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Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[風間]

稲妻6
『稲妻6』
> 坂本康宏著/菅原芳人装画
> ISBN 978-4-19-862646-4
> 徳間書店
> 1600円
> 2008.12.31発行
粗筋:
 友人の借金の連帯保証人になり、年収の何倍もの謝金を背負った主人公の橘尚人は、全てに疲れ愛する妻と子を残して死のうとしていた。
 一方、寄生虫をこよなく愛する医師那木奈緒子は、最近頻発している怪物化した人間が人を襲う事件の捜査に関わっていた。患者と呼ばれる被疑者の死体を解剖し、怪物化の原因を突き止めるために。


雀部 >  今月の著者インタビューは、昨年の12月31日に『稲妻6』を出された坂本康宏さんです。坂本さんお久しぶりです。
 前回のインタビューからいうと、一年半ぶりくらいですが、いかがお過ごしでしたでしょうか。
 この『稲妻6』は、前回のインタビューでお聞きした「借金取りに追われる子連れ変身ヒーローもの」ですよね。
坂本 >  そうです。じつは『稲妻6』は、6年前に完成していて、このたびようやく出版の運びとなりました。6年前の原稿を直すというのは「過去の自分」との戦いの様相があって、たいへん得がたい体験をしたと思っています。
雀部 >  過去の自分との闘いと言うと、具体的にはどういったところでしょうか。
坂本 >  『稲妻6』を書いたときの年齢は30歳前半、今は40歳です。当然、文章はうまくなっていると思うのですが、そのぶん、若さがなくなりました。今の技量ですべてを直してしまうということは、いい意味での若さをそぎ落としてしまうことに繋がる。
 このことにかなり苦労した次第です。
雀部 >  ラストなんかは変えられてはいないのでしょうか?
 いえ、あのラストシーンは大好きなので。
坂本 >  6年前に脱稿したときには、ラストに助けにきたのが、稲妻6かどうか定かでないという終わり方になっていました。そのラストもそれなりに好きなのですが、作中で主人公に対して辛くあたりすぎているきらいがあります。あまり、主人公を放置したようなラストは読後感がわるいのであのようなラストに変えました。
 なんか、僕の本は読むと元気がでる的なイメージがあるようなので。
雀部 >  元気もらえます!
 耐え難い現実世界から離れて、空想の世界に遊ぶことだけが生きがいの人にもお薦めできます。今はダメだけど、僕も私も“稲妻6”になれるかも知れない!
 現実逃避かも知れませんが、現実逃避で心が癒されるなら、おおいにけっこうだと思いますね。
坂本 >  誰もが、じぶんをとりまく環境に勝利をしたいと思っているんじゃないでしょうか。
 齢を重ねるとよくわかりますが、勝利というのは1対1の勝負とすると1/2しかそれを得られない。
 しかも、勝利というのは、いずれやってくる敗北への入り口にしかすぎません。
 だから、僕の書くものでは、『勝利以外のなにか』を読者に提示するように努めています。
 負けても、勝った以上のものを得られれば、それは勝利と同じことだと思います。
雀部 >  なるほど。日々の闘いの中で得るモノがあれば、たとえ負けてもというわけですね。
 ところで、なぜに『稲妻6』は“6”なんですか。
坂本 >  『稲妻n』(nは任意の数字)ということで、名前を考えました。そのとき、頭をよぎったのが『プラズマX』(パタリロ!に出ていたアンドロイド)でした。『プラズマX』→『稲妻6』はどうかと。それと、6という数字があまりフィーチャーされていないマイナーな数字であることも気に入りました。
 ほかにも『ワイルド7』→『子供7(チャイルドセブン)』などのお遊びをやってます。
 さすがに、サッカーゲームとかぶってしまうイナズマイレブンは遠慮させてもらいましたが。
雀部 >  そうか、“子供7”はそっちから来ていたんだ(汗)
 さて、今回はmixiの「坂本康宏コミュ」の風間さんにもインタビューに参加して頂きました。
 風間さんは、『シン・マシン』を読まれて結構クセの強い作品だと感じられたそうですが、どこがクセが強いと感じられましたか?
風間 >  まず世界観が結構特殊だったと思います。MPS症候群の設定、機械化汚染やそこから弾のいる世界の真実などですね。全部脳の中だとは思いませんでした。
雀部 >  では、どういったところが、風間さん的には楽しめましたか?
