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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『きつねのつき』
> 北野勇作著/西島大介装画
> ISBN-13: 978-4309020570
> 河出書房新社
> 1600円
> 2011.8.30発行
 きつねのつきはきつねつき、いつか落ちるよすととおおおん。人に化けた者たちが徘徊するこの町で、私と、天井に貼りついた妻と、娘の春子と、三人で静かに暮らす。正しいのか間違っているのかはわからない。私がそう決めたのだ―3・11後の世に贈る、切ない感動に満ちた書き下ろし長編。

『ヒトデの星』
> 北野勇作著/山村浩二装画
> ISBN-13: 978-4309021546
> 河出書房新社
> 1600円
> 2013.1.30発行
 昔々あるところに、どんなものでも作ることができる工場があったが、その工場はプログラムエラーから、工場内で小さい工場を作りだし、それが更に小さい工場を作り、それが何度も繰り返され、世界の何もかもがグズグズの泥の海になってしまった。
 昔々あるところにヒトデから作られた男がいた。ある日のこと、男は、仕事帰りに見たことのない箱を拾う。男の生活は一変し、ささやかな世界の再生がはじまった…。

『社員たち』
> 北野勇作著/オカヤイヅミ装画
> ISBN-13: 978-4309622231
> 河出書房新社
> 1600円
> 2013.10.30発行
収録作:
「社員たち」「大卒ポンプ」「妻の誕生」「肉食」「味噌樽の中のカブト虫」「家族の肖像」「みんなの会社」「お誕生会」「社員食堂の恐怖」「社内肝試し大会に関するメモ」「南の島のハッピーエンド」「社員の星」
 地中に沈んだ会社を掘り出す話だったり、怪獣クゲラが誕生したり、妻が突然卵になって生まれ変わったり、低所得者向けに悲惨きわまる未来改造プログラムが開発されたり、頭の中にカブト虫が住み着いたり、何をやっている会社か分からなかったり、ある日突然社員食堂が恐怖の対象になったりする、奇想と笑いと哀愁に満ちた、超日常の世界。

『かめくんのこと』
> 北野勇作著/森川弘子絵
> ISBN-13: 978-4265075010
> 岩崎書店 21世紀空想科学小説
> 1500円
> 2013.7.31発行
 すごくでっかいカメがいる。ユウジとタカシが、そんな話をしているのを聞いたのは1時間目の始まる前のことだった。「足で立って歩いてたんだよ」それも、海でも動物園でもなく、空き地に、だよ。これは、絶対に自分の目でたしかめなくてはいけない。「私も行くから」なぜかいっしょに行くことになったハマノヨウコとぼくは、空き地が丘の驚くべき秘密を知ることになる!?

雀部> 《21世紀空想科学小説》シリーズ、今月の著者インタビューは、昨年の7月に『かめくんのこと』を出された北野勇作さんです。北野さんにインタビューさせて頂くのは最初の『かめくん』、二回目の『どーなつ』、三回目の『空獏』『メイド・ロード・リロード』に続き四回目になるんですね。
 今回もよろしくお願いします。
 そういえば、「繁昌亭 de ハナシをノベル!! vol.5」では、ご尊顔を拝することができました。
北野> よろしくお願いします。あ、繁昌亭へのご来場ありがとうございました。
雀部> もぎりでお忙しそうでした(笑)
 そういえば、2月28日に暗闇で朗読されたそうですね。
北野> 田中啓文さんと組んで暗闇朗読隊としてライブをやってます。だいたい二ヶ月に一回くらいかな。いちおう私は芝居とかやってるし、田中さんは音楽をやってるし、ふたりともハナシをノベルで新作落語を書いてるし、ということで、ちょうどいい組み合わせだと思います。舞台とか笑いとかに関する考え方がけっこう近いんですね。作家の朗読って、なんとなくお勉強会というかちょっと高尚というかそんなイメージがありますが、そういうのとは違う、もっと落語とか講談に近いようなことをやりたくて始めました。まあそうなっていると思います。
 牧野修さんが作ってくれたPVもご覧下さい。あ、ナレーションは私がつとめております。
雀部> 牧野さん、たしか『郭公の盤』のPVも作られてましたよね。
 『どろんころんど』は童話(のような)でしたが、『かめくんのこと』と対象年齢は異なっているのでしょうか。
北野> 『どろんころんど』は、中学生くらい。『かめくんのこと』は、そのちょっと下くらいの年齢だと思います。といっても、主人公の年齢とか文章の中に使う単語を意識したくらいで、自分の中では、普段書いてるものと変わらないです。もともとそんなふうにしか書けないので。
雀部> 北野さんといえば、やはり“かめ”だと思いますが、書かれるに当たって編集さんから何か要望はあったのでしょうか。
北野> ありません。どちらも、いちど最後まで書いてしまってから、「こんなのになってしまったんですが、大丈夫でしょうか?」と編集者にメールしました。だいたい、いつもそうですけどね。
東野> 北野さんには「北野さんの世界で」と最初からお願いしました。
雀部> あ、東野さん!
