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Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[松崎]

『結晶銀河 (年刊日本SF傑作選)』
> 大森望・日下三蔵編/Art Work:Nakaba Kowzu/Cover Design:岩郷重力+WONDER WORKZ
> ISBN-13: 978-4488734046
> 東京創元社
> 1100円
> 2011.7.29発行
読んで損のないアンソロジー。プロパーSF系の濃度高し。
収録作:
「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」冲方丁
「アリスマ王の愛した魔物」小川一水
「完全なる脳髄」上田早夕里
「五色の舟」津原泰水
「成人式」白井弓子
「機龍警察 火宅」月村了衛
「光の栞」瀬名秀明
「エデン逆行」円城塔
「ゼロ年代の臨界点」伴名練
「メデューサ複合体」谷甲州
「アリスへの決別」山本弘
「allo, toi, toi」長谷敏司
「じきに、こけるよ」眉村卓
「皆勤の徒」酉島伝法

『原色の想像力 2』
>大森望・日下三蔵・堀晃編/岩郷重力+WONDER WORKZ装幀
>ISBN-13: 978-4488739027
>東京創元社
>980円
>2012.3.22発行
収録作:

○空木春宵「繭の見る夢」(第2回創元SF短編賞 佳作)
堤中納言物語の「虫愛づる姫君」へのオマージュと思いきや、意外な展開に――まあ創元SF短篇賞応募作ですから(笑) カミさんが国文科卒なので、ちょっと読ませてみたら、雰囲気は非常に出ているそうな。SFは読まない人なので、どういう展開なのかはさっぱりわからなかったようですが。SF界隈でも、笑犬楼さまをはじめとし、いとうせいこう氏や笙野頼子女史、飛浩隆氏など「ことば」そのものが題材の作品が生み出されているし、この展開はありかなと。雅なことばで紡ぎだされるイメージは華麗で、小説世界を堪能できました。なおBLなところもあり、思わぬ事にちょっとドキッとするところも(汗;)
ラストの進行そのものは、時代絵巻というよりなんか電脳世界を思わせますね。平安時代の電脳世界、東野司さんが国文科卒だったら……(笑)

○わかつきひかる「ニートな彼とキュートな彼女」
ホームネットワークサーバー機能がついた独身者専用公団アパート。巷では、そこにはいると引きこもりになってしまうと敬遠されていた……
ちょっと洒落たレトロな味の短編。筒井先生の展開は違うけど「お紺昇天」のアパート版といったところかな。こんな気の利いた機能のついたアパート、みんな入りたいと思うけど、更にニート化は進むよ(笑)

○オキシタケヒコ「What We Want」
SFファンには一押し作品。たった一人生き残った大阪弁をしゃべるアメリカ人の女性船長と雇われた異星人の珍道中。この船長はんのキャラが強烈で、可哀想な異星人ちゃんは度重なるストレスで……。ラリイ・ニーヴンの《ノウン・スペース》に出てくる宇宙人も、いい加減地球人にカモられている気がしますが、さらに悲惨かも(笑)
ジョン・ヴァーリイ描くところの宇宙人に支配された《八世界》を舞台に、野田昌宏大元帥の描くところの銀河乞食軍団的な柄の悪さ(まあ、こちらは”べらんめえ”口調ですけど)をつけ加えた感じと言えば、あながち間違いではないような(笑)
それにしてもオキシさん、「地底種族ゾッドゥリードが通商網に加入した経緯」物語、ぜひ読ませて下さいよ!!

○亘星恵風「プラナリアン」
『原色の想像力 1』に掲載された「ママはユビキタス」の作者、亘星恵風さんの第二弾。ちょっと芸風が違う(?)かな。前作は精神的な愛で、今回は肉体的な愛がテーマと考えるのはちと穿ちすぎか(笑)
設定部分で、傷の治りの早い人間同士を交配して、究極の兵士を創り出す実験というのが出てきますが、これがなかなか考えられて面白い。《リングワールド》シリーズの、幸運の遺伝子を持つ者同士の交配実験に比べれば、まだしも納得できる。ま、ネタとしての面白さでは負けますけど、SFの範疇でしょう(笑) で、傷の治りは段々早くなるのだけど、癌に罹りやすくなり子供が出来る年齢まで生きられなくなってくるというもの着想がいいですねえ。たぶん、癌細胞の旺盛な再生力(生命力)からの連想なのでしょうが、説得力がありますよね。

○片瀬二郎「花と少年」(第2回創元SF短編賞 大森望賞)
今回一番の異色作。突然頭のてっぺんに花が生えてきた少年と、何もない空中から迫り来る怪獣の話なんですが、この二つが結びつきそうで結びつかないという。
大森望さんが選評で、「選ばれし者、特殊な能力を持って生まれてきた人間が未知の敵と戦う」という図式へのアンチテーゼであると言われてますが、まさにその通りですね。ま、SFとして読むと、真面目なSFファンは怒るかも(笑)
作者も、一般的な超能力じゃなくて、“頭のてっぺんに生えた花”を持ってくることで、“違うのよ”と言ってるような気がします。それともこれは、NHKアニメの「はなかっぱ」からの連想? ま、どちらにしても脱力系か(爆)

○志保龍彦「Kudanの瞳」(第2回創元SF短編賞 日下三蔵賞)
おどろおどろしい超能力(予知)もの。作者の名前は、澁澤龍彦先生へのオマージュなのかなあ。渋澤先生が書いたSFと言われても納得しそう。主人公のKudan(未来予知のために人工的に創り出された人間もどき)へのほのかな慕情がけっこう好みでした。

