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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

神の仕掛けた玩具
『神の仕掛けた玩具』
> 橋元淳一郎著/小阪淳カバー
> ISBN 4-06-154291-5
> 講談社
> 2600円
> 2006.6.1発行
収録短篇および粗筋はこちら

『シュレディンガーの猫は元気か
―サイエンス・コラム175―』
> 橋元淳一郎著著/落田洋子イラスト
> ISBN 4-15-050179-3
> ハヤカワ文庫NF
> 524円
> 1994.5.31発行
美人の絶対基準とは何か。
年々男が弱くなるのはなぜか。
モグラは地震波で意思疎通を図るらしい。
刺した蚊を殺すワクチンが発明された。
DNA以外で構成された生命体は創造できるのか。
ブラックホールの観光は可能か―科学雑誌『ネイチャー』『サイエンス』に発表された科学者たちの奇想天外な成果を、濃縮還元し、抜群のテイストで紹介する。
現代科学のエッセンスが100パーセント詰まった文庫オリジナル・コラム集。
シュレディンガーの猫は元気か
カメレオンは大海を渡る
『カメレオンは大海を渡る
―サイエンス・コラム110―』
> 橋元淳一郎著
> ISBN 4-15-050276-5
> ハヤカワ文庫NF
> 660円
> 2003.6.30発行
幽体離脱時に活性化する脳の部位とは?
鳥の祖先は4枚翼の恐竜だった?
植物の葉緑体は強い光を当てると逃げる?
海水を呑み込むマントルは地球を干上がらせるか?
ナノテクで原子のメビウスの輪ができた!?…
科学雑誌『ネイチャー』『サイエンス』に発表された、小説よりも奇なる研究成果のフレッシュでオイシイところを、軽やかな文章でパックし提供する。
最先端科学を味わう、大好評オリジナル・コラム集第2弾。

『図解 相対性理論が見る見るわかる』
> 橋元淳一郎著
> ISBN 4-7631-9488-7
> サンマーク出版
> 1600円
> 2002.12.20発行
時間と空間の4次元を読み解く76項
SFファン、アマチュア科学愛好家に人気のある相対性理論をやさしく、かつ本質を違わず解説した図解による入門書。
●相対性理論とアインシュタイン
●相対性理論とは何か
●相対性理論のパラドックス
●時空グラフで相対性理論を理解しよう
●加速系から一般相対性理論へ
相対性理論が見る見るわかる
雀部 >  橋元淳一郎先生、お久しぶりです。橋元先生には、記念すべき創刊準備号で『人類の長い午後』著者インタビューをさせていただき、ありがとうございました。
 今回もよろしくお願いします。
橋元 >  よろしくお願い致します。本当にお久しぶりですね。もっと頻繁に登場したいのですが、実弾がありませんとね(笑)。
雀部 >  前回が、2000年6月ということで、もう6年前になるんですね。
 橋元先生は、その間どうされていたんでしょうか?
橋元 >  生活の半分は、子育てでした。それと、家事(笑)。仕事としては、受験生向け、大学生向けの物理の本はたくさん書いているのですが、SFとなると限りなく0に近いですね。これは、ぼくの本来の姿ではないと思っています。
雀部 >  子育ては、確かに大変です(笑)
 それは別として、物理の本と、SFの両輪がそろって本来の姿ということですよね。
 ということは、この本が当たれば、長編SFの予定はありますでしょうか。
橋元 >  もちろん「あり」です! 当らないといけませんが……(笑)
雀部 >  応援が必要ですね。読者の皆様よろしく。
 今回の『神の仕掛けた玩具』は、単独著の初めての小説単行本ということなのですが、では『人類の長い午後』の位置づけはどういうところなのでしょうか?(笑)
橋元 >  そうか。『人類の長い午後』もSFですよね。忘れていたわけではないのですが。これは、ノンフィクションSFという位置づけでしょうか。
雀部 >  ノンフィクションSFとは、耳慣れない言葉なんですが。トフラーの『第三の波』のような本のことでしょうか??
