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Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[粟野]&[浅野]

シネマ天文学入門
『シネマ天文楽入門
―宇宙SF映画を愉しむ―』
> 福江純著/田巻久雄イラスト
> ISBN 4-7853-8778-5
> 裳華房
> 1700円
> 2006.11.20発行
 数々のSF映画を題材に、宇宙・天文の愉しみ方のコツを教えます。
目次:詳しくは、裳華房のサイト
第1章 シネマ天文楽への誘い ──〈スター・ウォーズ〉──
第2章 宇宙開発前史 ──『ライトスタッフ』──
第3章 赤い惑星へようこそ ──『ミッション・トゥ・マーズ』『レッド プラネット』──
第4章 空が落ちる日 ──『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』──
第5章 ピンポイントクラッシュ ──『地球最後の日』『さよならジュピター』──
第6章 未来のロケット ──『2001年宇宙の旅』──
第7章 侵略者たち ──『宇宙戦争』『物体X』──
第8章 小さな訪問者 ──『アンドロメダ...』『復活の日』──
第9章 水の惑星 ──『惑星ソラリス』『ソラリス』──
第10章 異形の惑星 ──『砂の惑星』──
第11章 時間旅行 ──『タイムマシン』──
第12章 銀河文明への道 ──〈スター・トレック〉──

雀部 >  今月の著者インタビューは、11月20日に裳華房から『シネマ天文楽入門』を出された福江純先生です。福江先生、よろしくお願いします。
福江 >  お久しぶりです。天文道楽者(笑)ふくえです。その節はお世話になりました。こんかいもよろしくお引き立てのほどお願いします。
雀部 >  いえいえ、至らぬインタビュアーで申し訳ないです〜(汗)
 今回も、主として本に取り上げられてない重箱の隅的な質問が多くなると思いますが、よろしくお願いします。出来れば『シネマ天文楽入門』を片手に、ここを読んで頂けるとより楽しめると思います。
 インタビュアーとして、前回インタビューさせて頂いた『最新 宇宙学』が福江先生との共著ということで、お世話になった岡山天文博物館館長の粟野諭美先生もお招きしました。
 ああ、もう二年も前になるんですね。
粟野 >  お久しぶりです。ホントもう二年ですか。でもずいぶん前のような気もします。今回もよろしくお願いします。
雀部 >  もうお一人、ハードSF研公報でSF映画の感想を連載されている浅野さんです。
 浅野さん、よろしくお願いします。
浅野 >  初めまして、よろしくお願い申し上げます。
雀部 >  本書の元は「天文教育」という会誌での連載で、その当時の編集長が粟野先生だとお聞きしたのですが?
粟野 >  はい、「天文教育」は、天文教育普及研究会という社会教育施設や教員、アマチュア、研究者など、天文教育普及に携わる方が参加されている研究会の会誌なのですが、ちょうどその時期、福江先生や他のみなさんと一緒に編集委員をさせていただいてました。編集は、、、なかなか大変でしたね(笑)。
雀部 >  編集、、ほんと大変ですよね。締め切りがなければ良いのに(笑)
 副題に“宇宙SF映画を愉しむ”とありますが、「天文教育」の読者にはSFファンが多いのでしょうか?
 また、読者からの反応はどうだったのでしょうか。
粟野 >  それぞれ好みはあるものの、ほとんどの方はSFファンじゃないですかね。
 けっこうマニアなネタで盛り上がってる現場にも遭遇します(笑)。
 読者の反応も良かったですよ。「次回はなんの映画だろう?」と楽しみにされていた方もいたようです。
雀部 >  やはり宇宙SFファンが多いのでしょうね。
 福江先生が、連載されるにあたって心がけていらっしゃったことはおありですか。
福江 >  いや〜、ほとんど趣味的に暴走しました(笑)。
 当時、粟野「編集長」のもとで、ぼくも平の編集委員をやっていたのですが、なかなか記事があつまりませんでねぇ。
 それと、どうせ編集をやるなら、自分らで好きなようにやろうよ、と申し合わせていて、たとえば、以前の『最新 宇宙学』もその流れでできたもんです。
 で、ここだけの話ですが(ていうか、ここだけの話になんないか)、教育関係の人は真面目な人が多くて、いや真面目はイイんですけど(ぼくもマジメです)、少しバラエティをつけるのもいいかなと思って、SFがらみの天文ネタで好き放題に書きました。
 ただ、連載後は書籍にまとめたいとは思っていたので、全体の構成は最初から組んでいましたし、あまりマニアックにはならないように、ある程度は名の通った映画を選んで書きましたが。
 でも、ホーマン軌道とか生命の話とか、いろいろ勉強できて楽しかったですよ。
雀部 >  なるほど。
 では、あまり名が通ってなくて泣く泣く落とした補欠のやつは、どういう映画でしょうか。
福江 >  はい、いくつかあるけど、たとえば、『月のうさぎ』かな。これは実は未見なんですが(なに、それ?)、実話をもとにした映画でして、すごくいい内容だそうです。一応、資料は集めていました。内容紹介は浅野さんにお願いした方がいいかな。
 それからマイナーじゃないですが、トム・ハンクスが主演した『アポロ13』なんかも取り上げたかった映画ですね。分野的に、地球ー月領域を増やすのもなんなので、残念ながら、落としちゃいましたね。
粟野 >  『月のうさぎ』は知らないなあ。
 そういえば『月のひつじ(THE DISH)』という実話をもとにした映画もありましたが、これはすごくいい映画ですねえ。あれを見て以来、いつかパラボラアンテナに座って空を眺める、という夢がひとつ増えました。個人的には『アポロ13』よりオススメですね。
福江 >  そうそう、それそれ、月のひつじだ(笑)。
浅野 >  ああ、矢張り『月のひつじ』だったのですね。(笑)
 この映画を観に行ったのは2002年の7月。朝一で銀座シネスイッチまで出かけたのですが、結構行列ができていて驚いた記憶があります。
 もう4年以上も前のことなので物語はあまりはっきり覚えておりませんので、HSFL公報に当時紹介したものから文章を抜粋してみます。

 『1969年6月、ひつじの牧場しかないようなオーストラリアの片田舎町パークスにそびえ立つ巨大パラボラアンテナ(THE DISH)に、突如「アポロ11号の月面歩行の映像をとらえ、この歴史的映像を世界中に生でTV中継する」という、かつて試みられたことのない任務が与えられた。それを支えるのは、“月を夢見る名も無き羊たち”、アンテナを建設した町長、アンテナを管理する科学者、NASAから派遣されたエリート、それに初めて世界から注目されたことに喜び、成功を願う町の人々と子供たち。
 しかし、人間関係のもつれ、思わぬアクシデント、天候の悪化など、次々にトラブルが発生する。
 一方、これとは関係なく7月21日のアポロ11号月面着陸は刻々と迫ってくる。』

