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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『シンデレラ 美女と野獣』
> 久美沙織著/山崎透絵
グリム兄弟、シャルル・ペロー、ボーモン夫人原作
> ISBN-13: 978-4046311368
> 角川つばさ文庫プリンセス・ストーリーズ
> 660円
> 2011.1.21発行
「シンデレラ」
 大好きなお母さまが亡くなり、新しい母を迎えることになった7歳のシンデレラの友だちは太った灰色猫だけだった。天国の母に書いた日記からわかる、ほんとの気持ちとは。
「美女と野獣」
 父の身代わりに野獣の元へと赴いたなった少女ベルの運命は?みにくい野獣の本当の心とは……

『グイン・サーガ・ワールド1』
>栗本薫・久美沙織・牧野修・宵野ゆめ著/加藤直之カバーイラスト/天狼プロダクション監修
>ISBN-13: 978-4150310325
>ハヤカワ文庫JA
>660円
>2011.5.15発行
外伝三作同時連載
収録作:
「星降る草原」久美沙織著:草原の民たちの愛憎を描くミステリロマン
「リアード武侠傳奇・伝」牧野修著:ノスフェラスに暮らすセム族の冒険譚
「宿命の宝冠」宵野ゆめ著:沿海州レンティアの陰謀劇
「ドールの花嫁」栗本薫著:幻の外伝
「エッセイ いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女――中島梓という奥さんとの日々――」今岡清著

雀部> 『竜飼いの紋章』で、久美沙織先生に最初にインタビューさせていただいてから、はや10年。
 それから何度かインタビューをさせて頂いたり、久美先生が待望のお子様を授かったり、色々ありました。今回、角川つばさ文庫から、『シンデレラ 美女と野獣』を出されたのは、やはりお子様と関係があるんですか。
久美>

 そうですね、それもなくはないですね。
 娘がまだ赤ん坊のころ ちょうど、版権切れで500円ぐらいのDVDがドッとでたので、ディズニーの大昔のシンデレラやらバンビやら購入して見せていたところでした。

 シンデレラは、私自身がこどものころ、最初に、「家」で見たカラーアニメだったかもしれません。家といっても、よその、お金持ちのおうちなんですけど。カラーテレビがあって、おとなたちがおしゃべりしてる間に、たまたま放映していたんでしょうねぇ、くいいるようにみていたのが、シンデレラだったのね。

 なんてスゴイ素晴らしいものだっただろう! と思っていたのが、おとなで、しかも実作者の立場で、こどもが見たがるのにつきあって、何度もなんどもなんども見せられているうちに……「なんじゃこれ、つっこみどころ満載やんか」と(笑)

 それと、担当してくださった編集のかたが、なんというか、メチャつぼなんですね。わたくしめにとって。
 もう何年も前に、『MOTHER』を復刊させてくれませんかっておっしゃってくださってきたかたでね。それは任天堂さんとか糸井さんとかいろいろあって、某新潮社でオンデマンドもでてるから無理だったんですけど、でも、もともと、「あこのひとは、わたしの小説のこーゆーとこが好きでいてくれるんだなあ」って、お気持ちが嬉しかったし、信頼感があったのね。
 そのかたが、会社ごと、ぶっちゃけアスキーですけど、角川さんに吸収? されて、んで、こどもさん向けの新書というかノベルスというかああいう部署になったのね。んで、「なにかやりませんか。シンデレラどうですか」っていわれて、「えーっ、そりゃなんの冗談よ、わはははは」とかいっているうちに……なんか気がついたら。

雀部> いつのまにか「シンデレラ」を書くことになっていたという(笑)
 その「シンデレラ」なんですけど、読んでみたら、ありゃま本当はこんなにシビアなお話だったんだと(驚)
久美>

 だって、虐待で搾取で継子継母の関係性の話なんですもの。シビアじゃなく描いたら、それはごまかしですよ。センス・オブ・ジェンダー賞の候補にして欲しいですッ!(笑)

