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Author Interview

インタビュアー:[雀部]


『何かが来た』
> 東野司著/佐竹美保絵
> ISBN-13: 978-4265075027
> 岩崎書店 《21世紀空想科学小説シリーズ》
> 1500円
> 2013.7.31発行
「父さん!」大きく呼んだ。二人の動きが止まった。ゆっくりと父さんが振り返った。首だけが動いた。首が振り返り、その動きにつながるように、肩が回って腰が回って…。まるで体の中にギアが入っていて、それが次々に連続して動いていくような、今にもキリキリとギアの音がしそうな動きだった。振り返った父さんがぼくを見た。確かにそれは父さんだった。父さんの顔をしていた。でも、父さんの目じゃなかった。

『百万の太陽』
> 福島正美著
柳柊二絵
> 岩崎書店
《SFロマン文庫》
> 680円
> 1986.1.30発行

『サンディエゴ・ライトフット・スー』
>トム・リーミイ著
佐竹美保表紙画
>サンリオSF文庫


雀部
>  今月の著者インタビューは、'13/7月に『何かが来た』(《21世紀空想科学小説シリーズ》最初の配本)を出された東野司さんです。
 東野さんお久しぶりです、『ProjectBLUE 地球SOS』の著者インタビュー以来ですね。
 って、毎回お久しぶりと言ってるような気がしますが(笑)、今回もよろしくお願いします。
東野
>  はい。お久しぶりです(笑)。よろしくお願いいたします。
雀部
>  会長業務ご苦労様でした。
 テクニカルライティング業界の教材みたいなものはもう出版されたんですか?
東野
>  あ、あれですね。はい、出ています。業界内ですが……。日本SF作家クラブの会長業務については、ありがとうございます。ほんとに、波瀾万丈の2年半でした。その上、アニマソラリスさんには、クラブ運営に対してご協賛いただきまして、ありがとうございます。あらためて、お礼を申し上げます。あ、何かまた会長モードになってしまいましたね(笑)。
雀部
>  会長職、ちょっと長めだったから(笑)
 この《21世紀空想科学小説シリーズ》の企画は、日本SF作家クラブ創立50周年を記念して、岩崎書店とのコラボレーションによって刊行されたとありますが、そういう企画が立ち上がったそもそもの経緯をお聞かせ下さい。
東野
>  SFWJ50(日本SF作家クラブ創立50周年記念プロジェクト)は、多方面に多様な企画を掲げていて、その中に児童向けに何かできないかというのがあったのです。でも、そこに誰も手をあげていなくて、空白になっていたということがあります。
 一方で、私自身、図書館で児童SFものが少なくなっている、いや、ほとんど見ないということが気になっていて……。また、一方で、ちょっとしたことから、2007年から創作集団プロミネンスと岩崎書店の主催による福島正実記念SF童話賞の授賞式パーティーにうかがうようになっていて、私自身が岩崎書店さんとはつながりができていました。
 そのような、いくつかの状況があったことで、そうか、ならば岩崎書店さんにSFWJ50企画を持ちかけようと、しかもそれは、クラブ会員の作家によるオール新作書き下ろしの児童SFシリーズはどうだろうか、と思ったわけです。
 で、2012年4月の福島正美記念SF童話賞の授賞式パーティーで岩崎書店さんにお話を持ちかけたわけです。そのおり、岩崎書店さんが興味を示してくださり、その場で編集長の松岡さんや岩崎社長とお話しできて、日を改めて、企画を詰めるということになったのです。
雀部
>  ということで、岩崎書店の松岡由紀さんにぜひお話を聞きたくて、ご参加頂くことになりました。
 松岡さんよろしくお願いします。
松岡
>  よろしくお願いいたします。
雀部
>  お忙しいところご参加ありがとうございます。
松岡
