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第五章 哀しみの都

 いつ見てもカインザー正規軍の出陣は壮観だった。セルダンは流れる水のように見事に統制された軍隊の出撃を誇らしく思いながら見送った。
 ロッティとクライバーに率いられた十万のカインザー軍は、ブライスが指揮するザイマン艦隊と並行するように海岸線沿いにエルバナ川に向かう。すでにソンタールの勢力はそこにはいない、速い進撃になるはずだった。唯一の懸念はほぼ無傷で故国に帰ったユマール艦隊が出撃してくる事だったが、ライケンの息子は息を潜めて動かなかった。
 ロッティ達の出撃を見届けた後、数日してエルネイア姫とアーヤが緑の要塞に到着した。二人と一緒にやって来た守り役のデクトは空っぽになった要塞を見回して驚いた。
「女王様を守る軍隊はどうしたのですか」
 マルヴェスターは何事も無かったように答えた。
「出撃したよ、わしらはマクナに向かう」
 それを聞いたデクトが蒼白になった。
「いけません」
 エルネイア姫が不思議そうな顔をした。
「マクナってお菓子の都よ、子供の頃に童話で読んだわ」
 デクトが首を振った。
「いえ実在するんです、お菓子の都ではなく哀しみの死の都として」
 セルダンがマルヴェスターに尋ねるような視線を向けた、マルヴェスターがうなずいて答えた。
「アイシム神とバステラ神が実験を行った所だよ、生き物を生み出すね。ドラティやバイオン、デルメッツの故郷だ」
「どうしてそんな所に行くのですか」
「蘇らせてはならない生き物がいるのだ。ガザヴォックですらさすがに手をださない生き物だが、もしもの時のために封じておかねばならんのだ」
 デクトが両手を大きく広げて抗議した。
「なぜ今、そんな危険な事を女王にさせるのです」
「聖宝の力が融合しはじめておる、今しかないのだ」
 アーヤが指を折って数えた。
「ドラティは爬虫類、バイオンは四足の獣、デルメッツは鳥、ミッチピッチは海の生き物、ソチャプは植物、ジェ・ダンは昆虫、ザークは人間のそれぞれの始祖よね。それは何の動物の始祖なの」
 マルヴェスターが答えた。
「今はもう存在しない生き物だ、いや、神が結局存在させなかった生き物と言ってよいだろう」
 デクトがつぶやいた。
「とてつもない怪物です、しかもマクナの都はゾール砂漠の中にある」
 エルネイアが首をかしげた。
「都というからには都市があったのよね、神の実験場にたくさんの人が住んでいたの」
 マルヴェスターの目に涙が浮かぶのをセルダンは見たような気がした、老魔術師はつぶやくように言った。
「人ならざる者達が住んでおったのだよ」

第六章に続く

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