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第七十一章 白の季節

 エルセントの激しい戦いが終わり、やがて降り出した白い雪がすべてを覆い隠すように降り積もった。

 レンゼン王とエリダー女王、エルネイア王女、そして戦死したゼリドル王子の妻シリーと二人の男の子は、ゼリドル王子の葬儀を行い、長男のメルビンがいずれセントーンを継ぎ、それまでは母のシリーとマスター・リケルが摂政を務める事になった。

 戦いの終わりは別れの始まりだった。
 やがて来る次の戦いに備えて聖宝の守護者達はそれぞれの国に帰ることになった。その前にエスタフ神官長が司祭となり、ブライスとスハーラの結婚式が仲間内だけでささやかに執り行われた。
 結婚式の最中、式場に女神エルディが降臨して一同に告げた。
「ブライスは光と闇の両方の性格を持つ者、二人はもうこの地に戻る事はないでしょう」
 サルパートのエスタフ神官長はデヘナルテとミセルネルについてセルダンから説明を受けたが、アイシム神とバステラ神が同じ言葉を使っていた事を認めようとはしなかった。
 やがて若いブライス王とスハーラ女王は船に乗った。レリス侯爵、エラク伯爵、エスタフ神官長をサルパートに送り届けた後、ブライスの祖国ザイマンに帰国するためだ。ブライスの乗馬スウェルトも乗船したが、やがてエルセントの牝馬との間に生まれる仔馬はメルビン王子の乗馬となる事になった。

 ソンタールの皇子ムライアックは戦場に残った二十万のソンタール兵に呼びかけた。結局、何人かの下級貴族と傭兵隊長、そして八万の兵がムライアックに投降した。残った十二万の兵とそれを指揮する貴族はすっかり戦意を失っており、町や村に危害を加えない事を条件にソンタールへの帰還を許された。ロッティ子爵とクライバー男爵、そしてロッティの腹心のエンストン卿とクライバーの部下バンドンが五千のカインザー騎兵を率いてその後を監視するように進む事になった。
ムライアック皇子は八万の兵を率いて、セントーンの北方に赴いた。いくつかの村や町を治めてそこで次の戦いに備えるためだ。しかしムライアックにはひとつの心残りがあった。
(長兄パルシオスはどこに行ったのだろう)
 マスター・モントとアシュアン伯爵が連絡と監視役としてムライアックに付き添った。アシュアンが北に向かう時、アントンはレイナ夫人からの言葉を太った伯爵に伝えた。
「早く帰ってくるように言いつかってきましたよ」
 アシュアンは懐かしそうに笑った。
「むしろ呼んだほうが早いな、オルドン王に機会があればこちらに寄こすように伝えてくれ」
 
 べリックも冬ではあったが、海路をとってバルトールに帰国した。馬と話が出来る少女エレーデ、腹心のフスツ、そしてフスツの部下ビンネ、クラウロ、バヤン、トリロがこれに従った。サシ・カシュウの老いた馬も、カシュウの姪のエレーデに連れられて船に乗った。さらにベロフ男爵がベロフ抜刀隊と共にバルトールに向かった。バルトールの兵を鍛えるためである。
 帰国の前にマルヴェスターがエレーデとスハーラを連れて、魔法の馬であり、アーヤの乗馬であるフオラのもとを訪れた。スハーラがシムラーで何か過去の出来事を見たはずだと言ったからだ。
「エレーデ、フオラに聞いてみて欲しい。スハーラと共に何を見た」
 フオラはバフバフと答えて、エレーデが通訳した。
「黒い冠の魔法使いの名前はセリスだそうです」
「やはりか」
 スハーラが尋ねた。
「なぜクラハーン神はこの事実をこれまで隠していたのでしょう」
「セリスの動機がわからなかったのだろう。事態が進展して、理由がわかるまではわしやミリアにうかつな行動を起こしてほしくなたっかのだ。セリスは二つの勢力が戦いをやめられるように、バステラ神の像を取り戻したかったのだろう。結局ガザヴォックに魂を支配されてしまい、暗黒に落ちた。その状況の中でセリスは懸命に抵抗し、魔獣によってデヘナルテを拡大させ、バステラ神の魔法を消滅させようとしたのだ」

 ダワの戦いで活躍したバオマ男爵は、ダワを中心とした地域一帯の責任者に昇格した。崩壊寸前のセントーンの行政を建て直すために、有能な人材が最も必要とされていたのだ。

 アーヤ、セルダン、エルネイアの三人はエルガデール城の修復を手伝いながら春を待った。やがて春が来ると、セルダンはアントン、マルヴェスターと共にカインザーに向かった。エルネイアはもうしばらくセントーンの復興に携わった後、カインザーに向かう事になった。
 セントーンにはエルネイアら王族とマスター・リケルの他に、アーヤとアーヤの相談役としてクラハーン神の神官デクト、魔法の馬フオラとなぜか巨獣アンタルが残った。
 アンタルはランスタインの山中を飛び回ることを楽しみにしていた。

 ミルトラ神はもちろんセントーンの復興のために力を尽くしたが、知恵の神エイトリも守護者スハーラを送り出してセントーンに残った。この地には癒しが必要だったのだ。
 セルダンがまだエルガデール城に滞在していたある日、ミルトラ神はエルネイアとセルダンの前に現われて告げた。
「ソンタールの勢力が消え、バステラ神の力が弱くなった事により、あなた達がミルトラの泉に行く必要は無くなりましたよ」
 エルネイアはセルダンを見てウインクした。
「あら、残念ね、泉ではいろいろな事が出来たのに」
 セルダンは真っ赤になった。

第七十二章に続く

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