 でもね、日本の「おしん」とかと比べると、ディズニーのシンデレラは、ほんとうのところ、ちっとも可哀相じゃないし、ぜんぜんミジメっぽくないんですよね。
 屋根裏とはいえ、日本人だったら一家で住んでそうなぐらいの素敵なひろい個室をもってるし(笑)なんかセリフ的にはすんごい働かされてるみたいだけど、所帯やつれしてないし、とうていひとりでは不可能な分量の家事をこなさせられてるはずなのに、鼻唄まじりでたのしそうにお掃除しているし、ベルで呼びつけられても、「はいはーい、いまいきますからー」って、アタマにお茶セットのっけて持ってっちゃう、という態度。

雀部> そういえばそんなシーンもありましたねえ。
 ご苦労された点はどこでしょうか。
久美>

 それはまずなんといっても、ディズニーのあの「誰もがしってる名作」にツッコミをいれるという暴挙を、はたしてやってもいいのかどうか、それが単なるイヤミじゃなく、きちんと本歌取りというか、特にこどもさんに呼んでもらう意味があるものになるかどうか、考えたとこですね。

 それでもやろうと決めたのは、「すくなくともこの設定だけは演出の都合とかじゃなく、ぜったいにへん」というところがあったからです。

雀部> そうなんですか ← 全然わかってない(恥)
 “絶対に変”なところって……
久美> ビビデバビデブーするおばちゃん妖精は、いわゆる「フェアリー・ゴッドマザー」、直訳すれば、「名付親」ざましょう?
 シンデレラっていうのは、「灰だらけ」つまり「バイキン」「キショイ」みたいな蔑称なのだから、少なくとも、このおばちゃんはあの子をシンデレラって呼ぶはずがない。呼んではいけない。
 もちろん、王子さまにだって、シンデレラじゃない「真実の名」をあかすべきだ。王族と結婚するのに偽名つかっていいわけがあるか! みたいな。
雀部> あ〜、はいはい(汗;)
久美> でも、シンデレラはシンデレラで有名で、うちのムスメみたいなちいさな女の子にとっては、「シンデレラ=素敵なおひめさま」であこがれの名前になってしまっている。これをいまさら壊すことはできない。
 写楽じゃないけど、正体というか、本名はわかんない。
 この「謎」というか、「齟齬」をどうするか。
 そこがチャレンジでございました。
雀部> それで、灰色猫のエピソードを持ってきたんですね。
久美> むふふふ。
 はい。ノーヒントで、あの部分で「そうか、いわれてみればそのとおりだ、これはやられた!」と思ってくださるかたがあったらうれしいです。
雀部> 孫に読ませよう(読んでやろう)と思うのですが、想定年齢層は何歳ぐらいなんでしょう。
久美> うーん。六歳ぐらいからかな?
 ただ、シンデレラがひどい目にあいはじめるのが七歳ぐらいの設定なので、それにあんまり近いと、ちょっとホラーかも。
 あれを読むだろう小学生ぐらいの女子のみなさんには、「おかあさんを大切にしよう!」(笑)と、思ってもらいたいです。
 男性で読まれるかたは少ないと思いますが、家族を、特に、奥さんを大事にしてあげてください(爆)だって、いちばん悪いのは旦那さんなんだもの。
雀部> シンデレラのお父さん?
久美>

 そうです。主犯です。このひとが「きちんと」していれば、そもそもなにも問題はおこらないはずだったんです。そうすると、シンデレラというおとぎ話がなかったことになるんですが(笑)。

 家庭内の問題から目をそむけたいあまりにシゴトに燃え、「養ってやってれば」文句はないだろう、というタイドは、これはもう。
 これからの男性は、家族に対して、愛と情熱がないと。
 なんだか、シゴトも家庭もって、一時のスーパーウーマンみたいですが(笑)。

雀部> う〜ん、男なんて女性がその気になれば、すぐに改善されると思うんですが(爆)
 男性目線でいうと、「美女と野獣」のベルのお父さんのほうが問題ある気が……
久美>

