雪が止んだ。
テイリンの目の前で、魔法使いレリーバが分裂して三体になったカリバ達の白い魂が千切れる様に激しく揺れた。テイリンが絶望にかられて悲鳴に似た声を上げた。 「レディ・ミリア、ガザヴォックに対抗する何か良い方法はありませんか」 ミリアはマコーキンの手を握り締めて、ガザヴォックとテイリンの力の均衡を保とうとした。 「ジェ・ダン、ガザヴォックはどうやってこれ程離れた所から力を使う事が出来るの」 六つ星のてんとう虫がミリアの肩にとまった。 (魔法を導く道がレリーバの魂に仕掛けられていたからだ) デッサがテイリンの前に立ちはだかるように立った。 (レリーバの魂が導いているのよ、ティズリの言う通り黒い秘宝の魔法使いの魂はガザヴォックの手の中にあるの) ジェ・ダンがミリアの耳元で意志を放った。 (ミリア、このままではテイリンを失うぞ、この星の魔法の均衡が完全に崩れてしまう。いっそレリーバの魂をガザヴォックに渡してしまってはどうだ) 「それは絶対にダメ」 ミリアは沈黙しているエイトリ神に目を向けた、エイトリ神は長い髭を悲しそうになでた。 「ジェ・ダンの意見はとても現実的だ」 ジェ・ダンが得意げにうなった。 (情報の獣のわしは、現実的な意見しか言わないのだ) デッサが白くゆらめくカリバ、キリバ、エリバの魂を心配気に見つめた。 (馬鹿馬鹿しい、ガザヴォックに力を与えてしまうだけじゃない) エイトリ神が言った。 「この土地自体に闇の力が浸み込んでいる、マコーキンとミリアの力でようやく光の力が盛り返したところだが、ここでテイリンがガザヴォックに負けてしまえばバステラ神そのものがここにやって来てしまうかもしれないぞ」 デッサがガザヴォックを探すかのように空を見上げた。 (ならば一度この土地から魔法を消してしまいましょう) ミリアが巨獣を見上げた。 「まさか」 (始祖の生き物が死ぬ時、その場所はデヘナルテになる) 「それではすべての魔法が消えてしまうわ」 (いえ、秤の魔法は残る。すべて消えた後に創造するの、光の力はテイリンから、闇の力はこの土地全体の毒の中から) ジェ・ダンがミリアの服のひだに潜り込んだ。 (わしは嫌だぞ) デッサが笑った。 (もちろん私の命を差し出すのよ) 森の中からリーダーのチャガに率いられた山猫マーバルの抗議の鳴き声がわき上がった。デッサが用心深く様子をうかがっていた魔女ティズリに言った。 (ティズリ、レリーバの服から巻物を取り出して) ティズりは倒れたレリーバの服を探ると、懐のあたりから小さな黒い巻物を取り出した。 (それを地面に置いて) 「でも」 デッサはティズリの顔を吹き飛ばしそうな勢いで吠えた。 (置きなさい) ティズリはあわてて巻物を放り出した。デッサはその巻物の上に足を乗せると、空に向かって叫んだ。 (取ってみなさい、ガザヴォック) するとデッサの首のあたりがきらめき、銀色の鎖が現れた。そして一度地面に垂れた鎖の先が空中に巻き上げられ、空に向かってピンと張った。 デッサが苦しそうにうなった。 (狼バイオンもこうして死んだのね)
(第五十四章に続く)
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