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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

確率・統計であばくギャンブルのからくり
『確率・統計であばくギャンブルのからくり』
> 谷岡一郎著
> ISBN 978-4- 06-257352-8
> 講談社ブルーバックス
> 860円
> 2001.11.20発行
 世の中には必勝法と銘打った嘘やイカサマが無数にあるが、そんな嘘や必勝法を、ジャンケンから競馬、ルーレット、ポーカーに至るまで確立・統計を用いて暴き、本当の必勝法とは何かを書いている。
 また、公営ギャンブルからブラックジャック、ルーレット、宝くじ、TOTOに至るまで、その胴元の儲けのしくみを「期待値、控除率」を用いて紹介している。

『ギャンブルの社会学』
> 谷岡一郎・仲村祥一編著
> ISBN 978-4-7907-0689-2
> 世界思想社
> 2300円
> 1997.12.20発行
 人の歴史あるところ賭博の歴史あり。人はなぜ賭けるのか? 現代社会におけるギャンブルの意味とは? 多様多彩な角度からギャンブルを考察した異色の「ギャンブル学」論集。
 谷岡先生の書かれているのは
第1章「ギャンブルの心理――人はなぜ賭けるのか――」
第4章「ギャンブルと法――ギャンブルは原罪か――」
第7章「ギャンブル研究の方法と課題」
第11章「カジノ財政と地方財政――カジノの経済的影響について――」
ギャンブルの社会学

SFはこれを読め!
『SFはこれを読め!』
> 谷岡一郎著/横山えいじイラスト
> ISBN 978-4-480-68783-8
> ちくまプリマー新書
> 760円
> 2008.4.10発行
 「SFは、科学を通じた現代社会への賛歌である。テーマ別のオススメ本を通じて、社会とは何か、生命とは何か、人はどう生きるべきかなどについて考えてみよう。」ということで、大のSFファンである著者が、古今東西のSF本について熱く語った一冊!

雀部 >  今月の著者インタビューは、2008年4月にちくまプリマー新書から『SFはこれを読め!』を出された谷岡一郎先生です。
 谷岡先生初めまして、よしろしくお願いします。
谷岡 >  どうも、どうも、よろしくお願いします。
雀部 >  谷岡先生が学長を務められる大阪商業大学では「グレート・ブックス」という本を読んで感想を言い合う授業があるそうですが、この授業を始められた理由をお聞かせ下さいませんか。
谷岡 >  むかし我々が受けた経験で、一番知的好奇心をかきたてられたのは、友人や先輩から勧められた本を読み、それについて語り合うということでした。他人が異なる視点を持っていたり、別の解釈をしていたりすることで、価値の相対性を学べたからです。大学の先生たちは、いわば本読みのプロですから、そのノウハウを活かさない手はないな、と思ってこの授業を始めてみたのです。今の若者たちにも、本当の意味での教養を身につける機会にしたいと・・・。
雀部 >  そうですね、様々な感想を知ることは、確かに自分の読書体験を豊かにしますね。
 谷岡先生が「グレート・ブックス」を担当される時のテーマが「SF入門」ということなのですが、他の分野の本と比べて学生さんの人気はどうなんでしょう?
谷岡 >  わりといいと思いますよ。ただし他の先生の中には、分野を特定しない人もいます。「オレの青春のベスト15はこれだ!オレの人生を信じるなら、授業にやって来い」という考え方で本を選んでもいいことになっているからです。それと、1冊か2冊の本をじっくり読もうよ、という先生もおります。
雀部 >  わりといいと言うことなので安心しました(笑)
 私の小学生時代には、まだ近所に貸本屋さんがあって、そこで友達と怪しげな漫画本を借りてきて回し読みしてました。手塚先生の『0マン』を読んだのも確か貸本です。
 あとはTV放映されていた『スーパーマン』とか、『鉄腕アトム』や『海底人8823』『ナショナルキッド』を胸ときめかせて見てました。また近所に小さい映画館もあったので、『ガス人間第一号』とか『妖星ゴラス』を見たり、小学校の講堂で見た巡回映画の『ゴジラの逆襲』『地球防衛軍』も凄かったです。だいたいこのあたりで、自分がこの手の話が大好きだという自覚が出てきてました(笑)
 あとは、少年少女世界科学冒険全集を買ってもらったのがとどめの一撃でしょうか。
 谷岡先生がSFに目覚めたのは、どういったところからなのでしょうか?