橋元 >  さすがに、トフラーはSFとは言えませんよね。ノンフィクションSFとは勝手な命名ですが、ノンフィクションの文体で書かれたSFくらいの意味にとって頂ければと思います。
雀部 >  やはりSFに違いはなかった(笑)
 さてこの『神の仕掛けた玩具』に収録された短篇なんですが、これはどういう基準、あるいは意図の元に選ばれたのでしょうか。
それと、選ばれたのはご自身ですか。それとも編集者の方も一緒に選ばれたのでしょうか。
橋元 >  編集者の意見は大いに参考にしましたが、基本的には選択、配列ともぼくが決めました。明確な基準のようなものはないのですが、なんとなく落ち着く感じにしたのです。しかし、ページ数の制約から決まってしまった部分もあります。いずれにしても、発表した作品はどれも気に入っていますので、ずいぶん悩んだことも事実です。既発表の全作品という案もあったのですが、分厚くて売れそうにないのでやめました。
雀部 >  全部入れると、文庫にしても『啓示空間』くらいの厚さになったりして(爆)
 橋元先生の短篇の中では、「再会」が一番好きなんですが、これが選ばれなかったのはなぜでしょう。
橋元 >  ぼくも「再会」は好きなんです。で、あえて第弾に取っておこうと。もし第弾が出せることがあれば、よりSF度が増すことになると思います。それだけマニアックだとも言えますが……。
雀部 >  なるほど、第二弾かぁ。これも第一弾が当たらないと……
 もし、第二弾が出るなら、ぜひ書き下ろし短篇も加えて下さいませ。
橋元 >  第二弾が出るなら、何でもします(笑)。
雀部 >  講談社刊の橋元先生の物理の本には、すべからく『神の仕掛けた玩具』の広告を入れるとか(笑)
 この本の後書きで“SF小説と運命的な出逢いをし、時間と空間を超えた啓示的カタルシスとでも言うべき衝撃を受けた”とありますが、具体的にはどういう作品でしょうか。
橋元 >  正確に言えば、『SFマガジン』という雑誌との出逢いだったんですね。だから、編集者・福島正実なくしてぼくのSF人生はなかったと思います。創刊間もない1961年の11月号からだと思います。クラーク、アシモフ、ハインライン、ブラッドベリなどのラインナップが毎号のようにありましたね。今から思えば贅沢な話です。
雀部 >  SFマガジンのことでしたか、まさに黄金時代ですね。
 最近は、ほとんどSFを読まれないそうなのですが、その主な理由はなんでしょうか?
橋元 >  そもそも読書時間が極端に短くなっているのが、最大の原因です(笑)。それと、面白い小説と思うツボが、SFかミステリーか純文学か、というようなジャンルでは決まらなくなってきたということでしょうか。たとえば、SFではありませんが、『ダ・ヴィンチ・コード』のような小説は(ついつい最後まで読んでしまいましたが)、ぼくの面白いツボに入らないんですね。もっと文章に凄みがあったり、味わいがあったりするものに惹かれるようになってきたのです。たとえば、古い小説でいえば、ユイスマンスの『さかしま』であったり、最近の小説でいえば、エドワード・ケアリーの『望楼館追想』などですね。たぶんSFファンの方々には馴染みがないでしょうが。SFでかつ、そんな味のある小説を読んでみたいのですが、なかなかありませんね。
雀部 >  まあ、父親業と夫業、大学教授と衛星予備校教師、おまけに文筆業とくれば忙しくて当たり前ですが(爆)
 同じく後書きで“自分の作品がハードSFと呼ばれることには少なからぬ抵抗がある”ともありますが、これは内藤淳一郎名義で書かれていたときもそうだったのでしょうか?