>  岩崎書店は、さきほどお話に出た「福島正実記念SF童話賞」を続けていることもそうですが、児童向けのSFシリーズをかなり意識して出し続けてきた出版社です。私自身も中学校の図書館の思い出は、弊社のSFシリーズを競って借りていたことでしたから、会社の書庫で懐かしい装丁に出会って感激しました。
 そのような思いを、今の子どもたちにも届けたい、できれば、その後大きく発展した現在の科学技術の上に成り立つ、今の時代の新しいSFを届けたい、と思っていたところに、東野さんからお話をいただきました。
 翌年の2014年が、岩崎書店の創立80周年であったことも、背中を押してくれたと思います。
雀部
>  おっと、そういえば「福島正実記念SF童話賞」。竹下龍之介君の『天才えりちゃん金魚を食べた』は、当時ものすごく話題になりましたね。こうして拝見すると、毎年200編以上の応募があるんですね。
 私は岩崎書店さんでいうと、《少年少女宇宙科学冒険小説》の世代で、『地球SOS』とか『死の金星都市』とかが好きでした。
 松岡さんは、お読みになった岩崎書店のSFシリーズのなかではどんな作品がお好きだったのでしょうか。
松岡 >  好きだったのは、やっぱり「タイムマシン」ですね。それと、「百万の太陽」で太陽が2つになって、暑さでアスファルトの道路で目玉焼きが焼ける、という話題が出て来たのを、なぜか妙に覚えていて、毎年夏に思い出すのです(笑)。
 その作者が福島正実先生だということは、岩崎書店に入ってから知りました。
雀部
>  うわっ、こんなところで『百万の太陽』(岩崎書店《SFロマン文庫》)の話題が。
 NHKのラジオドラマのノベライズで、お友達の杉野さんとFMラジオ番組を自主制作したんですよ。当時の音源も放送しました(NHKに了解取りました)。
 東野さんは、どこらあたりの作品がお好きだったのでしょうか。
東野
>  いろいろありますが、当時は出版社を意識して読んでいなかったのですが、今振り返ってみると、岩崎書店さんのものとすれば、「地球のさいご」とか「宇宙戦争」とかでしょうか。あ、成人してからでは、斎藤伯好さんの「モコモコネコが空をとぶ」ですね。今もスライド本棚の奥に保管しています。
雀部
>  「モコモコネコが空をとぶ」って、題名からして面白そう。探してみます。
 シリーズ全体の傾向というか方向性のようなものは相談されたのでしょうか。
東野
>  もちろんです。
 5月に岩崎書店さんにうかがいまして、松岡さんをふくめて、3名の方々と、シリーズの方向性や傾向についてディスカッションを行いました。そこで、児童SFシリーズとして、科学分野への夢を育むきっかけになるようなもの、子どもたちが「この先何が大事か」が分かるような世界、また児童文学の世界は社会性を背負わなければならないという観点から、そのような切り口があればよりいい……など、シリーズの世界観から具体的なテーマ、そして、小学校高学年から中学生をターゲットに、とくに男の子が読むような話、と決めていきました。
雀部
>  なるほど。
 「児童文学の世界は社会性を背負わなければならない」とは、具体的にはどういうことでしょうか?
東野
>  現実の社会問題を意識する、と私はとらえています。小学生から中学生を読者対象と考える以上、どんな形でも現実社会につながる世界を一般書を書く場合よりも強く意識して描かなければいけないと。そこに描かれた世界を通じて子どもたちは未来を生きるのですから。ディスカッションでは、東日本大震災が起こった以上、それがなかったかのような世界は描けないのではないか。このシリーズではそこまで意識した世界があればよりいいのではという話が出ました。ナウシカや福島原発事故の話題も出ました。
雀部
>  そこまで議論されていたんですね。
 論理的な思考方法への導きとかはどうでしょうか。私事で恐縮なのですが、SFを読むことによって演繹法や帰納法的な考え方が身に付いたと思っているのですが。
東野
