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Author Interview

インタビューア:[雀部]&[たけぽん]

『ミドリノツキ(上)』
> 岩本隆雄著/小菅久実イラスト
> ISBN 4-257-76936-X
> 朝日ソノラマ
> 533円
> 2001.6 発行

 山手線沿線にある都立豊野高校一年一組の教室で突然「うわっ!」という大声が響き渡った。居眠りをしていた民田尚顕は、幼稚園の頃に飛べると思って崖から飛び降り、以後その夢を良く見るようになっていたのだ。しかし今日はその夢に続き不思議な夢を見たらしい。目が醒めた尚顕は、奇妙な引っ張り感を体に覚え、ぼんやり窓の外を見ていた。すると、なんと1.5メートルほどの長さのある銀色の杖のような物体が、空からしずしずと降ってきて、校庭の真ん中に突き刺さったのだ。そして、その銀色の杖は、尚顕が、夢のなかで見たものと同じように思えた。

...下へ続く


『ミドリノツキ(中)』
> 岩本隆雄著/小菅久実イラスト
> ISBN 4-257-76941-6
> 朝日ソノラマ
> 495円
> 2001.8 発行
 時を同じくしてゴビ砂漠に、2kmを超える長さの塔が地中から出現し、全世界の注目を集める。TV中継の最中、その銀色の塔からある放送がなされるが、それによると地球環境は疲弊しているので、塔が目覚めたのだというのだ。そして、塔はある提案をする。それは人類の代表として、こよなく平和を愛し、邪心ゼロの男を一人選び、その人の願いを全て叶えるというものだった。
 その人類の代表を選ぶ方法というのは、全世界に散らばった銀色の杖のような物体に触り合格だったら杖を抜くことができるというものだった。

...下へ続く


『ミドリノツキ(下)』
> 岩本隆雄著/小菅久実イラスト
> ISBN 4-257-76949-1
> 朝日ソノラマ
> 495円
> 2001.10 発行

 アーサー王伝説の全世界バージョンのような発端ですが、この選ばれた男をめぐっての虚々実々の駆け引きと、「男の意地」が身上の尚顕がどう関わってくるかが見所ですね。


雀部 >  今月の著者インタビューは、10月30日に『ミドリノツキ』(上・中・下)完結編を刊行された岩本隆雄さんです。
 今回は、私ともう一人インタビュアーがいらっしゃいます。
 『星虫』を読んで心を大きく揺さぶられ、『イーシャの舟』で更に大きな感動を与えられ、現在は岩本隆雄さんのファンサイト“岩本隆雄研究所”を主宰されているたけぽんさんです。
たけぽん >  どうも、たけぽんです。
まさか昨年の「作家と読者の集い」でお話しさせていただく機会を得られたばかりか、このような場に出させて頂けるなんて、「これ、夢?」って感じです(笑)
私如き若輩者が他のファンの皆さんを差し置いて質問してしまうのは恐縮ですが…ともあれ、宜敷お願いする次第でありまして。
雀部
たけぽん
>  岩本さん、よろしくお願いいたします。
岩本 >  こちらこそ。どうぞよろしく。
雀部 >  岩本さんの個人的な情報って、ほとんど知られてないと思うのですが、もしよろしければ、差し支えない範囲でお教えいただけますか。だいたいの年齢とか、作家専業であるかどうか、など。4月6日生まれで、大阪在住というのは、扉に書いてありましたが(笑)
岩本 >  四十を二つばかり越えてます。ウカウカと過ごしてる内に、自分まで『おじさん』になってしまいました。
 兼業できるほどの能力も才能もありませんので、やれる限りは専業でいこうと思ってます。
雀部 >  ということは、同じ'50年代生まれですね(無理矢理同じに ^^;)
 『星虫』を書かれた時は、30歳になられたばかりの頃ですね。実は、当時40歳くらいの方かなぁと想像していたんです。あれだけのしっかりした設定の物語が書けて、しかも根底にある優しさ。これはきっと人生とか恋愛とかでけっこう苦労した人にしか書けないんじゃないかって(すみません)
 私が岩本さんの作品を初めて読んだのは、10年前、ちょうど新潮文庫(ファンタジー・ ノベルシリーズ)で出た『星虫』なんです。そのころ、NIFTYのFSF(SF&FANTASYの会議室) で、『星虫』がとても面白く泣ける小説だという書き込みを読んで、読む気になったんです。まあ、読んだらほんとうに涙が出るほど感動して、この本は忘れられない存在となりました。