 ああ、そうですねぇ。あのひともねぇ、古風なおとうさんですね。
 三人姉妹のうちひとりだけアカラサマにヒイキするっていうのは、親として、とても良くない態度ですね。寓話のたぐいでは、たいへんありがちですが。

 でもって、親子でも、きょうだいでも、どうしても、生まれながらの相性ってのはありますよねぇ。
 モノカキと担当さんでも、強烈に、あるんですねぇこれが。
 なぜかそのひとから電話がかかって来る時にかぎって、テンプラあげてるとか、ラーメンがいま煮えたとか、たまたま犬の散歩にいっててその日唯一いない時間帯だったとか、「よりによって何故狙ったかのようにこのタイミング?」ってひとがいるかと思うと、 たまたま、電話のそばをなにげなく通りかかった時にちょうどかかってきたとか、用事があって連絡しなきゃと思ってたらちょうどメールくれたとか、そういうひともいるんですよねぇ。

雀部> たしか堀先生が、かんべさんに関してそういう事を書かれていたような。かんべさんの観察力と洞察力は凄いと。
 ちょうど先月、『ヒプノスの回廊』『グイン・サーガ・ワールド1』のブックレビューをしました。
久美> 拝見しました〜!
 たいへん興味深く。
 なかでも、未発表原稿の枚数が衝撃的でございました。
 あとどんだけ出るんでしょうねぇ、中島さんの「新作」。
雀部> 今回《グイン・サーガ》のシェアワールドものが出るというので、どんな本になるのだろうと、心待ちにしていたら、三人のうちのひとりがなんと久美先生じゃないですか。これはうれしい驚きでした。
 いったいどういう経緯で、久美さんの元に依頼が来たのでしょうか。
久美>

 経緯ですか……?
 それはわたし自身には、正直、よくわからないですねぇ。

 早川書房の社内事情というか、天狼プロあるいは今岡さんとの関係というか、なんかそんなほうというか、ヤーンの、あるいは、ドールの導きってやつかもしれないですね。

雀部> ドールの導きに一票!(笑)
 最初にお話があったのはいつ頃なんでしょうか?
久美>

 去年の、たしか夏の終わりぐらいです。
 グイン世界でシェアワールドものをやりたい、とりあえず、まず雑誌掲載で一回100枚の短編を四つ、あわせて一冊、という、「正伝」を踏襲したスタイルを考えているが、やって見る気はあるか、どうか、と、打診をうけました。

 ちなみに、どなたなのかはいまだにまったく存じませんが、依頼されたものの、丁重におことわりになられたかたもあったようです。

 で、どの時点かはわかりませんが、編集部のほうから久美めの名前をあげてどうだろうとご提案いただいたところ、今岡さんも、ご賛同くださった、と、うかがいました。

雀部> 多くの熱狂的ファンがいる100巻を超えるシリーズだから、難しさも格別でしょうね。どういうお気持ちで依頼を受けられたのでしょうか。
久美>

 ええ。まあ。……軽くパニック状態に陥りかけましたですね。

 最後に中島さんにお目にかかった時のことや、メールでご連絡してお返事をいただいた時のことなど、いろいろ、それこそ走馬灯のように思い出してしまい。
なんかぶわっと涙目になってしまって。

 正直、無理だろう、とも思ったんです。
 実は、グインは、最初の数冊と、『七人の魔道師』ぐらいしか読んでいませんでしたから。
 『六道が辻』とか、『天狼星』とか、『マヨテン』とかはわりとおっかけて読んでたんですけど。

雀部> ありゃま(笑)
久美>

 また、中島さんには、直接ていねいに指導してらしたお弟子さんがたも大勢いらっしゃるし、グインそのものにも、全国にさまざまなファンクラブがあり、天狼プロがあり、お芝居やアニメもある。長い年月の間に、おおぜいのかたが熱烈にかかわってきている。
 たとえば、もとは一介の読者だったのに、グインがやりたいばっかりに早川書房に入社して、みごと担当さんになって、地図とかいろいろ完成させたかたもおられたりしますからねぇ。