 ということで、実話を元にしたオーストラリアの映画でした。
 映画の主役は、『ジュラシックパークIII』で主役のアラン・グラント博士を演じたサム・ニールでしたが、なんといっても本当の主役は「THE DISH」だったと思います。
 40年ほど前の旧式なコンピュータでコントロールされる直径数十メーター、重さ1000トンの巨大パラボラアンテナは壮観でした。
福江 >  後、ファーストコンタクトものですが、『アビス(深淵)』なんかも、結構、感動もんでした。
雀部 >  深海ファーストコンタクト(笑)
 オースン・スコット・カード氏のノベライズも面白かったです。
 さて『シネマ天文楽入門』は12章からなっているのですが、詳しい解説は裳華房の紹介ページを見て頂くとして、第1章は〈スター・ウォーズ〉なんですね。
 一番最初に取り上げられたのは誰でも知っているからと書かれてますが、SF映画といっても、スペオペに近い映画ですので、科学的に考察されるにあたってはご苦労があったと思いますが(笑)
福江 >  ああ、そこらへんは、ほとんどもうこじつけですね(^^;。
 だから、〈スター・ウォーズ〉では、あまりハード面の突っ込みは入れませんでした。
 映画は、アニメやマンガもそうですが、基本はエンターテイメントだと思うから、科学的に正しいかどうかは二の次ですし。むしろ、変な部分があれば、それはそれで、ネタになります。
 もっとも、誰でも知ってるから、という理由は、もちろんそうなんですが、表向きの理由というか建前で、エピソードIでナタリー・ポートマン(アミダラ役)に惚れちゃったんですよねぇ。
 敵基地に殴り込みかけるところなんか格好良くって、もう公私混同です。
雀部 >  あ、わかります! しびれます!
 福江先生も、強くて綺麗なお姉さまキャラがお好きだったんですね。男のSFファンのごく一般的な特性です(笑)
福江 >  はい(!)。一方で、小柄で子供っぽい系も、保護本能が全開になりますね(あ、かなり顰蹙?)。
粟野 >  ふーん、そうなんですねえ。
 でもナタリー・ポートマンは可愛いですよね。同性でも惹かれます。
浅野 >  強くて綺麗に加えて、もう一つ頭脳明晰となると、カール・セイガンの同名の小説を映画化した『コンタクト』で主役を演じたジョディ・フォスター。彼女がお気に入りで、SF以外の映画もできるだけ観るようにしています。
 ご本の中に『コンタクト』のタイトルは二度程出てきますが、解説が見当たらず残念に思っております。
 果たして彼女は本当に時空を越えて他の惑星に旅をしたのでしょうか?
福江 >  はい、ぼくも『コンタクト』は好きな映画の一つです。ジョディ・フォスターも素敵なお姉様といった感じで、ジル・ターターという実在する女性SETI科学者がモデルだそうですが、断然、ジョディ・フォスターの方がいいです、って当たり前か。
 また、今回の本で『コンタクト』を取り上げなかったのは、昔、石原藤夫さんと書かせてもらった『SFを科学する』(絶版;とほほ)など、いままで何度かネタに使っているので、まぁ、違うモノにしようかと・・・
浅野 >  福江先生のご著書『SFを科学する』の貸し出し準備ができたとの知らせが来ましたので、昨日、車で図書館へ出向き借りてきました。昭和62年(1987年)のご本なのですね。
 ブルー・バックスは91冊持っていますが、何故か『SFを科学する』が無いのが不思議です。
 先ずは、最後の『コンタクト』から読み始めました。
 その当時の、SETIやCETIが予想以上に活発だったので驚きました。
 が、最近はどうなっているのでしょうか?
雀部 >  「SETI@home」という、インターネットでつながったコンピュータが、地球外知性の探索(SETI) を行う科学実験なんかは有名です。今のパソコンは、計算能力的には二昔前のスーパーコンピュータに匹敵しますからねえ。
浅野 >  『CONTACT』は、アメリカ出張のおりにペーパー・バックを購入しましたが、121ページで挫折(栞が挟んでありました:笑 )。
 続いて、新潮文庫の『コンタクト』を読み、そして映画ということになりました。
 映画は、1997年9月の上映で、『SFを科学する』の丁度10年後だったのですね(その前年1996年12月にセーガンは没)。
 映画に出てくる、時空転送用のマシーンは凄かったです。
雀部 >  なんかわけわからないマシンだったけど、確かに凄かった!(笑)
福江 >  関係ないけど、『レオン』もよかったですね。
 子供時代のナタリー・ポートマンもかわいいし、ジャン・レノも好きな俳優なので。
 ジャン・レノといえば、アメリカの『ゴジラ』は怪作だったけど、あの作品でジャン・レノが好きになったんです。フランスの諜報員の役だったと思うけど、もう、めちゃくちゃクールで格好良かったですから。
 あ〜、だれか、話、止めてくださ〜い♪
雀部 >  我が家ではハリウッド『ゴジラ』は評判良いんです。東宝『ゴジラ』とは全く別物ですが、楽しめました。ジャン・レノも格好良かったですが、『エイリアン』以来、SF映画に登場するヒロインは、みんな強い印象が(笑)
浅野 >  ジャン・レノの出た映画というと、ベスト・セラーになった小説『ダ・ヴィンチ・コード』の映画で、フランス司法警察中央局のファーシュ警部役で出演した彼が映画では多分一番新しいのではないかと思いますが、渋く、主役のトム・ハンクスを食うほどかっこよかったですよ。
 また、SF映画に登場するヒロインだけでなく、アクションもののヒロインも、最近は綺麗以上に可愛いセクシーな美女が大人気。ご贔屓を見つけ、これをお目当てに出かける観客も多いのでは。私? ノーコメントです。(笑) 
 それにしても、彼女たちは、そのシーンを大迫力で撮って貰うために、撮影に入る前は酒もたばこも止めて、半年も、1年もトレーニングを積むとか。私にはできないことです。どんな仕事でも大変ですね。
粟野 >  ジャン・レノといえば、私は『グレート・ブルー/グラン・ブルー』だなあ。
 ・・・すみません、テーマがそれました。
福江 >  いや、でも、ジャン・レノにせよ、ショーン・コネリーにせよ、なんで、あんなにもてるんでしょうね〜。ハリソン・フォードがもてるのはわかるけど、ジャン・レノでもショーン・コネリーでも、下手したら、髪の薄い中年のおぢさんなのに。もてる秘訣を知りたい(笑)。
雀部 >  それがわかれば、福江先生もハリウッドスターになれるかも!
福江 >  すみません、かなり本音が出てしまいました。
 ところで、〈スター・ウォーズ〉について、まったく触れなかったのが、“フォース”の正体/起源です。フォース、って何なんでしょうね。たんなる超能力でもないし、よくわかんなかったんです。エピソードIかIIで、血液中のなんとか因子が出てきたけど、あれは余計だったかな。いまだったら、宇宙のダークエネルギーと関連づけられたかもしれません。今後の宿題でしょうか。
雀部 >  《ライラの冒険シリーズ》(全三巻)というファンタジーがあるんですが、それに出てくる“ダスト”という魔法を使うエネルギーのもとになる物質、これがこちらの世界で言うところのダークマターだったりします(笑)
福江 >  なるほど、ダークマターもダークエネルギーも、その正体をめぐって、いまでも論争中なんですが、実はすでにわかってたのか。ま、それはともかく〈スター・ウォーズ〉で反省というか、ぼく的な掘り下げが足らなかったのは、人間関係の問題かな。あれは、ラブストーリーであると共に、徹頭徹尾、家族の物語ですよね。まぁ、SFとも天文とも少しずれるので、あまり掘り下げなかったけど、そろそろ、人間についても考えていかなければならないかなぁ〜と(あ、少し格好いいでしょ?)
 それから、一番残念なのは、あ、本編の方ですが、ルーカスがエピソードVII、VIII、IXを止めちゃったことですね。続きを見たかったです、というか、見たいです。
雀部 >  はい、それはスター・ウォーズ・ファンなら誰しも見たいです。
 ダークマターの正体は、今の時点ではどの学説あたりが有力なんでしょうか?
福江 >  十数年前までは、ホットダークマター(ニュートリノなど)とコールドダークマター(ニュートラリーノやアクシオン)が候補でしたが、現在はホットダークマターは脱落して、後者が残っていますね。超対称性を仮定する超弦理論のような素粒子の超対称性理論では、あらゆる素粒子には、超対称性パートナーが存在すると思われています。
 おおっと、いきなり専門用語の爆発ですが、ぼくも並べているだけなので、気にしないでください。で、たとえば、パウリの排他律を満たさないボース粒子である光子(フォトン)には、パウリの排他律を満たすフェルミ粒子であるフォチーノという超対称性パートナーがあると考えるわけです。(ジーリー宇宙に出てくるフォチーノバードですね)
 コールドダークマター候補の一つであるニュートラリーノというのは、フォチーノなど超対称性粒子の一部の総称です。観測や実験で実証はされていないですが、理論的にはダークマターに必要な性質を満足しているようです。
 アクシオンの説明は、、、もう限界です〜、ご勘弁を(笑)
雀部 >  超対称性粒子だけで出来た宇宙が存在する可能性はあるのでしょうか?
福江 >  なるほど、そんなことは考えたことがなかったけど、面白い発想ですね。
 反物質だけでできた宇宙が存在するかどうかと同じような話になるかと思います。
 いまの考え方だと(たしか…)、宇宙のごく初期、インフレーション期の終わりぐらいには、物質と反物質はほぼ等量存在していて、バリオン数はほぼ0だったのが、いわゆる自発的対称性の破れというもので、ほんのわずかだけ物質が多かったため、反物質のすべてと物質の大部分が対消滅した後に、物質が残ったと考えられていたかと思います。だから、量子ゆらぎで宇宙がいくつもできているなら、反物質だけでできた宇宙もあるはずです(もちろん、その宇宙では、反物質が物質になるけど)。
 同じ理屈で、通常素粒子と超対称性パートナーとが、何かの自発的対称性の破れで、片方(通常素粒子)だけ残ったのなら、超対称性粒子だけで出来た宇宙も存在するでしょうね。そういう宇宙では、重力・電磁力・強い力・弱い力などの基本力を含め、われわれの宇宙とは物理法則がまったく違うのでしょうね。
 光速が遅い世界とか(『レッドシフト・ランデヴー』だったかな)、力が少し違う世界とか(アシモフが書いてませんでしたっけ)、物理法則が異なる宇宙を描いたSFはいろいろあったと思いますが、超対称性粒子だけでできた宇宙がどうなっているかを描いたSFはまだないんじゃないかなぁ。読んでみたいですね。
雀部 >  そ、それは人間には理解不能になる可能性が(笑)
 この第1章で「宇宙船が光速に近づくと、相対論効果で、横や斜め後ろの星も進行方向に集まってくるように見えるはず」というのがありますが、スタトレシリーズで、ワープの前にそういう映像(星が後ろに流れるのではなくて、前方に寄ってくる)を見たような気がして、熱烈なファンサイト「Preston Press」で聞いてみたところ、「TOS「魔の宇宙病」で時間が逆に流れた時に、星が前に寄ってきていた」そうです。ま、時間が逆に流れたなら、そうかも(笑)
 この進行方向に星が集まってくるという動きをするSF映画は無いんでしょうか。
浅野 >  最新で最後のスタートレック映画『ネメシス S.T.X』(2003/04上映)だったような気もするのですが、進行方向に集まる映画を見たことがあります。が、確か色は変わらなかったと思います。しかし、一般の感覚としては、どうしても進行方向の反対側を見ているような気分ですね
雀部 >  まあ、ハードSFファン向け限定の映画じゃないのでということで(笑)
 第2章は、“宇宙開発前史”『ライトスタッフ』が取り上げられていますね。
 宇宙開発の歴史は、明と暗、すなわち成功の陰に必ず失敗があるんですが、この映画は、初期の頃の宇宙開発を扱っているんで、特にそこらあたりを強く感じました。
福江 >  いま、研究会で北大に来ています。はじめて無線LANが使えて嬉しくて、研究会の講演を聴きながら書いています(高校のときの内職みたいですねぇ)。
 さて、明と暗、なにごとにも明と暗はつきものですね。宇多田ヒカルも歌っているように、人間関係だって、誰かが幸せになれば誰かが泣いているかもしれませんから。
 宇宙開発だって、やまほど明暗があっただろうし、最近だと、コロンビアの惨事だとか、そこまで深刻ではないけど、日本だったらX線衛星AstroEの打ち上げ失敗なんかもありました。コロンビアのときの衝撃は本書でも少し触れたかな。
雀部 >  私が、宇宙開発の闇の部分に初めて注目したのは、早川から出た『ジェミニよ永遠に』('68)。'67年に、ケープ・ケネディで訓練中のアポロ宇宙船が炎上した事件で、三人の宇宙飛行士が死亡しましたが、その中の一人、二度の宇宙飛行を成し遂げたヴァージル・G・グリソムの遺稿です。これを読むと、いかに大変かがよく分かりました。この事故の三ヶ月後に、ソ連もソユーズ1号が墜落、さらに翌68年には、あのガガーリン大佐が訓練飛行中に墜落死してますからね。
福江 >  そうですね。ただ当時は宇宙開発競争がまっしぐらで、旧ソ連の事故なんかはほとんど隠されていたんじゃなかったでしたっけ。
 もっともぼく自身は、60年代はまだ小学生で、あまり問題意識はなかったというか、むしろアトム世代で、夢とロマンに満ちあふれたバラ色の未来しか頭になかったような気がします。いまでもそれが刷り込まれていて、いまでは明暗があるのは頭ではわかっていますが、でも、未来というと結局バラ色に見てしまいますね。
 自分で思っているよりオプティミストなのかもしれません。
 あるいは、失敗は成功の母ともいうように、一つの成功を導くには、多くの失敗や犠牲が避けられない、という事実を受け入れてしまった(達観してしまった)のかもしれません。達観してちゃいけないかもしれないですが・・・
雀部 >  『ライトスタッフ』の世界は、最初の有人宇宙飛行の時代を扱ったものなのですが、最近巷をにぎわしているトンデモな話題に“人類の月面着陸は無かったろう論”があります。こういうまともに議論する気にもならない難癖をつける人が出てくるのは何ででしょうかねえ。
福江 >  本の中などを見たことはないですが(見る気にもならないけど)、世の中、いろんな人がいるんだな〜と思います。
浅野 >  宇宙航空研究開発機構(JAXA)のsiteには、“疑惑:20%のアメリカ人が、人類が月に行ったことについて疑いを持っている。
 真実:この数字にちょっとした誤解があるみたいですね。1999年のギャラップ社による世論調査では、この数字はどちらかというと6%ということになります。こちらの数字は、1995年のTime/CNNによる世論調査の値とも一致します。”のように書かれています。
雀部 >  それでも6%もの人が。う〜ん。
 月面にある月着陸艇を望遠鏡で見せれば反論の余地は無いだろうと考えたんですが、見えないんですね(爆)
 遙照山にある望遠鏡だと、月面上の何メートルくらいの物体まで見分けることができるのでしょうか?
粟野 >  どれぐらいでしょうねえ、、、?
 188cm反射望遠鏡での観望会で見たときは、直径数十km前後のクレーターははっきり見えてましたね。小さいけど(笑)。参考までに、188cm反射望遠鏡で見た月の画像です。
 ちなみに分光器で観測すると、人が歩く速さぐらいの星の動きまで、観測できるそうです。これで系外惑星探しをしてるんですね。
福江 >  いやぁ、見えても、望遠鏡の中のデジタル合成だと言われるのがオチでしょうね。
 アポロが残したコーナーキューブでレーザー測距とかもしてるんですけど、信じていないわけでしょう?
雀部 >  信じてないでしょう。でも、たぶんTVのワイドショーなんかで、そういう話題を取り上げて、芸能人のコメンテーターがみんな信じると言った映像を見せられれば簡単に信じそうでもあります(笑)