 感動するSF、泣かせるSFを人に薦める時には必ず名前を挙げる本となりましたが、直ぐに絶版となったために、手に入りにくくなったのが残念でした。その本が、ソノラマ文庫から再刊され、若いSF&FANTASYファンに薦めやすくなったのは嬉しい限りですね。
 そこで、『星虫』『イーシャの舟』が再刊された経緯をお聞かせいただけませんでしょうか。
岩本 >  自分の方には再刊するとかできるとかいう考えは、全くありませんでしたね。星虫もイーシャも、とっくに忘れられてるものだと思ってました。
 我ながら、いいかげんな人間です。考えてみると、ファンタジーノベル大賞に応募した時も、作家になる!って強い意志はなかったですし。せいぜいなれたらいいなぁ……程度です。
 イーシャ以降も小説を書いてはいましたが、ま、発表できなくても別にいいかって感じでした。それが変わったきっかけは、母親の病気です。元気な母だったので、ショックでした。流石にこんな自分でも、病室に通いながら、色々考えました。本当にやりたいことは何なのかとか。で、出した結論が、今度こそいいかげんじゃなく本気で小説家を目指してみよう、ってことでした。
 そこで唯一連絡先のわかっていた、現在はデュアル文庫で編集をなさってる方に連絡をとり、彼から朝日ソノラマを紹介して頂きました。
雀部 >  なんとそれは大変だったんですね。
 ということは、お母様のご病気が転機となったわけですね。
岩本 >  そうです。しかし決意はしたものの、再デビューできるなんて自信は、正直、ほとんどなかったですね。燻っていた作家になる夢をきっぱり諦めるには、一度は本気になるしかないってのが、一番大きな動機だったようにも思います。
 紹介してもらったものの、ソノラマさんが相手にしてくれるかどうかも疑問でしたね。実際、二カ月以上、電話もありませんでしたし。この時期は、もう一度どこかの賞に応募することを真剣に考えてました。
雀部 >  ソノラマ編集部の太田さんにお聞きしたところ「『星虫』再刊の経緯ですが、知り合いから岩本先生を紹介され、小社で新作を出させていただくことになった際に、岩本先生の復活を読者に強くアピールするには単に新作を刊行するより、『星虫』と『イーシャの舟』を同時期に再刊した方が効果的だろうと思い、編集長に相談しました。もともと両作品ともソノラマ文庫に合致した内容でしたので、さほど問題なくOKが出、新潮社さんの許可もいただけたので、再刊の運びとなったわけです。十年後の再刊というのは全くの偶然ですが、今にして思えば、何かしら運命的なものがあったのかもしれません。」ということでした。
岩本 >  運命的、ですか。それはとても感じますね。実際、太田さんから電話がかかってきたその瞬間から、驚きと戸惑いの連続が始まりましたし(笑)。
 ソノラマさんには、ミドリノツキのプロトタイプの原稿を送らせてもらってたんですが、まずは星虫を再刊しないかという話になり、『えっ?』。更に星虫の売れゆき次第だがイーシャもと聞いた時には、『まさか』でした。全く無名の人間が書いた十年近く前の小説を、それも二冊とも再刊してくれるなんて、世の中そんなに甘いわけがないです。出版界が不況下にあることもわかってましたし。
 しかしその電話から多分一週間も間が空いてなかったと思いますが、角川春樹事務所の方からも、星虫を再刊しないかという申し出があり、ぶったまげました。これは一体なにが起きてるんだろうと、喜ぶどころか怖くなりましたね。そして、この時初めて、ネット上で星虫がずっと話題になってたと知らされたんです。ビックリし、あわててインターネット環境を整えて星虫を検索し、現れた何百というヒット数にアゼン……。 狐につままれてるような状況のまま、星虫とイーシャが再刊され、鵺姫、ミドリノツキまで。正直未だに、『まさか』気分が抜けてません。
雀部 >  それは、岩本さんの書かれた"本"の力ですよ。本当に良い本は、みんな人に教えたいし、薦めたいですから。
たけぽん >  それは思います。私のサイト「岩本研」の掲示板にも「この10年の思いが報われたようだ」という書き込みが相次いでいますし、思いを募らせていた人はまだまだいるような気がしていますよ。
雀部 >  ところで、二作品を手直しして『鵺姫真話』を加えることにより、三部作とするアイデアは、どのあたりで思いつかれたのでしょうか?
