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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『衛星軌道2万マイル』
> 藤崎慎吾著/田川秀樹絵
> ISBN-13: 978-4265075065
> 岩崎書店《21世紀空想科学小説》シリーズ
> 1500円
> 2013.10.31発行
 月面で生まれ宇宙で育った石丸真哉は、12歳の見習い宇宙漁師。年代物の宇宙船〈彗星丸〉の乗組員だ。〈彗星丸〉の仕事は、宇宙空間に泳ぐデブリマグロやデブリカジキを獲り、それを地球で売ってお金を稼ぐことだ。
 ある日いつものようにデブリマグロを捕っていた〈彗星丸〉は、母船が事故に遭い宇宙を漂う脱出用ポッドから救難信号を受け取る。早速救助に向かう〈彗星丸〉だったが、ポッドに乗っていたのは、ローズとジャックという地球人のきょうだいだった。お金持ちの家で生まれた二人に、石丸はふり回されるが……。
『日本SF短篇50 IV』
> 日本SF作家クラブ編
> ISBN-13: 978-4150311261
> ハヤカワ文庫JA
> 960円
> 2013.8.15発行
「星に願いを ピノキオ2076」(藤崎慎吾作)収録
  当局の取り締まりから逃げ回っている違法な人工知能が思い付いた生き残り方は、新生児の脳をハックしてウエットウエア化し、自分自身をダウンロードするという方法だった。それには、主要なシステムだけでも一年以上、完全なダウンロードには三年近くかかるという人工知能にとっては気の長い計画だった。
  「クリスタルサイレンス」に登場した<ブレイン>=<ジーザス>のその後のエピソード。インタビュー本文に出てくるように、スタンダードナンバー・シリーズのようです。

雀部> 今月の著者インタビューは、2012年7月に光文社から『遠乃物語』を、2013年8月に角川書店から『深海大戦』、10月に岩崎書店から『衛星軌道2万マイル』を出された藤崎慎吾先生です。
 藤崎先生お久しぶりです。前回の著者インタビューが3年前、最初の『ハイドゥナン』インタビューは、もう8年前になるんですね。
藤崎> 大人向けの長編小説に限れば『深海大戦』で、ようやく10作品目になりました。相変わらずのローペースで、才能とパワー不足に苦しんでいます。デビューから15年目に入りましたけど、作品数から言えば、まだ新人レベルですね。
雀部> 『衛星軌道2万マイル』なんですが、刊行予定の題名を見たとき、あれっお得意の海洋物じゃないんだ、とちょっと思いました。で、実物の表紙を見たら、何だ?で、読み始めたら、なんと!でしたよ。
藤崎> あの表紙は、確かに何だ?でしょうね。開くとまた「宇宙漁師」とかいう、わけのわからない言葉が出てくる。
雀部> 「宇宙漁師」は勘の良い小学生なら表紙から見当が付くと思いますよ。それより表紙画の円盤型をしたクジラのほうが、??でした。イカはまだわかるんですが(笑)
藤崎> イカじゃなくてタコです。ちゃんと触手は8本だし。
雀部> げ。ホントだ。本文の方にもデブリダコ出てきたのになぁ(冷汗笑;)
 表紙画は、敢えてレトロ感を出してると思うのですが、藤崎さんからの要望なのでしょうか。
藤崎> いえ、ほとんど田川秀樹さん(イラストレーター)の趣味というか作風です。
 私はそれなりに気に入りましたが、中学2年生の息子には「ダサくね?」と言われてしまいました。小学生の反応はわかりませんけど、今の子はたぶん、もっと2次元っぽいのがいいんでしょうね。
雀部> 私も味があって好きですが。
 ラノベの表紙みたいなやつでしょうか?>2次元ぽいの
藤崎> そうですね。息子の書棚を見ると、ほとんどがマンガか、マンガっぽい表紙のラノベですから。もっともウチの子だけかもしれませんけど。
雀部> あ、同じです。うちの場合、長男は30超えているんですけど(汗;;)
 ラノベもSFものはたくさんあるんですが、ラノベとSFの間には超えにくい壁があるような気がしてます。
 そういえば、「星に願いを ピノキオ2076」の題名を見たときに、童話かなと思ったのは内緒です(汗;) 孫が中学生くらいになったら、読ませます。
藤崎> あれは「スタンダードナンバー」シリーズでしたからね。マル・ウォルドロンの「レフト・アローン」、チック・コリアの「クリスタルサイレンス」ときて、最後はディズニーかよと思われるかもしれませんが、まあ、どれもジャズではお馴染みの曲なんで。
雀部> 「レフト・アローン」ってジャズの名曲だったのか。藤崎さんはジャズはそうとうお好きなのでしょうか。私は聞かないことはないという程度で(Perfect Jazz Collectionみたいな全集物は持ってますが)