 さて第3章は「赤い惑星へようこそ」ということで『ミッション・トゥ・マーズ』と『レッド プラネット』が取り上げられています。
 両方とも2000年公開の映画なんですが、この年なにか火星関連でありましたでしょうか?
 2003年8月27日の大接近の時には、5万7千年ぶりとか6万年ぶりの超大接近と騒がれてましたが。
福江 >  火星の公転周期は約2年で、地球は1年なんで、おおざっぱには約2年に1回ほど接近(会合)します。
 2000年には太陽の反対側にいたはずで、火星の火の字もなかったんじゃないかなぁ
 #天文イベントなんてそんなもんですが(笑)
 で、大接近がある以上は小接近もあるわけで、火星の軌道は楕円なので、軌道半径が小さいところ(したがって地球軌道に近い)と、軌道半径が大きなところ(地球軌道から遠い)があります。
 約2年に1回ほど接近したときに、軌道半径が小さいところで接近したら大接近、大きなところだと小接近というわけです。
 2003年のときは、軌道半径がもっとも小さい付近で接近したので、超大接近と呼ばれました。
 #まぁ、ややアオリですけど
 この“超”大接近した2003年のときには、もう大変な騒ぎで、ぼくも久しぶりにTVに出ました。
 そのときの顛末は、http://quasar.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/‾fukue/TOPIC/2003/030711.htm
 にありますが、いやぁ、もう恥ずかしくて2度と出るのイヤですね。
 #2度目に依頼されたときは断っちゃいました
雀部 >  顛末記、拝見しました。なかなか得難い経験をされたようで、ご苦労様でした(苦笑)
 で、火星に行くとしたら、この2年に1回の接近のタイミングを狙うと思いますが、小接近と大接近では、距離的にどれくらいの差が出るのでしょうか。
福江 >  うひゃぁ、計算苦手なんですが…
 (このインタビューで初の式?)
 火星の離心率は0.0934なんで、近日点と遠日点の距離の差は、比率にして、
 火星の軌道長半径×0.0934×2=火星の軌道長半径の約2割弱です。
 火星の軌道長半径は1.52天文単位なので、その0.1868倍で、0.285天文単位となります。
 地球軌道と火星軌道の長半径の差は、1.52天文単位−1天文単位=約0.52天文単位。
 おおおお〜、はじめて計算したけど、ずいぶん違うんですねぇ。
 (計算があってるとしてですが)
 あ、ちょっとごちゃごちゃしてしまいましたが、別な書き方をすれば、
 小接近時での地球と火星の距離は、1.52×(1+0.0934)−1=0.662天文単位
 大接近時での地球と火星の距離は、1.52×(1−0.0934)−1=0.378天文単位
 ということですね。
 もっとも、宇宙船で火星に行くときは、いわゆるホーマン軌道を辿るので、そのときの軌道の距離の差は、とほほ、勘弁して下さい。
雀部 >  苦手の計算ありがとうございます(笑)
 けっこう違うものなんですね。2003年は千載一遇のチャンスだったのか〜。
 『ミッション・トゥ・マーズ』の中で、二度ほど「火星重力圏に接近しました」とかいう“重力圏”という単語が出てくるのですが、これは単に太陽と火星の綱引きで、火星の重力の影響の方が大きくなる位置のことでしょうか。
福江 >  はい、そうだと思います。ある天体の重力圏(引力圏)という言い方は、他の天体の重力と比べて、その天体の重力が支配的になる領域を指しますから、この場合は、他の天体で一番影響があるのは太陽なので、太陽と火星を比べての話だと思います。
 一方、アポロなんかで月の引力圏というときには、地球の重力と比べての話になるでしょうね。
雀部 >  はい。もっともエネルギーがかからないというホーマン軌道なんですが、これは火星重力圏に入っても、そのまま放っておくとまた戻って来ちゃうと考えてよろしいでしょうか。
福江 >  おっと、だんだん付け焼き刃が剥がれそうな突っ込みになってきましたが、火星の重力がなければ、楕円軌道をたどって戻ってきますが、実際には、火星近傍に近付けば、火星の重力の影響を受けますね。極端な話、火星の重心を通る完全なホーマン軌道だと、火星に墜落するはずです。実際には、地球近傍から出発して火星近傍に到達する程度の精度のホーマン軌道なので、火星の重力にとらわれる場合もあれば、逃れる場合もあるでしょうね。
雀部 >  そうすると『レッド プラネット』にあったように、「火星周回軌道に入りました」とやってくれたほうが現実感があるような気がします(笑)
福江 >  そうですそうです。火星近傍に到達したときには、若干の燃料を使って軌道修正して、周回軌道に入ることになるでしょうね。
雀部 >  ありがとうございます。
 浅野さんは、『ミッション・トゥ・マーズ』の感想はいかがでしたでしょう?
浅野 >  『ミッション・トゥ・マーズ』は2000年の6月に見ていますね。昔々なので、あまり記憶に残っていませんが、2020年の火星探検物語でしたね。ハード的にもなかなかよくできていたと思いますし、いろいろ続けて起こる謎も楽しめました。見終わった後、これはいわゆる「人間はどこから来て、どこへ行くのか」的映画だなーと感じました。
雀部 >  あの宇宙人の造形を除けば(爆)
 福江先生は、「ラストの最後の選択で、ジムと同じ選択肢を選ぶ」と書かれてますが、浅野さんと、粟野さんはどうでしょうか?
浅野 >  どうも選択肢は「本音と建前」に分かれそうですね。
 本音では、矢張り地球へ戻ってきて、一杯やりながら、お鍋でも突っついていたいです。(笑)
 うっかり乗り込んで、『銀河ヒッチハイク・ガイド』みたいなことになったらば大変!
粟野 >  うーむ、難しい、、、
 「帰ってこれるなら、行きたい。」じゃ、ダメですかね(^^;
 私もやっぱり、最後は地球にいたいなあ。
福江 >  あっれー、ぼく、そんなこと、書きましたっけ?…
 ああ、たしかに書いてますね。そのときの気分がそうだったんでしょうねぇ〜。
 でも、ひとりぼっちは寂しいかなぁ。だれか一緒に行きませんか〜♪
雀部 >  粟野さんどうでしょうか?福江先生からのお誘いが(笑)

