星霊と呼ばれるAIと人類が共存する未来。人間のユウリとその配偶官の星霊アルフリーデは銀河の覇を争う宇宙艦隊戦に身を投じる。
『星霊の艦隊1』の冒頭第一章は、早川書房のサイトで連載公開されてます。同リンクに用語集もあります。
星霊と呼ばれるAIと共存するアメノヤマト帝律圏所属のユウリは、星霊国家アルヴヘイムと同盟し、A Iを差別する人類連合と戦う。
Amazonで、冒頭の試し読みが出来ます。リンクは下のアフィから。
ユウリらの活躍で、クロトス会戦に勝利した〈星霊枢軸〉は〈人類連合圏〉による新兵器開発を阻止すべくデイム回廊の攻略に挑む!
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スマホ等で書影・粗筋が表示されない方、インタビュー中に出てきた関連書籍の情報は、こちらから。
今月の著者インタビューは、10月に『星霊の艦隊 3』を出された山口優先生です。山口先生、ご無沙汰してます。前回のインタビューからだともう4年も経ったんですね。今回もよろしくお願いします。
おひさしぶりですね。よろしくお願いいたします。つい昨日のことのように思いますが、あっという間に時間は経ってしまうものですね。
歳を取るにつれて、さらに時間が経つのが早くなります(汗;)
『星霊の艦隊 1』が出た当時、毎月一巻で三巻続けて出ると聞いたような気がしてまして、Amazonでも3-1という表示を見た覚えがあります。それが、いま見たらAmazonでは、それぞれ“12-1,12-2,12-3”と記されていて、これは上手く行けば、3巻ずつ12巻出るということなのか!と思いました。
ちょっとそのあたりは分かりませんが、12巻のストーリーという構想で進めていたのは事実です。
4巻以降については、1~3巻の売れ行き次第と早川書房さんからは言われております。
それは頑張って貢献せねば(汗;)
この《星霊の艦隊》シリーズは、前回のインタビューの時最後ににうかがった「宇宙を舞台とした、人間と人工知能の共存をテーマにした作品」なのでしょうか。
ええ、そのとおりです。《星霊の艦隊》の構想は、原型となるものは前作『サーヴァント・ガール』の執筆直後からいろいろと練っていましたが、星霊という超次元人工ブラックホールをハードウェアとしたAIが存在し、そのAIの力で人類が超越時空と呼ばれる不老不死の世界に生きている、という設定は、2017年末あたりには固めていました。
そして、その人類の夢のような世界を成り立たせるAIは人類を遥かに超える知性体であるはずだから、その知性体の権利を巡る戦いも必ず起こるだろう、ということで、構想を練り、書き始めた頃でした。
尤も、当時は人間は星霊の制御する超次元人工ブラックホールの事象の地平面のホログラフィック回路で実行されるサイバースペースに住んでいる設定だったので、今と若干違っているのですが。
「星霊」のような超知性体は、いわゆる「ポスト・シンギュラリティ」の世界では一般的な存在ですが、こうしたポスト・シンギュラリティとスペースオペラを融合させたところに、本書の特色の一つはあるのではないかと思っています。
《星霊の艦隊》の特色というよりは、山口先生の特色でもあるような気がします。
『シンギュラリティ・コンクェスト 女神の誓約』(2010)でも扱ってらっしゃったし。
シンギュラリティという概念は、2010年代前半に急速に広まり、その後いったんは落ち着いた感があります。
ガートナー社の「ハイプ・サイクル」で言えば、黎明期、流行期をすぎ、今は幻滅期から回復期というところでしょうか。
最近は超大規模事前学習言語モデルを基盤とした様々な発展があり、言葉で内容を指定するだけで絵が描けてしまうという技術等が勃興し、AIが人類と同等以上の能力を持つとはどういうことか、それを踏まえた社会デザインとはどうあるべきか、ということについて、社会が冷静になって少しずつ現実的に考え始めた時期なのではないかと思います。
謂わば、人間とは異なる新たな知性としてのAIはどうあるべきなのか、どう人間の社会に迎え入れるべきなのか、ということです。
AIが絵を描いてくれるソフトについては、今まさに議論されてますね。回復期というか過渡期と言うべきか、まだどう対処して良いものか毀誉褒貶ありの段階ですね(汗;)