○忍澤 勉「ものみな憩える」(第2回創元SF短編賞 堀晃賞)
前半の導入部の自然さというか巧さは特筆モノ。現実からいつのまにか自分の覚えている過去にもぐり込んでいくという趣向では、重松さんとか平谷さんの作品を思い出しますが、忍澤さんも上手いなあ。で、そのままと思いきやパッと視界が開けるようなラストも良くできてます。小松左京先生が「こういう宇宙」で書かれた鮮やかな場面転換を見るようでした。

○酉島伝法「洞(うつお)の街」(第2回創元SF短編賞 受賞後第1作)
 つまるところ異様な世界でうごめく異様な生命体の話。椎名誠さんのSF三部作でやったグロテスクな異世界の更に上を行く異様さが読みどころ。梗概には、恒星船が舞台だと書かれているそうなので、それをふまえて読むとさらに面白く読めます。
 短篇賞受賞作の「皆勤の徒」の選評で、分かりにくいとか、読者がどこへ連れて行かれるか不安であるという意見が出ていたのが理由かどうかはわかりませんが、「洞(うつお)の街」は、ちょっと人間に近づいてきた感じもありますね(笑)

●第2回創元SF短編賞 最終選考座談会 大森望・日下三蔵・堀晃・小浜徹也


『ミステリーズ! vol.57』 2013 FEBRUARY
> ISBN-13: 978-4488030575
> 東京創元社
> 1200円
> 2013.2.15発行
 ヴォルコシガン・シリーズのロイス・マクマスター・ビジョルド女史の短編「ドリーム作家のジレンマ」掲載(ということで、ヴォルコシガン・シリーズではありません。)
「百々似隊商」酉島伝法著・イラスト
 第二回創元SF短編賞受賞の酉島伝法さんの最新中編。異様な物語の背景が徐々に明らかになってくる様にドキドキしました。「皆勤の徒」の梗概にあったという恒星間播種船の名前も出てきたり、最後のあれは、生体工学版SEなのだろうか?それとも『グラン・ヴァカンス』的な設定なのか、色々想像するのも楽しいです。
 異様な生物たちと想像の埒外の進行で、頭の中がぐちゃぐちゃになり茫洋としてしまう感覚。←それが楽しいのですが。描写も、かつてこれほど想像力を掻き立てられる異生命体があっただろうかと言えるほど、かなりグチャグチャしているのもありますけどね。(笑)
 個人的には、映画『デューン/砂の惑星』に出てくる宙航士の異様な姿に通ずるものを感じました。

『皆勤の徒』
> 酉島伝法著/加藤直之カバーイラスト
> ISBN-13: 978-4488018177
> 東京創元社
> 1800円
> 2013.8.30発行

収録中編:

「皆勤の徒」
 回りを取り囲む泥土の海に忽然と建った高さ100mの巨大な鉄柱が支える小さな甲板。その上の「会社」では、日々、異様な有機生命体から商品が生み出されていた。雇用主である社長は“人間”と呼ばれる不定形の大型生物で、體内で有機部品を製臓していて、主人公の業務は、それを使って完成品に仕上げることだ。

「洞(うつお)の街」
 螺旋状の街で学問を学ぶ主人公土師部くん。異様な、しかし実は人間的な登場人物たち。天上から、様々な形態の埜衾が降り注ぐ「天降り」は圧巻の描写。確かに学園小説モノと言えばそうなのですが、これほど異様な学園小説があったでしょうか(笑)

「泥海(なずみ)の浮き城」
 泥海を緩やかに上下動してつがいの相手を見つける巨大な「城」。その中で暮らす多様な昆虫型生命体たち。主人公は探偵。怪しい仕事の依頼が来るが、のっぴきならない事情によって断ることが出来ず、引き受けることになったが……
 ハードボイルド探偵小説+失った愛の大きさを知る後半部。

「百々似(ももんじ)隊商」
 ナノマシンの暴走が引き起こした大塵禍。総ての物がどろどろに溶けて融合する混沌状態に陥った地球が舞台。生き延びた街と街のあいだを百々似の隊商が行き来しはじめる。その旅に不可欠なのが、「媒音」を発話することでナノマシンの動きを封じる「利塵師」だった。宇毬は駆け出しの利塵師、旅の終わりに「師父」にある頼み事をされる……