 毎回コメントありがとうございます〜。
 やはりそうですよね。>「北野さんの世界で」
北野> 「たぶんあんまり前向きなお話とか書けないと思うんですけど、そんなのでもよければ」とか、東野さんに言ったような気がします。
雀部> 表紙画と挿絵は奥様の森川弘子さんですね。
 当然これは北野さんからの要望だったのでしょうか。
 やはりやりやすいものなのでしょうか?
北野> まあ彼女も亀好きなので、いい亀を描いてくれることはわかってました。SFマガジンに書いている「カメリ」の連作でも、レプリカメを描いてもらってるし。
雀部> あ、そうだった>「カメリ」の挿絵
 そう言えば、“父が売れない小説家で、母の仕事は絵を描くこと”の主人公が出てくる小説があったよなぁと思ったら『かめ探偵K』だった(笑)
 娘さんが読むことは想定されているのでしょうか。というか当然娘さんも読まれてますよね?
北野> もともと自分が子供向けのものを書くなんて思わなかったし、書けるとも思ってなかったです。子供のことなんかわからないし、自分が子供の頃のことなんか忘れてしまったし。でも、自分の子供が成長していくにつれて、近所の子供たちと接する機会が多くなってきて、自然に小説の中にも子供が出てくるようになりました。『レイコちゃんと蒲鉾工場』あたりからですね。いつからか子供が寝るとき本を読んでやるようになって、どういうことをおもしろがるのか、がわかってきたというか、思い出してきたというか、そういう視点に自分を置けるようになって、それで『どろんころんど』を書いてみたんです。
 だから、この小説も娘が書かせてくれたようなものですね。これ以上の取材はないです。もちろん娘にも読んでもらったんですけど、イラストがかわいい、という感想ばっかりでずいぶん悔しい思いをしました。
雀部> それについて、奥様からは感想はなかったのでしょうか>“イラストがかわいい”
北野> 「そやろ」と言ってました。
雀部> それは、母親らしい感想ですね(笑)
 うちには孫が居て上の孫が4月から幼稚園(4歳男)なので、そろそろ本を読んでやりたいのですが、どういうところに気を付けたら良いでしょうか。いまのところあまり興味を示さないんで時期が早いのかなとも思ったり。しかし自分の子供の時は、確かこの頃に昆虫図鑑を読んでやっていたなあと思い出しました。
 アンパンマンとプラレールに勝ちたい(笑)
北野> うちの娘の場合は、寝るときに好きな絵本を読んでやってました。絵本が終わってからは、「怖い話」でした。「怪談レストラン」とか。もともと読んでやろうと思ってたんじゃなくて寝る前に、これ読め、あれ読め、ってうるさかったから、読んでただけですけどね。まあ朗読の練習にもなるからちょうどいいか、という程度で。実際、声に出して毎晩30分くらい読むのは、けっこうしんどいですよ。ちゃんと腹式呼吸でやったらダイエット効果くらいあるかもしれません。読み聞かせダイエット、とか。
雀部> 絵本の次が「怖い話」がご所望だったとは。うちのは、怖い話は全く受けつけないヘタレなんです(苦笑)