 浅野さん、映画『レッド プラネット』のほうは、いかがでしたか?
浅野 >  『レッド プラネット』は翌年、2001年の1月に見ています。こちらは、2057年。地球は汚染され、火星のテラフォーミングを進めているが、何故か異常が発生。例によって原因調査のために火星へ飛び立つが・・・、という筋で、『ミッション・トゥ・マーズ』より現実的なお話です。映画のCOMING SOONで、この映画の題名を知り、早速、ロバート・A・ハインラインの『レッド・プラネット』を読みましたが、全く違うお話でした(笑)
雀部 >  そりゃ、題名が同じという共通点しかないので(爆笑)
浅野 >  その後、この映画をノヴェライズした文庫本が出ましたね。
 火星の、テラフォーミングというと、私はどうしてもフィリップ・K・ディックの『追憶売ります』を元に映画化された『トータル・リコール(1990)』を思い出してしまいます。もう、かなりの人類が火星に住み着いている頃の話ですが、真っ赤な火星の景色、最後の衝撃、そして、若き日のシュワちゃんが頑張っているのがよかったです。
雀部 >  『レッド・プラネット』(ピーター・テラップ著、新潮文庫)ですね。
 『トータル・リコール(1990)』のラスト、あの一瞬にして火星の大気圧を増大するシーン、凄かったですねぇ。いくらなんでも馬鹿馬鹿しくてというのは置いといて(笑)シュワちゃんはともかく、女性の方も減圧されて凄い顔になっている。カミさんと、女優さんも大変だと笑っていました。
浅野 >  福江先生のご著書の中に、この『レッド プラネット』の中で出てくる巻物状のディスプレイについて触れられていますが、フラット・パネル・ディスプレイ展や、NHKの技研公開などへ行きますと、もう何年か前から巻物状の透明ディスプレイが試作品として絵を出して展示されています。
福江 >  ふぇーん、知りませんでした。
 ぼくはモバイルノートでVAIOの1kgぐらいのものを使っているのですが(最近、TYPE Gという900gぐらいのが出ましたね)、B5サイズのノートで200gぐらいのが欲しいのです。
雀部 >  有機薄膜トランジスタ(有機TFT: Organic Thin Film Transistor)を使った電子ペーパーですね。これなんかは、生きているうちになんとかなりそうかも(笑)
 ところで、マーズ1号は、激しい太陽のγ線バーストによって、機器が破壊され航行不能状態になるのですが、これはどれくらい頻度で起こるものなのでしょうか?
粟野 >  うーん、実際、太陽ではγ線バーストは観測されていません。
 もしこんな近くでγ線バーストが起こっていたら、地球上の生命はみな絶滅してしまって大変ですね。
 かわりに(?)、太陽面ではフレアという爆発現象が見られますが、太陽の活動期にはけっこう頻繁に、1日に数回見られることもあります。
 大きなフレアが起こると、地球でも電波障害が起こったりします。
雀部 >  ありゃ、そうでしたか〜。確かに物騒ですよね(爆)
福江 >  マーズ1号の場合、どんな文脈で出てきたのか、まるで忘れちゃいましたが、太陽表面での爆発現象ぐらいにつもりで使っているのでしょうね。まぁ、巨大フレアからは、X線やγ線も出るので、まったくの間違いとは言えないけど、現在では、γ線バーストは、粟野くんが書いているような、宇宙最大の爆発現象を指しているので。
 巨大フレアなど太陽活動は、宇宙開発に大きな影響があるので、フレア発生などを予測する“宇宙天気予報”の研究が、大事だと考えられています。
雀部 >  今見返したら、火星周回軌道に入ったとき、突然障害が起き、部下の乗組員が「γ−バースト」と言ってます。その後、女性艦長が「太陽フレアよ!」とか言って、艦載コンピュータも「γ線が船内に侵入しました」と。
 それはともかく、火星をテラフォーミング出来る技術があるなら、地球の大気をなんとかしろよ!と思ったのは、私だけでしょうか(笑)
福江 >  はは、ま、それは映画のお約束と言うことで(笑)
浅野 >  う〜む、でも時間が掛かりそうですね。
 取りあえずは、エアコンで我慢するしか……。(笑)
雀部 >  第4章は、「空が落ちる日」ということで、『ディープ・インパクト』と『アルマゲドン』です。
 浅野さんは、『ディープ・インパクト』を見られた感想はいかがだったでしょうか?
浅野 >  この映画は観てからもう8年以上も経っているのですね。
 福江先生もご著書の中で仰ってますように、物語、特撮、CGなどなど、私も“ディープ・インパクト”を受けました。
 聞くところによると、この年は、S・スピルバーグがA・C・クラークの『神の鉄槌』の映画化権を取得、着手しようとしていたとか。本当ならば、もう一つ衝突映画ができていたらしいのですが、流石にあまり同じような企画が続くので、この話は『ディープ・インパクト』と合体したみたいです。
 合衆国大統領を演じたモーガン・フリーマンも渋く、落ち着いていてよかったですね。
 パニックの時には、指導者はかくあらねばと思いました。
雀部 >  クラーク原作、スピルバーグ監督の『神の鉄槌』は見たかったなぁ……
 モーガン・フリーマンは、最近良く映画で見ます。なんか頼りになりそうですよね。
 浅野さんお薦めのSF的見所はどこでしたでしょうか?
浅野 >  この映画はScience Fictionというよりか、むしろScience Factという感じで、CGも一種のシミュレーションを見ているように思えました。というわけで、最初の小天体の衝突、後の方の大津波による都市の破壊などのCGのシーンが映像としては見どころかと思います。
 この彗星の発見者が14歳の少年ということで、この映画はジュブナイル的な要素も含んでいるのでしょうね。
雀部 >  『アルマゲドン』と『ディープ・インパクト』について科学考証しているサイトがありました。ふ〜む、なるほど。