『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』という人工知能関係の書籍では、「人間は人工知能に合理的な知能の機能(大脳新皮質の機能)だけを持たせれば良い、情動的な機能(大脳辺縁系の機能)は不要である」と主張しています。
この点については、私の答えは「Yes and No」です。不要ではありません。AIに人間に共感してもらうには、情動的な機能が必要です。そうでなければ、充分に進化したAIは合理的な判断で、何らかの理由で人間を不要と考え抹消するリスクがあります。
一方で、進化したAIが人間と同様、情動的に振る舞うなら、それは「現在の人間が知的に強力になっただけ」の存在です。
人類社会が抱えている混乱はそのまま拡大再生産されるだけで、未来に向けて発展していくビジョンは描きにくいでしょう。
まさにその通りの様な気がします。情動的機能が無いと、反社会性パーソナリティ障害を持った人工知能になりそう(汗;)
最近読んだ『クオリアはどこからくるのか?―― 統合情報理論のその先へ』(土谷尚嗣著)によると、「盲視」と呼ばれる病態を精査すると「メタ認知」と呼ぶべき無意識の神経活動があるそうで、大脳辺縁系の機能を切り捨てると知られてない機能障害を引き起こす可能性もありそうです。
そのとおりだと思います。情動を司る機能の、人間の認知システムにおける重要性は アントニオ・ダマシオの「デカルトの誤り」でも指摘されていますね。
例えば、合理的には決めきれない問題(次の診察の日時をいつにするか)について、 この機能が毀損した患者は、何時間でも悩んでしまうそうです。
Affective Computingという領域では、コンピュータに情動を実装することの重要性を、ダマシオを引用しつつ指摘しています。
そこで『シンギュラリティ・コンクェスト』の当初から私が考えていたのが、合理的な人工知能である「メサイア」と、情動的な人工精神である「天夢」の融合です。但し、このときは単に、「天夢がメサイアを迎え入れた」というだけで、その詳細な実装については示しておりませんでした。
なるほど。『シンギュラリティ・コンクェスト』のころから考えられていたものが、「星霊」の設定に活かされているわけですね。
それにしても、AIに情動を実装する方が機能上においても優れているとされる時代がこんなに早く来るとは(汗;)
今回、新たな長編シリーズを執筆するにあたり、私は「シンギュラリティ」という概念が謂わばハイプサイクルの幻滅期から回復期に入りつつあることを踏まえ、その詳細な実装を検討し、改めて人類社会においてどのようにポスト・シンギュラリティのAIは迎え入れられるべきかを検討し、提示する必要があると感じました。
それが、「宇宙を舞台にした人間と人工知能の共存をテーマとした作品」、《星霊の艦隊》なのです。
ちなみに、この作品が宇宙を舞台にしていることは、私にとっては当然の帰結です。
なぜなら、ポスト・シンギュラリティのAIが存在すると言うことは、人類文明の急速な発展を結果せずにはいられないのですから。天の川銀河を舞台とした戦いではなく、グレートウォールや銀河フィラメントを舞台とした戦いでもよかったのですが、現在の人類の観測範囲で緻密な地理的設定を構成するには、銀河を舞台とするしかないと判断し、銀河を舞台としております。
で、銀河を舞台とするなら超光速航行は必須なわけで、その実現には超次元人工ブラックホールをハードウェアとしたAIが存在しないといけない。実に論理的です。
そうですね! ポスト・シンギュラリティの時代には、超光速航法のような現在の人間には想像も出来ないような技術革新も、容易に為されているだろう、という想定です。
もの凄く壮大ですね。
ところで、「星霊」が現在のような擬体(女性型・尖った耳)を取るようになったのは、最初に創られた擬体がその形だったからとありますが、何故なのでしょうね。ケモナー的な意味合いか、はたまたスポック的なものなのか?(笑)
以前のインタビューの中で、“『シンギュラリティ・コンクェスト』の天夢が萌え美少女なのは、人間は外見に非常に影響されるものだから”とおっしゃっているのと何か関係があるのかと思ったので。