>  もちろんです。児童SFだからこそ、よりそれは強く意識したいと、私自身思っていましたし、ディスカッションの中でも、このシリーズはファンタジーよりも科学的思考を養うようなサイエンスフィクションにしようということになりました。思考実験できるような土台作りも目指したいと思っていました。
雀部
>  やはりそうだったんですか。そこらあたりは読んでいて感じましたし、インタビューでも明らかですね。
 『何かが来た』は、分類するとすれば、ポストホロコーストもので、パンデミックものだと思いますが、《21世紀空想科学小説シリーズ》全体では、サブジャンルが被らないように調整はされたのでしょうか。
東野
>  はい。執筆メンバーを選ぶときに、この方にはこのジャンルでと考えながら選びましたし、執筆のお願いをするときにも、それを伝えて依頼しました。ジャンルは、それぞれ宇宙もの、植物もの、時間もの、生物もの、海洋ものなどと指定させてもらいました。もちろんこれはお願いであって、絶対に……というわけではありませんでした。ですから、書かれたものも、お願いしたジャンルで書いていただいたものと、それとは違うものになったものもありました。
雀部
>  藤崎先生の、宇宙空間を舞台にした海洋モノは凄い変化球だったですよね(笑)
東野
>  そうですねえ。その旨は、藤崎さんから直接ご連絡いただきました。なるほど、その手があったかと感嘆しました。
雀部
>  『ProjectBLUE 地球SOS』著者インタビュー時に“自立すること。親に頼らず、自分で考え、責任を取って行動すること。そうすれば、信頼できる大人は必ず現れる。そして、子供であっても世界を変えることができる。”とうかがいましたが、それは『何かが来た』でも同じように感じました。ま、今回は信頼できる大人は現れなかったわけですが、そこは意識して書かれてますよね?
東野
>  そうです。あのときに言ったことは児童ものを書くときには、私のテーマとして強く意識していることです。ただ、『何かが来た』は、最初にそれを意識したというよりは物語を構成したときにそうなっていたというわけで……。まあ、今回は無意識に意識していたということになるかもしれません。また、今回「信頼できる大人は現れなかった」ように見えますが、それは「マサ兄い」に託したということはいえると思います。
雀部
>  そうだったのですか。『ProjectBLUE 地球SOS』は、小松崎茂先生原作のアニメのノベライズということで『レトロフューチャー』感ありありだったのですが、『何かが来た』は、ポストエヴァで、少年達が世界を救う話になったのかとも思ったんですよ。
東野
>  あの少年達は世界を救ったのでしょうか? そのへんは私にもわかりませんが……。ただ、ひとつ、彼らは明らかに何かを変えるために踏み出したということはいえると思います。
雀部
>  現状を打破するために、自分たちで考えて行動したと。
 《21世紀空想科学小説シリーズ》総てが増刷されたとうかがったのですが、その後も動きはあったのでしょうか。
 私が買った1セットは、母校の小学校に寄付しました。校長先生から「図書費が少ないので助かります」と言われました。ちと寂しい。
東野
>  そうですか。全国の学校図書館のすべてに入ってほしいのですが……。シリーズに関しては、3刷りも順次出ていますし、全巻、電子書籍になりました。また、大活字本の話も出ています。
雀部
>  電子書籍にもなりましたか。それは朗報。
 児童書の世界では色々と評価され、年次レポートにも取り上げられたと聞きましたが。
東野
>  児童SF、しかもシリーズものということで、注目度は高いように感じました。雑誌『児童文学』の書評にも取り上げられましたし、ネットでも各作品が評価を得ていました。また、国際子ども図書館での平成25年度児童文学連続講座において、同館資料情報課長の西尾初紀氏が「少年少女SF小説全集の興亡」を講義され、そこで「今と未来を生きる少年少女達にSFの面白さを伝えようとする企画はもう途絶えてしまうのかと思われたそんな中」という言葉に続いて、シリーズが紹介されました。思わぬところで注目と評価を受け心強く思うとともに、やはりこの分野は期待されているのだということも強く感じました。
