤカワ文庫JA創刊時)かと思っていたら、最初は日本ものもハヤカワJA文庫だったんですね。
 『渚にて』は、あの冒頭のエリオットの詩があまりにはまっていて、普段読まない詩集などを読んでしまいました(笑)
小浜> わかりますわかります。やりますよね。
 ついでに単純に自分の好きなものを挙げると、といっても案外当たり前なんですが、ロングセラーになって品切れになる心配があまり必要ないものを別にして、ヴァン・ヴォークト『宇宙船ビーグル号の冒険』、ウィンダム『トリフィド時代』、ベスター『分解された男』、オールディス『グレイベアド』。このあたりは長年、機会があれば復活させるべく気配りしてきたつもりです。
雀部> えっ、それらの名前を挙げられている名作は、気を付けてないと品切れになる可能性があるんですか(驚)
小浜> じつはそうなんです。皆さん「ここだけの話」ですよ。
松崎> あの小浜さん。これパネルじゃなくて、ウェブに掲載されるインタビューだからずっとのこるんですけど。
小浜> あ、そうでしたね。でも今はもう、出た本の90パーセント以上が「気をつけてないと品切れ」になる世の中ですので。
雀部> 古典の名作のブックレビューをしていかないとダメなのか……
 世代によって、思春期に名作だと紹介されている作品が違うのかも。
小浜> 世代による、というのはありますよね。でも、自分が信じているものを語り継ぐというのはプロアマ問わないんですよね。でも「古典名作」と表現した時点で、若い人たちには反感を抱かれそうな気もしますが。
松崎> わたしくらいの世代になると、子供のころから創元もハヤカワも豊富にありました。
 で。もちろんハヤカワもいっぱいよんだのですが、創元にかぎってお話ししますと、たぶん小学生のころ、さいしょによんだのがアーサー・K・バーンズ『惑星間の狩人』です。当時父がまだスモーカーだったのでまじこわかった鉄砲玉カブトムシ。
 つぎが金星シリーズと火星シリーズ。金星のほうは、武部画伯の絵がおっかなくてなかばトラウマ化してましたっけなにせわたし10歳くらいでしたから。それからレンズマン・シリーズあたりかな。このへんのスペオペは実家にたくさんあって端からよんでました。だからいまでも、すなおなスペオペってすきです。正統派エンタメだと思っています。
 高校生になるころにはディックにはまっていたのですが、創元ではとくに『フロリクス8から来た友人』が印象ぶかいです。といいますか一時座右の書で、こればっか繰り返しよんでました。「神は死んだよ。2019年に死体が見つかった」なんて台詞かっこよすぎる。それに主人公の職業がタイヤの溝掘り職人ってシュールすぎます。いや話しだすととまらないからいいかげんやめますけど、いまおもえば訳者は大森望さんですね。
 さあて7年後にはみつかるのかな神の死体。
小浜> 『惑星間の狩人』好きだったなあ。覚えてるよ鉄砲カブトムシ。煙草の匂いに突撃するの。でも正確にはジュヴナイル版の『惑星ハンター』なんだけど、創元版でも読み直した。10年以上前に復刊フェアでカバー変えしたけど、そのときもエド・エムシュウィラーのイラストは残してデザインしてもらった。でもさすがに内容的にもう苦しいと思ったな。
 でも『フロリクス』を好きだというのは驚いたな。意外。そう言う人に会ったの初めてかも。
松崎> えー『フロリクス』はディックの長編のなかでは最高傑作ですよ。なぜもっと話題にならないのか不思議でたまらない。
雀部> 『フロリクス8から来た友人』は、『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』の2年後の出版で、どちらもディック氏にしてはストレートな書き方の読みやすい作品という感じを持ってます。ディック氏が“あそことは二度と仕事をしない”と公言していた編集者と出版社のために、生活のために書いたと自ら語っている(ポール・ウィリアムズ著『フィリップ・K・ディックの世界』より)作品なので、あまり凝らなかったのかなと昔は勘ぐっていたんですが(笑)
小浜> 雀部さんディック・マニアでしたか。そこまで色々と小浜は考えませんでした。すみません、ぼうっとしていて。
雀部> 私は、ディック・マニアと呼ばれるような入れ込みかたはしてないのですけど(汗;)。
松崎> 小浜さん岡山まできたせいで寝不足なんですよ。枕が変わると眠れないらしくて。それと、東海道新幹線には鬼がすんでいて、仮眠しようとする乗客の脚をひっぱって安眠妨害するそうです。とまた小芝居。
雀部> あれれ、岡山で対談やっている設定になってたんだ(笑)
松崎> だってさっき窓の下を桃太郎がとおりましたよ腰からマスカットさげて。あ。小浜さんいまつまんない、って思ったでしょ。
小浜> なんか松崎さんてネットに向いてるよね。
松崎> といいますか、リアルタイムなパネルがにがて、という自覚が。
雀部> 私も松崎さんはネット向いているような気がするので、(新作を期待する読者としては、特にTwitter関連は)やらないで欲しいですね(爆)
松崎> Twitterってはじめちゃうとあまりに時間をとられそうで、いまのところ距離を置いてます。
