D: 炎上/水没する世界
あなたには世界を焼く炎が見えませんか?こうしてあなたと抱き合っている今この瞬間にもあなたの口からは硫黄の煙が立ちのぼり、あなたの身体は紅蓮の炎に包まれているのに。一歩外に出てごらんなさい。世界は音もなく炎上しゆっくりと溶け始めています。そしてわたしはようやく思い出すのです、遠いむかしの約束を。わたしはこの身とひきかえに世界の火を消すためやって来たのでした。
ある日わたしはあなたの指をふりほどいて岬の端へ駆けていくでしょう。わたしが海に命じると海はひとときのあいだ膨れあがって世界を包みます。幻の水が幻の火をすべて消し去ったあと、あなたは溺れて冷たくなったわたしを抱き上げることでしょう。いつか来るその日のために、どうかあなたの熱さをわたしに注いでください。
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