相対論でのパラドクスといえばこれ、という感じでしょうか。というか、ほとんどこれにつきるというほど有名なものです。
それでも一応説明してみましょう。双子のパラドクスとはこういうものです。
双子の兄と弟がいて、弟は地球に、兄は亜光速(光速に近い速さ)で飛行する宇宙船に乗っているとします。兄の宇宙船はある地点(B)で折り返してきて、やがて地球に戻ってくるとします。
さて、弟から見ると兄の時間は遅くなりますから、兄が地球に帰ってきたときに、弟の方が兄よりも歳を取っていることになりますね。
相対論では立場を相対的に見ないといけませんから、兄の立場でも見てみる必要があります。地球とB点はそれぞれ兄から見て運動してることになりますから、地球とB点の間の距離は縮みます。これは、上の例で時間が遅れたのと同じ分縮みますから、結局兄が戻ってくるまでの時間は同じことになります。
弟は兄に対して運動してることになりますから、その時間も遅れることになります。するとどうなるか。兄が往復してくる時間より、さらに遅れるわけですから、兄が帰ってきたときに兄の方が歳を取ってないといけないことになってしまいます。
これは現象として矛盾しています。これがパラドクスと言われる所以です。
このパラドクスは単純に動いている物体の時間は遅れるということだけをあてはめて計算したために起きることでして、厳密に同時性を検討することで解決がつきます。同時性を検討するにはミンコフスキー図を用いるのがよいでしょう。
まずは弟から見た図です。
弟は地球で静止してるわけですから、A-C の上にずっといることになります。(横軸が距離ですから、距離0ということで、ずっと移動しないということになります。)兄は
A-B-C と移動していくことになります。それぞれひと目盛は兄と弟にとっての同じ経過時間を表しています。兄の方が目盛の数が少ないのがわかると思います。つまり時間の経過が遅いということになります。これは問題ないでしょう。
兄の立場から見た図です。
ほとんど同じ図ですが、同時線を兄の立場で入れてあります。ここでミソなのは同時線が2種類書かれていることです。行きと帰りでは速度の向きが違うので、当然別のミンコフスキー図になるわけなのです。ここで、D点とE点の間が開いていることに注意して下さい。これは行きの兄が帰りの兄になるB点と同時の点に相当します。つまり、兄が方向を変えている間に、弟の方はDからEまで時間が一瞬で過ぎてしまうことになるのです。計算してみると、結果として弟からの立場で計算した場合と同じ結果が得られることになります。
ただ、一瞬で時間が一挙に変化するというのは変ですよね。これは兄の速度の向きが一瞬で変化するとしたために生じた矛盾で、パラドクスではありません。実際にこのような動きをしようとしたら、B点の近くでまず減速して、一旦静止してから方向を転換してまた加速するはずです。そう、ここには加速度が入ってくるのです。今までの議論で扱ってきたのは特殊相対性理論と言って、加速度がない場合に適用できる理論でした。このような行って帰ってくるような移動では厳密には一般相対性理論を適用する必要があるのです。答を先に言ってしまうと、加速度がかかっている物体の時間はゆっくりと進みます。結果としてトータルで問題のない結果が得られるのです。
次回はこの一般相対性理論について述べてみたいと思います。
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補遺
今回連動の「アインシュタイン風交点」は前回解説しました「“トリッキー”なパラドックス」のパラドクスの変形になっています。あまり書くとネタばらしになってしまいますので、そのことをヒントとしておくに留めておくことにしましょう。やはりミンコフスキー図をちゃんと描いて確認することが大事です。もっとも注意深くやらないととんでもない間違いをしてしまうことにもなりますが………。
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