 しかし、htmlでのホームページ更新は無料でできるだいじな宣伝活動ですから、やらないわけにはいかず。いえけっして執筆からの逃避ではありませんよ。ありませんってば小浜さん。
小浜> なんかいっつもそれいうよね。
 でもこれからは、限度はあれど、セルフ・プロモーション的なウェブでの広報活動は、小説家にとっても大事になっていくと思います。ぼくは新人には、何らかのネット・メディアを持ったほうがいいといっています。
雀部> 確かに、SF関係者、Twitterには大勢いらっしゃいます。
 ところで、小浜さんが入社されたのはいつ頃からなのでしょうか。
 また最初に手がけられた本はなんだったのでしょう。
小浜> 入社は1986年春です。我ながら信じがたいことに四半世紀の昔ですね。
 最初に部分的に編集に携わったのは『限定版武部本一郎画集』でした。まだ曙橋にあった野田昌宏さんの日本テレワーク本社や、飯田橋の会社のすぐ近くの栗本薫さんの事務所に巻頭言をいただきに参上しました。見出しタイトルを決めさせていただきました。
雀部> 《火星シリーズ》が出た当時はまだ中学生で、とにかく面白かったし、武部画伯描くところのデジャー・ソリス姫はとにかく色っぽかった。
 まあ、火星の女神さまは、卵で子供をお産みなされるわけで、そこんとこは中学生ながらそんなアホなとは思ってました。あ、「いくら人間と似ているからといっても、卵を産むような生物との間に子供が出来るわけはないぞ〜」という意味です(笑)
小浜> すみません……小浜は《火星シリーズ》は、昔むかしにジュヴナイル版で読んだ一巻目がつまらなくて遠ざけていたんですが、99年の合本版を企画しようと完訳版を通読して腰をぬかしました。それほどの年月が経っても大人の鑑賞に充分堪える恐るべき活劇。そのあたりのことはサイトの記事に記しました(「34年目のデジャー・ソリス」)のでご覧ください。今回、ディズニー映画化(『ジョン・カーター』)で、改めて第一巻のみ切り分けて、新版として刊行しています。
雀部> ということは、第一巻は三度目のお色直しなんですね。映画もぜひ観たいものです。
小浜> 映画は相当な力作みたいです。ディズニー・ジャパンからは「訳語を厚木版原作と合わせたい」とえらく気をつかっていただいて、とても光栄に思いました。
雀部> 凄いなあ、厚木先生。ディズニーからリスペクトされてる。
松崎> やっぱりこの流れで栗本薫先生の『火星の大統領カーター』を持ちだすのはすじちがいかなあ。
雀部> なんでもありのパロディだけど、栗本先生には、ヒロイックファンタジーに対する真摯な愛情があるので大丈夫!(笑)
小浜> 栗本さんのデビュー作『ぼくらの時代』は高校時代のバイブルでした。ぼく、栗本さんのたぶん最初のサイン会、81年2月の新宿紀伊国屋本店のサイン会に並んだんですよ。そしたら次の文庫のあとがきに「わざわざ徳島県からきてくれた人もいた」と栗本さんが書いていらして。本当は大学受験の上京で、栗本さんにもそう伝えたんですけど。栗本さんにはもう少し思い出があるのですが、それはそれとして。
 SF文庫では、入社当時に既にゲラになっていたのを引き継いで、最初に本にしたのはアシモフの短編集『変化の風』でした。また自分単独で編集会議を通した最初の本は、ハインラインの『ラモックス』でした。
雀部> おぉ〜っ『ラモックス』。ハインラインのジュブナイルの良いところが全部出ている小説ですね。あれも小浜さんの担当だったんだ。
 以前大森望先生のインタビューの時、“自分で手を挙げて訳した本”とお聞きしたのですが、これはやはり京大SF研つながりでお話が来たのでしょうか(笑)
小浜> いえ、「SF研つながり」というわけではまったくないんです。当時創元では『レッド・プラネット』をはじめ、ハインラインのジュヴナイルの完訳版を出し始めていたので、「だったらこれをやらないことには」と考えたんです。ぼくも福島さん訳の『宇宙怪獣ラモックス』が大好きだったので。で、本当に偶然に彼に考えを話したら「おれにやらせろ」と(笑)。大森さんとしてもまだ数冊めの仕事でした。
 その後、「あたしが初めて読んだSFは『ラモックス』でした!」と言って大森さんに挨拶しにきた若者が何人もいたということで、彼としても生涯の記念になったんじゃないでしょうか。
雀部> なるほどそういう経緯だったんですか。厚木さんも京大出身だし、てっきり京大繋がりとばかり(笑)そういえば、故小松左京先生も京大ですね。
小浜> 仕事の上では「大学の縁」というのはないんです。学閥的なものはまったく存在しません。それよりは、自分にとって大学生時代のファン活動の縁のほうが大きいんですよ。
 大森さんもどちらかといえば、大学云々よりもファン活動の先輩です。山岸真さんにしても中村融さんにしても牧眞司さんにしても、内田昌之さん中原尚哉さん、さらに言えば管浩江さんや山本弘さんまで、ぼくの今の財産といえる人たちは、過半数が当時からの仲間です。
雀部> ファン活動の仲間意識というのは、SF界のよいところですね。わたしがこうやってインタビューを続けさせてもらってるのも、SF作家の方がファンとの間に仲間意識を持って下さっているからだと感謝しております。
