シュレーディンガー方程式の解のところでさらっと書きましたが、場の量子論を理解するためには調和振動子の解について考える必要があります。
調和振動子というのは早い話がばねの伸び縮みの運動を量子論的に扱ったものだと思えばいいです。この調和振動子の解において、位置と運動量を足したり引いたりして適当な係数をかけてやると、生成演算子と消滅演算子ができます。 なぜ生成消滅演算子というかといいますと次のような理由からです。ある状態の波動関数に生成演算子をかけてやると粒子の数が1個増え、消滅演算子をかけてやると粒子の数が1個減ることになるからです。このことは調和振動子の解というものは1個の粒子についての解ではなくて、いくつかの数の粒子を持った状態の『場』を表現してることを表してます。
もっともこのままでは『場』は古典量子論的なものでしかないのですが、相対論的量子論を考えたときに、この同じ生成消滅演算子が登場してくるのです。
前回説明しましたように、相対論的量子論の基礎方程式として登場するのはクライン・ゴルドン方程式とディラック方程式でした。このふたつの方程式の解は古典的なシュレーディンガー方程式の解と違って確率解釈ができないということも前回書きました。
シュレーディガー方程式の解は波動関数としてとらえられていましたが、クライン・ゴルドン方程式とディラック方程式の解は波動関数としてとらえず、『場』としてとらえることができるのです。
するとどうでしょう。解には粒子の消滅演算子とその反粒子の生成演算子が含まれるものと、粒子の生成演算子とその反粒子の消滅演算子を含むものの2種類が出てくるのです。(この反粒子というのも相対論的量子論での特別な概念でした。)
このことは、クライン・ゴルドン方程式やディラック方程式で表される解の『場』というものが、粒子の生成や消滅を繰り返すところだということを表しています。
ちょっと話がこんがらがってきたかもしれません。
不確定性原理のところで書きましたが、時間とエネルギーをいっしょに同時に測定することはできなくて、極短い時間を考えるとエネルギーの不確定性が増すということを示しました。 相対論が示すようにエネルギーイコール質量ですので、極短い時間では粒子がなにもない真空から突如現れることがわかります。もっとも極短い時間にその粒子は再び消滅してしまうことになりますが。このように、真空は粒子が生成と消滅を繰り返している世界なのです。
不確定性原理を考えなくても、真空にエネルギー(例えば光子など)をあたえてやると、そこから粒子と反粒子が飛び出してきます。(粒子の対生成) また反対に、粒子と反粒子を衝突させてやると、粒子と反粒子は消滅し、エネルギーへと変化していきます。 これはどういう意味を持ってるのでしょうか。真空と呼ばれてるなにもない空間も、そこは粒子や反粒子が生成消滅を繰り返す『場』であるということです。
エネルギーとして光子を例に出しましたが、光子そのものも、マックスウェル方程式で表される相対論的素粒子でした。つまり、この『場』では粒子が別の種類の粒子へと変化する可能性も示唆してるということなのです。
このようにクライン・ゴルドン方程式やディラック方程式の解を『場』としてとらえなおす操作のことを第2量子化といい、この『場』について調べる物理を場の量子論と呼びます。
場の量子論は重力や電磁力などの遠隔力を扱う際に威力を発揮します。これはまた回を改めることとしましょう。
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