テイリンはあらためて自分がいる場所を確認してみた。虫達の始祖ジェ・ダンが言う通り、確かにここは地下のようだ。見上げると高い岩の天井が見え、洞窟の中はピンク色の階段状の丘が発する光で照らされている。 次にテイリンは近付いて来る二人のうちの見知らぬ女性に注意を向けた。 (魔法使いだな、おそらくメド・ラザードの娘ティズリだろう。イサシが属するバルトールの一部勢力がメド・ラザードと組んでいても不思議は無い。しかしなぜアイシム神の魔法はこの二人を呼び寄せたのだ) 横を飛んでいたジェ・ダンが不満気に意識を返した。 (アイシム神の魔法ではない、お前さんの持つ運命が魔法に余計な事をさせたんじゃ) 額から目にかけて焼けこげたような傷跡がある子供のような顔をした娘は、テイリンを興味深そうに見つめた。 「あんたがテイリンか、なる程お母さまが言っていた通り頼りなさそうな魔法使いだこと」 「あなたがティズリですか」 「そうだよ、憶えておいたほうがいいね。いずれ東の将の魔法使いになるのだから」 テイリンは驚いた。 「東の将の魔法使いって、レリーバに何かあったのですか」 「いいや、あたしがレリーバを殺すのさ」 テイリンはその言い方の冷酷さにゾッとした。それは破壊的なレリーバの危険さとは違った、もっと冷たい殺意だった。テイリンはイサシに尋ねた。 「どうしてここに来たのですか」 地面に座ったままのイサシが首をかしげて膝を叩いた。 「なあんだ、あなたにもわからないんですか。俺はマコーキンの元にいた女魔術師ミリアとアタルス達三兄弟に捕まっていたんですが、ティズリ様に助けられて逃げ出したんです。アタルス達が追いかけてきましたが、捕まりそうになった時に急に周りの景色がゆがんだように見えて、ここにいたってわけです」 「ミリア様は」 ティズリがフンと鼻を鳴らした。 「ミリアはマコーキンから離れられない、ガザヴォック様のくびきの鎖の魔法で二人が繋がれているからね。ミリアは鳥になってあたし達を追おうとしたらしいが、飛び立つとすぐに地面に落ちてジタバタしていたよ」 (くびきの鎖か、そういえばマルヴェスター様がミリア様についてそんな話をしていたな) 「それでテイリン、あんたはどうしてここにいるんだい」 「私はアイシム神の魔法でここに呼ばれたんです。あなた達がここにいるのは何か私の運命にかかわっているからでしょう」 ティズリが嫌そうに肩をすくめた。 「ただでさえセントーンの状況は面倒なんだから、つまらない事に引き込まないでおくれ」 イサシがピンク色に輝く丘を見上げた。 「これは何ですか」 テイリンが肩をすくめた。 「この星の王だけが座れる椅子がある丘です」 イサシの瞳が輝いた。 「その椅子を見てみたい」 テイリンは心の中でジェ・ダンに問いかけた。 (どうしましょう) (行ってみても良いだろう、ここに立っていても何もわからない) テイリンはうなずいた。 「よし、上ってみよう」 テイリンは先頭に立って螺旋状の階段を上り始めた。二人の魔法使いと超人的な体力を持つバルトールの暗殺者は、螺旋状の階段を苦もなく上っていった。
(第三十章に続く)
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