松崎> SFでは作家とファンのあいだのしきいが低い、というのはやっぱりほんとうなんでしょうか。わたしひっそりよんでただけで、ファンダム活動をいっさいやってこなかったので、そのへんがよくわからないのですよ。じつはいまでもアウェイ感満載。
小浜> 「ファンダム活動」は用法として間違い。「ファン活動」ですよ。
松崎> ほら用語からしてあやふやだし。
雀部> しきいが低いというか、ファンと作家の方との距離が近いというのは本当ですよ。故小松左京先生は、コマケンの皆さんと、仲良く旅行に行ってご飯食べたりされてましたし。松崎さんも、SFと名前の付いた賞を取られたお仲間ですので、どうぞよろしく〜(笑)
  ところで、創元SF短編賞についてもお聞きしたいのですが、そもそもこの賞を設立された理由はなんだったのでしょうか。
小浜> ついにきましたか、その質問(笑)
 最初は大森望さんでした。創設に遡ること半年前か一年前から、何度も繰り返し提案されました。彼なりに真剣に、この出版不況の時代に「新しいSF新人賞を成立させるには」とアイデアを練ったんだろうなと了解していました。「《年刊日本SF傑作選》の新人賞部門としてやりたい」というのは最初から言われてたんですが、初めのうちはぼくも迷ってたんです。
 長編賞じゃなくて短編賞でしょ。これを創設して、そのあと一体、SF編集部としてどう発展させればいいのか。やるからには、商売として「何冊も本をつくって稼ぎが出るところまで持っていかないと」という絶対条件はありましたし。
 当時思っていたことはもう色々と忘れてしまってるんですが(笑)、覚えているのは、あるときふと「短編の新人賞、あったら面白いかな」と思ったこと。それで不思議と諦めがついて(笑)、編集会議で提案したところ、全員があっさりと通してくれました。
 小松左京賞と日本SF新人賞の撤退が発表されたのは、創設を決めた後のことで、本当に「めぐりあわせ」による入れ替わりだったとしか言いようがありません。
松崎> なんと。おもしろいかどうか、できまったのか創元SF短編賞。すばらしい。理想的です。
 それで。期待どおりおもしろかったですか小浜さん。
小浜> 松崎さんは面白いよね。高山羽根子さんも面白い。
松崎> それよくいわれますけど、いまだにどういう意味なのかわかりません。
小浜> そうですか。
雀部> 面白いですよ〜(笑)>松崎さん
 高山羽根子さんの「うどん キツネつきの」(『原色の想像力』所載)は、本当にへんてこな小説ですねえ。まさにSFファン好み(笑)
小浜> そう言っていただけるとてとも嬉しいです。よかったね高山さん。
雀部> それにしても、大森望先生は最近大活躍ですね。21世紀初頭の日本のSFシーンは、大森望抜きには語れない! と将来言われる(笑)
 ちょうど『原色の想像力 2』が発売されたところですが、前作の売れ行きはどんなもんだったのでしょうか。全然違うタイプの短編が凝縮されていて、読んでいて楽しかったです。
小浜> いやこれが。ぼくとしては自信満々のアンソロジーだったんです、本当に。
松崎> そうそうタイトルだって小浜さんあんなに気合い入れてきめたのに。
小浜> 気合いいれてた? そうだっけ。
松崎> そうでしたよーだってだれかにタイトルけなされたとき子供みたいに怒ってたでしょ。
小浜> いやべつに怒っていたわけでは。
 でも第一集がある程度売れていれば順風満帆だったんですが、なかなか世の中うまくいかなくて。期待値を下回る売上げ実績でした。
 ある程度は覚悟していたんですが、やっぱり読者は「よく知っている著者の名前」にしか反応しないのかなあ、と思いました。継続を決めるのにも相当な意志が必要でした。
 『3』までは是が非でも続けたいのですが、それ以降は、現段階では何とも言えません。もう本当に、買ってください、としか申し上げようがない。
雀部>  新人が投稿できる場所として創元SF短編賞は貴重な存在ですね。売り上げに協力せねば。読者の皆様も、お買いあげよろしくお願いします。
 掲載作と巻末の「最終選考座談会」を併せて読むと、各作品のどういうところが評価されているか、また足りないかがよくわかります。選考者による評価の違いも面白いです。
 これから投稿されようとされる方は絶対に、そうでないSFファンにもお薦めできます。
 SFは、とりわけへんてこな話が評価されるジャンルですから、みなさまよろしく〜。
小浜> ありがとうございます。「最終選考座談会」は面白く読んでいただけるように相当がんばって構成しています。もっとも議論の内容と展開については、まったくあのとおりで嘘偽りありませんので。
雀部> 東京創元社では、ネットでサイン本の販売をやってますよね。あれも良い試みですねぇ。サイン会なんかは大抵東京だから、私らのような地方在住者はいつも残念な思いをしていたんですよ。まあ、実際にお会いして握手の一つでもしてもらって、サインを頂くのとは比ぶべくもないんですが、サインがあると著者が身近に感じられてうれしいです。これまでのところ、上田早夕里先生、田中啓文先生、山本弘先生、菅浩江先生あたりのサイン本をゲットできました。