岩本 >  再刊した星虫のエピローグに、ちらっと成長した純を出したんです。純はあの場にいて当然だろうと思ってたんで、軽い気持ちで付け加えたんですが、星虫再刊後、NIFTYのSFフォーラムで、これはきっと新作への伏線に違いないという書き込みがあったことを知りました。そこから派生するように、新作は星虫世界の続編に違いないって声が次々……。星虫の続きが読みたいという要求が強いことに驚き、それから、困りました。鵺姫は、星虫世界の話では、全然なかったので。
 完成した原稿をソノラマに送ってからも、本を出す前から期待を裏切ったような、申し訳ない気分でした。
 しかし、送った翌日だったと思います。昔、成長した純のために作っていた設定を組み込めば、鵺姫を星虫世界の物語の一つにできることに気がついたのは。この時は、本当に興奮しました。やった! って気分でしたね。あわててソノラマさんに電話を入れ、二つ読み比べていい方を出して欲しいと頼み、一晩で主人公を純に書き変えたものを送りました。結果は、ご存じの通りです。
 我ながら無茶したなぁとは思ってますが、後悔はありませんね。前の原稿では、どうも主人公の存在感が弱いというか、希薄に感じてたんです。それが純に変えた途端、ピッタリと納まりましたから。星虫・イーシャに鵺姫を加えることで、『時間』という違う切り口からのリンクも可能になりましたし。今では最初からこうなるのが本当で、ギリギリ修正が間に合ったとも感じてます。
 しかしこの時は、間抜けなことに、イーシャのことをほとんど考えてませんでした。純の設定が変わった(まるで別人だったわけですから)ことによる辻褄合わせは、本当に大変でした。
たけぽん >  そういえば、「鵺姫」刊行前月のソノラマ文庫封入のチラシでは、主人公は別の名前でしたね。でも読んでいる方としては、とてもすんなり受け入れられました。
 冒頭部分だけ読んで、「わっ、そう来たかぁ!」と一度本を閉じてしまうほど、興奮してしまいました。まさか、それが一晩で変わったものだったとは(笑)
雀部 >  う〜ん、そういう経緯だったのですか。若干展開に無理が生じているところは無いとは言えませんが、それより「おっ!あの人物は実は・・・なのか〜。およよ、それは掟破りな〜」という楽しみが増えた方が大きいですね。(笑)
 あと《星虫》シリーズも、《ミドリノツキ》も、ガイア思想というかエコロジカルな思想がメインに据えられていると思います。これは、読者(大衆)に今までの消費文明のあり方の見直しを喚起しているのでしょうか?
岩本 >  いえ、そんな大層な意識など持ってません。自分の書いてるのは啓蒙書ではなく、あくまでエンターティンメントですし。読んでいる間、その世界の中で楽しんでもらえれば十分……というか、それが最大の目標です。ただ、現代をテーマにしたスケールの大きな物語を作ろうとすると、環境と人との関係に触れざるをえなかったって部分は、間違いなくあったとは思います。あと、現実が余りに絶望的なので、せめて小説の中だけでも明るい未来を描いてみたかったのも確かですね。
雀部 >  ということは、岩本さんは、このままいくと地球の未来は暗いとお考えでしょうか。あまり明るいとは思えないのは確かですが(苦笑)
岩本 >  今の世界を見ている限り、明るい未来なんてなかなか想像し難いです。今この瞬間も、人間によって理不尽に無意味に殺されてる、人間を含めた無数の生き物が、現実に存在してるわけですから。
雀部 >  では、それは努力すれば防げるとお考えになっていらっしゃいますか。
岩本 >  人間はそれほど愚かじゃないって信じたいですね。しかし、本当に難しいと思います。今の世界には視野狭窄した正義が多過ぎますから。
雀部 >  確かに難しいかも知れませんね。人種問題も宗教問題も根深いですからねぇ。岩本さんも『星虫』では、星虫、『ミドリノツキ』では銀の杖が、世界的な規模で現れたのを契機に、世界が団結してことにあたる様を描かれていますが、やはりこういう天地異変とか宇宙人の襲来とかが無いと、人類の統一は難しいとお考えですか。
岩本 >  たとえ明日、無数のバーサーカーが宇宙から降ってきたとしても、多分、統一なんて無理でしょう。精々、軍事協定か、国連軍でまとまるぐらいで……。
雀部 >  自国のことで精一杯になるんでしょうねぇ・・・・
 岩本さんの小説では、まず世界的規模の異変が起きる→それに普通の高校生が巻き込まれる→世界(宇宙)的規模の展開となる、というような経緯をたどりますよね。
 この、デカイ話から、割と日常的な展開、それがまたもや人類の行く末を暗示するような大がかりなラストまでのスムースなそれでいて力強いストーリー展開が、岩本さんの上手さであると同時に魅力の一つだと思っています。こういう日常的なシーンを挿入するにあたり、普段気を付けて観察したりはされているのでしょうか?