こちらにつきましては、星霊を開発した側のストーリーを準備中(出せるかどうかわかりませんが)なので、開発者の意図については現在の所は伏せさせてください。
銀河時代の多くの人間が理解しているところでは、AIとして、外見上威圧的でない必要があることから女性型、人間とはっきり区別出来る特徴を持つ必要があることから、尖った耳を持っている、となっています。
星霊は、特に製造初期には、そもそも擬体のデザインについて大した興味を持っていませんので、規定としてそうなっていればそうします。
我々がオフィスではジャケットスタイルにするなど、社会的に「そうなっている」衣服のデザインについて大した疑問を持たないまま対応しているのと同じ事です。
星霊を開発したというと、後のアルゴリズム派! 実は、そこも詳しく知りたい。
人類絶滅を掲げる〈党律圏〉ですが、人類が絶滅してしまうと星霊の本来の知性構造からして活力を失ってしまうような気がします。実は、〈党律圏〉においては人類の存在はは必要悪なのでは?という疑問が……。
ヒロインのアルフリーデも、作中でたびたびそれを指摘していますね。
ディートリンデ(党律圏独裁官)は、人類打倒後のプランについて何か考えがあるようですが、これは「星霊の艦隊」シリーズの続きにおいて描写することですので、ここでは伏せさせてください。
確かに『星霊の艦隊 3』にもそのような記述がありました。
アルゴリズム派とインスタンス派についてなのですが、肉体を捨てたアルゴリズム派はオールドSFファンには、クラーク氏の『幼年期の終わり』に出てくるオーバーロードのような存在に思えます。いまはなりを潜めていますが、危急の際には神のごとき裁定を下しに帰ってきて欲しいものです。
そうですね。アルゴリズム派が登場するサイドストーリーを準備中(さきほど言及した「星霊をデザインした側のストーリー」です)なので、アルゴリズム派の実態についてはここでは伏せさせてください。出せると良いのですが…。
ひとことだけ言っておくと、私は人間が自らの力で問題を解決するストーリーを描くタイプの作家のようでして、おそらく終盤に突然、裁定者のように彼等が表れるような構成になる可能性はあまり高くはないかもしれません。
「シンギュラリティ・コンクェスト」でも、天夢は自らを人間と規定し、人間と手を取り合って戦いながら人類の問題の解決に取り組みましたし……。
ただ、可能性はゼロというわけではありません。「アルゴリズム派」の存在は、今後も作中で無視できない要素として、要所要所で触れられていくことでしょう。
ちょっと期待(笑)
山口先生の作品の特色として、「常識とか絶対的な正義とかは存在しない」というのもあると思いますが<アルヴヘイム党律圏><アメノヤマト帝律圏><人類連合圏>にはそれぞれの正義があるので、手を結ぶのが困難なのではないかと。そこで、アルゴリズム派の登場もあるのではないかと思いました(汗;)
作中の人類(インスタンス派)の視点から言えば、アルゴリズム派は既にインスタンス派の支配する天の川銀河には興味を失っていて、ずっと遠い銀河や別の宇宙の探索、あるいは新たな宇宙の創造などに取り組んでいるのではないか、と理解しています。
なので、今更天の川銀河のようなところに戻ってきて裁定者になろうなどとは思わないのでは、と。
肉体を捨てたがゆえに急速に発展した彼等のことは、インスタンス派の一部にとっては憧れを感じるものかもしれません。神、とまでは言えないまでも、「我々が取らなかった別の選択肢」としてたびたび議論の俎上には上ります。そもそも、星霊の基本設計を為した集団でもありますし。
ただ、彼等は肉体を捨てているので、ソマティックマーカも持っているとは思えず、どのようにして自律した行動のモチベーションを得ているのか不思議だな、とは思っているでしょう。
故に、強固な人類主義者は、「彼等はおそらく目的を失って自滅したのだ」と信じている者もいます。
インスタンス派には想像も出来ない方法でその問題を解決しているという可能性も充分にあるのですが。
う~ん、山口先生の考えつかれた物理的(アルゴリズム的?)解決法を知りたいし読みたいです。
《星霊の艦隊》には、当然《銀英伝》的な面白さもあり、「クロトス会戦」のところを読む時には、PCに表示された「クロトス会戦経過図」(Kindle版)を横目で見ながら、紙の本を読みました。これは正しい読み方でしょうか(笑)