小浜> お褒めいただき恐縮です。これからも規模を拡大していければと思っています。
雀部> ぜひお願いします。
 そういえば、松崎さんのサイン本も購入しましたよ。
松崎> うわ。ありがとうございます恐縮ですわたしも。
 そうそう、サインしてるとこっちもふしぎと読者との距離がちぢまる感じがするのですよ。いまこうやって名前書いて、シール貼ってるこれが直接読者にとどくのだな、と思うと。だからあのサイン本ネット販売は、著者であるわたしにとってもすごくよい経験でした。
雀部> でもいっぱいサインするのは大変でしょう(笑)
松崎> そんな。誇張でなくたのしかった。機会をいただければぜひまたやりたいくらい。
雀部> サインの横のシールが張ってあり、それに“たまねぎは、あこぎな野菜”とありましたが、「代書屋ミクラの幸運」の中でも同じことを書かれてますよね。
松崎> あ。雀部さんたまねぎシールにあたったんですか。おめでとうございます、ってとくに景品がでるわけじゃないですけど。
 じつはサイン横に貼ってるシールにはいくつか種類がありまして。一部おみせします。ああこれもウェブ初公開だな。
 こんなことするとまた「創元SF短編賞を受賞するにはグラフィックデザインができなきゃだめなのか」といわれそうですが、そんなことはありません。あくまでわたしと酉島伝法さんが悪のりしていろいろつくっているだけです。小浜さんはいつもひややかな目でみてます。
小浜> いえ。こうして受賞者や最終候補者の皆さんに盛り上げていただけるのは、本当に有り難いことだと思っています。もっとやってください。
松崎> えーほんとですか信じちゃいますよわたし空気も行間もよめませんから。アカラさまみたいに。
雀部> アカラさまって、何でしたっけ。KYな存在?(笑)
松崎> ミクラが脳内で飼ってる神さま。
雀部> ミクラとアカラって語感が似てますけど、元ネタあるんですか?
小浜> (小さな声で)雀部さん、それ「あからさまな」「あからさまに」のもじりですよ。当人に確認したことないですけど。
松崎> あーよかった小浜さんわかってたんだ。
 そうですだから「アカラさま」で、さま、までつけてひとつの名前です。
 なお。アカラさまにはじつはモデルがあって。アタオコロイノナです。あんなかんじで、どこか遠くの島にすんでるへんな名前の架空の神さまをつくりたかったんですが、なぜかああなっちゃった。
雀部> ということは、ネタもとは北杜夫先生。まさに東北大つながりですね(笑)
 シール、次回はもっと過激なモノを期待してしまうなぁ……
松崎> シールはそんな過激にできませんって。
 伝法さんの“ももんじ”フェルトぬいぐるみなんて過激ですよ。あれ刺さるんです指に。
雀部> 刺さるのは嫌だなぁ(笑)
 で、たまねぎ嫌いなんですか?
松崎> たまねぎはね、すきなんですよ。裏自己紹介としてこんな文を載せてるくらい。この文章、じぶんでは傑作だと思うのですがまだだれにもほめられたことがなくて。
雀部> あ〜、はいはい(笑)
松崎> うわやっぱりあっさり流された。
小浜> 雀部さんにも、だいぶ分かってもらえるようになってきてよかった(笑)
松崎> 小浜さん3分の2は流してますもんね松崎からの振り。
雀部> ミクラくんは、「不可能もなく裏切りもなく」にもちらっと登場しますが、彼の視点=松崎さんの視点のような感じを受けました。
松崎> そうみえましたか。うーん。
 じつは。ミクラはいままでにつくりだしたキャラクタのなかでシンクロ率がだんとつに高くて、書いているぶんにはひじょうに楽でした。
 しかし。さいきん気づいたのですよ。これ読者にとってはうざったいんじゃないかと。主人公=著者の一人称小説って、よんでいてなんとも鼻につくでしょ。さいきん三人称にもぼちぼち挑戦するようになって、キャラクタと距離をとることをおぼえてきたのでますますわかるのです。楽しちゃだめだよなあ著者。
 なあんだ松崎やっと気づいたか、っていうんでしょ小浜さん。
小浜> いや、そういうこともあるかなあと思うよ。
雀部> わたしもウザイとは思いませんでしたよ。それにミクラ君、作者じゃなくて自分の意思で動いているような気がしたので……
松崎> ああたしかにやつはかってに動きます。アイテムとして自転車と脳内神さまを与えたあたりからもうこっちのいうことなどきかず。
雀部> 一番の幸福があれだもんなぁ(笑)>ミクラ君
 どの短編もいわゆるハッピーエンドじゃないですよね。
 作中人物は幸福ではいけないのだろうか(笑)
松崎> おお、むずかしい振り。
 短編は結末の意外さをだすためにバッドエンド、長編はここまでよんでくれた読者にむくいてハッピーエンド、という方針だったのですよ当時は。いまはちがいますけど。
 それに。小浜さんが「読者は泣きたいのだ」とこれまた強固に主張するから、そんなものかな、と。
小浜> ぼくは真理というものを伝えているだけです。まあね、もう少し名前が通ったら好きにやってみればいいけどね。
雀部> 日本のSFファンは、泣けるハナシが好きですから。SFマガジンでやるオールタイムベストでも、上位に来るのは泣けるハナシが多いし。まあ、私も好きなんですけど(汗)
