Author Interview
インタビュアー:[雀部]
「天駆せよ法勝寺」
  • 八島游舷著/加藤直之装画
  • 東京創元社
  • Kindle版108円
  • 2018.6.29発行

巨大な九重塔・法勝寺は、仏教発祥の星・閻浮提を代表する星寺にして最新鋭航行機能を備えた飛塔である。三十九光年離れた星の大仏の御 開帳に向かうため、七名の宇宙僧を乗せ、四十九日の旅に出るが……飛行中の法勝寺を怪異現象が襲う。日経「星新一賞」と「創元SF短編 賞」を連続受賞した新鋭が放つ、驚天動地の仏教スペースオペラ! 加藤直之によるカラー挿絵2点を収録。(Kindleページより引用)

「Final Anchors」
  • 八島游舷著
  • 早川書房
  • Kindle版216円
  • 2018.8.15発行

サンフランシスコの交差点、2台の車の衝突まで残り0.5秒。

人間の反応時間ではもはや間に合わず、相手の車両以外と通信する時間もない。

車載AIたちによる「最後の審判」が始まる。すなわち、どちらの車両が強制停止アンカーを打ち込み自己破壊するか。確実に一方を生かす が、一方を殺す、通称「ファイナル・アンカー」。2台のAIは、自らの搭乗者を救うため、またより大きな目的のために人間を差し置いて議 論する——そして、最後に出される答えとは? 創元SF短編賞受賞「天駆せよ法勝寺」で話題の新鋭による、第5回日経「星新一賞」グラン プリ受賞作のオリジナル・ロング・バージョン!(Kindleページより引用)

前回の続き)
雀部 >

最近星新一公式ページで游舷さんの「寄せ書き」が公開されましたが、SFに対する熱い情熱がほとばしっていて、故星先生も喜んでおられ ることと思います。

社会性のあるSFといえば、「ミリオン・コネクションズ」(「Sci-Fire 2017」所載)は、メディア管理局によって牛耳られている日本が舞 台の近未来(?)SFで、一ひねりした設定と落ちが素晴らしかったです。"peer-to-peer"って単語、久方ぶりに聞きました。 昔ルーターが高かったころにやったことがあります。LANコードが、ルーター経由の場合と反対になると知らなくてハマった覚えが(汗;)

游舷 >

ちなみにWindows Updateには、P2Pの仕組みで更新プログラムが効率よく配信されるオプションがあります。

かなり先に出る予定の短編でも、この仕組みを活用して超高速でOSを更新する場面が出てきます。

雀部 >

HPにも言及がありますが、かなり先まで書かれる予定が目白押しで凄いですね。

凄いと言えば、游舷さん のHPを拝見しますと、「英語:小説執筆、講義等すべて。日本語でできることはすべて英語でも可能。」とあって英語不如意な 私などからすると想像の埒外です(汗;)

「天駆せよ法勝寺」はもの凄い傑作だと思いますし、同時に仏教用語満載の“仏飛(ぶっと)びSF”なのですが、英訳の依頼はないので しょうか。仏教用語の英訳ってあるのだろうかちょっと興味があります。真言宗や浄土真宗などのお葬式で、お坊様と一緒に読経するとき、こ れはよく分からないけど何か深遠な哲学的なことが語られているなあといつも思っているのは内緒ですが(汗;)

游舷 >

お褒めいただき恐縮です。

私の作品は、テーマの点ではグローバル対応で書いています。日本の外でこそ評価されるものと思っています。

数年後に、拙作は自分で英語に翻訳するつもりです。本業が翻訳関連なので、難しさは承知の上です。

仏教の情報は、英語の文献のほうがむしろ論理的で整理されており、理解しやすいです。

仏教は中国、東南・中央アジアなど仏教文化圏だけでなく、欧米でも関心を持たれています。

スティーブ・ジョブズ、タイガー・ウッズ、キアヌ・リーブスなど仏教徒や仏教に関心を持つ著名人はかなりいますね。

雀部 >

「天駆せよ法勝寺」では、ロシアにも言及があって、そうなのかと驚きました。

個人的には仏教が広がって争い事が減るとうれしいですけどね。

このGWに、ふと思いついて備中国分寺の五重塔を見てきました。たまたま年に一度の五重塔内部の公開日だったので、ちょっと得した気分 を味わえました。サイズ的には小さい五重塔なのですが、これを巨大化して九重塔にして屋根の部分を折りたたんだら、宇宙を飛んでもおかし くないかも、と妄想を(笑)