雀部> さて、今月の著者インタビューは、皆様お待ちかね第二回創元SF短編賞受賞作品『皆勤の徒』作者の酉島伝法さんと東京創元社の小浜さんです。
 酉島さん初めまして、よろしくお願いします。
酉島> 初めまして。よろしくお願いいたします。
 ぶちょり(対話用補助器官を腹から引きずり出す音)
雀部> こちらこそ〜。
 ガチャッ(対話用補助器官専用インターフェイスを後頭部にはめ込む)
 え、あ〜、あ〜。理解可能な言語に同調取れてますか?
酉島> ヴヴーン、同調率20%、どうにか対話可能レベルに達しました。
雀部> やはり酉島さんとは、同調率20%がせいぜいなのか(汗;)
酉島> 基本的に同調率は低めのようです。飲食店ではよく頼んだ覚えのないものが運ばれてきますし。
雀部> あ、同じです。飾匂が分泌されなくなった紋々土族でもないのに、一向に注文を取りに来てくれないことがしばしばあります。
 すみません、月並みなんですけど、お好きなSF作品とか影響を受けたSF作家(SFに限りませんが)は?
酉島> 想像通りと言われそうな気はしますが、最も衝撃を受けたのは『家畜人ヤプー』ですね。SFを読みだした頃は、なんであれ身に染み込んでいると思います。
 日本SFなら『あなたの魂に安らぎあれ』や『プリズム』、海外SFなら『ニューロマンサー』『ドクター・アダー』『重力が衰えるとき』、ディックやバラードいろいろ。ここ十年では、ジーン・ウルフやイーガンの影響は当然受けていると思います。SF以外では、バロウズやヘンリー・ミラーにこんな手法もありなのかと驚かされたり、ベケットやタブッキやゼーバルト……と話しだすときりがないですが。
雀部> 『ヤプー』、そう言われれば確かに。では、ひょっとして『皆勤の徒』の登場人物たちが、過酷な状況に陥るのはマゾヒズムを具現しているとかでしょうか。
酉島> 登場人物たちが過酷な状況に陥るのは、過酷な世界を舞台にしているためで、特にマゾヒズムとは関係ないように思います。
 『ヤプー』の方も、解説でマゾヒズム云々と書かれていても、最初はあまりぴんと来なかったんですよ。
雀部> すみません、バロウズやヘンリー・ミラー、ベケットあたりまでしか読んでない(汗;) いわゆる主流文学の手法には、とんでもないものもありますね。『重力が衰えるとき』は、ちょっと思いました。プルーストも少しあるかな。
 映画はどうでしょう。ジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』('82 The Thing)を最初見た時はけっこうショック受けました。異様でおぞましい。でも、『皆勤の徒』に出てくる生命体は、我々が見たことがなく異様だけど、おぞましくはありませんよね。これは作者の“愛”なのかと思いました。
酉島> プルーストの、知覚を追体験させてくれる遠回りな文章は好きです。映画は『遊星からの物体X』も良かったですが、デヴィッド・リンチやクローネンバーグの方が遥かに強い衝撃を受けました。
生命体ですが、おぞましいとされるものへの無根拠な嫌悪感が、読んでいるうちに揮発するようなものを書きたい、という気持ちはどこかにありますね。とはいえ異様なものを描くのは楽しいわけですが。
雀部> まだVHSの時代に、アメリカ直輸入の『イレイザーヘッド』『エレファント・マン』、『スキャナーズ』『ヴィデオドローム』にはお世話になりました。字幕がないのであまり理解は出来なかったんですけど(汗;) 『デューン』は親友と映画館で観たなぁ。
 『皆勤の徒』の異生命体がおぞましく感じられないというのは、酉島さんの想像力が凄すぎて、既存の生物と全く似て無く想像の埒外にあるのが原因かもと思い当たりました。
 體内で、製臓するというと「シェイヨルという名の星」を思い起こしますが、こちらはそのイメージが想像可能なのでおぞましさも一塩でした。
酉島> 想像の埒外でしたか。 異生命体は、なるべく既存の生物では喩えにくい姿にしようと試みました(『泥海の浮き城』は、昆虫そのままですが)。あとは、そういう生物が普通に日常生活を送っていることで、おぞましさが減じているのではないかと。どんな世界でも、ありきたりな日々の営みには惹かれます。
雀部>  そのありきたりな日常生活の描写あたりが、大森望さんが北野勇作さんを引き合いに出す所以なのかなとは思いました。敢えて、ありきたりな日常生活を描かれたということはないのでしょうか。「想像の埒外にある異形の生命体+これまた想像もつかない生命活動」の描写だと、読者が置いてきぼりになっちゃうので。
 ありきたりの日常生活をありきたりではない言語で書いたというと、その昔プログラミング言語で記述された「暗黒時代のプログラム」というショートショートを読んだんですが、わかる人には大受けでした。
  もし、異形の生命体の想像の埒外にある生命活動をプログラミング言語で書いたらわかる人は居るだろうかということなんですが(笑)
酉島> 「暗黒時代のプログラム」いま脳に受信しました。面白いですね。これなら私にも読めます。
  冒頭の授業風景など、あえて、という部分もあるのですが、未知の生命体にその場限りではない実在感を持たせたかったのです(成功しているかは別として)。想像もつかない生命活動にも、ありきたりな日常はあるでしょうし、そこから浮かび上がるものに興味があるんです。
 物語からは篩い落とされるような部分に。
雀部> 実在感はありましたし、感情移入も出来ました。それにはあの「細螺先生」などの造語も一役買っていると思いました。あの言語感覚(言葉遊び)は、『皆勤の徒』を読む上で欠くことが出来ないし、酉島さんの『棺詰工場のシーラカンス』を読ませて頂いても、同じように感じました。出所(影響)というか、酉島さんの頭の中どうなっているんでしょうか(笑)
酉島> 小学生の時には、『棺詰工場のシーラカンス』とよく似た言葉遊びだらけの辞書を作っていたんですよ。出所はどこなんでしょう。幼少の頃のおまえは絆創膏を装甲板としか言えなかった、と今でも父親にからかわれますが、昔から固有名詞の覚え間違いが多かったり、伝えたいことをうまく話せなかったり、と、どこか言葉自体をサイズの合わない服のように感じていたことで、自分なりにカスタマイズしようとしていたのかもしれません。『家畜人ヤプー』の、雪隠の語源がセット・インだとか河童の語源がギリシャ文字のKだとかいう、既存の言葉を変質させる屁理屈の面白さや、未生響という詩人の言語遊戯を突き詰めたような作品の数々に魅了されたこと等も、いまにつながっていると思います。
雀部 >

 最初に題名のことですけど……
  『皆勤の徒』の英語題は"Sisyphean and Other Stories"ということなのですが、手近の英和辞典を見てみると“Sisyphean”は、 “ギリシャの神シーシュポス。コリントの王;地獄で大石を山頂に押し上げる仕事を課されたが、岩は頂上近くでいつも落ち、その仕事 には果てしがなかった”とありました。
 一方「徒」は、「1,かち。かちで行く。2,あしがる。歩兵。3,しもべ。従者。4,人夫。5,でし。生徒。6,ともがら。 仲間。7,素手。何も持たない。8,いたずらに。むなしい。むだに。9,ただ。ただに。10,刑罰の一つ。徒刑。11,み ち。」とありました。
 最初は“皆勤だけが(取り柄)の従者(サラリーマン)”の意味かと納得していたのですが、この点を勘案すると「皆勤の徒」は、 “休みなく果てしない報われることのない仕事”という意味もあることに気が付きました。