風間 >  MPSランニングの発想がかなり面白いと思いました。それでいて、ラストのアナライズとの戦いにおける、自らを犠牲にしてでも刺し違えた弾のカッコよさなどです。
 『シン・マシン』に限らず、坂本康宏先生の作品のラストの主人公達のカッコよさは大好きです。エピローグも涙を誘われました。そういう部分が個人的にはとても気に入っています。
坂本 >  シン・マシンは、たいへん思い入れの強い作品なので、楽しんでいただいて、光栄です。
 僕の作品は、基本的に浪花節ですから、読む人を選ぶんですが、風間さんには合ったようですね。
 カッコよさという点では、今回の『稲妻6』では特にこだわりました。
 やっぱ漢(おとこ)の道を書くうえでは、仮面ライダーははずせない要素かと。
風間 >  あんまり本編と関係ないけど坂本康宏先生はヒーローものの中では《ウルトラ》シリーズと《ライダー》シリーズと《戦隊》シリーズでは、どれが一番好きなのかは気になるところです。
 ちなみに個人的には《ウルトラ》が一番好きです。
坂本 >  選択肢を無視する形で、申し訳ないのですが、レインボーマンとか、怪傑ズバットとか、ピー・プロ作品のようなマイナー(?)ヒーローが大好きです。特撮の醍醐味は、製作者側の異様な熱気と、それを受け止めるため、たとえスペクトルマンが完璧ぬいぐるみみたいな怪獣を投げ飛ばしていても『心の目で見よ!』という見る側にも特殊能力を要求してくる点です。
 ちゃっちい特撮を心の目で乗り越えれば、公害人間になった親子三人の家族を、指令により殺さなければならないスペクトルマンのストーリーとかに戦慄できます。これは、他のドラマにはない特殊な熱気だと思います。
雀部 >  マイナーかどうかはわかりませんが、「アイアンキング」や「ミラーマン」とか好きでしたねえ。
 ズバットは、時々見てましたが、あれは見るからにマイナーな雰囲気でした(笑)
 『稲妻6』に戻りますが、主人公の尚人は、昔バドミントンをやっていたという設定――闘いのシーンにもちょっと関係ありますが――なのですが、坂本さんもバドミントン経験者なのでしょうか。
坂本 >  僕は、柔道と空手をやってましたが、球技のほうはからきしです。今回の主人公は、おだやかで、まじめで、面白みのない男という設定でしたので、やってるスポーツもそれなりじゃないとダメかなと。卓球とか水球では、狙っている感がでますし、サッカーや野球はなにか違う。そこで、甥のやっているバドミントンを選択しました。なかなかどうして、バドミントンも奥が深いんですよね。
雀部 >  カミさんがバやってます(笑)
 坂本さんが柔道をやられていたということは、最初のインタビューでもお聞きしましたが、空手もやられていたんですか。ひょっとすると、主人公の尚人だけでなく、稲妻9の柏木も坂本さんの分身ということは?
坂本 >  主人公とかは、大なり小なり分身ですよね。そういう意味で、もっか執筆中の『四二歳の正太郎』では主人公が女子高生なので、四苦八苦してます。
雀部 >  正太郎の娘さんが主役でしょうか。
 坂本さんの娘さんは……そうかまだ上のお子さんが小学生だからなあ。高校生になるまでは、まだそうとうあるな(笑)
坂本 >  やっぱ、僕の物語の主人公なので、サビでは熱いことを言わせたり、やらせたりするんですが。そこに女性としての理屈がないと難しいと思うんです。ただの義侠心で動く女子高生っていうのは、どうしても違和感がありますから。
 そこに悩む毎日です。
雀部 >  松任谷由美さんみたいに、変装して女子高生の生態を調べに行くとか(笑)
 『逆境戦隊バツ[×]』ではモデルがいるとのことでしたが、女子高生の場合は、実態調査をして現実に即した女子高生を描くか、知ってる女子高生をモデルにして書くか、それともこういう女子高生像が受けそうだと想像して書くか、あるいは混合するのでしょうか。
坂本 >  僕の小説を女子高生が読むことはあり得ませんから、実際にはあり得ない女子高生でけっこうだと思うんですよ。
 ただ、主人公なもんですから、その行動原理が、すとんと腑におちるものでなければならない。
 その点、僕の主人公の行動原理である義侠心ってのは、女子高生と相性が悪いんですよね。
雀部 >  女子高生に読んで欲しいなぁ。恵まれない男子高生にも愛の手を(笑)