 松崎さんのお好きな梶尾真治先生も、泣けるハナシの名手じゃないですか。
松崎> んー。でも、梶尾先生の作品は笑える系もだいすきだったり。「宇宙船仰天号の冒険」とか。いやこれは笑える、というよりブラックユーモアなのかな。ゲズラさま最強、なんて話しだすとまた止まらないのではやめにやめます。
 で。よむ側のときはともかく、いざじぶんが書く側にまわってみると、さあ泣かせるぞー、みたいなのが作為的でいやなんですよ。だから、こっちは意図してないんだけど読者がかってに泣いてくれる、というのが理想です。あ。なんかわたしすごく傲慢なこといってますか小浜さん。
小浜> 傲慢とは思わないけど、でもそれは、梶尾さんほどの腕力が身につくかどうかということなんじゃないの。
松崎> うわ先は遠い。
雀部> 「不可能もなく裏切りもなく」もハッピーエンドとは言えませんよね。ちょっとした救いはあるのですが。このラストの解決法は、上田早夕里さん描くところの『華竜の宮』と似ている気がしました。
  産む性である女の人ならではなのかなと。男だとギブスンの「冬のマーケット」みたいな解決法に行っちゃうから(正確には、『華竜の宮』のラストでは、獣舟変異体の"人間もどき"とアシスタント知性体に託すわけだから、合わせ技なんですね。あげる例としてはちと論旨から外れてます、すみません)
松崎> あ。ごめんなさい「冬のマーケット」未読でした。いま確認しました。なるほどねえ。
 『華竜の宮』と似ている、というのは、本体死んじゃったけど代替物が外部にあるからいいよね、みたいな意味なのでしょうか。うーんそんなふうに考えたことはなかった。
雀部> というか、遺伝子が保存されるということは、女性にとっては自分の子供が生まれるのと同義なのかなと思いました。男は自分が産むわけじゃないから、どうしても「自分の」子供という感覚が薄いような気がします。
小浜> それ面白いですね。普遍的なテーマではありますが。といっても、どこまで遡れるのでしょうか。でも日本SFにとっては『新世紀エヴァンゲリオン』以降重要な関心事になっている気がします。
松崎> わたし『エヴァンゲリオン』もさいごまでみてないのですよ。と、以前小浜さんにいったらすっごくばかにされました。どうやらわたし基礎教養に欠けてるようです。
 それで。女が産む性であって、男にとってはじぶんの子がほんとにじぶんの遺伝子をうけついでいるのかつねに不安である、という問題は哺乳類の起源にまでさかのぼれると思います。いや爬虫類かな。どういうことかというと、魚類は体外受精なので雌が卵を産んだあとに放精するから、魚の雄にとってはその卵から孵るのはかくじつにじぶんの子なのです。ほら魚類って、雄が卵をまもる種が多いですよねタツノオトシゴとか。雌のほうは産みっぱなしで逃げちゃう。
小浜> へえ。
松崎> 小浜さんの「へえ」は「へえそれおもしろいねぼくはじめてきいたよ」の意。「でも、だからなに」もほんのり含む。
 で、人間までもどすと。ジェイ先生ことスティーヴン・ジェイ・グールドが著書『嵐のなかのハリネズミ』で、つぎのようなことを:
「ヒトは“母子”と“夫婦”という二本の糸をつかって社会構造を織りあげる。この二本の糸が結びつけられないかぎり、父親という概念は存在できない」(大意)
 そうヒトの父親ってものすごくさいきんの発明なのですよ。いつか「父親の起源」というテーマでなにか書いてやろうと思ってます。たぶん架空論文かな。えせ人類学ふうに。
雀部> それ、面白い着眼点ですね。期待してます。
松崎> さらにもどして。「不可能も」はもうラストのオチとかなんとかいうより、ただ“イントロンの存在意義はコピープロテクト”というバカアイデアをかたちにしたかっただけで。このアイデア、なんねんも前から抱えてたんですよ。これを作品化するタイミングは研究をはなれた直後のいましかない、と思ってほんと夢中で、じぶんの持ってたバイオ知識を総動員してかきました。きっともういちどおなじことはできないだろうな。鉄は熱いうちに打て、というのはほんとです。
小浜> なんと。そうだったんだ。
雀部> ちょっと突っ込むところじゃないかも知れないのですが、“イントロンの存在意義はコピープロテクト”というアイデアは、「あがり」のアイデアと抵触しませんか?(笑)
 利己的な遺伝子なら、自分のコピーがたくさん出来るのは大歓迎と思ったのですが。
松崎> ああそうか。それではちょっと説明を。「あがり」はあるひとつの遺伝子geneをいっぱい増やす、という話ですが、「不可能も」はある生物が持つ遺伝子ひとそろい、つまりバイオ専門用語でいうところのゲノムgenomeを対象としてるんです(接尾辞-omeは「すべて」くらいの意味)。じぶんの持ってるゲノムぜんぶをコピーさせないために、イントロンをいっぱいいれて全体量をやたらと多くした、という意味でした。
雀部> なるほどありがとうございます。そこらあたりは確かに混同しがちな概念ですね。
 バイオ系といえば、現在の仕事に就く前は、医学系研究所勤務だったとお聞きしましたが、どんなことを研究されてたんですか?