酉島 >  そうなんです。徒という言葉には従業者の境遇を表すような複数の意味があり、題名に相応しいと思ったのです。執筆の早い段階で決まりました。英題の方は、 直訳だとよい雰囲気にならず頭を悩ませていたのですが、徒の連想からシーシュポス神話を思い出し、“Sisyphean”にしたのでした。
雀部>  題名も含蓄が深いなぁ……
 言葉というか漢字選びにもそうとう気を使ってらっしゃることはわかるのですが、「序章」に出てくる連結胞人の〈禦〉と〈闍〉は、どういう意味合いで使われているのでしょうか。漢和辞典を引いてみると、「禦」は、“はらう。ふせぐ。あたる、抵抗する。とどめる、くいとめる。ふせぐもの、まもり”という意味で、「闍」は、“うてな、城門の台。ものみ、城の上の重門。まち、城の外ぐるわ内の町”と書いてあるんですけど(角川「新字源」)
酉島> 自分の中だけのこじつけなのですが――視覚的に内部に生態系を含んでいそうな漢字の中から、それぞれの状況や運命を暗示しているものを選びました。〈禦〉は、〈闍〉に仕掛けられた媒収に抵抗し続けていることから(ちなみにグョヴレウウンンの頭のグョは〈禦〉に由来します)、〈闍〉は、〈禦〉が花開くための萼(うてな)となって最後は消えてなくなる(闍維(荼毘)にふされる)ことから。
小浜> グョヴレウウンンの頭のグョが〈禦〉……そうだったのか! なるほどうまいこと考えましたね。
 その音(おん)の設定って、応募作だった「皆勤の徒」を書いたときから考えてたんですか?
 それとも断章を入れることにしてから〈禦〉を思いついたのでしょうか?
酉島> 応募時から、グョヴレウウンンというのは社長が従業者に与えた名前で、「我に傅く者」という意味の胞人語、と決めていたのですが、断章用の漢字を調べているときに、我の部分は社長の名前を表しているはず、と気づいて音を活かすことにしたのでした。
 全体的に造語だらけの印象があると思うのですが、実は来歴のある言葉もけっこう混ざってます。例えば、半風子、土師部、鳴鏑、溟渤、避役などなど。
雀部> その中で気が付いたのは「半風子」だけです(汗)
 「土師部」は、元々は播種船の航宙士みたいですが、「航宙士」というとリンチの『デューン』に出てくる航宙士のイメージが強烈すぎて、どうしてもあれを思い出してしまうんです(笑)
 あと、「穢褥」なんかは字面で意味が分かりますが(両方とも医学系ではたまに目にする漢字)
酉島> 『デューン』の航宙士は素晴らしいですね。映画版の登場シーンも好きです。ちなみに、土師部というのは、土器や埴輪を作っていた人たちのことです。
雀部> 土器や埴輪を作っていた人たちが、どうして永世航行士に(笑)
 今思い出しましたが、ジェイムズ・ブリッシュの「宇宙播種計画」では、乗り組み員達はミジンコみたいになってたような。
酉島>  読んだことはないのですが、執筆中に気になってました。ミジンコというのは面白いですね。
「土師部」を永世航行士の名に拝借したのは、人を模して作る埴輪のイメージからです。自らも象られた人であり、象られた人を惑星に送るという役割に重なるなと。
雀部> 「土師部」には、そんな象徴的な意味合いもあったんですね。
 良く出てくる「埜衾」は“野生の経帷子”という意味だろうか。ということは、「天降り」というのは、一度死んだ人間を内包した生物学的な衣が天から降ってくるのかな、それとも単に再就職先に肉体変容の後行くという意味かもとか。
 「蜑」は“中国南方地方に住む異民族。水上に生活し漁業を営む”とあるなあ。似た漢字の「蜒」も同じ意味があるけど、こちらは「蜒蜒」で“うねうねとへびがうねるさま”とあるから、蜑たちが会話の時に長い腕をうねうねとうねらせて通話する様を現して命名したのかもと考えたり。
酉島> そうやって色んな解釈で遊んでいただけるのは嬉しいです。もともと埜衾(野衾)は妖怪の名称で、実在のムササビやモモンガが由来らしいですね。その異称が百々爺で、そこから獣肉をモモンジと呼ぶようになったとか。
雀部> あ、妖怪の名前だったとは(汗;) そこからモモンジにも繋がっているんですね。
 『華竜の宮』のラストで、人類播種計画として、獣船変異体の遺伝子とマキたち人工生命体に人類の命運が賭けられますが、そのあげくが「皆勤の徒」となるんだったらやりきれないかも(笑)
 なんども読んでいると、我々(わたしだけかも)の住んでいる世界は、わりとカチッとしていてあまり曖昧さがない。ひょっとして今の世界がまだ劣化してない「仮粧」であって、本当の生物界は、もっとグチャグチャしていて、しかも曖昧でいい加減な世界なんじゃないのかという確信が徐々に育ちつつあります。
酉島> 微視的には、おそらくそういう流動的な状態なのでしょうね。自己同一性を得られることの方が不思議な気もします。
雀部> 自己同一性は、単なる錯覚(錯誤)ということはありそうで怖いですね。
 実は漢和辞典を片手に読むのも楽しいのですけど、酉島さんの作品の電子書籍バージョンでは、意味ありげな単語をクリックするとその意味・由来がわかるとか出来ないんでしょうか。本の倍の値段でも売れると思うけどなあ。
小浜> うーん、今のところは電子書籍化の形式が複数あるので、テクニカルには注釈の処理みたいにページ内リンクさせるイメージでしょうか。でも確かに、海外の注釈本のように作りこむ手はアリですね。酉島さんの作業量が半端じゃないですけど。
雀部> ネタは酉島さんから提供して頂き、読者の中からボランティアで引き受ける人を探すとか。
 漢字の字面から、色々想像するのも楽しいですよね。個人的に一番大受けしたのは、「遮断胞人」でした。今年(25年)中に、地区の歯科医師会も一般社団法人として認可を受けなければいけないということで、社団法人化の弊害について以前より色々脅かされていたもんで(汗;)
 酉島さんは、ひょっとして“たほいや”というゲームをされたことはないですか。ひらがなの語感だけで本来の意味を色々と当て推量したり、もっともらしい説明を捏造するのは楽しいものでした。一時期TV放映もされました(昔、商用BBS「日経MIX」というところで"tahoiya"さんの音頭で遊んでました)