 ところで福江先生、太陽系の惑星は同じ方向に公転していて、それは太陽系の成立に深い関わりがあると教わったのですが……
福江 >  はい、太陽と太陽系は星間のガス雲が凝集して生まれたのですが、最初は中心で誕生した太陽と周辺を回転している扁平なガス円盤状に凝集しました。さらに回転ガス円盤の中の固体成分が凝集して微惑星と呼ばれる10kmぐらいのサイズの岩っころがたくさんできて、それらが集まって惑星になっていきました。そのような成立をしたために、太陽系内の“大部分”のものは、同じ方向に回っています。
雀部 >  そうすると、小惑星とか小天体も同様なわけですよね。これまでに反対方向(北極の方向から見下ろして時計回り)に公転する彗星とかが見つかったことはないのでしょうか?
福江 >  大部分は反時計回りなのですが、例外もあります。
 たとえば、有名なハレー彗星は逆方向に公転しています。
 小天体は他の惑星の重力の影響を受けやすいので、小惑星などは他の惑星に重力的に弾かれて、逆公転になることもあるでしょう。
 一方、彗星は、その起源が太陽系の最果ての領域にあって、太陽系の辺境からたまたま中心へ落下してきたもの(らしい)ので、ほんのわずかな偏差で逆公転になってしまうこともあると思います。
雀部 >  あ、ハレー彗星が反対だったんだ(汗)
 さきほど出てきた重力圏の話なんですが、小天体が地球重力圏に入ってきても、その速度と方向によって、地球の重力にとらえられて落下してくるかどうかが決まると考えてよろしいでしょうか。地球の重力には関係なく正面衝突(追突)てのはほとんどありそうに無いですよね?
福江 >  小天体にせよ、彗星が撒き散らしたチリが落下してくる流星にせよ、よく、地球の重力にとらわれて、地球に“落ちてくる”と言われますが、これは常識の嘘と言う奴で、実は、必ずしもそうではありません。
 地球の重力圏の強さの目安である、地球表面からの脱出速度は、よく知られている(?)ように秒速11.2kmです。
 一方、地球軌道の公転速度は秒速20数kmで、地球軌道付近を運動する小天体の速度もそれぐらいです。したがって、多くの場合は、小天体と地球の相対速度の方が、地球の脱出速度より大きいので、地球の重力の影響は無視できて、単純に正面衝突ないしは側方衝突となります。
 たまたま、小天体が地球の後ろ方向から飛んできて、相対速度よりも脱出速度の方が大きいような場合だけ、地球の重力に引かれて落下するという状況になると思います。
 なかなか天体力学は奥が深いです、はい。
雀部 >  ありゃ、そうだったのか〜。ポリポリ。
 文中でツングースカ事件への言及がありますが、ミニブラックホール原因説というのは、天文学者の間でも真面目に議論されたのでしょうか?
福江 >  ええと、あまりよく知らないですが、そんなに真剣には議論されなかったんじゃないかと思います。というのも、少し計算したらわかるのですが、ミニブラックホールはあまりにも小さいので、ミニブラックホールからしたら、地球はスカスカの状態ですから、爆発とか起こらずに、黙って突き抜けちゃうはずですので。
雀部 >  そうですよねぇ。
 もし、彗星の巣あたりにミニブラックホールがあるとしたら、地球に接近遭遇する可能性はあるのでしょうか? まあ何個あるかにもよるでしょうが。
福江 >  ああ、それはもちろんあると思います。
 重力的な作用としては、彗星の巣の付近のゆらぎで、彗星が落下してくるのと同じですから。ただ、彗星が地球とめったにぶつからないように、ミニブラックホールが地球と衝突する確率は低いでしょうね。もちろん何個あるかにもよりますが。
 ちなみに、ラリー・ニーヴンの昔のSFとかだと、エネルギー源として利用するために、小惑星帯にミニブラックホールを採掘にいったりしますよね。
 自転している(帯電もしていたかな?)ミニブラックホールを、カーブラックホール(とカー=ニューマンブラックホール)をもじって、“カーネル”とか呼んでいたと思います。
雀部 >  嶺重先生の『ブラックホール天文学入門』によると、ブラックホールはエネルギー源として有用らしいですね。
 浅野さん、『アルマゲドン』の方の感想はいかがでしたか?
浅野 >  SFであるということと、ブルース・ウィリスがご贔屓ということで観にいきました。『ボルケーノ』や『宇宙戦争』などと同じく、近頃、アメリカでハヤリのいわゆる父子(息子、娘)物語のSF版といったところでしょうか。
 『ディープ・インパクト』の後に続けてみたため、やたらと差ばかりが気になりましたが、最初に、クライスラー・ビルが隕石で折れて落ちてくるところは圧巻でした。
 接近してくるアステロイドはテキサス州並みの大きさといっていましたが、どのくらいのGが生じるのでしょうか? 皆さん割と普通に行動していたように思えたのですが。
福江 >  ははは、それもまた映画のお約束ということで(笑)。
 サイズが地球の1/4ほどある月でさえ、Gは1/6ぐらいに落ちて、アポロ宇宙飛行士のような動きになりますしねぇ。
 いくらでかいって言ったって、テキサス州並みの大きさ程度では、ほとんど無重力に近いでしょうねぇ。といっても、テキサス州の広さを知らないので、一応、“テキサス州 面積”でぐぐったら、Wikipediaがヒットして、面積が約70万平方kmだそうです。
 ということは差し渡しが(平方根を取って)約800kmですから、地球半径(6400km)の0.13倍か、思ったより大きいですね。でも体積にすると、3乗でききますから、テキサス州並みの大きさをもつ隕石の体積(したがって、密度が一緒なら質量)は、地球体積(質量)の0.00028ほどしかないですね。
 一方、重力加速度は、天体の質量に比例して半径の2乗に反比例しますから、質量が0.00028倍で、半径が0.065倍なので、重力加速度は地球の約0.07倍になります。
 ほほー、意外や意外、前言撤回、予想外に大きかったです。
 もっとも0.1Gしかないですから、動きは相当に緩慢でしょうね。
雀部 >  第5章は、「ピンポイントクラッシュ」ということで、『地球最後の日』『妖星ゴラス』『さよならジュピター』です。
 浅野さんは、『地球最後の日』を見られたことがおありですか。
浅野 >  この映画も新宿で観ました。当時は未だ終戦直後という感じが残っており、切符を買って映画館に入ったからといって、必ずしも映画が観られるとは限りませんでした。想像を絶する混雑の中で、この映画を観た記憶があります。
 覚えているのは、最後、選ばれた一握りの人々を乗せてロケットが新天地、惑星ザイラに向かって飛び立って行くシーンと、飛び立って行った人々がロケットの中で後ろを振り返ったときに見た、地球と惑星ビラスの衝突(実際には僅かにこすれる程度だった?)シーンぐらいです。現在ロケットの発射は垂直におかれた発射台から、馬力に任せて真っ直ぐ上に打ち上げられますが、この映画ではジェットコースターのようなレールの高い位置(山上?)でロケットを水平に建造、発射時には重力加速度を利用し、最後斜め上方に打ち上げていました。何故か、なるほどと感心したのを覚えています。
 が、2005年8月にたまたま文京区の三百人劇場で観た1953年製作の『宇宙旅行』に出てくるロケットの打ち上げも、レール状のカタパルトからだったので、当時はこの方式が主流だったのかも知れませんね。しかし、よほど初速度が出ていないと、カタパルトの先端で、ぽとんと落ちてしまうのでは?(笑)
 そして、その後、同年の9月に有楽町の朝日ホールで観た『月世界の女』(1929年製作)では、ロケットは巨大な水槽の中から発射されます。大型、軽量、かつ華奢なものは、水中からの発射が適しているということのようなのですが、これの技術指導が当時のロケットの大家、ヘルマン・オーベルトだった、ということで妙に納得させられました。
福江 >  上のシーンは、うろ覚えですが、ぼくも覚えています。
 もうちょっとマニアックには、『機動戦士Vガンダム』というアニメで、ジブラルタルに作られた電磁カタパルトでシャトルを打ち上げるシーンだったりしますけど(笑)。
 ところで、水平離着陸するスペースプレーンなどと比べて、垂直離着陸はエネルギー(燃料)を一番無駄にする方法ですよね。とくに電磁カタパルト(レールガン)方式だと、レールの上を電磁的にカタパルトを加速してロケットに初速を与えて打ち上げた後、レールに沿って落下させながらカタパルトを戻すときに発電できるので、エネルギーをある程度は回収できるというグッドな方式です。
 有人ロケットはともかく無人ロケットなどでどうして実用化しないんでしょうか?
雀部 >  どうもGの問題みたいですね。
 現在米空軍がローンチ・リングというレールガンに似た方式の打ち上げ技術を開発中みたいです(http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200610051941)
福江 >  有人だとGがかかりすぎると思ったのですが、無人でもダメなんですかね。
 ぼくは、もっと、政治的な問題、(ロケット産業とかの)なんかがあるのかなぁ、ってうがった見方をしていたりしました(笑)。
雀部 >  政治的な問題は当然あるでしょう(笑)
浅野 >  計算すれば分かるのかと思いますが、この凄いGは直径何キロメートルかの円形レールを回るときに起こるものなのでしょうか、それとも最後の上昇の時に起こるものなのでしょうか?
 前者でしたらば、直径をひたすら大きくすれば解決できそうですが。
 そして、これはまさにロケット(?)版、円形粒子加速器ですね。
 今、CERNの粒子加速器を調べてみましたらば、地下100m、リング周長27kmとのこと。
 この方がお金がかかるのではないでしょうか。
福江 >  電磁カタパルトは、離昇するために、若干そり気味の方がいいとは思いますが、基本的には、円形粒子加速器の初期加速を行っている、直線加速器(リニアアクセラレータ)でいいと思います。というか、リニアモーターカーですよね、言い換えれば。