 ヒロイン(?)の女医である那木奈緒子が、「人間なんて糞を入れた袋だ」という感慨を持つシーンがあったとおもいますが、この感想は坂本先生が農学部出身であることが関係あるでしょうか。というのは、農学部出身の藤田雅矢先生の著作に『糞袋』というのがありまして(笑)
坂本 >  別に農学部に関係はないと思うんですが……息をのむような美女が、寄生虫をこよなく愛している。
 インパクトはありますが、彼女がなぜそういう境地に至ったのかの動機づけには気をつかいました。恋人が研究していたというだけでは、動機として弱い。やっぱ幼いころになにかないと、無理でしょう。いろいろ試行錯誤し、何度かのマイナーチェンジを繰り返してああいうキャラになりました。
雀部 >  そうそう鍵を握る寄生虫(笑)
 主人公が稲妻6に変身(?)するのは寄生虫が大きく関与しているわけなのですが、このアイデアちょっとユニークで面白かったです。このアイデアはどういうきっかけで使われようと思ったのでしょうか。
坂本 >  仮面ライダーをコンセプトにする以上、カッコよくなければいけないと思いました。そういう意味で、平成ライダーに物足りなさを感じていたのも確かです。なぜ、平成ライダーが物足りないのか、よくよく考えてみたところ、浮かびあがってきたのが『孤独』というキーワードです。考えてみれば平成ライダーは周囲に自分の正体を明かしたり、タッグを組んで戦うことが多く、『孤独』となじみにくい存在でした。
 いっぽう旧ライダーは改造人間という十字架を背負っており、自らを異質なものと位置づけることにより、孤独への片道切符を買っていたんじゃないかと。
 ただ、SFとして書く以上、主人公が改造人間という設定は少々、食い足らない面があります。望んでいないのに、身体が不可逆な状態になるには、改造以外に考えられるのは病的な状態ですよね。そのとき、テレビでウオノエという寄生虫を見て、これだと思いました。
雀部 >  あ、このサイト見た記憶がある。そうか、このミニエイリアンか。
 旧ライダーとかキカイダーとかには、確かに孤独性を感じてました。そういえば、ウルトラマンも孤独でしたなぁ。坂本さんの描くヒーロー像からは、孤独性と同時に、非常にストイックなものを感じるのですが、なにか規範があるのでしょうか。
坂本 >  ヒーローというものが、『他者を助ける』という基盤のうえに存在する以上、ストイックにならざるを得ないのかなと思います。楽な道と、困難な道がならんでいれば、楽な道を選びたいのが人というものでしょう。
 困難な道をあえて選ぶ理屈こそ、ヒーローの真骨頂なのかなと考えています。
雀部 >  ですねぇ。
 怪獣退治一件につき幾らと契約して大金を稼ぎ、美女を侍らし高級車を乗り回してるイケメンヒーローというのは、ダメですか?(笑)
坂本 >  ダメです(笑)。
 ヒーローっていうのは、哀しくないと成立しないのだと思います。
 あまりに強すぎる完璧なヒーローっていうのは、悪と見分けがつかなくなるのかも知れません。
雀部 >  至言ですね。
 『稲妻6』のなかで、私は強い人間じゃないと言う尚人に向かって、聡明君が「だっておじさんは、僕たちの弱さを知っている。僕たちの悲しみを知っている。すべてわかって、お父さんを救おうとしてくれた。それは、ヒーローのすることだ」と言うシーン。しびれました。君は賢くてよい子だ。お父さんが居なくたって、君なら素敵な大人になれるぞ(泣)
坂本 >  自分と異質なものを敵とすることが、戦いモノのストーリーでは一番たやすいんだと思うんです。
 そういう意味で、僕のストーリーのなかでは、敵も同じ悲しみを内包し、ほんのすこしの違いで、敵と味方にわかれているという形をとっています。
 『善人と悪人が争うのなら、神様もどちらかの味方ができるが、世の中のほとんどの争いは、こうして善人と善人が、自分の事情で争っている。』と本編でも述べていますが。
雀部 >  それは、なんか身につまされちゃうなぁ……
 坂本康宏のWriter's Diary、面白いので読ませて頂いているのですが、坂本さんの中では
「トリフィド栽培セット」<「一日火星の大元帥体験チケット」<「ソラリスで死んだばあちゃんに会える券」<「死んでも謎の液体の中で脳だけになって生きられる券」
 という順位がついているのでしょうか(笑)
坂本 >  ああ、SF作家クラブの特典スタンプカードの景品ですね。あの日記を書くときには、いくつか考えたらそれでいいのに、十も二〇も思いついて、四つに厳選するのに逆に苦労しました。他に思いついた景品には、「額にノーマッド、体全体に虎のような入れ墨をしてもらえるエステ券」とか「未知の生命体が脳に寄生したとき、冴えたやり方が浮かびあがってくるカード」とか「宇宙の戦士パワードスーツ一式」あるいは「砲弾に乗って月世界旅行ができるパス」なんていうのもありました。