谷岡 >  よく覚えていませんが、やはりジュール・ベルヌだったような気がします。テレビ番組では、鉄腕アトムや鉄人28号など、けっこう観ましたけど、『ウルトラQ』を始まりとするウルトラ・シリーズには、もっと影響を受けたように思います。雀部さんの挙げたものでは、『ガス人間・・・』は観てません(なんですか、これ?)。
雀部 >  『ウルトラQ』は衝撃的でしたね。当時高校生でしたが、放映があった次の日は、その話で持ちきりでした。
 『ガス人間第一号』は、1960年の東宝映画です。ここが一番詳しいかな。
 ラストシーンの切なさには、小学生でも胸が締め付けられました。
 『ミステリーゾーン』とか『アウターリミッツ』などはご覧になってませんでしたか。
谷岡 >  観てません。たぶん時代が合わなかったんでしょう。
雀部 >  時期的には、谷岡先生は小学校低学年でしょうから、見せてもらえなかったのかも。
 SFファン活動をされていたとかSFファングループ属されたことはおありでしょうか。
谷岡 >  ぜんぜんありません。ただ個人的に好きで本を集めていただけです。その意味では今回の本は書いたものの、底の浅さは隠せないでしょうね。でも入門の本ですから。
雀部 >  いやぁ、昔はSFファングループってあまり無かったですから。私も、初めてファングループに入ったのは、大学を卒業してからです。
 『SFはこれを読め!』に関しては、底が浅いとかは全然感じませんでした。溢れんばかりのSFへの愛は感じましたが(笑)
谷岡 >  ありがとうございます。読んだ量はなかなかのもののはずです。あと、アメリカで、サイン入りの初版本なども結構集めました。
雀部 >  ご自慢のサイン入り初版本は、何でしょう。
谷岡 >  特に気に入っているのは、デイヴィッド・ブリンの『ポストマン』、フレデリック・ポールの『ゲイトウェイ』、ラリー・ニーヴンの『中性子星』、レイ・ブラッドベリの『S is for Space』、あとはアーサー・C・クラークやアイザック・アシモフ、ダン・シモンズなどです。
雀部 >  それは凄いラインナップですね。クラーク氏やアシモフ氏は、もう鬼籍に入られたし。ブラッドベリ氏のは羨ましすぎます! 私も、去年の「第65回世界SF大会 Nippon2007」で、ブリン氏とニーヴン氏のサインはゲットしてきました。
 谷岡先生は、慶大法学部卒業後、南カリフォルニア大学で行政管理と社会学を学ばれたそうなのですが、これはどういう契機で留学されたのでしょう。
谷岡 >  まず犯罪学(社会学)のコースに入りたかったのですが、社会学部の専門コースは修士号を持ってないと入れてくれなかったので、慣れるために入れそうな(留学生の多い)行政管理学を選んだのです。博士号を取るまで9年もかかりました。
雀部 >  犯罪学を学ぶための行政管理学なのですね。では、なぜそれほど犯罪学を学ばれたかったのでしょうか。
谷岡 >  もともと犯罪学のゼミにおりましたし、卒業論文も結婚詐欺について書いたものですから。社会科学的アプローチに魅力を感じていたのです。
雀部 >  大学時代から犯罪学がご専門だったんですか。
 専門は、犯罪学・ギャンブル社会学・社会調査方法論との略歴がありますが、そういうご専門がSFの読み方に影響があったりはしませんか?