岩本 >  観察……ですか? いえ、意識しては、全然してないです。ただ、確かに物語的には普通の日常から始まりますが、主人公は普通ではないとよく言われます。
 考えてみると、星虫シリーズではデカイ話にプラスして、明るい未来を安心して予感できる物語にしたかったので、どうしても主人公(たち)を、必要以上に特別な存在にしてしまう傾向があったように思います。
 その反省もあって、世界の違うミドリノツキでは、最初尚顕を本当にフツーの高校生に設定したかったんですが、大失敗しました。結局、尚顕にも『男の意地』という『特別』を付加するしかなかったです。
 そうですね。雀部さんの言われる、日頃の『観察』が、足りなかったのかもしれません。他に方法があったのかも……。とはいえ、『意地』のないミドリノツキなんて、今では考えられませんが。
雀部 >  ん〜。私には、主人公たち普通に思えますが。私小説じゃないんだから、SF的冒険・成長小説としては、至極真っ当な主人公に思えます。ミリセントだけはちょっと普通でない気もしますが、彼女にしてもヴァン・ヴォークト流貴人漂流譚ばりの「主人公は、今まで本人も知らなかったが、実は超能力を持った異星人であった」ってのと比べると、普通の人間だし(笑)
 「あ、これくらいなら俺(私)にも出来るかも」と感情移入できるギリギリの線ではないのでしょうか。そこらあたりが巧いなぁと感じたんです。
 それと、尚顕の家は廃業した風呂屋さんですよね。あと、馨がフリークライミングを趣味としているところなんか良く考えられた設定だと思いました。こういうところ(細部)を描くには、やはり普段から色々なことに気を付けられているのではないかと感じた次第です。
岩本 >  うーん……やはり普段から気は……つけてないですね。風呂屋にしてもフリークライミングにしても、なんとなく浮かんできたんです。こんな風にいいかげんに決めてしまった後で、資料調べや意味づけをしてます。まさに泥縄。我ながら答えていて、ちょっと情けなくなってきました。
 しかしヴァン・ヴォークトさんよりは普通ですか(笑)。星虫世界を舞台にした書きたいものが、まだ少しありますし、そこには更に普通ではない人物も登場しますので、その言葉はありがたいですね。これからもギリギリ目指して、頑張りたいと思います。
雀部 >  なんとなくですか。ああいうぴったりはまった設定がなんとなく浮かんでくるというのは、ある意味凄いです。
 ヴォークト氏の名前が出たついでにお聞きしたいのですが、SFに限らずお好きな作家とか、映画・漫画があればお教え下さい。
岩本 >  好きな作家さんは、ちょっと書き切れないのでパスさせて下さい。ただ、最近読んだ小説の中で面白かったのは、京極夏彦さんの今昔続百鬼ですね。相変わらず、凄い方です。観た映画では、ギャラクシークエスト(昨日DVD購入)と、ひみつの花園(日本映画の方)。マンガは、WATCHMEN(アメコミ)と、ケロロ軍曹(笑)。
雀部 >  京極さんは、ほんとSFですね〜『ルー=ガルー』なんかは、近未来ものですし。「WATCHMEN」は、私も読みましたが、アメコミにしてはちゃんとSFしている素晴らしい出来映えだと思いました。
 岩本さんの作品では"星虫","鵺姫さま","イーシャ","タワーバード"など、主役を喰ってしまうような魅力的な異星人(生物orメカ)の脇(?)キャラが、登場しますが、どれも人類に対して友好的というか、少なくても敵対してはいませんよね。
