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7. ダークマター Dark Matter

白田英雄

いよいよこの連載も最終回となりました。
最終回の話題は、今宇宙論の話としては一番ホットな話題となっている、ダークマターの話にしましょう。
ダークマターは暗黒物質とかミッシングマス missing mass (失われた質量)などとも言われます。
古くは1933年にツビッキー Fritz Zwicky (1898 - 1974)が髪の毛座銀河団の研究をしていたときに、銀河の動きから見えない物質があることを予言したのがはじまりだと言われています。
髪の毛座銀河団の銀河の運動について、銀河の数から推定される銀河団の質量よりも、多くの質量がないと、計算があわないということがわかったのです。銀河団のトータルの質量は、実際に見える銀河の数と光の強さから計算されました。
実際にこのダークマターの存在が計算によってはっきりしてくるのは1960年終りから1970年初頭にかけてのことでした。銀河集団の動く速さは、水素元素の吸収線のドップラーシフトによって調べることができます。
では、ダークマターの正体はなんなのでしょうか。
まず考えられるのは、暗い天体説です。
銀河集団の運動に関連する計算は大体これで辻褄があうようです。渦巻銀河などでも、渦の外側に銀河ハローと呼ばれる暗い星があると考えられています。これらの物質はマッチョ MACHO (Massive Compact Halo Object)などと呼ばれていたりします。
ダークマターは銀河集団の運動以外にも、宇宙の膨張の速さを決定する決め手ともなります。宇宙のトータルの質量が少なければ、宇宙の重力が小さくなって、膨張速度は大きくなります。逆にトータル質量が多ければ、宇宙の重力が大きくなって、膨張速度は小さくなります。
観測される宇宙の膨張速度からは、ダークマターの正体がMACHOだけでは足りていないということがわかってきています。
そこで考えられるのは、天体を作るほどではない、希薄なガスなどを作る原子などがダークマターの正体ではないか、ということでした。しかし、それでもダークマター全体の質量をまかなえるほどではありませんでした。
次に考えられたのは、ほとんど質量がないとされていたニュートリノがダークマターではないかということでした。この説は以前、かなり話題になったので、もしかしたら読者の皆さんのなかには耳にした方もあるかもしれません。ところが、最近の実験や観測によって、ニュートリノの質量でもダークマターには足りないということがわかってきました。
その他の冷たい暗黒物質として、アクシオン axion とか、超対称性粒子などが考えられています。ところが、これらのダークマターと見える星などをすべて集めても、宇宙の質量の30%にしかならないというのが最近の観測による結果だったりします。残りの70%は物質ではなく、ダークエネルギー dark energy という形で存在することがわかってきています。
さて、話が少し変りますが、膨張する宇宙でも述べましたが、アインシュタイン Albert Einstein (1879 - 1955) の一般相対性理論による、アインシュタイン方程式で、宇宙全体の進化を調べることができます。ところが、宇宙項という項を入れないと、宇宙はあっというまにつぶれてしまって、現在のような宇宙はありえないことになってしまいます。アインシュタインの計算のすぐあとで、宇宙項がなくてもつぶれない宇宙の式は計算できたのですが、最近になってその宇宙項が復活してきています。
宇宙項の正体はなにか、というと、これがあればつぶれない宇宙を作ることができることからもわかるように、真空中の斥力としてあらわれます。この宇宙項がダークエネルギーの正体ではないか、というのが現在のトレンドです。
背景放射の最後に出てきた、WMAP衛星などの観測によって、宇宙は平坦であるということがわかってきました。宇宙が平坦であるためには、アインシュタイン方程式から宇宙の全体の質量がどれくらいかということが決まってきます。
しかし先ほど述べたように、ダークマターや見える星などのトータルは、この必要となる質量の30%しかありません。つまり、残りの70%のダークエネルギーの存在によって宇宙は平坦であるということになるのです。

8. 参考文献 reference

さて、宇宙というのは、実際に宇宙そのものを観測することはできなくて、地球に届く、光や電波や赤外線などを分析することで、間接的にしか観測することができません。宇宙論はこうした観測の積み重ねによって発展してきました。
ところが、こうした間接的な観測によってしか結果が出ない学問である宿命か、宇宙論では理論のはやりすたりがあったりします。
インフレーション宇宙とかビッグバンなどの理論は、このはやりすたりをくぐりぬけて現在の形になってきているのです。
そのせいか、宇宙論では、これ、と決まった形で理論を示すのは困難となっています。今日主流だった理論が明日には否定されてるかもしれないのです。
そういった意味で、この連載で書かれた内容も明日には陳腐化してしまっているかもしれません。そのことは肝に命じておいて欲しいです。
最後にこの連載で参考した書籍を挙げておきます。

「図解雑学 宇宙論」二間瀬敏史(ナツメ社)
「なっとくする宇宙論」二間瀬敏史(講談社)
「よくわかる最新宇宙論の基本と仕組み」竹内薫(秀和システム)
「宇宙はこうして誕生した」佐藤勝彦(ウェッジ)
「宇宙のシナリオとアインシュタイン方程式」竹内薫(工学社)
「ブラックホール天文学入門」嶺重慎(裳華房)
「暗黒宇宙の謎」谷口義明(ブルーバックス)
「いまさら宇宙論?」佐藤文隆著、パリティ編集委員会編(丸善株式会社)
「宇宙論はいま」寿岳潤・パリティ編集委員会編(丸善株式会社)

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