酉島>「遮断胞人」うけていただき嬉しいです(内心やりすぎのような気もしたのですが、使わずにはおれず)。字面のイメージは映画でいえば美術のようなもので、それによって話の流れや性格付けが違ってくることもあります。
“たほいや”はしたことはないのですが、はまりそうな気が。子供の頃は、“いつどこで誰が何をしたゲーム”が物凄く好きでした。
小浜> “いつどこで誰が何をしたゲーム”って何ですか?
酉島> 「いつ」「どこで」「誰が」「何をした」にあてはまる内容をそれぞれ紙に書いて、シャッフルしてから、カットアップみたいにひとつの文章につなぎ合わせるんですよ。例えば「19世紀、NASAで、くまのプーさんが、つちのこを見つけた」のような感じに。
小浜> へええ。それは初めて知りました。面白いな。知らなかった小浜が変なんでしょうか。今度、会社でやってみます。
雀部> “いつどこで誰が何をしたゲーム”って、落語の三題噺にも似てますね。各々が関係ないほど面白い。というか、フレドリック・ブラウンのショートショートの書き方にも。
 あと、『原色の想像力』収録作のWeb投票やりましたよね。それと同じように『皆勤の徒』に出てくる単語の意味とか、背景設定をみんなで考えるとかやると楽しそう。で、文庫版に落ちたときに、大森望さんの解説を付けると。
小浜> そうやって皆さんに「これこれこうすると楽しそう」と言っていただけるのは本当に嬉しいことです。
雀部> まずは、twitterあたりで盛り上がってみるかな(笑)
 小浜さんがパネラーとして出られていた「こいこん」の「Kindle Direct Publishingの真実を語る部屋」は、途中参加したのですが、ご挨拶できず残念でした。
小浜> たいへん失礼しました。全部のコマに何かしら入れられていたので、休憩時間中に慌てて挨拶まわりをすることになってしまい……。
雀部> 大変そうなのは何となく雰囲気で。トイレに行く暇も無さそうでした(笑)
 あ、奥様(三村美衣さん)には、パット・マーフィー女史の次のページにサインして頂きましたよ。
 ご主人にはお世話になっていますと言ったら、「?」て顔されたので、「アニマ・ソラリス」の名刺を出して、ちょっとだけ説明させていただきました。
 『原色の想像力 3』より『皆勤の徒』のほうが早く出そうと聞いていたんですが、その通りになっちゃいましたね。
小浜> まったく面目ないことです。いろいろな仕事の見通しに予断があり、収録を快諾していただいた皆さんには申し訳なかったのですが、なんとか作業を再開していますので、いましばらくご猶予を。>収録著者の皆様
雀部> 『皆勤の徒』の帯に、“標題短編 Kindle版が「日本の小説・文芸」第1位!”って大きく書いてあるのですが、これは相当画期的なことなのでしょうか。
小浜> 「1位!」と呼べる要素があれば大抵のばあい大書する、というセオリーが勿論あるわけですが……(笑)。そもそも全体的なジャンルでSFが1位をとれるということはまずあり得ないので、小ジャンルでの自慢となりました。でも分かりやすく言うと、新人作家の短篇が、数日の出来事であっても伊藤計劃さんの『ハーモニー』を抜いた、というのはぼくらにとって大事件だったんです。
雀部> 第一回の創元SF短篇賞各賞のレベルが高かったですからね。それと今調べてみるとKindle版「皆勤の徒」('12/10)は、収録された『結晶銀河』('11/7)の一年くらい後に出てるんですね。両方買われた人も多いのでしょうが、Kindle版だけ購入された人はどういう層なんでしょうか。
小浜> そこはぼくらのほうが知りたいところです(笑)。どうなんでしょう、さすがに両方買ったという人はこの場合少ないのでは。『MM9』(山本弘)をリリースしたときは、あれはシリーズ作品でもあったので、「電子書籍版を買い直したよ」という知人はちらほらと居たのですが。
 電子版だけ買ってくれた人については、もちろん受賞作だということがあると思いますが、やはり「100円だから『試し読み』してみよう」と思ってくれたんじゃないでしょうか。これまでの4作品すべてに言えることですが。
雀部> 当時"twitter"でも相当話題になっていた感じでしたが、東京創元社の戦略とかはあったのでしょうか。
小浜> 戦略というほどのものは無かったんです。
 第1回(松崎有理さんの「あがり」)のときから「受賞作は短編1編のみで電子書籍化する」というのを始めてるわけですが、そもそものきっかけは、ゲスト選考委員をお願いした山田正紀さんが、最終候補作傑作選『原色の想像力』に寄せた序文で、「電子書籍時代になって、日本でも短編小説が復権するのではないか」と期待を語っていらしたことでした。ゲラの段階でこれを読んだ弊社電子部隊が、すぐさま発案したのでした。
 結果的に電子短編版「皆勤の徒」がもの凄く売れたわけですが、そのことに限らず、本当にやってて良かったと思います。第5回創元SF短編賞からは、応募要項にも要件のひとつとして入れることにしました。
雀部>  私は、Kindleを買う予定も必要性も感じてないので、"honto"で、PC版を購入しました。実は、先日歴史ミステリ作家の方の著者インタビューをさせて頂いたのですが、電子書籍で出ているものは、PCで読みました。(うちの環境は、パナソニックの65型プラズマTVに、超小型の"Eee PC"をHDMI接続。実際の様子)
 老眼鏡世代なんですが、これだと老眼鏡をかけなくてもSFが読めるので目に優しいんです(笑)
 ぜひ、これからもKindle版だけでなくPC版の電子書籍もよろしくお願いします。
小浜> 創元の場合、全方位的に出荷しているので、たいていの作品がPCでもお読みいただけるはずです。
雀部> ありがたいお話です。これで老後の読書もちと安心。
 「皆勤の徒」は、面白いんですが、大変紹介しにくい(なかなか普通の言葉では説明できない)タイプの作品で、大森望さんは「愛はさだめ、さだめは死」と北野勇作氏の会社員SFが合体したようなと評されていましたが、この二つの作品を読んでない方には分からない例えだし、二つとも読んでいるような間口の広いSFファンは、ほっといても「皆勤の徒」は読む気がします。