 えっと、加速度でしたね。
 脱出速度の秒速11.2kmまで加速しないといけないわけですが。
 加速度aが一定で時間tだけ加速したとすると、
 最終速度v=at 距離x=at^2/2 なので、tを消去すると、
 x=v^2/(2a) になります。変形して、
 a=v^2/(2x) ですね。
 最終速度v=11.2km/sをx=1kmのレールで加速するとしたら、
 a=62720m/s^2=6400G 
 おおおおおお;
 はじめて計算してみたけど、とんでもない値です。
 計算間違いしていないかなぁ???

 これは大変だ。リニアでは無理かなぁ。
 浅野さんが書いているように円形加速をする必要がありそうですね。
 でも、周囲10kmの円で10周加速しても64Gかかります。
 ふぇーん、ですね。
浅野 >  最後は、その円周10kmをほぼ1秒で回るわけですね。
 遠心力のベクトルもかなり大きくなるのではないでしょうか?
福江 >  うわぁ、Xmasまで、あんまり、いぢめないでください。
 きっと大きいですよね。人生はつらいです。
 わけわかんないです(笑)。
雀部 >  ともかく大変なGだと(爆笑)
 『地球最後の日』は、二つの放浪惑星が地球に接近してくる話ですが、実際問題として、ある星系から惑星が飛び出してくるということは、起こりうる可能性があるんでしょうか?
福江 >  おおっと、放浪し始める、おおもとに関する質問ですね。するどい突っ込みかと思います。う〜ん、そうか、この問題を議論する手があったなぁ。
 実はこの問題、ちゃんと考えたことはないですが、可能性は十分にあると思います。
 とりあえず、思いついたもので、2つのケースがありえます。

(1)太陽系のように、できあがった惑星系の場合
 太陽系のように、形成されてから何十億年も経った惑星系の場合、勝手に飛び出してくることはまずあり得ません。だけど、ほんのわずかな確率で、放浪星が近くを通りかかった場合、その重力の影響で、惑星系が壊され、飛び出すことはあるでしょうね。

(2)形成途中の惑星系の場合
 最近話題の系外惑星では、とても離心率(円軌道からのずれ)が大きな巨大ガス惑星がたくさん見つかっていて、エキセントリックプラネットと呼ばれています。惑星系が形成される途中では、原始惑星などの段階では、まだ惑星系が落ち着いておらず、お互いの重力的影響が大きくて、軌道が乱されたり、カオス的な振る舞いをすると思われています。
 そんな段階だと、母星に近い軌道では母星の重力を逃れるのは難しくても、母星から遠い軌道でガス惑星同士が重力的に影響し合えば、母星の重力を逃れて放浪し始める可能性は十分にあると思います。
 飛び出せるかどうかは、
・母星の質量
・ガス惑星Aの質量、軌道半径、離心率
・ガス惑星Bの質量、軌道半径、離心率
などたくさんのパラメータに関係すると思いますが、まだだれもそんな研究はやっていないんじゃないかな。
 あ、振られたネタが面白くて、ついつい、細かい話になっちゃいました(笑)。
雀部 >  反対に『妖星ゴラス』は、地球を動かしてしまう話ですが、この二つの話を合体させてしまったらと考えると。太陽が巨星化して地球が飲み込まれそうになったら、地球を動かして、別の星系を目指すというのはどうでしょうか?
 できれば、24時間で地球を一周する人工太陽を引き連れて。食料や空気の心配が要らないのが最大の利点(笑)
福江 >  ま、たしかに、SFでは、惑星や恒星をバンバン動かしますけど;太陽が赤色巨星になるのは50億年ほど先ですから、人類が存続してたら、技術的には可能になっていると思います。
 #ていうか、人類はポストヒューマン化してるでしょうけど
 #ポストヒューマンって何って聞かないでください(笑)

 でも、そんなに技術が進歩する前に、おそらく、ふつうの手段で、たとえば、亜光速のスローボート(核融合推進宇宙船やレーザー推進船)や、超光速の移動手段(ワープやワームホール利用)などで、よその星に移住していると思うんですよね。
 #あるいは、最近はやりの“シンギュラリティ(特異点)”のように、
 #AIが超知性を獲得するのが先かも知れません