 『きつねのつき』や『ヒトデの星』を読ませて頂いて、主人公たちの頭の中は子供たちと似ているんじゃないかと思いました。あまり体系立てて考えてないとか、目先のことが最優先になるとか。大まかな規範は大人が決めてくれるし。自分のことがあやふやでも、気にしないし、たぶんそもそも気付いてもいない。
 しかし春子ちゃん可愛いですね。
北野> 大人の世界の捉え方も基本的には子供のそれと同じだと私は思っています。大人はいろんな経験則でわからないなりに補って、それで世界がわかったように錯覚しているだけで。
 だから、経験で補えない状況に放り込まれると、いろんなものを剥ぎ取られて結局は子供と同じようにしか反応できないのではないかと思います。大人は自分で考えてるほど大人ではないし、子供は大人が考えるほど子供ではないですね。それは自分の子供を見ていてよく思います。それもいい取材ですね。
 それで言うと、『きつねのつき』はもともと、娘が三歳くらいの頃に、今感じているこういう感じというのは絶対に忘れてしまうだろうからなんとか文章で定着しとかないと、と思って書き出したものでした。
 書きたかったのは、冬の夕暮れとかに子供と手を繋いで路地を歩いているときのなんとも不思議で奇妙な感覚だけで、お話はそれに付いてきたようなものですね。だからまあ小説の中の女の子が可愛いのは当然かもしれません。
雀部> 大人は自分が考えているほど大人でないとか、そもそも人間は自分のことをどれだけわかっているのだろうかという命題は、北野さんの本を読んでいるときよく感じます。そういう意味では、北野さんの大人向けの小説も、子供が読んでもその年齢なりに面白いのかなと思っています。
 『かめくんのこと』→『どろんころんど』と読んだ小さな読者が、つぎに読むとしたらどの本がお薦めでしょうか。
北野> 『かめくん』がいいんじゃないかと思います。『かめくんのこと』は、そういう階段としても機能するんじゃないかと思って書きました。このかめくんはあのかめくんと同じなのか、とか、同じでないといけないのか同じじゃなくてもいいのか、とか、繋がってるのか繋がってないのか、繋がってないといけないのか繋がってなくてもいいのか、とか。
 正しい答えが用意されてないようなことをあれこれ考えてくれたら嬉しいんですけどね。そういうのが自分で小説を読む楽しみだから。
雀部> それは私も考えましたよ>このかめくんはあのかめくんと同じなのか……
 そういう考えを抱かせるという意味では、子供に読んで欲しい種類の小説ではありますね。 なんか9歳まではよく遊ばせて、抽象的な物事のとらえ方を身につけた方が将来伸びると最近聞いたのですが、ぴったりかもしれません。
北野> 小説の読み方の先入観みたいなものにとらわれていない子供のほうが、ちゃんと読んでくれるんじゃないかと私は期待しています。そういう意味では、まったく手加減はしてませんね。小説というのは事実ではなくて記述である、とか、現実がひとつとは限らない、とか他にも、大人の読者があまりちゃんと読んでくれないようなことも普通に書いてます。
雀部> 現実は一つじゃなさそうだというのは、最近せつに感じてます。
 カメもの(笑)の他にサラリーマンものがあっていつも笑いながら読ませて頂いてるのですが、北野さんはサラリーマンをされたことがあるのでしょうか?