 そんなひとたちのほとんどに、きっと「えっ、久美沙織? ぶーーー!」って、親指を下にして言われるに違いない、きっとさんざんに叩かれていじめられるに違いないって、もう想像しただけで恐ろしくて、そーとーびびりました。

雀部> やはり最初はお断りになろうと思われたのですね。
久美>

 これは、ことわるのが順当だ、「わたくしめごときにはとうてい無理でございます」って謙虚にいうのが正しい、と、そう思いました。

 しかし……

 なんちゅーか、そう思うかたわら、ビミョーに反骨というか、ひねくれ根性というか、「やりたい、やりたい、ぜったいやりたい」って気持ちもでてきちゃったんですね。
 他の誰にもやらせるもんか、こいつはオレのもんだー! みたいな?

 ふと考えてみれば、そもそも『MOTHER』だの『小説ドラゴンクエスト』だの、わたし、「ひとさまのおふんどしでスモウをとらせていただ」いたら、ウケるじゃん! とか。

雀部> びびった反面、プロ意識を刺激されたと。そういえば、『MOTHER』と『小説ドラゴンクエスト』は、いまだにファンの方たちから評価されてますしね。
久美>

 ありがとうございます。おかげさまです。感謝しております。

 そして商売事情を申しますと、実はですね、その夏というのが、わたしにとっては、ものすごく、どん底の夏だったんですね。

 やる気まんまんで進行していたしごとが、続けてふたつも、とつぜん、空中分解してしまったところで。

 ひとつは、まぁ、わたしのワガママです。声をかけてくださった担当さんと、イザしごとをはじめてみたら、どうも、うまくいかなくて。担当さんが「ここはもっと、こうして欲しい」と、要求、というか、提案、アドバイス、してくださることが、わたしが、やりたくもなければ得意でもないことばっかりで。プロだから、ご指示ご依頼にあわせてちゃんとやれるはずだ、やろう、と思うんですが、そうすると、自分が壊れてしまいそうになりまして。
 ……まるで離婚の理由ナンパーワンの「性格の不一致」みたいな話ですから、これはいわば自業自得です。

 もうひとつは、あるプロジェクトに関わっていたんですけれども、中心人物のかたのご体調が突然、悪くなってしまって。 
 それが上の「性格の不一致」のシゴトを投げ出してでも、こちらに全力投球することにしよう! と決めたばっかり、という最悪のタイミングで。
 でも、誰にもどうにもできない事情ですから、なおさら、困りました。こちらは、「回復なさりしだい、再開しよう!」と言われてるんですが、とりあえず、いつどうなるかわからない延期状態で。

 こんなことが、続いたものですから、
「ああ、もしかして、小説のカミサマは、もうわたしには、『書くな!』といっておられるの?」
 って、ちょー落ち込んで、涙ぐんでいたところに、突然いただいたお話が、シンデレラやらない? だったり、グインやらない? だったりしたんですね。

 なにか、よほど巨大な「本歌取り運」がめぐってきてるのか? と。

 で、「中島さん、反対なら、お願い、いまそういって! 夢にでてきて叱って! ほら、この水晶を割ってみせて!」って、マジ祈りましたです。
 途中までやってやっぱりだめでまた中断なんてことになったら、こんどこそ、ほんとうに立ちあがれなくなるかもとマジ思ったので。

 ちなみにうちの旦那さん(注・波多野鷹)はグインのほんとの熱烈ファンで、ずーっと、最後まで、出版されるその都度、新刊をちゃんと次々に読んでいたんですね。

 だから、夫がそれだけ愛していたものに関わることを許されるというのは、たいへん光栄だ、という気持ちとか、「しかるべくしてこうなったにちがいない」みたいな気もしなくもなかったんです。