松崎> 細胞生物学および分子生物学です。このへんの知識経験は、「あがり」「不可能も」で使えるだけ使ってます。
 実験でさいしょに触ったのががん細胞。だからいまでもがん細胞には愛着をもっていて。でも「あがり」作中でがん細胞がかわいい、っていう表現をつかったら小浜さんにどん引きされました。ああこれがふつうのひとの反応なんだ、と知っていまは自主規制してます。
 で。研究ですけど。いろいろやりましたがやっぱりいちばんおもしろかったのは、ヒト培養細胞に携帯電話とおなじ周波数(2.45GHz)の電磁波をあてて影響をみる、というやつです。当時は携帯が普及しはじめたころで、発せられる電磁波による健康被害についてけっこうあつく議論されてたんです。がんになる、とか。
 でも、この研究をして得た結論としては。「携帯電話をつかうことで、病気になって死ぬことはない。だが交通事故で死ぬことはじゅうぶんにありうる」です。
 なお、このときかかわりすぎたせいか、わたしいまでも携帯って持ってないんです。ときどき小浜さんにおこられますよ。不便だ、って。
小浜> 普段はいいんだけど、待ち合わせやコンベンションで大変。
松崎> だからできるだけはぐれないようにしてるじゃないですか。
小浜> いやまあ、ここはがん細胞のお話を。
雀部> 最近の若者は、小さいときから携帯があるので、さらに想像できないでしょうね。
 松崎さんが実験で使っていたがん細胞って、有名なHeLa細胞ですか?
松崎> 上皮系から血球系までいろいろやったんですが、なぜかHeLaには触る機会がなく。
 いちばんさいしょに飼ったのが肺癌系のA549ですから、これがいちばん思い出ぶかい細胞株です。しかし愛知の医科大にうつってからは、癌以外でおもしろい細胞をたくさん飼いましたよ。ねずみとか犬とかオポッサムとか。オポッサムのときはアメリカからの輸入だったので検疫とおすのがたいへんだったなあ書類いっぱいかいたりして。
 あ。いま思うと鶏やっておくんだった。チキン・ジョージ作成きぶんになれたのに。
雀部> チキン・ジョージ作ったら、食べますか?(笑)
小浜> 「チキン・ジョージ作ったら」って何?
松崎> いやだな『14歳』ですよ天才楳図かずお大先生の傑作。やったあこれで上の『エヴァンゲリオン』のかたきをとれたかも。
小浜> 最初のほう読んだかな。でもそんなに有名なんだ、チキン・ジョージ。
松崎> そうです基礎教養。
 しかし、食べるか、といわれたらさすがにそれは。だれにも望まれずに生まれてきました、といって泣かれたら食べられない。だいすきですけどね鶏肉。
雀部> 食べられるために生まれたんだと説得する(爆)天才科学者だから、逃げちゃうか(笑)
 しかし、「携帯電話をつかうことで、病気になって死ぬことはない」との研究結果を得られた方が携帯を持ってないなんて(笑)
 まあ携帯は(電話もそうですが)、たいていの場合かけてくる相手にとって便利な道具ですから。
松崎> 電話にがてなんですよねえ相手の表情がみえないし。
 と、いったら小浜さん、その直後から連絡に電話をつかうのをやめてくれたんです。メールをかくよりしゃべるほうがよほど楽なはずなんですけどね、なにせもと放送部なので。
雀部> もと放送部ということは、アナウンサーを目指されたことはないのでしょうか?