 例えば「皆勤の徒」を友人に読ませるには、どうしたら良いと思われますか。
小浜> ウェブを見てると、というか社内の反応もそうなんですが、尖ったものに耐性のあるSF読みじゃなくても、文芸の読める人、海外文学好きの人は案外するっと受け入れてくれてる感じです。「軽度の円城塔」みたいな。
 なので、そういう友人にであれば読んでもらえるのではないかと。
雀部> なるほど「軽度の円城塔」の喩えは面白いですね。芥川賞作品を読まれる純文学ファンには分かりやすいかも。
 今思いついたんですが、SF周辺系の方には「肉体変容的な伊藤計劃」というのはどうでしょうか?
小浜> うーん、どうなんでしょう。伊藤さんを連想するような広がりとはまた違うんじゃないかと思いますが。伊藤さんのベストセラーぶりの背景には、「同世代的共感」みたいなものを感じます。
松崎> ベタなところで。「表紙めちゃめちゃかっこいいよージャケ買いもんだよー」。
 さいきんわたし表紙の力ってものを信じるようになりました。そもそもわたしとラファティの出会いは横山えいじさんの表紙だったわけだし。
雀部> 松崎さん、お久しぶりです。電波飛ばしてないのに、どうやってかぎつけたんですか(笑)
松崎> ごめんなさい、ごめんなさいよう。ごめんなさい――(と、祈るように訴えつつ退場)
雀部> えっ?? あれれ、松崎さん居なくなっちゃったぞ。
小浜> まあそのうち戻ってくると思いますが。しかしさっきのセリフ、皆さん分かるのでしょうか。
松崎> 禄・南無絡繰です。でも、おしごと、あるのでしょう。終わってない、のでしょう。(と、まだまだ終わらないゲラの泥海へ退場)
酉島> あ、禄・南無絡繰だったのか! 私がわかってなかったです……
雀部> 私もだ(汗;) おああさ。おああさ。おしごとだいじぃ。
松崎> おおうさ。いどい。おおうさ。おおうさ。いどい。いどい。おおうさ。(と、デクレシェンドしつつまたまた退場)
雀部> また居なくなっちゃいましたねぇ(笑)
 表紙画、加藤直之さんの力作ですね。もの凄く異様だけど、実際居そうな雰囲気があります。
 表紙画って、編集部からこういう画にして下さいという希望を出されることは無いと聞いてるんですが。
小浜> いえ、そんなことはないですよ。もちろん大半はイラストレーターの方の想像力というか提案力に頼るのですが、それでも「こういうイメージで」とか、「これを描いてください」とお願いすることは、案外多くあります。
 今回は、加藤さんが作品を大変気にいってくださったんですが、逆に「絵に起こしたいシーンが多すぎる」と仰るので、「じゃあ小浜が最初に思いついた、泥海の彼方より襲い来る『外回り』」を、とお願いした、というような次第です。
酉島> 加藤直之さんの表紙画は、内容を読み込んでなければ描けない、甲殻のぬめりある質感や、脚の絶妙な動きが素晴らしかったです。本当に果報者です。『バーサーカー赤方偏移の仮面』の表紙画が子供心に鮮烈で、実は『皆勤の徒』で外回りの登場場面を書いている時にも思い浮かべていたのでした。
 表紙画が凄くなるのは判りきっていたので、挿画には力を尽くしました。最後の追い込み中では、夢の中でも描いてました。
雀部> で、酉島さんの挿絵は、ぬめぬめぐちゃぐちゃぞわっとした感じがすごく出ていてヤバイくらい(笑)
 読む順番なんですけど、私「洞の街」(『原色の想像力 2』)→「皆勤の徒」(『結晶銀河』)→「百々似隊商」(〈ミステリーズ〉vol.57)→「泥海の浮き城」だったので、考えると異様度が高い方から読んだ気がしてます(笑)
 今回の「泥海の浮き城」が、ちょっとミステリ仕立てということもあり、一番読みやすかった。で、大森望さんの解説読んで、また読み返したんですが、あ、もう一回最初から読みかえしてから解説読めば良かったと思いました。解説読んでから読むと、あのぞくぞくする、わけのわからなさが減じる(笑)
酉島> 解説を読むのにどのタイミングがよいのかは、人それぞれのようですね。まずは、見知らぬ異国の町に突然放り込まれたと思って、手探りで彷徨っていただければ。足を踏み外して落下しても、大森さんの解説が安全ネットになってくれますから。
雀部> その最初に読んだ「洞の街」は漏斗形をしてますが、何となくアジアの貧民街を連想させます。『メルサスの少年―「螺旋の街」の物語』でも同じような郷愁(?)を感じました。円錐の外側の壁にこびりついてる住宅群よりも、底へと収斂する円錐の内側の家屋に、ゾクゾクするイメージを喚起させられるのは何故なんでしょうね。
酉島> 空間自体に歪な時間軸が練りこまれているような、幻想的な魅力がありますよね。蟻地獄的であったり、円形劇場的であったり。
 『洞の街』は段状なので、リオデジャネイロのファヴェーラも頭の片隅にありました。
 漏斗形といえば、父親の故郷の家は台風が多いためか、『砂の女』みたいに漏斗形をした窪地の底に建っているんです。螺旋状に取り巻く小道を上り下りしたり、窓からは植物の生い茂る斜面しか見えなかったりと、やはり妙な幻惑感がありました。
小浜> 面白いですね。そのご実家は今もまだ建ってるんですか? 幻惑感をぜひ体験してみたいものですけど。
酉島> いまも叔父夫婦が住んでいます。祖母の葬儀のときには、漏斗を巡る小道に孫と曾孫合わせて40人以上が並んで壮観でした。
松崎> おはなしをきけばきくほど「まいまいず井戸」を思いだしてしまうのはわたしだけでしょうか。あんなイメージでいいのかな。
酉島> 「まいまいず井戸」はじめて知りました! うわ、おもしろい(画像検索しつつ)。そうそう、正にこんな雰囲気です。
松崎> あ、よかったあ。ね、おもしろいでしょ。関西のひとはきっと知らない。でもかくいうわたしも、実物はみたことありません。
雀部> あれ松崎さん、またいらしゃってたんですか(笑)
 私も聞くのも初めてだし、写真を見るのも初めてです。>「まいまいず井戸」

