魔術師マルヴェスターが東の視察から戻った日、緑の要塞の会議室で作戦会議が開かれた。相変わらず窓にもたれて椅子に座らない魔術師に目をやった後、中央に座ったセルダンが口を開いた。
「基本的には正面から戦いを挑む。エルバナ川の七つの要塞を一つずつ落としながら北進する。ザイマンの艦隊がエルバナ川を制圧し、西岸をトルソンとベーレンスの軍が、東岸をロッティとクライバーの軍が進む」
ブライスが頷いた。
「サルパートは何をする」
「ザイマンの艦隊が要塞を落としたら、そこの警備についてもらう」
「グラン・エルバは遠いな」
「仕方ないさ。ブライス、君の船にアーヤとエルネイアを乗せてくれ、もうすぐ船でやって来る」
「わかった、我らが女王を危険な目にだけはあわせない。ところでセルダン、お前はどこを進むんだ」
「僕は東の将の要塞を攻める」
それまでずっと窓の外を眺めていたマルヴェスターが振り向いた。
「それはやめたほうが良いな」
「どうしてですか、今ならば魔法使いティズリと神官兵だけでしょう。ティズリの魔法にだけ気を付ければ落とすのはそう困難ではないでしょう。後顧の憂いを絶ちたいんです」
マルヴェスターが長い髭をしごいた。
「要塞の近く、山脈の南西の麓あたりに怪物がいる」
「何者ですか」
「わからん、複雑な魔法の存在だ」
「ならば尚の事、倒しておかなければなりません」
マルヴェスターは首を振った。
「セルダン、魔法の火には灯すべき時と消すべき時がある。東の将の要塞はしばらく放置しておきなさい」
セルダンは残念そうに肩をすくめた。
「そうですか、それでは僕もロッティ達と共に東岸を進みましょう」
「いや、その前に寄りたい所があるのだ。アーヤとエルが来たらわしと共に行こう」
「軍から離れてですか、危険はありませんか」
「問題無い、ソンタールの注意はザイマンとカインザーの軍に向けられる。むしろ動きやすい」
(第五章に続く)
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