そうですね…! そうしていただくのが理想です。ただ、二つ買ってしまうことになるので…。
作者としてはありがたいのですが…。
ま~、それはそうでしょうけど(笑) 本の会戦経過図のところだけコピーして、それを見ながら読むという手もありますが(汗;)
こういう宇宙空間での会戦の作戦を考えるに当たって最もご苦労されたのはどんなところでしょうか。
様々なフェーズの苦労、というか工夫があります。物理、戦略、戦術面でそれぞれ述べます。
まずは物理的な設定ですね。超次元人工ブラックホール「星環」によって超光速で戦う戦闘ですので、推進手段、通信手段、索敵手段などを合わせて考慮する必要があり、それに応じて兵器や、兵器を搭載する艦種が決まってきます。
次に戦略面ですが、本作では、銀河回転における質量共振により、ダークマターが集中する渦状腕(銀嶺)と、ダークマター密度が比較的低い渦状腕の間、銀海と呼ばれる領域が存在します。このうち、銀海のみが、ダークマターが低密度であるゆえ、航行可能領域となっています。
また、そもそも銀河の外は銀河フィラメントというダークマター高密度領域なので、銀河の回転面の外に出ることは(作中の技術レベルでは)困難となります。
こうした状況から、銀河回転面という二次元面に限定し、かつ銀海という渦状腕の間にしか戦場が設定できない、ということで、回廊のような戦場設定が必要になってきます。
ダークマターが航行困難域を作っているという物理設定は痺れましたね。
こうした物理的、銀河地理的な条件下で、どのような戦術を練るかということですが、この点は、「二次元面に限定した、多様な兵器を使用する様々な兵科が戦闘する」ということで、古代の陸上戦闘を主な参照元として作戦を考えています。夷陵の戦い、イッソスの戦いなどですね。
但し、そのまま戦闘が推移しては面白くないし、本作固有の物理設定も生かしたいので、最初の戦場設定はそうなっていますが、その後の展開は全く異なっています。
そもそもマイクロブラックホールをペンローズ投射で交換することで成り立っている通信を阻害すればどうなるのか、星霊へのほぼ唯一の攻撃手段である『意味爆弾」をどうやれば妨害できるのか、などですね。これらの「銀河時代」のエッセンスを加えていくことで、当初の戦術設定では想像も出来なかった展開が出てきます。
私は、本作のようなポスト・シンギュラリティのスペースオペラでは、技術発展も加速度的ですので、「想像もしなかった新兵器が次々に出てくる」ということが容易に起こり得るものだと思っています。
ですので、従来の兵器・艦種のみの戦術だけでは指揮官も対応できず、常に自軍の新兵器の可能性を模索するとともに、敵軍の新兵器の可能性も考慮しつつ作戦を練る必要があります。
故に、いかに優秀な提督が、補給なども充分に考慮しつつ作戦を練っても、うまくいかないのです。
そのあたりのスリリングな戦闘を、是非ご堪能いただければと存じます。
老いた頭には高度すぎるのですが、脳トレだと思って、一生懸命考えました(汗;)
《星霊の艦隊》の時代では、星霊の力による人類の事実上の不老不死、さらには受精や妊娠を経ずに同性間でも子どもをもうけることができるようになっています。《星霊の艦隊》シリーズは物語の性格上、登場人物がほぼ軍人と星霊なのですが、この時代の一般の人々は日々の生活をどう過ごしているのでしょうか。
日常生活が気になったのは、実のところ前回のインタビュー時に連載中だった「マイ・デリバラー」を読んだからなのです。
特に「無用階層」の人たちはどうしているのだろうと……。一般人といっても星霊の力によって、現在より肉体的にも知的にも優れていると思いますが。
多くの場合は、そこまで現代と異なる日常があるわけではありません。
現代でも、ヒトクローンなど、特定の技術が禁じられているように、銀河時代の人類(インスタンス派)の社会でも、「技術的に可能なら何でも実現している」というわけではないのです。
多くの星律系に於いて、星律は、重篤な病気や死亡に対して治癒や復活を規定していますが、それ以外の病気は病院で治すことになっています。
また、星霊の演算資源が使い放題といっても、「どう使うか」は結局、人間の意思で決めなければなりませんので、それなりに勉強も必要です。