 ということは“知性ある相手ならぱ必ず人類と理解し合えるはずだ”と考えられているのでしょうか。
岩本 >  せめて小説の中では、そう考えたいですね。
 しかしこうやって並べられると、全部脇じゃなく、主役って気がします(笑)。
雀部 >  ほんとはこちらが主役だったりして(笑)
 では、たけぽんさんが質問をしたくてウズウズしてますので、ここらで、バトンタッチしましょう(笑)
たけぽん >  はい、どうも済みません(笑)。
 ええとまず、これは作中における動物の登場頻度を見て思ったことですが、岩本さんは犬派なんですか?(笑)
岩本 >  特段犬派ってこともないですね。猫も好きですよ。ただ、犬はずっと飼ってましたので、自然知識も多くて出しやすいのは確かです。小さなプードルで、十八歳で老衰死するまで僕が面倒見ました。噛み癖はなかったですけど、彼が太一のモデルです。
たけぽん >  なるほど、そうでしたか。太一にモデルがいたんですね。
 もしも岩本家のプードルに噛み癖があったら、太一やチビの地位がどうなっていたかちょっと気になる所でもありますが(笑)。
 進化計画三部作(すみません、勝手にこう呼んでいます)では“母親”というのが隠れテーマになっていると感じたんですが、岩本さんご自身そういう意図はありましたか?
岩本 >  指摘されて初めて気づきました。意図はないです。潜在的なものですね、きっと。ただ、地球=ガイア(地母神)って意識はあったので、それが元になってる可能性はあるかもしれません。
たけぽん >  それと、兄弟姉妹というのが主要登場人物に対して大きな比重を占めることが多いですね。広樹に対して秋緒、ミリセントに対してthino、古い設定では和美と純も姉妹でしたが。
岩本 >  ああ、それも初指摘ですね。なるほど、確かに。これまた意図はないですが、自分にも妹が二人います。結局、身近な知ってることからしか、話を作れない人間なのかも。
たけぽん >  なるほど、なんかちょっとホッとしました(笑)。
 そう言えば岩本さんの作品、特に『ミドリノツキ』では、ラブコメ的な要素を強く感じるのですが。
岩本 >  妹がいることもあって、昔から少女マンガも読んでました。その影響が大です。なるべく出さないようにとは心がけているんですが、できあがってみると、やっぱりラブコメになってますね。ちょっと困ってます。
たけぽん >  なるほど、妹さんたちの影響は多大だったわけですね(笑)。
雀部 >  ラブコメの要素は、ヤングアダルトもの(ライトノベル系)の小説はすべからく持っているのでは無いでしょうか。というか、これがないと売れないかも?(笑)
岩本 > そうお聞きして、少し安心しました。どうもなんのかんの言っても、ラブコメ好きなようなので(笑)。
たけぽん >  私もラブコメは好きでして。ただ、やはり「あからさまに」というのはイヤですね。ミリセントと尚顕みたいに、知らず知らず反応しているような描写が差し挟まっているのがいいな、と(笑)。
 そういえば、『磐の姫様』というのは、河内磐船あたりの伝承と関連があるのでしょうか。『磐之媛』のとても嫉妬深い人物像を描いているという話を以前、古典・歴史文献を研究している友人に聞いたのを思い出しまして。
 岩本先生ご自身の生まれ育ちとも何か関わりがありそうに思うのですが。
 “茅丘公園”というロケーションについても、その周辺がモデルとして絡んでいそうに思います。
 また、岩本さんご自身は“鵺姫伝説”のようなものを肌で感じて生活していたということはありますか?