 私も中1中2と放送部でした。まあミキサーやっていたんですけど。昼飯時に放送するので、友達と昼飯が食べられないのが苦痛で辞めました。
小浜> おお、雀部さんも! 素晴らしいですね。もっといませんかね放送部OB。
 目指した、というほどのことでもないんですが、単純に中学時代に「パック・イン・ミュージック」や「オールナイトニッポン第2部」や「MBSヤングタウン」といった深夜放送の大ファンで、よく考えずそれだけで入部したんですが、一年上の先輩の女性(佐光さん)に突然「あんた声がいいからアナウンスやってみな」と命じられ、やってみたら面白かったという次第です。ぼくの高校の放送部では、男性でアナウンスをやったのは相当めずらしかったんじゃないかな。
松崎> ひとつ上の女のひとに命じられてそのとおりにやる、というシチュエーションがすごく小浜さんらしい、とちらっと思ったり。そうか。そもそも女の子の多い学校なのかなもと女子校だし。
小浜> いえ。城東高校の歴史認識としては正しいけど、事実としては女子が多いということはなかったですよ。
松崎> いやそのわたしの母校がもとバンカラ旧制中学で、学制改革で共学高校になってからもずっと男の子が多かったので、似たようなパターンだったのかな、と。
 そういえば小浜さん、高校のアナウンスコンテストでは全国大会までいったという話をきいたことが。いまでもトークイベントの司会とかひんぱんにしてますよね。そりゃあもうプロはだしで。
小浜> はいはい、「プロはだし」なんてことは絶対にありませんからね。プロの皆さんに対して申し訳ない。
 さらにいいますと、全国大会出場といっても二次まで進めなかった。二次に通るとNHKホールのステージに立てたんですよ。
 まあでも、放送部で身につけた技術が生かされてるとしたらセレモニー司会(鮎川哲也賞贈呈式の司会など)であって、それとトークイベントの司会は完全に別ものです。セレモニー司会は単純に職人的な技術なので。
雀部> セレモニー司会は、結婚式などもそうですね。職人的技術というのはよく分かります。
小浜> ああよかった。雀部さんは理解してくださいましたか。放送部の基礎練習としてニュースや朗読以外に、結婚式の司会を含めれば、部員のあとあとの人生の役に立ちますね。結婚式の司会進行はすべてのセレモニーの基本だと思います。
雀部> う〜ん、中学生がやる結婚式の司会の練習。かなりシュールかも(笑)
 結婚式の司会はともかくとして、義務教育で携帯電話のかけかた(とか使い方のマナー)やメールの書き方を教えるようにしたらどうなのかなぁ。
小浜> ビジネスメールの書き方、使い方、というのの、プロのコンサルタントのかたもいらっしゃるぐらいなので、充分ありえますね。
雀部> ぜひ義務教育に取り入れて欲しいものです。
 松崎さんは、電話が苦手なので、小浜さんとの連絡をメールにしてもらったということですが、メールもなかなか真意が伝わりにくいところもありますよね。
松崎> だからメールではほんとに意思疎通できてるのかな、とときどき思うことがあります。しかしわたし電話だめだし、直接会って話すともっとだめ。
「松崎って『えー』『えーと』しかいわないよねー」「なんだかいつも困ってるよねー」と、おこられます。
小浜> べつに怒ってないんだけど。
松崎> おこられてる、ということにしとくのがすきなだけです。さらっと流してくださいってば。
 で。質問されるとそのたび考えこんで、答えるまでにすごく間があいちゃうんですよ。だからやっぱり、返信までの時間を自由に調節できるメールが最善かな、というのがいまのところの結論です。
雀部> あがり症なんですか?それとも恥ずかしがり屋さんなのかな(笑)
松崎> それもありますけど。
 だって。いちばん重要な仕事の相手でしょ。かんがえますよそりゃあ。
 とはいえ基本、編集者にはつつみかくさずなんでも正直にいうようにしてます。そもそも、新人作家がベテラン編集者を相手につくろったり見栄はったり嘘ついたりしてもむだなんですよ。作品をつくるうえで、着想段階からさいごの直しにいたるまでひたすら意見交換するので、思考過程がすべて把握されてるにひとしい。いわばサトラレ状態なんだ、ってことをさいきんしみじみ実感してます。
小浜> とても有り難いお話だけど、でもつきあい方って人それぞれとしかいえない。著者と編集者のそれぞれで、いちばん自然でかつ利益率の高いつきあい方ができればいいので。
雀部> 「サトラレ」ってTVドラマにもなりましたよね。元ネタは、たぶんベスターの『分解された男』に出てくる思念放射型のテレパスじゃないのかなぁ。
 超能力モノは、宇宙モノと同じく人気のある分野なんですが、お好きなんでしょうか。ご自分で書かれる予定はおありですか。
松崎> えーやっぱり人気あるんだ超能力。そうかあ。でもわたしたぶんぜったい書きません。
 じつは。けっして手をだすまい、ときめてる分野がいくつかあって:
・宇宙が舞台
・近未来が舞台
・量子論
・ロボット
・超能力
です。理由は、これまでにあまりにたくさん作品が発表されすぎているから。
 そうださいきん。自意識もの、も上のリストに加わりました。
 もっとも編集者からの要望があればこのかぎりではありません。
雀部> 松崎さんならではのヘンテコな超能力もの書いて下さいよ。
 あ、これは小浜さんに頼んでおいた方がよいのか(笑)
小浜> それ、とてもいいですね。ありがとうございます。松崎さんそういう種類の作品、アイデアあるかな?
松崎> いま思いついたのは、“一瞬にして相手のなまえの逆さよみがわかる”です。うわあなんてバカ能力。
小浜> それは採用しません。
松崎> じゃあ。“ほんとははげなんだけど、ふさふさにみえるよう周囲のひとたちに錯覚させる”能力では。
雀部> 光学迷彩? それだけで一本短編出来るとしたら、それはそれで凄いことですよ(笑)
 今回は松崎さん、小浜さん、お忙しいところインタビューに応じて頂きありがとうございました。現役編集者の方にインタビューできて大変光栄です。
小浜> いえもうそんなことは。「アニマ・ソラリス」のお役に立てたのであれば幸甚です。またいつでもどうぞ。
雀部> ありがとうございました。また機会があればぜひお願いします。
松崎> わたしが小浜さんを岡山までひっぱってきたおかげですよ。と雀部さんに恩を売ってみる。
 あ。すみません小浜さん。かえりの新幹線では鬼退治てつだいますから。さっきの桃太郎スカウトしましたし。デミカツ丼であっさり懐柔できましたよ郷土のヒーロー。
小浜> 駅弁たべよう。
松崎> 岡山名物マスカット・ピオーネ二色弁当でいいですか。いまならキャンペーン中で、白桃みそ汁もついてくるみたいですよ。
雀部> SF短編はともかく、そんなヘンテコな弁当誰が食べるんですか(笑)
松崎> えーだって岡山駅改札前キオスクで売上第一位、ってビラ貼ってありましたってば。
雀部> 売り上げ一位は、私の記憶によれば、吉備団子弁当のはずです!