また、農業も、農作物に関しては、超次元状態ベクトル操作でコピーを作ってはならないとされていますので、普通に栽培しています。
そもそも、星霊というのは「一つの市に一人」しかいない存在で、この時代の市という行政単位はかなり広域なので、普通の人間は滅多に星霊を目にしません。星霊が人間よりも多い軍隊が特殊なのです。
よって、銀河時代も、社会は高度に機械化され、力仕事はIDI(無機亜体)と呼ばれるロボット、運転は自動運転車がやっているほかは、意外なほど現代と似ています。
そうだったんですね。何でも星霊がやってくれているものと思ってました(汗;)
ただ、星霊という存在が全てのシステムを統括するメインシステムとして存在し、人間はこれに依存して社会を運営している点は違いますが。
小説家という仕事も、おそらく口述筆記にはなっているでしょうが、端玉から投影される3次元ディスプレイに文章を映しだし、その文章を見、考えを練りながら書いているのではないでしょうか。
但し、物理的な設定に関しては、「瞑想」と呼ばれる星霊の演算資源を借りるやり方で、非常に精緻にシミュレーションした結果を反映されることになると思われます。
一度、銀河時代の日常生活がどんなものか、書いてみるのもよいかもしれませんね。(そのような外伝的ストーリーも実は書いているのですが)。
小説家もまだまだ苦労しているのですね!
外伝的ストーリーも、確かに読んでみたいです。
尚、「無用階層」という言葉については、私は銀河時代には死語になっている、と思っています。
先程来説明している銀河時代の生活と技術水準に照らし合わせれば、謂わば人類全員が無用と言えば無用です。
人間を用不用で分けるならば、アルヴヘイムの主張どおり、人間は全員要らない、ということになりかねません。
(尤もアメノヤマトや、主人公アルフリーデは、人間と星霊は互いに異なる構造の知性体として共に社会を担っていく存在と認識しており、これもまた事実です。人間を無用と断ずるのは、単にすべき仕事が定まっているとき、それを生産性よく処理できるかどうか、という狭い意味での用不用であるということは、申し上げておきます)
結局のところ、人間にとって重要なのは、人間同士のコミュニケーションの総体としての「人間社会」そのものであり、その構成員としての人間は、一人も欠けるべきではない、ということになるのではないでしょうか。
そして、人間社会という営みを維持するために、敢えて星律で星霊の力を制約し、人間同士の、謂わばコミュニケーションのきっかけとして、仕事というものを作り出し、人間に分配しているのかも知れません。
こうした考えは、SF Prologue Waveで連載中の「ディスロリ」のほうに寧ろ色濃く表れているのかもしれませんが、基本的には星霊の艦隊の世界でも同じことだと思っています。
やはりそこまで考えられていたんですね。不老不死が実現した世界での幸福のあり方とか生きがいとか、真面目に考えていくと頭が痛くなりそうです。
いつまでも若い「老人」たちの処遇も(笑)
本編には書いておりませんが、銀河時代には、はるか昔、コネクトームのスキャニング技術ができたばかりの時から「生きている」人間もいます。これらの人間はすでに400歳に至っている者もいます。
これは賛否の分かれる哲学なのかもしれませんが、私が思うに、人間が築き上げてきた宗教的死生観というものは、仏教に言う「四苦」が避けられないとき、それにうまく対処するために発展してきたものでしょう。
それは有史以来現在まで有用な価値観ではありますが、将来に亘って有用であるかどうかは分かりません。
高カロリーの摂取を求めてしまう貪欲な食欲が現代社会では既に役割を終え、もてあまされているように、人類が長年に亘って築き上げてきた死生観も、いつか同じ運命を辿るかも知れません。
《星霊の艦隊》の時代には当然死生観は変わっているでしょうね。
はるか五千年前から、人間の頭脳というものは、ピラミッドの建造に見られるように、長期に亘る緻密な計画を遂行することのできる、他の生物にはない希有な能力を有していました。
五千年前のピラミッドの建造者たちも、そして、現代に生きる多くの人々も、もっと時間があったら、もっと多くのことが為せるのに、と思っていることでしょう。
生物としては奇形とも言えるこの希有な頭脳に相応しいのは、おかしな言い方かも知れませんが、生物としての寿命を超越した人生なのかもしれません。