岩本 >  いや……まさか河内磐船というマイナーな地名が出てくるとは思いませんでした。岩を磐としたのには、確かにこの地名が関係してます。ただ、河内磐船の磐船は、山中にある磐船神社に由来しており、そこには姫森神社のような隔離された岩舞台はないです。空から降ってきたという巨大な岩があったり(それが磐船です)、修験道にも関わりのある胎内くぐりがあったりして、興味深い神社ではありますが。
 姫森神社のモデルは、あえてあげれば、山自体が御神体(禁足地)になってる奈良の三輪大社ですね。それから神社の雰囲気は、京都の北野天満宮を想定して書きました。
 鵺姫伝説のようなものも、残念ながら身近にはなかったです。磐之媛伝説は、初耳でした。不勉強ですみません。
 あと、茅丘公園は、完全にモデルがあります。大阪市にある長居公園です。その近所に、昔住んでまして。
たけぽん >  長居公園ですかぁ。たしか「探偵ナイトスクープ」か何か、テレビですけど見たことがあります。案外、街中だったんですね(笑)。
 いずれ、個人的に「岩本作品にまつわる場所ツアー」みたいなのをやろうと思ってたりもしますので、大いに参考にさせていただくとします(笑)。
 岩本さんの描写って、かなり視覚イメージが先行していると思うんです。
 例えば『ミドリノツキ』。夢のシーンを読んで「あ、これは映像にしたら綺麗だろうな」って思いました。
 岩本さんご自身も、絵を描かれるんですよね? 確かファンレター・メールのお返事に頂いたハガキの絵がそうなんではないかと思ったんですけど。
岩本 >  ナイトスクープ(笑)。たけぽんさんは東京の方ですよね? 東京でも、とんでもなく深夜にやってることは知ってましたが、まさかここでその関西ローカルの番組名を聞くとは。長居公園は、大阪国際女子マラソンの出発地点ってことの方が有名だと思ってました。
 あと、絵はイメージを固めるために、大抵描きます。特に、星虫やイーシャや鵺姫などの人以外のキャラたちは。文章を書いてる時も、視覚イメージはなるべく大切にしたいと考えてます。なかなか上手くいかないことの方が多いんですが……。
 ただ、絵を実際に描くことは、あまり好きではないようです。本当に気が向かないと描く気になりませんので。殊に色付きの絵は、その葉書以来描いてませんね。
 ですから葉書の絵は、恥ずかしながら、確かに自作です。礼状を出したいと思ってたんですが、字が下手なのが結構コンプレックスになってまして、まだ字より少しはマシな絵を入れた方が、スペース減るだろうと。
 苦肉の策でした。
たけぽん >  やはりハガキの絵はご自筆でしたか! しかもそれが苦肉の策とは(笑)。
 いや「ナイトスクープ」はもう随分まともに見てないんですけれど(笑汗)、昔、千葉テレビでやっていた時期がありまして。余談ですが、実はかの番組に「あの作家は今どうしているのか」と投稿しようかと思ったこともありました(笑)。 たしかラジオドラマ版『星虫』の脚色の方が構成作家さんをやっていたこともあったと記憶しています。あの頃は真剣に悩みましたね…。
 で、お聞きしたいんですが、今までの作品を画像メディアに転化するという企画があったら、OKをされますか?
岩本 >  ナイトスクープに投稿……? 関西ではダントツの人気番組ですから取り上げられたとは思いませんが、確かに一時期、長川千桂子さんが係わられてました。万が一ってことがあったかも……。いや、考えただけでも、ゾッとします。本当によかったです、思い止まってもらえたようで(笑)。
 画像メディアへの転化ですが、応募したファンタジーノベル大賞が元々映像化も前提にしての賞でしたから、星虫に関しては、全然抵抗はないですね。他の小説に同様の企画が持ち上がったら、悩むかもしれませんが。
たけぽん >  なるほど。それはどういった形を望まれますか? マンガ、アニメ、実写、映画等…。
岩本 >  正直、どのメディアにしても難しいでしょうね、実現は。でもこの際、無理は承知で本音を言わせてもらうと、マンガもアニメも実写も、全部見てみたいです(笑)。
たけぽん >  実は私、『星虫』を是非この人にマンガ化して欲しいという人がいるんですが(笑汗)、実現するかどうかは別として、その人の描く『星虫』のみんなを見てみたいな、と思うんですよね。
岩本 >  そのマンガ家さんを、是非教えていただきたいですね。
たけぽん >  あ、はい。水原賢治さんという、繊細な絵を描かれる人です。現在「アワーズライト」という雑誌で『紺碧の國』という作品を連載されていますので、よろしければ見てみて下さると…。
 今度、個人的に水原さんにもお願いして見ようかな…なんてことも思っちゃいました。
岩本 >  水原賢治さんも、アワーズライトという雑誌も、全く知りませんでした。早速探してみることにします。楽しみですね。
たけぽん >  なんというか、14歳の子たちが主役のお話ですので、ほとほと若い者向けだとは思いますけれど…。ああ、申し訳ありません、この場で個人的な思い入れをぶつけるようなことをしてしまって(汗)。
 それでですね、もしかしたらこれが一番イヤな質問かも知れませんけど…、岩本さんの作品に出てくる人達って、基本的にみんないい人ですよね。言うなれば「性善説的」と思うのですが、そういう事って意識して書いておられますか?