  おっと聞くのを忘れてましたが、今回も東京創元社さんの方で、サイン本の企画があり申し込みました。このイラストは「社長」ですよね。他のバージョンもあったのでしょうか?
酉島> サイン本のイラストは、無難な社長に統一しました。発売日にお届けできないことや悪筆で申し訳ない気持ちになり、急遽手製のポストカードをつけることにしたのでした。
 京都SFフェスティバルのサイン会では、予めキャラクター表を作り、好きなものを選んでもらって描きました。
 その時のサインを、勝山海百合さんがブログに載せてくださってます。百々似描きました。
雀部> 百々似可愛いです。可愛いよう。
 「皆勤の徒」で、不定形のなにやらぐにょぐにょしたものに、後付で骨格やら血管組織やらをはめ込んでいって形のある完成品にするという発想は凄いですね。ハミルトンの「反対進化」からすると、無理やり退化させるってことなのかと思いました(笑)
酉島> 社長からすれば退化でしょうね。なにがきっかけで閃いたのかは覚えてないのですが、まず得体の知れない生き物に得体の知れないモノを作らされている、というアイデアだけがあって、どうしようか悩んでいるうちに、両方を結びつければいいことに気づいたんです。それから一気に全体の構想が広がりました。
雀部> なるほど、そこが発想の原点だったわけですね。
 巻末で大森望さんが、“現代日本SFの極北にそそり立つ金字塔にして、SF的想像力の最長到達点を示す里程標である。”と絶賛されているんですが、個人的には「極北」というと『重力の虹』とか日本では、円城塔さんの作品を連想して、なんか難しそうなイメージがあるんですよ。何回か読んでみると普通にちゃんと伏線はってあるし、造語そのものを除けば、『果しなき流れの果に』にも通ずる、遙か未来の人類を見据えたSFの王道なんですよね。
 「日本SFの極南」ってのはダメなのかな(笑)
小浜> まあ今回は、「百々似隊商」を雑誌発表した時期から「『天才』呼ばわりでいこう」と覚悟を決めてた(笑)ので、そのあたりは大森さんが足並みを揃えてくれた、という感じです。酉島さんもよく嫌がらずに「異形の天才、降臨。」というキャッチフレーズを使わせてくれたなあ、と感謝しているぐらいです。あともうひとつ、これは結局使わなかったんだけど、大森さんとの打ち合わせでは「生物的サイバーパンク」という言葉も考えるだけは考えていました。
酉島> Twitterでは内臓パンクやサイボーグ残雪という言葉も見かけました。異形がついてマイルドになってるとはいえ、天才呼ばわりはさすがに……と脂汗が滲んだのですが、すべてお任せするつもりだったので見て見ぬ振りを。
雀部> 最初に「洞の街」を読んだときは、ひぇ〜っ、なんだこれはと思いました。異様で何かわからないけど凄いのを読んだなと。『原色の想像力 2』の最終選考座談会を読んで、梗概に恒星船が設定されていると書いてありびっくり。小浜さんの解説に「洞の街」は、学園青春物とありさらにびっくり。そ、そうだったのか(驚)
 この梗概って「皆勤の徒」につけて投稿されたものですよね。これは最初に梗概があったのですか、それとも「皆勤の徒」を活かすために恒星船が出てきたのでしょうか。
酉島> 「洞の街」は、シュヴァンクマイエル的なコマ撮り映像を脳内投影しながら書いてました。私も小浜さんの解説を読んで、そうか学園青春物だったのか、と。
 「皆勤の徒」の梗概を書いたのは、応募の直前ですね。恒星間航行機などのSF設定は予め用意してあったのですが、登場人物の主観の範囲内で描くことを徹底したかったのであまり表に出せず、代わりに梗概の方で神輿が恒星間航行機であることを明かす、という反則技を使ってしまいました。
小浜> そうそう、あの梗概は反則なので、これから応募する人はくれぐれも見習わないように(笑)。
 でも面白いことに、最終に残るぐらいの作品では、ときたま見られる現象なんですよね。それと「イラスト付き」というのも割と反則、というか、逆効果になる可能性が大いにあります。つまり、絵が上手ければ上手いほど、下手をすると「文章だけで勝負できていない」ことが鮮明になる、という可能性があり得るので。もっとも、酉島さんの場合は杞憂でしたけど。
酉島> 応募原稿に余計なものをつけるな、というのは、よく言われることですね。私もイラストをつけたのは「皆勤の徒」の一度だけです。創元SF短編賞の第2回までは、募集要項に「「これはすごいSFだ」と思う作品なら、純文学でもポルノでも、マンガでも俳句でも落語でも漫才でも、どんなものでもかまいません。」という大森さんの言葉があったんです。それで、絵と文章をうまく融合させた作品を作れないか、と思い立ったのですが、結果的には文章の比重が増して、絵は挿絵という形に落ち着いたのでした。
雀部> ついでにお聞きしたいのですが、応募作としてこれはやらない方が良いことって他にあるのでしょうか。
小浜> うーん。事例ごとには答えられるかも知れないんですが、一般則として「これはダメ」というのは見つけにくいです。
 多少ダメなところがあっても、それを遥かに上回る良さがあれば、選考者はたいてい目をつぶります。
 久美沙織さんの『新人賞の獲り方おしえます』(徳間文庫)などなど、いい入門書がたくさん出ているのでお読みください。
松崎> あれ小浜さん、大沢先生の本はすすめないんですか。
小浜> いつの間にやら戻ってきてるし……松崎さんの言ってるのは、大沢在昌さんの『小説講座 売れる作家の全技術デビューだけで満足してはいけない』(角川書店)のことだよね。
 いや、書こうかなあと思ったし、薦めるべき本なんだけど、「新人賞応募の心構え」というのとはちょっと違うかなあ、と思ったので。
松崎> ああたしかに。大沢先生の本はひじょうな良書ですけど、新人賞応募の心がまえ、というより新人作家の心がまえですね。この手のマニュアル本を100冊ちかく読んできたわたしの経験からいうと、現役作家さんの書いたものはどうしても作家視点になりがちです。というわけで、応募者視点の良書をさがすのはむずかしい。
 じつは、応募の心がまえとしていちばん実践的だとわたしが評価しているのは、本ではなくてウェブサイトです。ジャンプ小説新人賞(集英社)の応募要項は、たったいちまいのページに必要な情報がコンパクトにおさまっていて、しかも応募者がもっとも気にかけねばならない部分、すなわち「読み手の立場になって」がはっきり伝わってきます。
小浜> なるほど、面白いものを教えてもらったなあ。明日会社で話題にします。もっと色々、条件を書きつらねられそうだけど。
雀部> 酉島さん、今回はお忙しいところインタビューに応じて頂きありがとうございました。
 小浜さん、全方位に奔走中のところありがとうございました。
 松崎さん、乱入ありがとうございます。11月には新刊でますね。
松崎> あっ。振ってくださってうれしいです。
 まずは10月末、東京創元社より『あがり」文庫版が出ます。ちいさく安くなりましたので買い控えていたかた、単行本は重いからいやだと避けていたかた、どうぞこの機会にお買い求めください。ボーナストラックが入ってますし、全体的に修正しましたよ。
 それから。11月に岩崎書店から新刊が出ます。SFジュブナイル長編『洞窟で待っていた』です。こちらもよろしくお願いいたします。
雀部> 最後にお聞きしたいのですが、執筆中の次作も同じ傾向のものなのでしょうか。それとも全く違ったものになるのでしょうか?
酉島> 今回のような異形SFばかりでも飽きると思いますので、少し毛色を変えて、普通の人間がメインの話にしようと思っています。でも普通の名前とか書くと、すごく不安になるのでした。手足の数を増やしたくなったり。
雀部> (爆笑)
 異形未来史は、ぜひ続きをお願いしたいです〜。