藤崎> マニアじゃありませんけど、ジャズは好きです。若いころは、かなりハマっていました。部屋に閉じこもってステレオの前に腰を据え、何もせずただレコードに聞き入っていたような時期もあります。
 今はどんな音楽でも、携帯プレーヤーかカーオディオでしか聞きません。つまり移動中の暇つぶしです。なので重たい本格的なジャズとは、ほとんど無縁になってしまいました。軽いポップな「ジャズっぽい」音楽が中心です。
雀部> 私も、仕事中はBGMとしてスカパーのジャズのチャンネルを流してます。
 『クリスタルサイレンス』が出たとき、チック・コリアの「クリスタルサイレンス」を連想された人はWebでもかなり居たような気がします。BGMにしながら読むと良いのでしょうか。
藤崎> そうですね。私もあれを書いているときには、頭のどこかで鳴ってましたから――。ちなみにジャズを知らない人だと、けっこうな確率で「クリスタルサイエンス」とまちがえます。
雀部> (笑)>「クリスタルサイエンス」
 『衛星軌道2万マイル』には、宇宙冒険ものファンと海洋冒険ものファンを同時に取り込もうとする意図があったのでしょうか。
藤崎> いや、そこまでの意図はありませんでした。実は東野司さんからも「できれば海洋物を」と言われていたんです。そこで当初はその期待に添うようなものをと、構想を練っていました。だけど、うまくいかなくて時間切れになりました。
 一方で昔から温めていた「宇宙漁師」というアイデアが、子供向けにも使えそうだと思い始めたんです。それなら材料もある程度そろっていて、すぐに書けるし、潮の香りがする宇宙物ということで、東野さんにも何とか言い訳がたつかなと……。
東野> はい。藤崎さんには、シリーズ企画をしっかりご理解いただいた上に、さらにひとひねりしていただきました。いままでにないものができて……。お願いしてホントによかったです!
藤崎> あ、そう言っていただけて、ほっとしました。私も、いい経験になりました。
 ありがとうございます。
雀部> あら、また東野さん行っちゃった……
 藤崎さんは小学生の頃、何を読まれていたんでしょうか。私は、レッサーの『少年宇宙パイロット』とか、カポンの『なぞのロボット星』なんかの少年少女科学名作全集を読んでたんですけど。よく話題になる「合成生物ゴセシケ」の出てくる『合成脳のはんらん』(岩崎書店,'67)なんかは小学生の時には読んでません。
藤崎> たぶんSFは、ほとんど読んでいないと思います。朧げな記憶にあるのは『宇宙戦争』『タイムマシン』『透明人間』くらいなので、たぶんウェルズのシリーズか何かがあったのでしょう。夢中になって読んだのは「ファーブル昆虫記」「シートン動物記」「アルセーヌ・ルパン」「明智小五郎」なんかのシリーズだったと思います。
 あとは、いわゆる「偉人伝」でしょうか。親に押しつけられたのかもしれないけど、読書好きでしたから、それなりに面白がっていたようです。生き物が好きだったので、図鑑類もやたらに持ってましたね。
雀部> 「ファーブル昆虫記」「シートン動物記」「アルセーヌ・ルパン」「明智小五郎」(少年探偵団)なんかは必読書ですよね。あと「ドリトル先生」とかも。
 図鑑は、昆虫図鑑はすり切れるまで読んでました。小さい頃から昆虫図鑑を読んでいると大人になってから、むやみに虫を嫌がる人が減るんではないかと(うちのカミさんは大の虫嫌い^^;)
藤崎> 私も昆虫図鑑は、何冊もボロボロにしました。実物を見たことがないような虫の名前まで、よく覚えていたものです。それには親も感心してましたね。
 私の女房も虫は大嫌いです。だけど子供のころは、つかまえたトンボやバッタの脚を引き抜いて遊んでいたとか……その呪いか何かで、逆に今は怖くなったんじゃないかと言っています。
雀部> 遺伝子レベルで、そういう情報が埋め込まれてたりする可能性もあるのでしょうか。
 対象物を正しく知れば、むやみに怖がったりすることは無くなると思うんですけどね。
藤崎> 進化心理学者の中には、遺伝的な要因があると考えている人もいるみたいですね。つまりヒトが先天的にヘビを怖がるのと同じだと――。確かに毒があったり、病気を媒介したりする虫は、少なくないですから。
 そうなると知識があったとしても、怖がるのをやめるのは難しいかもしれない。現代では、もう適応的な反応じゃないはずですけどね。昔は命を脅かされたヘビも毒虫も、都会からはほとんど駆逐されてしまいましたから。
 恐怖すべき対象として遺伝子に刻まれるものは、今後、変わっていくかもしれません。
雀部> 遺伝子は、何を介して変容するんでしょうね。単なる適者生存だけでは弱いような気がします。何世代もの知識の集成が遺伝子を変えるとかしたら面白いんですが……