雀部> そういえば旦那さん、スカさん(草原の黒太子さま)に似てらっしゃるんですよね。
久美> (ちいさな声で)そ、そ、そうなんです(ぽっ)。ひいきめだと思いますけど。そう思うのはわたしだけかもしれないんですけど……若い頃はいつも全身黒ずくめでしたし。蓬髪で、髭で、痩せ型で、馬乗りで、呼び名のひとつが『南の鷹』ですし。
「ひょっとして中島さん、あなたをモデルにしたの?」ってきいたことがあるぐらいです。
 本人は「それはない。中島さんにはじめてあったのは、スカールが登場してずいぶんたってからだったし」って言ってました。
「俺はスカールほど陰険でも傲慢でもエゴイストでもないぞ!」とも言ってましたです。
雀部> そういえば、旦那様のお姿、最初のインタビューの記事からリンクしてます。
 旦那さん、乗馬も得意なんですね。
久美>

 そう、馬のことも、「やりたい」「できるかも」と思ったひとつの契機です。

 スカさんに大きくかかわるグル族は馬を育てるのが得意な遊牧民ですから。
 これまた、偶然なんですが、ちょうど、去年、そのオファーを受けるまでの半年ぐらい、我が家ではかなりの頻度で馬にかかわるチャンスがありました。

 ご近所に旦那さんがこどもの頃からおつきあいのある乗馬クラブがあるんですけど、娘が赤ちゃんすぎるうちは行けなかった。それが、まあまあ大きくなったので、遊びに連れていけるようになった。
 ロビンさんというお爺ちゃんポニーをおかりして、朝のお散歩して、道草たべさせてあげて、保育園まで乗ったままいったりしたんですよ。
 また、望月町というところで、文化の日に草競馬があるんですが、レースにあわせて出場する馬の調子をあげるのに、旦那さんが、久々に、本気で騎乗をすることもありました。

 グイン正伝には、あの世界のほとんどありとあらゆることがそれはそれは緻密に書いてあります。食べ物とか、着るものとか、戦いとか、権謀術数とかに比べて、そういえば、馬に関してはあんまり詳しく書いてないな、と。
 グインがあまりにたくましくて重くて乗る馬がなくて困るとかぐらいで(笑)

雀部> あ、それ私も思ったことが(爆)>“重くて乗る馬がなくて困る”
久美> だから、どうせなら、たとえば、マーセデス・ラッキーのタルケス・シリーズとか、映画にもなったノンフィクションの『シービスケット』とかみたいに、馬ラブなものをかきたい、馬と密接にかかわっている草原の民についてそういうところから書くのならば、きっと、正伝のじゃまをすることなく、もしかしたら、プラスアルファする意味すらあるものだってできるはずだ! と思ったわけです。
雀部> なるほど。確かに乗馬のシーンは多いですね。乗馬といえば『竜飼いの紋章』も、乗馬みたいなもんですね。空を飛ぶけど(笑)
久美>

 あれはもう、旦那さんと付き合うようになって、動物がいっぱいいっしょにいる生活になって、いろいろ思うところがあったりしてできた作品なので……

 ドリトル先生の新訳が最近刊行されはじめたんですけど、小さいころ、あれ読んで、めちゃくちゃあこがれましたもんねぇ。最近はサラ(ドリトル先生の妹さん)の常識的な気持ちもわかりますが(笑)、うちは父の仕事がら、引っ越しが多かったので、キンギョとか以外はまず飼えなかったですから。
 いちばん好きだったのが、おりこうで勇敢な犬のジップで……
(いきなり号泣)
 すみません18年間いっしょに暮らした、白くてデカイのを、最近みおくったばかりで。
 『もののけ姫』のモロさまに、そりゃあもうそっくりで、そろそろ尻尾が二本になるんじゃないかと思ってたんですけども。

雀部> メチャは、久美さんの力でグインの世界を駆け回らせてあげて下さいませ〜
久美> メチャですか……いや白い犬をこれからだすのは無理です。
 そうでなくても、第一話の冒頭、黒い犬がいきなり出てきて、「延々と意味のわからない風景描写がつづくんだ」って怒ってるひとがいました(笑)2チャンネルかな。
雀部> ありゃま(笑)
久美>

