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第一章 六大老

 名も無き星の最大の都市グラン・エルバ・ソンタール。ソンタール帝国の首都は度重なる敗戦にもかかわらず揺るぎなく、今日も六角形の大王宮を中心に繁栄を続けていた。セントーンの戦いからすでに二年が経っている。市民達には戦闘の様子が商人や帰還した兵達によって知らされていたが、この巨大都市が攻められる事など誰にも想像できなかった。しかし、帝国の六人の指導者には事態の重大さがわかっていた。

 貴族議会の長ケルナージ大公は、前皇帝の三男ムライアックがシャンダイア女王の臣下に下った事に危機を感じていた。都の下級貴族に動揺が生じていたのだ、現体制で不遇をかこっている貴族たちが戦況によってはムライアックの下に走る事も考えられた。さらにソンタール最大の貴族であったライケンが死に、その息子のケルメ・ジマハールはまだ何の連絡もよこしていない。ユマールが独立王国化する可能性もあった。
(ライケンを失ったのが痛恨であった、私の後に貴族議会をまとめられる者がいるだろうか、若き有能な貴族を探さねばならんな)
 老大公は自らの年齢にも不安を感じていた、白髪長鬚の細い体は責務の重圧に折れそうであった。

 商人ギルドの長レボイムは常に不機嫌だった。すでに海岸線のほとんどを旧シャンダイアにおさえられてしまっている。商人には国境など無いにも等しいが、明らかに商品の流れが悪くなってきている。そんな中でバルトールの地下商人、マスター・ジザレという名が度々商人同士の会話であがるようになっていた。
(あの怪物と話し合ってみよう)
 小太りの豪商は、部屋の中でも脱がない派手な帽子を傾けてそうつぶやいた。

 巫女の長メド・ラザードは、ソンタール内に不可解な魔法が出現した事に苛立ちを感じていた。魔法を整理し系統立て、魔法学校を創設したラザードにとって、野放しの魔法は常に不安の種であった。その一つは、猛禽コッコの群れを引き連れた謎の魔法使いだった。赤いマフラーのその魔法使いはソンタールの僻地を何かを求めるようにさ迷っていた。さらにランスタイン山脈の南西の麓あたりに、怪獣に跨った恐ろしい戦士が出没するという報告があった。この者の目的もわからない。そして最大の懸念は元西の将マコーキンと翼の神の弟子ミリアであった。
(宇宙神の秤の魔法など、さすがにわが手に余るわ。しかしいったいいかなる条件で発動するのであろう)
 不自然に年齢を超越した美貌の魔女は、ミリアとマコーキンの監視を強める事にした。

 海軍提督ゼイバーは時間が問題だと考えていた。すでにエルバナ川の河口にザイマンの艦隊が出没しはじめている。今ならば全海軍勢力を投入してザイマン艦隊を壊滅させられる。しかし帝国の貴族達がそれを許さなかった。エルバナ川の七つの要塞のいくつかに、散発的にカインザーのトルソン侯爵とベーレンス伯爵が攻撃を仕掛けている。それが貴族達を不安にさせていた。
(ザイマンの艦隊は七つの要塞で叩き、最後はエルバン湖の水上要塞でせん滅する)
 短い鬚の精悍な提督は、エルバン湖の水上要塞の大改築を命じた。

 陸軍元帥ハルバルトは、広大なソンタールの平原での戦闘には自信があった。マコーキンがまだ無事であるのが心強かった、野戦ならばマコーキンは最高の指揮官になる。奪われた要塞の奪回は急ぐ必要は無いと思われた。だが唯一残った東の将の要塞はどうにかしなければならない、現在は魔女ティズリと神官兵が駐屯している。セントーン軍は疲弊が激しく奪回される心配はないが、旧南の将の要塞にシャンダイア軍が集まり始めている。セルダン王子が南から侵攻してくれば真っ先に攻撃の対象となるだろう。そしてさら憂慮すべき事態もあった、グラン・エルバ・ソンタールと最短距離にあるランスタイン山脈の峠に、バルトール王ベリックが城を築き始めたのだ。
(あの小僧の評価が高いのはただの噂ではないな。常に抜け目がない、打つ手が早い)
 堂々たる体躯の元帥は腹心のジードを呼んだ。ベリックが攻めてくる事は無いだろう、しかし放置はできない。

 魔法使いガザヴォックは六角形の王宮を囲む六つの塔を久々に巡ってみた。すでに魔法使い達の魂は消滅して、黒い秘宝に吸い込まれている。盾、短剣、剣には魔法使いの魂が宿り妖気が蘇った。しかし冠には魂が戻らなかった、黒い冠の魔法使いゼリッシュの魂はいずこかに逃れた。そして巻物はメド・ラザードの娘のティズリの元にある。だがそのティズリをラザードが制御しきれなくなっている事にガザヴォックは気付いていた。
(秤だ、マルヴェスターが周到に育てた守護者達が秤の均衡を水平に戻しつつある。しかしこの星は統治の神の手の中には無い、アイシム、バステラいずれかの神が自由にできる星。宇宙にはこれまでも統治の神が手をつけなかった星がいくつもあると聞く。この星はバステラ様の物だ、これまでのように秤の均衡を崩すのだ)
 ガザヴォックは指にはめた指輪を見つめた、まずは自分の敵となる魔法使いテイリンを消さねばならない。


第二章に続く

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