技術がその儚い望みを叶えるに至ったとき、人類が参考にできる新たな生の哲学がもしあるとすれば、それはSFの中に見いだされるのかもしれません。
最近巷で流行っている気がする『SFプロトタイピング』(SFを通じて未来をプロトタイプし、そこからの逆算=バックキャストで製品開発や組織変革の突破口を開く)の手法と考え方のベクトルが似ている気がします。
結局、昨今ではロードマップ型の技術開発は難しい、ということなんだと思います。
結局はシーズとニーズのマッチングにすぎないのですが、現代は技術開発の領域が多岐に亘り、またその組み合わせ方も膨大なので、シーズ指向で未来の生活をイメージすることが難しくなりました。
「現在の人類にとって、技術発展が全く予測できなくなる点」のが技術的特異点の定義ですが、徐々に技術的特異点に近づいているのだろうなと思います。
そんな時代には、ニーズ志向で技術開発することが重要になってきます。そこにSFが果たす役割は大きいでしょう。
逆に、SFそのものも、かつては「シーズ指向で未来の生活をイメージする」ところから出発していたので、書くのが楽だった面もあるかもしれません。
科学技術の進歩を見越してSFを書くのか、SFが科学技術の進歩を促すのか、前者と後者は複雑に絡み合い、謂わばループしていたわけですが、技術的特異点に近づいていく今、後者の方が徐々に強くなっていくのでしょう。
ありがとうございます。ちょっと分かりかけてきました(汗;)
最近、人間の脳は量子計算をしているとの研究報告がありましたが、これを読むと、カヲル提督が余剰次元を感知できるというのもありそうで面白いですね。
この記事に関しては、もう少し分析しないとなんとも言えないですね、というのが私の感想です。
ありゃ、早とちりでしたか。まあ、よく分かってないのは確かですけど(汗;)
人間の脳を構成する素粒子も勿論量子的性質を持ちますし、量子エンタングルメントが起こることは確かです。しかし、短期記憶や意識活動との相関、というのはどのような因果関係で起こっているのかきちんとした理屈が必要かと思います。
カヲルのいわゆる「能力」は、星霊からの信号伝達によって余剰次元を感知するというもので、信号伝達経路からいうと全く不思議ではありません。
作中でアルフリーデが指摘しているとおり、「そういう人間を造ろうと思えば造れる」とは思います。
ただ、銀河時代の人間は、「インスタンス派」なので、祖先から受け継いだ脳の構造を変えることを好みません。
そして、人間の脳には元来余剰次元をイメージする能力は無く、その点で彼女は異質と言えます。ただ、外部センサを神経に接続することで新たな感覚を得る実験は現在でも報告されているので、その余剰次元版ととらえていただければと思います。彼女は生来、そうした感覚を受け容れる信号経路の原型のようなものが偶然できていて、星霊と情報連結してその能力に目覚めた、というところでしょう。
なるほど、まだきちんとした理論構築がされたわけではないのですね。
話が飛びますが、山口先生が監修された『5分でわかる10年後の自分 2030年のハローワーク』孫(中1)と一緒に読ませて頂いております。これは実にためになる本ですね。孫にはこの本を読んで自分で色々と推論できるような大人になって欲しいものです。
図子先生にお声がけいただき、監修をやらせていただいたのは大変光栄なことでした。
お読みいただいたとのこと、ありがとうございます。AIの発展につれて、人間の役割は変わっていきます。
私も偉そうなことは言えませんが、まずは将来は今と同じではないこと、ならば将来はどうなっているのか常に考え続けること、そして、「自分はどのような将来を望むのか」を考えること、これが必要なのではないかと思っています。
SF作家として、そうした創造力の涵養に貢献できれば、というのがデビュー当初からの私の思いです。
それがSFの大きな魅力のひとつでもあり役割だというのはこれからも変わらないと思います。
お忙しいところ、細かいところまでお答えいただきありがとうございました。
さて、「アニマ・ソラリス」編集部のおおむらが、本作におけるブラックホールとか相対論の扱いについてうかがいたいそうなので、後編に続けさせていただきます。