そもそも九重塔で「中有」を航宙させようという発想はどこから出てきた物なのでしょうか。(「時間の海を渡ってきた美しい船」は故三島 由紀夫氏ですよね)

游舷 >

そうです。三島由紀夫は別作品でも取り上げる予定です。

中有とその航法は、亜空間やワープに代わるものを仏教SFという観点から考えたときに生まれました。

仏教、特に密教の宇宙観は濃密ですが、それを疑似科学的に現実・未来と地続きにすることで新鮮な見方ができます。

五重塔の先端部分がアンテナに似ているのも面白いですよね。そのことが佛理学の原点の一つだったと思います。

中有と輪廻については法勝寺の前日譚と続編でより深く扱います。

雀部 >

確かに>五重塔の先端部分がアンテナに似ている

Amazonで、Audible版のオーディオブック買いました。なんと会員になる前に購入しちゃったので、450円高かった(汗;)

でも、これ、良いですねぇ。電子版の方を読む度に、頭の中では下山さんの声で再生されます(笑) 英語版のオーディオブックも是非!  聞きながら同時に電子版を読んで英語の勉強もさせてもらいますから。

游舷 >

オーディオブックでは、仏教用語のアクセントに苦労しました。

仏教用語は、普段はあまりに使わないので、アクセント辞典などで調べた後でリテイクしていただきました。

ちなみに「成佛」と「醸佛」のアクセントが異なるのは意図的です。

下山吉光さん、浅井晴美さんは、異なるキャラクターをしっかり演じ分けていただき、感動ものでした。

個人的には、中国語とロシア語版でどんな感じになるか聴いてみたいです(理解できるかどうかは別として)。何年先になるかわかりません が。

今後出す予定の前日譚、長編版、続編では、仏教の闇にもフォーカスします。私は仏教の専門家ではありませんが、佛理学は、仏教から科学 を、科学から仏教を見直す問題提起ができそうです。

こういう試みができるのもSFならではと思います。

雀部 >

長編化、前日譚に続編もあるのは読者として非常に楽しみです。

オーディオブックは、特に「天駆せよ法勝寺」では、はまった試みだと思うのですが、用語が難しいので、先にオーディオブックだけを聞い た時には私なんかだとよく分からない(汗;) 「成佛」と「醸佛」なんかは、字面を見るとなんとなく意味は想像できるのですが……

游舷 >

「天駆せよ法勝寺」はテキストのほうを読んでから聴かれるほうがよいかもしれませんね。

スマホのKindleアプリではX-Ray機能も使えます。作中の用語、登場人物などを確認できます。

法勝寺用語集もありますのでご利用ください。

雀部 >

X-Ray機能、便利ですね。サンスクリット文字も出てくるし。うちのスマホは「**件のカスタマーレビュー」とかの表示が出てきて、 なんのことやらと思ったのは内緒です(笑)

「天駆せよ法勝寺」は、「ゲンロンSF創作講座」では円城塔先生が「驚きなさい」という課題提示の回の実作だったのですが、円城先生を 意識して書かれたとかはあったのでしょうか。個人的には『Self-Reference ENGINE』あたりと同質な感じを受けたので。

游舷 >

講師を意識しすぎて同じ方向性で書くと、講師の見る目が厳しくなります。

私の場合は、むしろお題そのものをよく消化して、しっかり応えることに注力しました。

お題に応えれば高得点につながるかというとそうでもなかったのですが。

講座では、結果的には、なにはともあれ突き抜けた面白さがある作品が評価されたと感じます。

円城さんの講義は実践的で大いに参考になりました。

雀部 >

なるほど、そうなんですね。同窓のよしみでインタビューさせて頂いた円城先生の『Self-Reference ENGINE』というと突き抜けたバカSFだと思っていまして(汗;)

游舷 >

円城さんの作品は理系と文系の両方のセンスががっつり発揮され、そのような区別を超越している点が素晴らしいですね。

論理を軽やかに飛び超えているようで実は筋が通っているといいますか。

雀部 >

実は「天駆せよ法勝寺」を読んで最初に思い出したのが、山本弘さんのスーバーバカSF『ギャラクシー・トリッパー美葉1』の「信念航行」なので(笑)

で、ちょっと脱線しても良いですか。

カメラもご趣味みたいで、SONY RX100(初代)とSIGMA dp1 Merrillを使われているとHPに書かれてますが、相当マニアックですよね、SIGMA(笑)

私はペンタックスのデジイチとキャノンとソニーとパナのデジカメとGR(初代)を使ってます。デジカメが多いのは歳のせいもあって、軽 いから(汗;)