 そして、地球(オールドアース)は、人類発祥の地として、宇宙遺産第一号に登録されているんじゃないかなぁ。
 #地球を汚す人類は居住禁止になっているかも

 んでもって、太陽が赤色巨星になったとき、
 #ちなみに、地球軌道まで膨らむかどうかは微妙です。
 #というのも、赤色巨星化する段階で質量を放出するので、
 #太陽が少し軽くなって、地球軌道半径が大きくなると推測されていますので赤色巨星の外層大気は、密度もスカスカで、温度も3000Kぐらいの“低温”なので、未来の超技術で地球全体をシールドすればぜんぜん大丈夫だと思います。
 #ニーヴンのSFで『神の目の小さな塵』などでは、宇宙船が赤色巨星の大気に入りますね

 あれあれ、コメントだらけで、かなり読みにくいレスになっちゃいました。
 でも、そんな先の話を考えるのも楽しいです。
雀部 >  『妖星ゴラス』は、小学生の頃近所の映画館で観て、非常に衝撃を受けたんですが、浅野さんは、いかがでしたでしょうか?
 ここらあたりから、自分はこういう映画とか本が好きなんだという自覚が出てきた(笑)
浅野 >  1962年の映画ですか。たしか新宿東宝で観た記憶があります。出演が池部良、上原謙、志村喬、白川由美、懐かしい。今、覚えているシーンは、初めて「ゴラス」が望遠鏡で捕えられ、それがスクリーン一杯に映し出されたところと、最後に南極に設置されたロケットが噴射し、地球が動き始めたところだけですね。ロケット噴射のシーンは、「あ〜、動き始めた」と力が入りましたが、今思うとちょっと映像が貧弱でしたね。迫力のあるCGでもう一度観てみたいところです。
雀部 >  お約束の怪獣も出てきたり(笑)
 私は、ゴラスが通り過ぎた後の「今度は北極にロケットを据え付けなくてはいけないが、南極と違って、北極の下には大地が無い。しかし全人類が力を合わせれば成し遂げられる」とかいう科白にむやみに感動してしまった記憶が……
浅野 >  ちょっと余談になりますが、私は道楽で世界のSF切手を集めています。2003年にベルギーから「宇宙ファンタジー」と題して発行された小型シートがありますが、この切手には、地球の周りに枠を作り、それに取り付けられた超大型ロケットで巨大化した太陽から地球が逃れていく、というシーンが描かれています。ご覧に入れられないのが残念ですが、思い出しましたのでちょっと付け加えさせて頂きました。
雀部 >  切手になってるんですか。それは凄いなぁ。
 小松左京先生が原作の『さよならジュピター』なんですが、浅野さんはこの映画も見られてますよね。
浅野 >  1984年の映画なのですね。確かに観ていますし、手元にはそのとき購入したプログラムもあります。が、申し訳ないのですが、最後、木星が消滅するところ以外は殆ど記憶に残っていないのです。
 それで、今、そのプログラムを読んでみたのですが(不思議なことに、ストーリーが最後まで全部克明に書かれていました)、やはり、おぼろげにしか思い出せません。
 映画はサービス満点で、火星のテラフォーミングから、ナスカの地上絵、狂信宗教団体、木星大気中の幽霊探し、数多くの宇宙船、……無重力中のセックス(ここはちょっと思い出しました:笑)、それに新曲が四つもメインの物語に絡んでいますので、記憶が薄まってしまったようです。
 それに木星となると、どうしても『2001年』のイメージがオーバーラップしてしまいます。
 森繁久弥が、地球連邦大統領役で出演しているのですね。
雀部 >  無重力中のセックスは、私も覚えてます。たしか映画としては最初なのでは?(笑)
 福江先生、もしこのブラックホールが、太陽と衝突した場合、最初にどういうことが起きるのでしょうか?
 なんか太陽の中心部までは、す〜っと入っていくような気がしてます(違っ)
福江 >  質量が木星の数十倍という設定ですが、木星の質量は太陽の1/1000なので、ブラックホールの質量は太陽の1/10から1/100ぐらいでしょうか。
 となるとサイズ(半径)は、300mから30mの間になります。
 ブラックホール自体のサイズは太陽半径(70万km)に比べてすごく小さいように見えますが、問題は重力圏のサイズですね。

 太陽と同じ質量をもった天体が、太陽近傍をそこでの脱出速度と同じぐらいで運動していたときに、その重力圏の大きさは太陽サイズと同じくらいになります。(近接連星などがそうです)
 したがって、ブラックホールの質量が太陽の1/10(1/100)だと、その重力圏のサイズも太陽半径の1/10(1/100)ぐらいになります。