 いや気持ちはわかります。

 たとえば、映画はじまってるはずなのに、やたらしずかで、なんの音もしなくて、なんの変化もなくて、なんの字幕もでなくて、カメラ延々とフィックスで、いったいなにがとりたいのかわかんないようなもんを延々みせられて……だと「なにこれ、意味わかんない! はやくなんかやってよ!」って焦れますもん、わたしだって。

 ウィンドウズがたちあがるぐらいまでの時間なら、しょうがなく辛抱強く我慢すると思うけど(笑)
 「なんですかこれ?」が、そうですねぇ、一分越えたら、やっぱ、リモコンとか、マウスに手がかかります。

 きっと文章に対しても、そういう感性を持たれてるかたが、おられるんでしょう。もしかするとけっこう少なからず。もっと短い時間でザッピングしたくなっちゃうかたが。

雀部> そういうもんですか。う〜ん……
 おっと、白くてデカイわんちゃんの写真も最初のインタビューのリンク先にありますね。
久美> ありましたか……(うるうる)
雀部> そうか、10年経つとはそういうことか。18年間家族同然だったんでしょうから、なおさらですよね。
久美>

 家族っていってもねぇ、犬なんてねぇ。なんにもしてくれないですよ。持ち出しばっかりです。散歩につれてかなくちゃならなくて、ごはん食べさせなくちゃならなくて、予防注射とかフィラリアのくすりとか飲ませなくちゃならなくて。
 してくれることといったら、ちょっと撫でさせてくれるとか、撫でたらシッポふってくれるとか、それぐらい。あ、ひとが来たら「誰かきたよ」って吠えるぐらいはしますけど。
 猫なんか、それよりもっとなんにもしない。

 でも、愛するって、そういう相手なんですね。
 なにか見返りをしてくれるから好きなんじゃなくて、ただ、もう、かわいくて、そこに居てくれるのがありがたくて、面倒をみさせてもらえることが嬉しい。
 
 メチャは三年ぐらい前から「いつ死んでもおかしくない」って言われていたし、亡くなっても、そんなにショックじゃないかもって思ってたんです。チャイを愛したほど愛してた自覚はなかったので。
 
 でも、居なくなった次の日、夜中に、ふと目がさめて、真っ暗な家の中を、ちょっとお茶でものもうかって台所まで歩いていく時に、ああ、もう、どんなに油断してもぜったいにメチャを踏んづける心配はないんだと……なぜか、じゃまなところ、たまたまひとが通る先にドデーっと横になってて、足にひっかかるやつだったんで……思ったら、ぼろぼろぼろぼろ涙でてきてとまらなくなって。

 不思議ですよね。
 犬や猫は、なんで人間になつくんでしょう? 
 馬なんか、なんで人間をのせてくれるんでしょう? なんであんなに早く、あんなに遠くまで、あんなに重たいものをひっぱったりして、働いてくれるんでしょう?
 きっと、何万年もかけて、遺伝子の中に築いてきた、愛情とか、信頼関係があるんですね。
 ただ、ほとんどの動物は、ヒトより、はやく人生を駆け抜けてしまう。

 その点、竜は、ひとより長生きしてくれそうなので安心です(笑)食用にされなければ。

雀部> 竜って食べられましたっけ?(笑)
 一般的に、鱗って固そうなイメージが。
久美> あ、ウチの……じゃなくて、フュンフのファームでは、「食用竜」も生産していますよ。ちっちゃいころのフュンちゃんは、自分を可愛がってくれた「おかあさんみたいな」竜を食べなきゃならなくなって、ちょっと悩むんです。でも、空腹と味覚に負ける(笑)。
 そもそもあの世界では、爬虫類と哺乳類の間みたいな架空の生き物を「ドラゴン」と総称していて、シッポくんみたいな乗用、つまり、「飛べる馬タイプ」以外に、もっぱら食用の、牛さんみたいなのが、ちゃんと別にいるんですよー。
 もっぱら愛玩用のちっこいのも。それぞれの種類にあてた学名?もどきのルビがイミシンなので、お手持ちのかたは、確認してみてくださいませ。
雀部> おっと、『竜飼いの紋章』での話でしたか(汗;;)
 さて、進捗状況はいかがでしょうか。
久美>