松崎> それたぶん模造記憶。
雀部> それたぶんディックの記憶(笑)
 『あがり』を読ませて頂いた感じでは、松崎さんは対象を冷徹な目で観察するクールビューティな方と想像していました。こんなに楽しくインタビュー出来るとは(嬉)
松崎> あ。それ、よくいわれるんですよ。作品よんでからわたしに会うと、「えええっこんなひとがー」と驚くかたがほんと多くて。先日やはりはじめて会ったオキシタケヒコさんもおなじ反応をしたので、「どういうこと」とつめよったら、いやていねいにたずねてみたら。雀部さんがいまいったような意味だとついに口を割り、いや親切におしえてくれました。つまり作風と実物のギャップがはげしいらしいのです。まあ、はんぶん狙ってますけどね。SF界の中島みゆきとなるべく。
小浜> 中島みゆきとはまた贅沢だな。でもみんないうよね、「きっと小柄で色白やせ形、長髪を後ろで縛って黒縁眼鏡、あまり喋らなくて、ひょっとしたら辛辣なところのある人かなと思ってました」。普通は「はりもん」を読んで「ちょっと違うかなあ」と思うだろうに。まあせっかくだから、そういうプロフィールにしておけば。
松崎> えーでもそれ詐称では。
 しかし辛辣、なんて印象どっから出てくるんだろう。ふしぎでしょうがない。
小浜> 「ちょっと辛辣」ってかっこいいと思うけどな。
雀部> 辛辣は、たぶん中島みゆきさんからの連想? ファンなんです(憧れ)
 最後に、東京創元社の今後の予定(海外ものも含むSF関連)について教えて下さいませ。
小浜> 直近では、ロバート・チャールズ・ウィルスンの『時間封鎖』に始まる三部作の完結編『連環宇宙』が5月予定です。自信作です。お楽しみにお待ちください。
 昨年末に、25年ぶりに石亀航というSF専任の編集者がひとり増えて、海外ものをやってもらっています。でも創元SF短編賞も手伝ってくれているので、案外国内作家の担当も大丈夫かも。
雀部> それは頼もしいですね。>石亀編集員
 『連環宇宙』は、待ってましたよ。楽しみだなぁ。
 それと、松崎さんの著書は、また東京創元社から出る予定はあるのでしょうか。
小浜> それはもちろん。稼いでもらわないと。といいますか、ある程度でいいので稼いでくれる人になってもらわないと。二作目は長編です。ご本人からどうぞ。
雀部> それでは、松崎さんどうぞ。ついでに他社から出る予定の本のご紹介もどうぞ。
 あ、小浜さんの前では言いにくいですか(笑)
松崎> そんな。いいにくいなんてことまったくありませんよ。なにせ対編集者限定サトラレですから。他社からお声がかかったときには逐一報告してるくらいです。
 では、いまいちばん進んでるのを。新潮社の第二十回日本ファンタジーノベル大賞で最終に残った長編『イデアル』を絶賛改稿中、といいたいところなのですが、これがなかなかむずかしくて。やはり船を焼かねばなるまいな、とさいきん強く思ってます。この本は創元から出していただける予定です。
雀部> 期待してお待ちしてます。
松崎> はい。読者のかたから待ってます、といわれるとやる気がでます。なにせ基本はつねにサービス業ですから。


[松崎有理]
1972年茨城県うまれ。茨城県立水戸第一高等学校卒業後、東北大学に進学。在学中はかくれSFファンで文芸系サークル無所属。卒業後もこっそりよむだけで小説をかこうなどとは一切おもわず。2007年暮れ、数学者が主人公のとある翻訳小説に衝撃をうけて執筆をはじめる。2008年、第20回日本ファンタジーノベル大賞(新潮社)で最終候補。2010年、第一回創元SF短編賞受賞。
近況:
「 2012年3月2日の定例総会において、日本SF作家クラブ会員として承認されました。この場をお借りしてじまんしますすみません。
作家になろうと思い立ち、小説をかきはじめてからまる4年。ようやくここまでたどりつきました。しかしプロの道に終わりはありません。これからも、みなさんによろこんでもらえる作品を発表しつづけていきたいと思います」
[小浜徹也]
1962年徳島県生まれ。1986年、東京創元社入社。SF以外にも、案外ファンタジーやホラー、海外文学セレクションも担当しています。もっとも、ミステリだけは国内外とも一切つくったことがありません。ウンベルト・エーコと島崎博の来日イベントの司会をつとめたことが生涯の自慢です。2000年に柴野拓美賞を頂戴しました。
[雀部]
1951年倉敷生まれ(思春期は、'60年代)。松崎さん(80年代)、小浜さん(70年代)とは、ほぼ10歳ずつ年が離れてます。東北大学に入学した当時はまだSF研が無かった、という話を大森望さんにしたら、SF研は自分で作るものだと言われた(汗;)

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