 私的には、橋元淳一郎名義になってから、少し作風が変わってきたような気がしていますが。
橋元 >  ペンネームを使っていた当時はまだ無我夢中で、ともかく書いて掲載されれば、ハードであろうがソフト(?)であろうが、何でも嬉しいというときだったので、そんな意識はなかったと思います。作風が変わったというよりは、最初はアイデアだけが勝負で、小説の体をなしていませんでしたよね。ここだけの話ですが……(笑)。
雀部 >  いや、そんなことはなかったと思いますよ。なによりSFを書いてやろうという意気込みが伝わってきて、楽しませてもらっていましたから。
 収録作品を、時系列で並べてみると、新しい作品のほうが哲学的要素がより多く含まれ思索的な短篇になっていると感じました。橋元先生が哲学に興味を持たれたのはいつ頃からでしょうか。
 『われ思うゆえに思考実験あり』は哲学の話がメインの感じですし、『人類の長い午後』に出てくる“「脳のモジュール群」として「倫理的知能」を付け加える”話も哲学的な話題でしたし。
橋元 >  これも好きな小説と関連するのですが、哲学という学問が好きな訳ではないのです。ぼく自身が、面白いなぁ、不思議だなぁ、としみじみと感じることを書いているだけであって、それが40歳くらいからでしょうか、哲学的という感じになってきたんですね。物理だって、そういう観点から考えています。ですから、たぶん世の偉い物理学者や哲学者は、ぼくがうだうだ書いているようなことは、何の学問的価値もないといって評価しないと思います。それはそうであって、ぼくは学問しているのではなく、人生について考えているのですからね。
雀部 >  ホーキング博士を例に出さずとも、物理と哲学は相性が良さそうですが(笑)
 では、なぜ橋元先生のSF短篇に哲学的要素が多く含まれるようになったのでしょう?
橋元 >  いわゆる哲学そのものではなく、いま言ったような意味での哲学的要素ということであれば、ぼくはSFこそがそういうことを表現してくれる唯一の文学ジャンルだと信じています。ですから、SFはあまり読まないけれど、書くのはSFということになるわけですね。こじつけかな?(笑)
雀部 >  分かります。SFの本質的な部分、例えば人間とは何か?とか生命とは、宇宙とは?とかつきつめた問いかけが無理なく出来るのがSFの醍醐味ですから。この『神の仕掛けた玩具』にも、そういった根元的な問いかけがメインの短篇が含まれていますね。
 ところで、読ませて頂いてふと気が付いたのですが、異星の生命体が登場する短篇が半分以上あるんですね。物理学とは少し離れた学問分野のアイデアも数多く出てきますが、こういった生命体を考えるのは、実は楽しみなのでしょうか?
橋元 >  楽しみというよりは、ほとんど無意識に登場させている感じですね。何か面白い異星人を創り出そうという発想ではなく、先程から話題になっている哲学的思索が優先して、作品の哲学的イメージが決まると、そこからひとりでに異星人が姿を現すという感じでしょうか。
雀部 >  無意識的にですか。それは凄いかも。橋元作品に出てくる異生命体は、魅力一杯でとても好きなんです、これからもバンバン登場させて下さい。
 SF者としては、「白い飛翔体」の壮大な飛翔竜たちも魅力的なのですが、橋元先生は、いわば知能を獲得した細菌であるモネラ君たちを高くかってらっしゃいますよね?(笑) これはなぜでしょうか。
橋元 >  「人間はもっとも高度に発達した生命体である」というのは当然ながら欺瞞ですよね。そこで、それを裏返せば、「単細胞のモネラたちこそ、もっとも高度に発達した生命体である」となるわけで、このアイデアはぼくの永遠のテーマなのです。だから、長編にもきっと登場すると思いますよ(笑)。
雀部 >  あぁ、裏返しなんですか。モネラ君たちは、何げにこましゃくれていて可愛いのでどしどし登場させて下さい(笑)
 それと、アイデア帳的なものは作られているのでしょうか?
 『シュレディンガーの猫は元気か』とか『カメレオンは大海を渡る』なんかは、SFネタの宝庫のような感じがしました。
橋元 >  小説を書き始めた頃はそういうものを作りましたが、アイデア帳が出来た時点で仕事が終わったような気になってしまうので、いまは簡単なメモ程度のものしか作らないようにしています。しかし、そうは言っても、書くのに行き詰ると、科学雑誌のバックナンバーをひっくり返したりしますけれど。
雀部 >  毎回小説の神様がおりてこられるわけではないんですね(笑)
 献辞に「オロモルフ博士」にとありますが、これはやはり石原藤夫先生の《惑星シリーズ》へのオマージュという意味合いがあるのでしょうか?