谷岡 >  専門を決める前からSFファンでしたから、本の選択には影響していないはずです。ただ最近、たとえば「マルドゥック・スクランブル」のギャンブル・シーンは良くできているなとか、「バトル・ランナー」の警察はムチャクチャやりおるな、などと考えるようになりました。
雀部 >  『マルドゥック・スクランブル』、冲方丁先生にインタビューさせて頂いたんですが、特にどのシーンが良くできていたのでしょう。
谷岡 >  延々とブラックジャックをやる場面がありましたね。阿左田哲也の麻雀シーンなど、比べものにならないほど緊迫した描写でした。またギャンブル専門家の目から見ても、十分ありえるものでした。
雀部 >  あのシーンは確かに圧巻ですね。
 谷岡先生は『確立・統計であばくギャンブルのからくり』のなかで、「ブラックジャックの必勝戦術」を書いていらっしゃいますが、バロットまたはアシュレイと闘うとしたらどういう戦略をおたてになりますか(笑)
谷岡 >  特に作戦はありませんね。話の流れ(作者の意図)からいって、絶対負けますから。やらんのが正解です。
雀部 >  やはり。
 そもそも、この『SFはこれを読め!』を出そうと思われたのはどういうところからでしょうか。
谷岡 >  「こんな素晴らしい世界があることを、若い人たちに知ってもらうため」と言えば、ご満足ですか。ウソです、実は単に書いてみたかったんです。
雀部 >  満足です(笑)
 「SFの魅力を若い人たちに継承したい」というのは、私が「アニマ・ソラリス」でインタビューを始めたきっかけでもありますから。
 さて、やっと本書の内容に入らせて頂きます(笑)
 第1章は「異世界コンタクト/エイリアン」ということで、故クラーク氏の『幼年期の終わり』と梶尾真治先生の「地球はプレイン・ヨーグルト」がテーマ本としてあげられています。この二作品については、本書を読んで頂くとして、惜しくも選に漏れた本が「further reading」として紹介されてますね。このなかで、マイク・レズニックの『第二の接触』は、他と少し趣が異なると思いますが、どういうところが面白かったのでしょう。
(他の本とは、『宇宙のランデヴー』『異星の客』『ソラリス』『ゲイトウエイ』)
谷岡 >  登場人物が黒人のハッカーや弁護士など多彩で、ユーモアもあってまさにイッキ読みでした。レズニックは(そして訳者は)、文章が上手いうえにストーリーに退屈させる部分がないので、大ファンです。この話は犯罪にも関係のあるミステリー仕立てですね。他の本と趣が違うと言われたら、なるほどそのとおりとしか答えようがないような・・・。(おもしろけりゃ、なんでもいいんです。)
雀部 >  私も大好きなんですが、レズニック氏の作品はコアSFではないけれど、ストーリーテリングの面白さで読ませますよね。
 『ソラリス』なんですけど、ソラリスの海は、社会学の対象となりうるのでしょうか。
 また、ソラリスの海とコミュニケーションを取ろうとする試みは、社会学の対象になりますか。
谷岡 >  いいポイントをつきますね。社会学では、ミクロ・レベルの個人の意思と、よりマクロなレベル―たとえば地域社会―の意思とは、質的に変化することが知られています。わかりやすく言えば100人のグループの意思は個人の100倍にはならないわけです。皆が戦争はイヤだと考えても、そうなってしまうようなもんです。『ソラリス』はちょっと違うかもしれませんが・・・。
雀部 >  ソラリスの海には、戦争の意味さえも分からないと(笑)
 「『囲碁』は、合理的に定向的に進化したゲームのひとつの究極の姿だから、宇宙人側にも類似のゲームがあっても不思議はない」と書かれてますが、知性体にとってゲームで遊ぶことは必然であるとお考えですか。
谷岡 >  当然です。どんな知的種にも共通のことがあるとすれば、余暇活動はその重要なひとつだと思いますよ。たとえ笑わない知性体がいたとしても、少なくとも余暇の遊びはやっている・・・と信じたいです。