 ちょっと前出の質問・ご回答とも通じる所はありますけど。
岩本 >  ええ、意識してます。『悪人』は環境と価値観が作るもので、どんな極悪人でも環境が異なれば変われる可能性はあると思ってますから。
たけぽん >  なるほど。…でも私も、基本的にはそういった考え方をしますねぇ。人は交わり方でいくらでも見方が変わる、良くも悪くもそんなものかなと。啓二もモーティマも、佐久間のお父さんや『星虫』の国家公務員さんたちだって、ああいう立場じゃなきゃああいったキャラにならなかった(…かも知れない)わけですものね。
 では、岩本さんご自身が最も気に入っておられるキャラクターは誰でしょうか。
 やはり、ピュンですか?(笑)
岩本 >  結構コロコロ変わるんですよね。実は現時点では、鵺姫に出てくる『さな』だったりします(笑)。
たけぽん >  あらら(笑)。なかなか唐突な所ですねえ。質問しておいて何ですが、かなり重箱の隅をほじくられた感じがします…。「作者はその著作の無双のマニアである」とでも言いましょうか(笑)。
 でも、そういうことを言ってしまうと、また「新作への伏線かも」とか思われるかも知れませんよ?(笑)それはそれで大歓迎ですけど。
雀部 >  最後に。差し支えなかったら今後の執筆予定をお聞かせ下さい。
たけぽん >  次回作は「星虫世界」という噂もまことしやかに流れていますが。
 というか、「ミドリノツキ」上巻のあとがきでは、そういう感じのことを書かれてますよね。
岩本 >  来年の三月に、二冊出ること……には、なってます。
 角川春樹事務所さんから出る予定なのは、人類滅亡(?)小説です。滅亡……なんですが、ハッピーエンドにしようと企んでます(笑)。物語のプロットはできてるんですが、どうしてもハードSF的な設定を使わざるを得なくなってしまったので、今、四苦八苦中です。
 もう一冊は、ソノラマさんから、星虫世界の短編集。今のところ、星虫、鵺姫、イーシャ、各々から一編ずつ、計三編を、一冊にまとめたいと考えてます。短編の内容自体は、星虫話以外、もう決まってます。
 加えて先日、担当の太田さんが企画したミドリノツキ絡みのモノ(詳しいことは未だ……)が一つ、通ってしまいました。発売は、二冊より少し後になりそうですが。
 前二冊の締切は、一月末です。考えてみると、あと二カ月程しかないですね(汗)。
 しかし、まさか自分が締切に追われる事態になるなんて、本当、夢にも思わなかったです。
たけぽん
雀部
>  それはすごい! 確かにファンとしてもこんなに発刊サイクルが縮まるなどということは夢のまた夢でしたから(笑)、願ってもない事態ですね。ぜひ、お体に気を付けてがんばって下さい。新作、とても楽しみにしています。
 今回はお忙しいところどうもありがとうございました。
 これからもずっと、魅力的な岩本ワールドを我々にご提供くださるよう切にお願いいたします。
岩本 >  ありがとうございます。非才の身ですが、とにかく全力を尽すことだけは、約束します。寝太郎が起きた以上、マメにやるしかないですし(笑)。

 

[岩本隆雄]
大阪府在住。第一回ファンタジーノベル大賞の最終選考に『星虫』が残りデビュー。十年間の休眠ののち、新ミレニアムに目覚めた。2000年には、『星虫』『イーシャの舟』を再刊し、『鵺姫』とあわせて三部作となる。
[たけぽん]
昭和50年末生まれ、辛うじて25歳のアルバイター。
15歳の春に『星虫』、秋に『イーシャの舟』と音楽ユニット・ZABADAKに出会い、人生を少し傾けさせられた。あれからもう10年経つとは、月日ってなんて残酷なんだろうと思ったり。そろそろ「寝太郎ではいられない」時期ですかねぇ。
自サイト「ざ・たけぽん」内にて私設ファンサイト「岩本隆雄研究所」を主宰。
http://www.asahi-net.or.jp/‾ja9t-hys/
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/

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