藤崎> 私もまさにそこが疑問で、生命は自らの進化を、ある程度自分でコントロールしているんじゃないかと思っています。自然選択がベースにあったとしても、完全にランダムな変異が起きるわけじゃなくて、大ざっぱな方向性や流れがつくりだされているというふうに。
 雀部さんがおっしゃるような「何世代もの知識(=情報)の集成」が、そんな流れをコントロールしていたとしても、おかしくはないでしょう。生命史40億年の間に進化が加速してきた理由も、それで説明できそうですし――。ただ問題は、その集成がどこに保存されているかということで、もちろん個体は考えにくい。エマノンのような人がいれば、別ですけど(笑)。
 そこで『ハイドゥナン』では「圏間基層情報雲(ISEIC)」理論なんてものを、でっち上げたというわけです。
雀部> エマノンは子供を作らないからなぁ(笑)
 そっか「圏間基層情報雲(ISEIC)」は、そういう方面にも応用が効くんだ。
 アニメ『プラネテス』の影響で、スペースデブリもかなり認知されてはいると思いますが、『衛星軌道2万マイル』の設定では、それにナノマシンが関与してくるのが面白かったです。それと「須田獏コーヒー店」等の言葉遊び。こっちは、なんか楽しんで書かれているような(笑)
藤崎> 最初は楽しんでましたが、だんだん苦しくなってきました。
 私にはちょっと病的なこだわりようがあって、たとえ言葉遊びであっても、いったんやり始めると何から何まで、それにしたくなってくるんですよ。だから須田獏に限らず、出てくるほとんどの固有名詞が、何かのパロディや引用になっている。大人が読んだって大半は気づかないだろうし、ましてや子供にはどうでもいいことでしょうけど……まあ、病気なんですよ。
雀部> 題名からして『衛星軌道2万マイル』だから、なにかあるとは思ってました。
 子供がそういう言葉遊びに気がついて、そこからSFの道にはまるというのが理想ではありませんか?(笑)
藤崎> そんなふうになればいいなと、ちょっとは思ってました。『衛星軌道2万マイル』を読んだ子供が大きくなって、ある日たまたま『海底2万マイル』や『白鯨』なんかを開いてみたときに、「あれ?」と首を傾げたり、デジャヴュを感じてくれたりしたら、しめたもんだと……まあ、ありえないでしょうけど。
雀部> 意外とあるかもしれませんよ。
 マンガとかアニメとかでSFやファンタジー系のお話に親しんでいた子供が、小学生高学年になり、たまたま《21世紀空想科学小説》シリーズを手に取り「あ、これが僕の好きなジャンルなんや」と初めてSFを意識するようになるというのはありますよね。 ← まあ私の場合なんですけど(笑)
 各地の学校の図書室に、ぜひ1セットは揃えて欲しいなあ。あ、母校の小学校には寄贈します。
藤崎> ぜひ、お願いします。書店には、ほとんど出回らないと思うので。
雀部> 対象読者層は、小学校高学年くらいだと思いますが、なにかメッセージはございますでしょうか。
藤崎> 私はSFというジャンルを、ことさらにアピールしたいという気持ちはないんですけど、世の中にはこんな小説もあるということを知って、読書の幅を広げてもらえればいいなと思っています。あとは、この本がきっかけで宇宙とか海洋に 科学的な興味を持ってもらえたら、うれしいですね。
[後編に続く]


[藤崎慎吾]
1962年、東京都生まれ。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサーなどをするかたわら小説を書き、1999年に『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)でデビュー。同書は「ベストSF1999」国内篇第1位を獲得。ほかの作品に『ストーンエイジCOP―顔を盗まれた少年』(光文社)、『鯨の王』(文藝春秋)、『遠乃物語』(光文社)、『深海大戦』(角川)など多数。
[田川秀樹]
1965年、広島県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、(株)オガワモデリングに入社しゴジラシリーズ等のミニチュア製作に携わる。1996年に退社後、イラストレーターに転向。以降、ファンタスティック映画祭ポスターやCDジャケットなど、多方面で活動中。2012年に初めての絵本『たのしいキリンのかいかた』(学研教育出版)を出版。
[雀部]
ジュヴナイルSFが意識して読んだ最初のSFだったような。小学生の頃「ナショナルキッド」とか「海底人8823」などで刷り込みを受ける(笑)

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