雀部 >  遊ばない知性体とは、たぶん十分なコミュニケーションが出来ない可能性大ですね。
 谷岡先生が『ギャンブルの社会学』の第一章「ギャンブルの心理」で、高橋勇悦氏の説を紹介され“ギャンブルという行為は「フィクショナルな世界」を創り出す行為であり、実社会から切り離された、非現時的な空間を体験することによって気分転換をはかる効用を持つ。このフィクショナルな世界は、実際に行為者が過ごす生活空間と似てない方がよく、しかも普段できないことができるほうがよい”と書かれているのを読みました。これ、そのままSFを読むという行為に当てはまりますね。ギャンブルとSFは、同じ種類のストレス解消法なのかと感じ入った次第です。
谷岡 >  そういえば、そんなことを書いたのを想い出しました。(ずいぶんマイナーな本まで読んどられますね。)SFを読んで没頭している時、心(意識)はその設定に入り込んでいるようです。だとすると(自信はありませんが)、ギャンブルとSFは共通点がありますなあ‥。ほんとかなあ‥。
雀部 >  たぶんほんとでしょう(笑)
 第2章は「ロボット――人間とは死ぬことと見つけたり」と題されていますが、けだし名言ですね。
 では、ロボットが仕事が無いときに自発的にギャンブルをやっていたら、谷岡先生はロボットに知性が生じたと判断されますか?
谷岡 >  チューリング・テストではないですが、「ギャンブルで熱くなる」プログラムも可能だと思いますので、わざと人間くさいロボットは、誰かが遊びごころで作るかもしれません。それより、うまいジョークを作る方が難しいプログラムだと思いますがねえ・・・。どうでしょう?ジョークのガットマン・スケールを作って、おもしろいと思う順に並べさせる。本当の知性があれば、ありえない順序に並べたら、その知性は「ニセモノ(プログラム)」と判かるはずですが・・・。
雀部 >  最近のお笑いは、あまり笑えないので、私がやったら落ちるかも(笑)
 テーマ本が『われはロボット』と「バイセンテニアル・マン」で、「further reading」が『鋼鉄都市』『ロボットと帝国』『火の鳥――復活・羽衣編』。
 ロボットといえば、やはりアシモフ氏の作品ですね。
 『ロボットと帝国』やそれ以降の《銀河帝国興亡史》では、ロボット三原則の上を行く「第零法則」が登場してあれ〜っと思いました(笑)――二つのシリーズを統合するためには、確かに必要だし、良くできていると思うのですが。
 《ファウンデーション・シリーズ》の「心理歴史学」で社会学の概念に初めてふれたSFファン(私もですが)は多いと思うのですが、「人間集団の行動と気体分子運動論の間にアナロジーが成立する」というアイデアは、とてもインパクトがありました。谷岡先生は最初に読まれたとき、「心理歴史学」についてどのような感想を持たれましたでしょうか。
谷岡 >  「第零法則」の頃から、ハリ・セルダンが少々気さくな性格になったような気がします。それはさておき、「サイコ・ヒストリー」という学問はまさに先程から話題の総合的マクロ社会学で、まさにアシモフならではの秀逸なアイデアだと感じました。ただし現実には、分散するノイズ(変数)と収束するノイズがあるため、たとえばソ連邦崩壊は予想できても、サブ・プライム・ローンなどは予測不能な気がします。サブ・プライム問題ももっとマクロに見れば、やはり収束するかも知れません。
雀部 >  アシモフ氏自身も、晩年にはカオス理論の方を推されていたようですけど、サブ・プライム・ローン問題は早く収束して欲しいです(笑)
 第3章は「タイムトラベル――日本が誇る時間物の最高傑作」ということで、時間旅行がテーマです。テーマ本は『マイナス・ゼロ』と「美亜へ贈る真珠」で、「further reading」が、『夏への扉』『百万年の船』『果てしなき流れの果てに』。
 その中の「どの時代に行きたいか」では、谷岡先生も色々あげてらっしゃいますが、私は断然未来ですね。谷岡先生は、未来だとどういう時代(またはこれが実現している時代)に行かれたいでしょうか?