[酉島伝法]
1970年大阪府生まれ。大阪美術専門学校芸術研究科卒。フリーランスのデザイナー兼イラストレーター。2011年、「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞を受賞。第2作「洞(うつお)の街」は第44回星雲賞日本短編部門の参考候補作となる。
旅書簡集 ゆきあってしあさって
棺詰工場のシーラカンス
[松崎]
1972年茨城県生まれ。東北大学理学部卒。2008年、長編『イデアル』が第20回日本ファンタジーノベル大賞最終候補に。2010年、短編「あがり」で第1回創元SF短編賞を受賞しデビュー。受賞作を含む初の短編集『あがり』(東京創元社)を2011年に上梓。2013年9月、光文社より連作短編集『代書屋ミクラ』を出版したばかり。恋愛小説ではなく研究者限定ホラー小説といううわさあり。
公式サイト
[小浜徹也]
1962年徳島県生まれ。1986年、東京創元社入社。SF以外にも、案外ファンタジーやホラー、海外文学セレクションも担当しています。もっとも、ミステリだけは国内外とも一切つくったことがありません。ウンベルト・エーコと島崎博の来日イベントの司会をつとめたことが生涯の自慢です。2000年に柴野拓美賞を頂戴しました。
[雀部]
酉島さんを表するに、「SFの極南」を提案。「極北」は、『重力の虹』系統の作品を指すことにして、北極の氷は海に浮かんでいるんだけど、南極の氷は南極大陸(過去のSFという大地)の上に載っかっているから。

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