 第二話の第一稿を入稿して、詳しいかたがたに、正伝や外伝と設定などが矛盾しないかどうかなど、細かく詳しくチェックしていただいて、これからナオシにはいるところです。
 最初の時は迷いやら緊張やら怯えやらで、地に足がつかないというか、ちょっとつつかれたら泣いちゃうぞというか、肩にちからはいりまくってガチンガチンになってたと思うんですけど。

 最近は「草原」にいくと、心が安らぐというか、なんかとってものびのびとしちゃって、楽しくて、むしろ現世に戻ってきたくないです。
 某担当さまに、「この調子では、あと二回で完結するのか心配だ」と看破されてしまいました。そのとおりです。はじめる前に考えていたこと以外のことが、かいてみたら、どんどこどんどこ出てきてしまって。
 こんなカラダにしておいて、たった四回なんて、ひどい、寂しすぎる! といまからもう悲しくなってます。
 中島さんが、100巻書いても、外伝を書いて、お芝居も書いて、それでもぜんぜん終わらなかったこと、終われなかったこと、よくわかります。
 いくらでも書けるし、書くことがあるし、書きたくなっちゃうんですね。

雀部> 思考回路が、《グインサーガ》用にカスタマイズされてきたんですね。
久美>

 腸内細菌が、ヨーグルトいっぱいたべると善玉にいれかわる、みたいなことが、脳みその中でおきた、おきてる、のかもしれません。

 自分のかいたグインの原稿をひさしぶりに読み返すとなんだかところどころ、「え? わたしこんなこと、書いたっけ?」なところがあるんですね。誰もさわるわけないのに。誰か、ここ、わたしが知らないうちに書き足してない? みたいなとこが。なんかね、自動書記してるみたいなんですね。

 本来、シェア・ワールドというのは、架空の世界の設定だけを共通にして、キャラとかエピソードは自由にする、それぞれの作家の独自の「らしさ」をバリバリに出して、なんでも好きなように書くべきものですよね。
 共通のOSで、いろんなソフト走らせましょう、みたいな。
 たとえば、クトゥルフ関係みたいに、設定だけ共有して、あとは好きにそれぞれご勝手に、みたいな。

 今岡さんも、栗本薫モドキが欲しいんじゃない、あの世界で、なんでも好きに遊んで欲しい、っておっしゃっておられました。

 できることならば、そうしたいし、そうするつもりだったんですが……どうもねぇ、かなりひっぱられてます。

 もともとわたしは「小説のかみさま」が降りてきてくれないと書けないタイプなんですが、今回は、かみさまが中島さんも一緒につれてきてくれてしまうのではないかというか。中島さんのふりをしているキタイの悪いやつに憑依されてるんじゃなければいいんですけど。

雀部> キタイの魔道師じゃなくて、大魔道師イェライシャが憑依(爆)
久美>

 たとえば、カラオケで桑田圭介さんの曲を歌うとなると、どうしてもみんな「ああ」なるでしょう。ちょっとあんな感じの自覚があって。

 で、先の今岡発言を考えて、不安になって、これでいいのか? まちがってないか? って自問自答したんですが。

 ものまね芸人さんたちがなさるのは、誰かスターのかたの「本人らしさ」の抽出とデフォルメですよね。で、真似されたかたが、怒るようなかたは、生き残れない。真似してくれてありがとう、おもしろかったよ、っていわれるようでなきゃいけない。それは、あるいは「発掘」かもしれない。創造するというよりは、ずーっとそこにあって隠れていたものを、みつけだして、ほりだして、きれいにして、展示する、みたいな。それはそれで、クリエイトとは違うかもしれないけど、単なるニセモノであることのマイナスを補う、価値だってあるはずだ、と思う。思いたい。