谷岡 >  下品で粗野な人々が淘汰されている時代。ソウヤーの《ネアンデルタール・パララックス》に出てくるパラレル・ワールドのように、たとえ個人行動のプライバシーがなくとも、洗練された人々が優先される社会は少なくとも見てみたいですね。ま、私は遺伝子の継続が禁止されそうですが。
雀部 >  谷岡先生に権利がないとしたら、日本人のほとんどは遺伝子が途絶えるのでは(笑)
 「美亜へ贈る真珠」じゃないですけど、時間旅行とラブロマンスはとても相性が良いと思います。以前調べたときに、既に「タイムスリップ・ロマンス」というジャンルがあることに気が付いて驚きましたが、ロマンスがテーマのコアSFはあまり多くないと思います。この分野で谷岡先生のご推薦はおありでしょうか。私の一押しは、ジョン・ヴァーリイの「ブルー・シャンペン」なのですが。
谷岡 >  「ブルー・シャンペン」は夢のように美しいイメージでしたね。私も大好きです。雀部先生に推薦なんて、おこがましいことはできません。そもそも時間モノのコアSF自体、あまり知りません。次の章に行って下さいな。
雀部 >  あれま(笑)
 では、第4章は「文明/社会風刺――ユートピアはどんな世界か」ということで、『キリンヤガ』と『山椒魚戦争』がテーマ本です。『キリンヤガ』は、私も大好きで「アニマ・ソラリス」でもブックレビューやりました。
 『キリンヤガ』所載の「空にふれた少女」もそうなのですが、他に日本のオールタイムベストには、『歌う船』とか「たったひとつの冴えたやりかた」とか「アルジャーノンに花束を」「冷たい方程式」等々、ウェットな作品が多い感じがします。これは国民性が現れているのでしょうか。
谷岡 >  なるほど。いろいろ勉強になります。ただし「空にふれた少女」に関して言えば、見どころと言うよりハイライト場面は、いたいけな少女が死を選ぶ必然性ではなく、自分で言語体系を作ったりして、コリバのウラをかくところではないでしょうか。私も『キリンヤガ』は、コリバの勝手な価値観が崩れていくプロセスの物語と捉えています。‥でも、雀部先生の挙げた作品は、海外でも人気ですよ。日本人だけがウェットなのではないと思います。
雀部 >  海外でも人気なのですか。そうするとSFファンがウェットなのか。
 『キリンヤガ』に関しては、知り合いも“偏屈爺さんの哀しい物語”だと言ってました。嫁さんが居ないのも、むべなるかな(笑)
 「further reading」にあげられている「詩音が来た日」(『アイの物語』所載)は私も大好きです。介護ロボットがテーマなのですが、もういい歳になりましたので、余計に身にしみるのかもしれません(笑) 人間の生と死と生き甲斐を見事に描き出してました。人に薦めるんだったら、個人的には、イーガンの「しあわせの理由」より上位にランクされると思いますが、谷岡先生はどうでしょうか。
谷岡 >  山本弘先生の方が、断然読みやすく、社会ネタをうまく処理していますね。でもやはり、イーガンは捨てがたいですな、雀部先生が何と言おうと。
雀部 >  あ、私もイーガンは大好きなんですよ〜。捨てたりしません(笑)
 第五章は「医学/脳下顎――愛さえあればXXの差なんて」と題して『アルジャーノンに花束を』と「理解」(『あなたの人生の物語』所載)です。
 『アルジャーノンに花束を』を例にとった"あまりに知能の差のある男女間に、恋愛は生まれるかどうか"の考察は面白かったです。
 「理解」の主人公はさらに知能が高いのですが、こういった超天才を描く際に、超天才ならぬ読者にその超人的思考過程を普通の言語で説明しなくてはならないというジレンマがあるわけなのですが、そこらあたりはどう読まれたでしょうか。
谷岡 >  知能が上昇していくと、想像のつかないレベルでどうなるか、という問題は考えたことがありませんでした。少なくとも「アルジャーノン」のレベルだと思っていたのです。しかるに「理解」の解釈には頭を殴られた感覚でした。特に主人公が、大学の教授が中国語を読めないことに驚くシーンがありましたが、そんなこと言ってたら、大学の教授なんかほとんどいなくなります。本職の学者として、不満と、そして少々の恥ずかしさを感じたのを覚えています。