ペンタを使っているというと変わっているとかよく言われますが、変わっているといわれるのはSF者にとって褒め言葉だと思うのですが、 どうなんでしょう?(笑) 游舷さんは言われたことはおありでしょうか。

游舷 >

その後SONY RX100M5とSIGMA dp1 quattroを購入しました。残念ながら人に見せびらかす機会がまだないですね。

dp1 quattroは確実に注目を集めるはずですが。

雀部 >

いい組み合わせですねぇ。注目は、カメラマニアの集まりに持って行かないといけないのかな。他には無い形をしているので、知っている人 が見たら一発で分かる。>SIGMA dp1 quattro

そこらにある何でもないような物を撮ってもアートになると言われてますよね。考えてみると、游舷さんの手から生み出された作品からもそ ういう感じを受けますね。

游舷さんのHPに「小説を書こうとする人に」というコーナーがあって、色々アドバイスを書かれているのです が、“小説以外の本業でも文章や記事を書いているので”とあって、なるほどなあと納得しました。読ませる力を持ってらっしゃるし、なによ り読みやすいですから。

游舷 >

写真でも日常の中の美に目を向けたいですね。

Instagramは こちらです。最近はちょっとさぼってますが。

文章では、読みやすさ、分かりやすさと同時に、「一文一文に磨きをかける」ということを目指しています。

ただレアすぎる語彙を使って文学性を高めると読みづらくなるので、バランスが難しいですね。

結局のところは読者の心に刺さるかどうかが重要でしょう。

雀部 >

そこらあたりは故星先生の作法と共通するところがあるように思えます。

Instagram拝見しました。アートしてますねえ。五重塔もあるし「ホシヅル」もある(笑) 「天駆せよ法勝寺」も改稿されている ようだし、前日譚、長編版、続編がますます楽しみではあります。

最後に、差し支えない範囲で近刊予定とかあれば教えて下さいませ。

游舷 >

まだ近刊として発表するにはちょっと早いのですがOKはいただいているのでご紹介すると

「時は矢のように」という短編を東京創元社のアンソロジーに入れていただき、おそらく電子書籍としても出していただきます。

人類を襲う「意識の終わり」——アタラクシア現象。心身を加速して、限られた時間を引き延ばし、終末に対抗しようとする人々。加速 し続けることによって終末の到来を無限大に遅らせることはできるのか?

その後、「天駆せよ法勝寺」の前日譚を出します。

学生(がくしょう)照海は、佛徒弾圧の激化したルミキア共和国から佛姫(ぶっき)アナスタシアを国外脱出させよという秘密指令を受 ける。だが、元佛僧ドルジェフ中佐がその前に立ちはだかる。

まだ内容は大きく変更する可能性があります。

その他にも進めている長編・連作短編があるのですが、新作情報はTwitterで流します。

こちらの作品リ ストをチェックいただくのもよいかと。

日本SF大会 彩こん(2019/7/27-28)で自作解説トークをします。
「【彩こんトーク企画】八島游舷が語る「天駆せよ法勝寺」佛理学入門、「FinalAnchors」の自動運転AIトロッコ問題、新作情 報+ミニSF哲学カフェ」http://bit.ly/scicon-yg
今年はスポット参加(4000円)することもでき参加しやすくなっています。
参加される方はそちらでお目にかかりましょう!」

雀部 >

なかなか楽しみな垂涎のラインアップ!

新作、お待ちしております。

2013年より始まった日本経済新聞社が主催する理系的な発想に基づいた短篇小説を対象とした公募文 学賞。
受賞作品は、「honto」に て無料配布
[八島游舷]
山口県出身。高校のころ日本の教育に疑問を感じ、奨学金を得てUWCイギリス校に2年間留学。休暇中 に、ユースホステル泊や野宿をしながら世界17カ国、約40都市を合計4か月の間、鉄道旅行する。国際バカロレア・ディプロマ取得。筑波大学比較 文化学類を経て、シカゴ大学人文学修士。アート ナビゲーター(美術検定1級)他。TOEIC満点。
「天駆せよ法勝寺」で第9回創元SF短編賞受賞。「Final Anchors」で第5回日経「星新一賞」グランプリ、「蓮食い人」で同優秀賞をダブル受賞。
[雀部]
現在ハードSF研幽霊所員(何年か前はSFのレビューを載せて貰っていたのだけど)。「日経MIX」 sf会議二代目議長(初代は今岡清氏)