 どうやらすっと入っていくわけにはいかなさそうですね。
 おそらく太陽はぶっ壊れちゃうと思います。
 あ〜あ、このネタも使えましたねぇ・・・
雀部 >  え〜、太陽に接触してからぶっ壊れるまでの時間スケールはいかほどでしょうか?
福江 >  そうですね、いわゆるダイナミカルタイムスケールになるので、太陽半径70万kmを脱出速度600km/sぐらいで割って、20分ぐらいでしょうか。
雀部 >  あ、そんなに簡単に(汗)
 では、壊れかたは?(笑)
 壊れるってことは、どんどん太陽の質量を吸収して、γ線やら何やらを放出しながら、最後には太陽のあった位置にブラックホールが鎮座ましますってことでは無いですよね(汗)
福江 >  えぇえー〜。そんな、わかんないですよ、論文一本書けと(笑)。
雀部 >  すみません、つい調子に(笑)
 第六章は、「未来のロケット」ということで、不朽の名作『2001年宇宙の旅』が取り上げられています。
 私は高校生だったのですが、この映画から受けた衝撃はそりゃ凄かったです。しばらくボーっとしていて何にも考えられなかった。
 浅野さんは、如何でしたでしょうか?
浅野 >  私はこの映画を映画館で2回観ています。
 1回目は、1968年(?)の初上映時。テアトル東京で観ています。このときのプログラムの表紙には、「東京 テアトル東京」と「大阪 OS劇場」の二つだけしか書かれていませんが、この2館だけのロードショーだったのでしょうか?
 入り口前の広場には原寸大(?)のモノリスが立っていました。映画は満員。タイトルに続いて本編の上映が始まっても、全く音がしないのには驚きました。やがて猿人同士の戦い。そして、猿人が投げた骨が、空に舞い上がり宇宙船になる。流れる、「美しく青きドナウ」の音楽。感激で胸が締め付けられ涙が出てきました。その後、VHDのビデオディスクで、続いてDVDで何回この映画を観たでしょうか。2001年は未だ大分先だと思っていましたのに、あっという間に通過してしまいましたね。
 そして、その2001年の4月20日、再び銀座テアトルシネマ(名前は変わっていますが同じ映画館)で再上映されたこの映画を観ています。感激は少しも衰えていませんでした。が、ちょっとしたハプニングがありました。丁度、コンピュータのHALが停止されようというシーンの時、突然、映像がぼけ始め、続いて映像がスクリーンからずれて飛び出してしまいました。暫くして暗転。上映終了後、何が起こったのか聞きに行きましたらば、映写機の対物レンズがはずれて落っこちたとのこと。映画館の人は珍しい事故といっていましたが、私はHALの亡霊のなせる業だと思っています。帰途、出口で無料招待券1枚を貰って帰ってきました。(笑)
 映画館のロビーに2メーターばかりの、素晴らしいディスカバリー号の精密模型が展示されていました。勿論、今回もプログラムは購入してきました。
 福江先生のご本に、モノリスの比が1:4:9と書かれてありますが、この数字には何か意味があるのでしょうか?
福江 >  いや、もう、感服です。映画狂ですね、ほんと、すごいです。
 で、モノリスの比が、1:4:9という話ですが、クラーク&キューブリック的感覚では、1×1:2×2:3×3ぐらいの感じだったのではないかと思います。
 それが何だ、と言われれば、それまでですが、まぁ、なんとなく納得してしまいそうですね。
 でも、よりマニアックには、『ダヴィンチ・コード』のように黄金比を隠し込むとか、πやeのような超越数の比にしておけば、面白かったかもしれませんね。
 でも、そういう意見は、あくまでも、現在で、暗号的な含みになれてきたから言えることで、40年も前(?)の当時では、1:4:9という単純な比率でさえ、新鮮だったと思います。
雀部 >  ですね。私も、最初の三つの素数の自乗だと聞いたことがあります。
 『2001年宇宙の旅』の音楽では、宇宙での日の出のシーンに使われた、シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」も有名ですね。
 粟野さんはこの映画、ご覧になったことはありますでしょうか。
粟野 >  『2001年宇宙の旅』はみましたが、あまり印象に残っていないんですよねえ。『猿の惑星』とごっちゃになっています(^^;
 すみません。
雀部 >  確かに、上映された時期は近いんですが(笑)
 これは、見た時の年齢の違いなんでしょうかねえ?
福江 >  年齢じゃないと思います。
 反撃が怖いけど、勇気をふるって;;
 女の子って現実主義者だから、夢とロマンがわかんないんですよね〜
 #あ、言っちゃった。
 でも、本にも書いたように、『2001年宇宙の旅』は、一応、女性と行ったんですよ。
 ぜんぜん面白くなかったみたいですけど(しくしく)。
 粟野さんは誰と行かれたんでしょうね(笑)。
粟野 >  残念ながら、どちらも生まれる前だったので映画館では見てないんですよね。テレビとかで良くやってるのをみて、昔の映画、という感覚で見てました(笑)。
 再上映を見てたらまた違ったのかも、、、
 「夢とロマン」はねえ、お互い様ですよ、きっと(笑)。
雀部 >  福江先生の薫陶が足りなかったということは?(笑)
 最後の光の洪水のシーンは、やはり大画面で見ないとね。
 宇宙飛行が当たり前になった時代だと、やはり感激が薄れるのかも知れません。
浅野 >  これは、超ハードSFですものね。それに女性が出てこない。いや、シャトルにスチュワーデス、いや、フライト・アテンダントが出てきました。ディスカバリー号には乗っていなかった? 
 A・C・クラークの小説には本当に女性が出てきませんね。題名は失念しましたが、最近の誰かとの共著には女性が出てきたと思ったら、とたんにポルノ調で参りました。
 女性が出てこない有名SF作家としては、ジュール・ヴェルヌが上げられます。彼は、若いときに好きな女性に裏切られたのが原因といわれていますが。
 手塚治虫、小松崎茂も、ご自身で女性が描けないと言われてましたね。
 いや〜、また、大分、本題からはずれてしまいました。済みません。
雀部 >  ヴェルヌって、そういう人だったのかぁ(笑)
 この映画に登場する「ディスカバリー号」は、たぶん原子力ロケットであろうということですが、これは地球の近くで使うと近所迷惑じゃないのでしょうか(笑)
福江 >  原子力ロケットとは言っても、推進剤を高温にするための動力炉として原子炉を使っているタイプなので、安全性と危険性は地上の原子炉と同じようなもんかと思います。
 いつだったか、ロシア(あるいは旧ソ連)の衛星が原子炉を積んでいて、そいつが地上に落下して問題になったんじゃなかったでしたっけ。
雀部 >  1978年1月のカナダ北西部に落ちた旧ソ連の原子炉衛星「コスモス954号」ですね。落ちなければ落ちないで、宇宙デブリになるし。
福江 >  一方で、同じ原子力ロケットと言っても、有名(?)なオリオン号のように、船外で原子爆弾を爆発させて、その爆風を推進プレートで受けて、その反作用で飛ぶタイプもあります。
 こいつは死の灰を宇宙にまき散らしながら進むわけで、かなり迷惑でしょうね。
 実際、1960年代ぐらいだったかに、そんな宇宙船を建造しようとするオリオン計画ってのがあったのですが、部分的核実験停止条約(で、あってます?)で、宇宙空間での原子爆弾の爆発が禁止されたので、オリオン計画も中止になったという歴史もあります。
雀部 >  確かに物騒なロケットになったことでしょう(笑)
 もし、原子力ロケットが他の星系で使われたとしたら、検出(観測)可能なものなのでしょうか?
福江 >  原子爆弾を爆発させるオリオン号のようなタイプなら、検出可能だろうと答えかけて、一応、数値を当たってみたのですが……
 核爆弾のエネルギーはだいたい10の17乗ジュールぐらいで、それに対し、たとえば超新星爆発は10の44乗ジュールぐらいあります。
 超新星爆発は数十億光年先ぐらいでもかろうじて検出できますが、核爆弾は27桁もエネルギーが小さいので数光年先でも無理っぽいです。
 別な見方をすれば、地上で核爆弾が爆発しても、宇宙から地球をみたとき、核爆発の明るさは、地球全体の明るさよりも暗いでしょう。
 で、現有技術では、地球のような惑星の光を検出できていませんから、核爆発はなおのこと難しいでしょうね。
 もっとも、光年単位の距離にある他星系では無理でしょうが、そんな宇宙船が太陽系内ぐらいまで進入してくれば、検出は可能になると思います。
雀部 >  何桁も違うんですねぇ。制御された核爆発を使うロケットを、お尻の方から見たら見えるかも知れないと思ったので。でもそれじゃ地球から遠ざかる方向に向かっているロケットしか検出できないですね(笑)
 今現在、地球の総ての電力を使って、電波を出した場合(競合する電波が少ない周波数で)は、数光年先で検出は可能でしょうか?
 宇宙人が発するレーザー光線の検出が目的の、光学望遠鏡を用いるSETI@NHAOなんてのもありますが、電波とレーザーではどちらが検出しやすいのでしょうか。レーザーだと、範囲(方向)を絞って効率よく送れますが、ビーム束から外れたら検出出来ないですよね。あるいはγ線が良いのかな。
福江 >  これは問題なく電波ですね。
 電波の利点の一つは、星間空間をあまり吸収されずに通過できること。
 もう一点は、電波望遠鏡は大きく作れますから集光力が高いので、微弱な電波でも捉えやすいです。だから、何ワットかまでは知らないですが、地上の電力すべてを使わないでも、地球から漏れ出ているテレビラジオ電波を、口径の大きな電波望遠鏡でしたら検出できるでしょう。セーガンの『コスモス』では、そういう設定ですね。
 レーザー光線を検出しようという光学SETI(OSETI)の利点は、レーザー光線にすると可視光でも透過性がよくなることがあります。また電波に比べて、可視域の方が、情報量を大量に詰め込めます。
 #光ファイバーでブロードバンドにできているのと同じだと思います
 でも、たしかにビームが逸れたらだめなので、地球めがけてビームを放ってくれないと困りますけどね。
雀部 >  やはり電波のほうが有効そうですねえ。
[次号後半に続く]


[福江純]
山口県出身。大阪教育大学教授。『SF天文学入門(上・下)』『最新 宇宙学』(裳華房)、『SFアニメを天文する』(日本評論社)、『やさしいアンドロイドの作り方』(大和書房)、『最新天文小辞典』(東京書籍)他多数。
[雀部]
宇宙大好き、SF映画も大好きのハードSFファン。大好きが、よく分かっていると一対一の対応をしてないのと、最近なかなか映画館に足を運べないのが悩ましい。
[粟野]
東京都出身。岡山天文博物館館長。共著として、『宇宙スペクトル博物館シリーズ』『最新 宇宙学』(裳華房)、『マンガ 手作り宇宙』(裳華房)、『星空の遊び方』(東京書籍)等々。
[浅野]
1932年、東京生まれ。小学校入学以前(戦前)、浅草で母親と『キングコング』、『透明人間』の映画を観たのが切っ掛けで、その後、SF映画にはまっています。
終戦後、最初に観たSF映画で印象に残っているのが『月世界征服(1950)』。多分その次が『地球最後の日(1951)』や『地球の静止する日(1951)』だったと思います(これらは新宿で観ました)。
その後、福江先生のご本にあります映画は多分100%映画館で観ております。現在、あまり多くはありませんが、年間、SFものを中心に三十数本の映画を上映開始時に観ております(約、10日に1本)。
テープ、ディスクのビデオもSF映画を中心に数百本ほど持っておりますが、福江先生のご本にもありましたように、古いテープにカビが生えてきて慌てております。
元本業はメーカーのテレビ、ビデオ技術屋です。が、最近はデジタル化が進み、取り残されています。
私の叔父が東京三鷹の天文台に勤めておりましたので、子供の時から天文の話を聞かされ、そんなことも、私をSF好きにさせたのかも知れません。

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