雀部 >  景品、欲しいです。SFファンでなくても欲しいですね。
 同じく「坂本康宏のWriter's Diary」ネタなんですが、システムキッチンのメーカーを決められるのに、メカゴジラのパイロットが宣伝しているステンレス製品に決めたというのには大受けでした(笑)
 私らの世代では「ウルトラQ」「ウルトラマン」の桜井浩子さん、「セブン」の菱見百合子さんあたりですね。
坂本 >  特撮ファンっていうのは、オタクのなかでも、立場低いですから(笑)。一度、特撮にでてくれた俳優&女優さんには、僕のなかでフラッグが立って、その後も応援してしまうんですよね。JJのモデルやりながら、ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発なんかにも出演してくれる加藤夏希さんなんか、ほとほと頭が下がります。
雀部 >  特撮ファンって、そんなに立場低いんですか? 人数的なものでしょうか。
坂本 >  人数的なものですね。やはりアニメファンなどは絶対的な人数が多いですし、未だに数が増えていますが、特撮ファンは漸減している傾向にありますよね。
 鉄道ファンやプラモファンなどは、倍増しないかわりに減ってもいかないような気がします。
雀部 >  特撮世代としては、それは寂しいです。
 特撮に出演された女優さんをモデルにした登場人物はこれまでに居ましたっけ?
坂本 >  書くときに、俳優さんや女優さんが演じたとき誰がやるかを考えることがあります。
 例えば、『稲妻6』では主人公は堤真一さん、那木は木村佳乃さん、箒は佐野史郎さんなどと、勝手に配役を決めてイメージしてます(6年前なので、配役が古いのは勘弁してください)。
雀部 >  え〜っ、堤さんでは格好良すぎる気が。あ、そうか。あまりにしょぼかったら、誰も見ないか(笑)
 お忙しいところインタビューに応じて頂きありがとうございました。
 これまでのインタビューの中で出てきた執筆中(執筆済み)の小説は、順調に出版されているようなので、『四二歳の正太郎』も楽しみに待っています。
 宇宙刑事物もお待ちしてます。『09(オーナイン)』もです(笑)
 あと、ヒーローものって他にありますかねえ……
坂本 >  宇宙刑事物は同業者(?)のタタツシンイチさんから激しく禁じられています(笑)。
 僕も、そろそろ『〜モノ』っていう枠組みを外れるものを書いてみたいと思っているんです。
 そういう意味で『四二歳の正太郎』は、『鉄人28号モノ』、『ヒーローモノ』とか『SF』という枠組みを大きくはみだした作品になりそうです。それが凶とでるか吉とでるかは、ドキドキですが。
 それと、3月に発売されるSF-JAPANに短編『電撃超人リョウガマン戦いの軌跡』という作品が載ります。
 例によって、坂本ブシ炸裂ですので、こちらのほうもよろしくお願いします。
>  宇宙刑事物は、先達者がいらっしゃるのか(笑)
 今回はお忙しいところありがどうございました。
 『四二歳の正太郎』は大いに期待できますね。SF-JAPAN誌も楽しみに待ってます。


[坂本康宏] 
1968年生まれ。愛媛大学農学部卒業。第3回日本SF新人賞の佳作に入選した『歩兵型戦闘車両ダブルオー』でデビュー。他にハヤカワSFシリーズ Jコレクション『シン・マシン』、『逆境戦隊バツ[×]』
坂本康宏のWriter's Diary
坂本康宏のWriter's note
[雀部]
坂本先生のブログを拝見すると、家の工事が始まったようですが、うちもGWの期間中に改築の話が進んでいます。普通に住むのだったら何の問題が無くても、ある程度の年数が経つとリニューアルしなくてはいけないのが、サービス業の辛いところ(笑)
[風間]
私、風間新一は千葉県在住の22歳。フリーター職をしながら、細々と小説を書き綴っています。ジャンルはSFが好きですが、それ以外のものも読みます。

いつか文句のつけようが無いほどに面白い小説を書き上げて、自分を小馬鹿にしてきた奴らを見返してやるのが夢です。
そのために、日々精進しています。

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