橋元 >  というより、小説の単著を最初に上梓したときはそうしようと、ずっと前から決めていたのです。石原博士はいろいろな分野で私の師ですが、やはり創作面での思い出が一番印象的なものですから。
雀部 >  あぁ、それは分かります。
 今月号(06/8)のSFマガジン"SF BOOK SCOPE"で、風野春樹さんが、“工学、天文学よりむしろ宇宙論寄りの形而上的な作風や、作品に漂う仏教的な虚無感、無常観は光瀬龍にも通ずるものがある”とあり、なるほどなぁと思いました。まあ、私自身は、光瀬龍的というよりは、小松左京的であるかなぁと。人間とは意識とは、宇宙とはという命題と、論理で詰めていく構成などからそう感じたのですが。
橋元 >  風野さんの書評は感心しました。光瀬龍や小松左京と比較されるなんて、恐れ多すぎますが(笑)。ぼく自身は、自分が一番面白いと思っているSFを書いているだけなんですが……。どうもそれが不特定多数の読者の好みとは一致していないようで(笑)。
雀部 >  いえいえ、SFの多様性という観点からもぜひ書き続けてくださいませ(爆)
 SFとはあまり関係ないのですが、父親業と夫業、大学教授と衛星予備校教師、おまけに文筆業をこなすというのは並大抵の決意でできるものではないと思います。というのは、私自身が若い頃に比べると、集中力とか意欲が大幅に低下してきているので、橋元先生の頑張りには感心しているわけです。これだけのお仕事をこなしていく秘訣とかありましたら、伝授下さい。
橋元 >  計画ばかりが遠大で、その1/10も実現できていないので、秘訣とはおこがましいのですが、(1)何をなすべきかを毎日自分に言い聞かせること、(2)ともかく一歩一歩でいいから計画を実行すること、そしてあとは、(3)義理は欠いても、計画遂行に関係のないことはさぼること(笑)、でしょうか。
雀部 >  計画も立ってない私って(汗)
 橋元先生には『相対性理論が見る見るわかる』というご著書があり、SFファンの相対論入門書としても傑出していると思いましたが、SFファン向け(あ、特にSFファン相手じゃなくても良いのですが)に『宇宙紐が見る見るわかる』とかいう、SFに良く出てくる天文知識を解説した本を出される予定は無いのでしょうか?(笑)
橋元 >  よく似た依頼はときどき受けるのですが、最近は断ることが多いですね。いろいろな事情がありますので。あまり具体的には言えませんが、たとえば熱心に依頼されて書いたのに、刊行後、編集者が辞めてしまってほったらかし、なんて経験をすると、どうしても慎重にならざるを得ないんです。人生残り少ないですからね(笑)。下世話な話でスミマセン。
雀部 >  なんとまあ……
 今回はご多忙の中、インタビューに応じて頂きありがとうございました。本当はもっと早く著者インタビュー、したかったんですが(笑)
 次回は、ぜひSF長編でのインタビューをお願いしたいと思っています。
橋元 >  ぜひ、そうさせて頂きたいですね。
雀部 >  では長編SF、お待ちしております。


[橋元淳一郎]
'47年大阪生まれ。京都大学理学部物理学科修士課程修了。現在、相愛大学人文科学部教授。日本SF作家クラブ会員。ハードSF研所員。主な著書には、『シュレディンガーの猫は元気か』『われ思うゆえに思考実験あり』(ハヤカワ文庫)、『物理・橋元流解法の大原則』((学習研究社)などがある。
「橋元淳一郎ホームページ」
http://homepage3.nifty.com/jun-mizuho/sakusaku/1_1.htm
[雀部]
ハードSF研所員。橋元淳一郎オンラインファンクラブ管理人をしています。SFに限らず物理書などでも有名な“ハッシー君”を応援しましょう(笑) http://www.sasabe.com/SF/hashimoto/

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