雀部
>  平成25年度児童文学連続講座、へぇっこんな講座があるんですね。簡潔にジュブナイルSFの歴史がまとまってますね。
 この講座の最後に出てくる『少年少女昭和SF美術館』の大橋先生にインタビューしたとき、“今、子供が読むジュヴナイルSFがなくなっている。というかライトノベルになっている”とうかがったんですが、本当なのでしょうか。
松岡
>  児童書の中では、(絵本より)読み物が売れないと、よく言われるのですが、その中でも「SFは売れない」というのは、ほぼ常識のようになっていて(笑)、「コアなファンしか読まない」と言われてきましたので、少し読者の間口を拡げようとしてライトノベルに向かっているように思います。
 でも、これからは、どのジャンルも「コアなファンしか読まない」と思うので、しっかり「コアなファン」がいるジャンルは、逆に可能性が出てくるように思いますね。
雀部
>  なるほど。まずそのコアなファンを育てていくことから始めないといけませんね。
 『何かが来た』の挿絵は、佐竹美保先生なんですが、東野さんが希望されたのでしょうか。私の大好きな短編集で『サンディエゴ・ライトフット・スー』(トム・リーミイ著・サンリオ)というのがありまして、この表紙画がまた素敵なんですが、これで佐竹美保先生の名前を覚えました。
 『洞窟で待っていた』は、著者の松崎さんのたっての希望で、横山えいじ画伯の挿絵になったようですが(笑)
東野
>  私も佐竹さんの絵はいくつも見ておりまして、この方にと思って、私から希望しました。ただ、ご多忙な方なので、受けていただけるか心配だったのですが、描いていただけてうれしかったです。
 最初に編集の方から、あがってきた佐竹さんの絵を見せていただいたときには、あの世界の有り様が見事に立ち上がってきて、私自身が「ああ、あの子たちはこんな世界で生き抜いたのか……」と、ある種の怖さを感じるほどでした。いや、ほんとによかったです。
雀部
>  表紙画は、ほとんどが緑の植物で、その中に小さく描かれた子供二人に背後から木漏れ日の光があたっていて、幻想的かつ何かを示唆しているようで良いですねえ。
 東野さん、今回もお忙しいところありがとうございました。
 色々お忙しいでしょうが、大人向けのSFも期待してお待ちしております。
東野
>  はい。一般向けも児童向けもがんばります。ありがとうございました。
雀部
>  岩崎書店の松岡さん、お忙しいところコメントいただきありがとうございました。
 福島正実記念SF童話賞の作品をぼちぼち集め始めてますので、また小学校に寄贈したいと思っております。
 SFが好きな子供達を育てるには、SF童話・ジュブナイルSFはぜひ必要だと思っていますので、当該図書の出版、引き続きよろしくお願いします。
松岡
>  ありがとうございます。
 科学の発展のためにも、「可能性」を考え続けることは大切ですし、それを思い描く力は物語の力だと思っておりますので、次の世代を驚かせる発想を届けていきたいと願っております。
雀部
>  それではお二人と、岩崎書店さまに大いなる敬意と感謝を表して終わりといたします。

[東野司]
1957年、愛媛県生まれ。横浜国立大学大学院中退。テクニカルライターを経て、86年「赤い涙」(SFマガジン)でデビュー。主な著者に「ミルキーピア物語」シリーズ、「地球SOS」(早川書房)「よろず電脳調査局ページ11」シリーズ(徳間書店)「電脳祈祷師」(学習研究社)、「展翅蝶」(エニックス)など。日本文藝家協会会員、日本SF作家クラブ第17代会長。
[雀部]
講談社の《少年少女世界科学名作全集》とか岩崎書店の《少年少女宇宙科学冒険全集》の世代です。昭和は遠くになりにけり。

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