雀部 >  それは現職の大学教授ならではの感想ですねぇ。私なんか、もう全くダメ。
 また「理解」には資金調達のためにギャンブルで金儲けをするとの記述もありましたが、この話のように出来るだけ目立つことなく大金を得ようとするなら、どのギャンブルで勝負するのが好都合でしょうか。
谷岡 >  マクロな社会変動や大衆心理に対し、充分な変数を結びつける能力があるなら、やはり株や為替が中心でしょう。カジノ・ゲーミングは不安定な要素が多いのです。例外があるとすればスポーツ・ベッティングですか、たぶん目立ちますけど。
雀部 >  株とか為替で、比較的堅実路線ですね。
 第6章は「愛と犠牲――リーダーのジレンマ」ということで『たったひとつの冴えたやりかた』と「冷たい方程式」です。
 共通点は、どちらもたった一人で決断しなくてはいけないところ。それとその決断を下さなければならない状況設定が、非常にSF的であるところだと思います。
 SF初心者に薦めるにはうってつけの作品だと思い、女の子に勧めてみたのですが全く受けつけてくれませんでした。何故でしょうねえ……
谷岡 >  おつきあいしている女の子の素質(レベル)の問題ではないですか(笑)。冗談はさておき、女性に限らず、若い人々に想像力がチト足りないように思えます。今は決断しなくても生きていけるからでしょうか。誰もリーダーになろうなんて考えてないのかも・・・。
雀部 >  SFを読んでいると想像力は豊かになりますけど(笑)
 災害救助の際には、傷病の緊急度や重症度に関して負傷者の治療優先順位をつけること(トリアージ)が重要とされてますが、自分の命を秤にかけるのは難しいですね。
 「リーダーのジレンマ」ということでは、そのものズバリの『スタートレック 指揮官の条件』という本が出てますが、まさにピッタリでした。面白かったけど、感動はしませんでした(笑)
谷岡 >  それは読んでおりませんでした。ありがとうございます、読んでみます。
雀部 >  前記の二つに『歌う船』と『アルジャーノンに花束を』「たんぽぽ娘」、「美亜へ贈る真珠」「時尼に関する覚え書き」『ネプチューン』「そばかすのフィギュア」あたりを加えた中では、どの作品が一番お好きでしょうか?
 私は海外作品だと『歌う船』、日本だと「そばかすのフィギュア」なんですが、情緒的すぎるかなあ(笑)
谷岡 >  雀部先生はすご〜くロマンチストなんでしょうね。私の順番は、『歌う船』、「美亜・・・」そして「そばかす・・・」ですかね(ほぼ同じやんけ!)。ただし『ネプチューン』は未読です。
雀部 >  SFファンはすべからくロマンチストであると言うことで(笑)


[谷岡一郎]
1956年大阪生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、南カリフォルニア大学行政管理学部大学院修士課程修了、同大学社会学部大学院博士課程修了(Ph.D)。専門は犯罪学、ギャンブル社会学、社会調査方法論。現在大阪商業大学教授、学長。
著書に、『データはウソをつく――科学的な社会調査の方法』(ちくまプリマー新書)、『ギャンブルフィーヴァー』(中公新書)『ツキの法則』『カジノが日本にできるとき』(以上、PHP新書)、『「社会調査」のウソ』(文春新書)、『こうすれば犯罪は防げる』(新潮選書)等々がある。
[雀部]
1951年岡山生まれ。東北大学歯学部卒。谷岡先生は、歳も近いしハードSFがお好きなようだし、これはきっと話が合うに違いないと勝手に決め込んで、インタビューを申し込みました(笑)

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