 山田康夫さんが亡くなられてから、クリント・イーストウッドの吹き替え声をアテるかたは、山田康夫さん「っぽく」やるじゃないですか。それは、うまくやろうとか似せようとかじゃなくて、もうそれが、みんなの期待する日本語でしゃべるクリント・イーストウッド「らしさ」だから、だと思うんですね。

 ファンのかたがたに、できるだけグインらしい「まだ読んでない話」を届けたい、やるべきことはそれだ、と、思って書いてみたら、なんかこんなふうになってしまってます。

雀部> なるほど、その例えよくわかります。
 そういう方向性で書かれていらっしやるんだ。
久美>

 もしかすると、グインは、まるぺ(ペリー・ローダン)方式、あるいは、サザエさんのアニメみたいに、どんどん増やしちゃっていいものなのかもしれないなぁ、というか。あくまで正伝や、中島さん自身がお描きになった外伝とかと矛盾しない……大きく矛盾しすぎない範囲で、ですが。
 「中断した物語」ではなくて、「終わらない物語」にするということが、中島さんがいちばん望むことかなぁって。
 
 
 こないだトレヴェニアンの『シブミ』から派生したドン・ウィンズロウの『サトリ』がでましたよね。
 ウィンズロウはずっと東江さんの文体で読んでたので、最初、正直いって、なんか違和感あったんです。トレヴェニアンは大昔に読んだきりで忘れてたんですけど……今回の作品は、ウィンズロウじゃなくて、二代目トレヴェニアンなんですね。上巻の最後のほうなんか、ものすごい迫力で、ああ、ここは確かにこうじゃなくちゃ! って。黒原さんは、そういえば、コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』の翻訳のかたなんですね。たぶん原文のテイストも、ケアリーものとかと違うんだろうなぁ、っていうか。

 いやつまり何がいいたいのかというと、トレヴェニアンっていうのは、ものすごく人工的な作家というか、生活する人間としての正体はもちろん別にあったけれど、何作か、素晴らしいの作品を書くためだけの「かりそめ」の人格みたいなものをあえて設定して、それを使いきったひとだったじゃないですか。
 それを、ドン・ウィンズロウが今回、「二代目襲名」した。

 なんか「グイン作家」にもそういうのがありかもしれないっていうか。
 あるいはせめて、彼岸の中島さんから「グイン部分だけ」引き継いで描く、作家というより、翻訳家みたいな、そんな作業をするつもりでいたほうがいいのかもしれないなというか。

 中島さん自身が、グインの世界は書く前からたしかにそこにあって、自動書記みたいに、時間と体力さえあればいくらでも書ける、ただそこにあるものを文字にうつしていくだけだとおっしゃっておられました。
 
 それって一種の翻訳だと思う。
 あるいは、巫女さんがするみたいなこと。

 だから、中島さんほどうまくはぜったいにできないとしても、スタイルとして、そうであるということを意識して、そういうかきかたをしたいです。
 クリエイトするのではなく、たしかにそこにあるものを、この世にもってくるヨリシロになるような。
 そんなかきかたを。

雀部> なるほど、続編も期待できそうですね。
久美> 第二話好きです。書いてて楽しかったです。
 こんな幸福な体験をさせていただいて感謝しております(笑)
 最大の問題は、あと二百枚でちゃんとこのエピソードが完結するかどうかですう!


[久美沙織]
1959年、岩手県盛岡市生まれ。上智大学在学中に作家デビュー。フィクション、ノンフィクションを問わずさまざまなジャンルの作品を手がけ、ゲームやコミックのノベライズなども執筆する。おもな著作に『丘の家のミッキー』『MOTHER』『ドラゴンファーム』『ここは魔法少年育成センター』など多数。
ホームページ「くみくら」
[雀部]
「久美沙織オンラインファンクラブ」管理人。『ドラゴンファーム』を読んで久美先生の大ファンとなった管理人が立ち上げたサイトです。久美先生の半生記「久美沙織伝説」や「久美沙織資料室」「久美沙織新聞」なども充実。ただし、久美先生ご自身のホームページも出来たこともあって、最近更新してません(汗;)

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