北野> 十年近く会社員をやってました。まあ倉庫でフォークリフトに乗るような仕事でしたから、いわゆるサラリーマンという感じじゃないですけど。でも、会社でのことはかなりネタになってますね。「小説を書くためには何をしたらいいですか?」という質問には、「就職」と答えてます。
雀部> 『社員たち』も、いかにもな内容に笑いながら読みました。一番のお気に入りは、ハッピーエンド風の「南の島のハッピーエンド」です。あのラストは、タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』に通ずるものを感じました。
北野> たしかにあれは映画とか舞台っぽいかもしれません。途中がどんだけぐちゃぐちゃになっても綺麗に雪が降ったらなんとなくハッピーエンドみたいに終われるやろ、とかそんな感じです。
雀部> 面倒くさいことを考えずに主人公がのほほんとしているなら、それはそれで幸せなんだろうなと感じさせるのが北野さんの凄いところだと再認識しましたよ。
 そういえば、『ヒトデの星』も切ない話ですよね。『皆勤の徒』の著者インタビューをさせていただいた時にも感じたんですが、時代が北野さんに追いついてきたなと。
 同じような設定と主題を扱っていながら、テイストは「ブルー・シャンペン」と「冬のマーケット」以上に違う(笑)
北野> 『ヒトデの星』も『皆勤の徒』も会社員小説ですよね。そして、会社員小説としてはかなり変だ、というところも共通している。そういうのが同じ時期に出るというのは、まあ偶然ではないでしょうね。小説というのは、世の中の無意識みたいなところがあるから、とくにSFにはそういうものが反映されやすいのではないのかなあ。「時代が追いついてきた」というより「世間にいろいろ余裕がなくなってきて、現実の外側が剥がれて内臓とか骨が見えやすくなってきた」のかもしれません。それは世の中にとってはあまりいいことではないような気がします。
雀部> 最近、世の中(まあ日本のことしかわかりませんが)全体に余裕が無くなってきた感じはしますねぇ……
 まあ、見なくてすむものなら、内臓とか骨などは見たくない人は多いだろうし、見ない方が気楽だろうというのはあると思います。SFファンは、見たがるかもしれないけど(笑)
 世の中これからますます情報化社会になっていくなかで、雑多な情報の中から必要で正しいモノを見つけ出す能力を身につけるにも、SFを読んで考える力を養うのが大事じゃないかと思っています。それになにより読んで面白いし(笑)
 『かめくんのこと』や《21世紀空想科学小説》シリーズを読んで、北野さんの小説に興味を持った小中学生の読者に、なにか一言ありましたら。
北野> そうですねえ。「小説を読んでください。おもしろかった小説があったら、その近くを自分で掘ってみてください。同じ作者とか同じ題材とか同じシリーズとか。そうやっておもしろいものを自分で見つけることができるようになれば、たぶん一生退屈しないですみますよ」くらいですかね。
雀部> 最後に、近刊予定とか執筆中の作品がございましたらご紹介下さいませ。
北野> 創土社から出てるクトゥルー・ミュトス・ファイルズというシリーズがあって、クトゥルー神話へのオマージュというか、クトゥルーをネタにしたアンソロジーなんですけど、それに書くことになってます。SF作家がけっこう書いてますね。私が書くのは『狂気山脈』をネタにしたやつです。あと、SFマガジンに書いてきた『カメリ』の連作に手を入れて一冊にまとめる予定です。
雀部> ううむ、北野さんとクトゥルーかぁ。良い意味で想像がつかないな(笑)
 『カメリ』も楽しみに待っておきます。


[北野勇作]
北野 勇作(1962年生)兵庫県高砂市曽根町生まれの日本の小説家、SF作家、落語作家。劇団「虚構船団パラメトリックオーケストラ」所属の役者でもある。大阪市生野区在住。血液型はB型。
1980年に甲南大学理学部応用物理学科入学、在籍中は落語研究会に所属していた。卒業後は神戸市に移住し、会社勤務の傍らSF短編や創作落語の台本などを執筆する。『SFマガジン』誌や、『SFアドベンチャー』誌の「森下一仁のショートノベル塾」などへの投稿を経たのち、1992年に『昔、火星のあった場所』で第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、作家デビュー。同年、落語台本「天動説」で第1回桂雀三郎新作落語〈やぐら杯〉最優秀賞受賞。2001年、『かめくん』で第22回日本SF大賞を受賞。
妻の森川弘子はイラストレーター・漫画家で、『年収150万円一家』など節約をテーマにしたコミックエッセイを執筆している。
[雀部]
『かめくん』の頃から、変な面白い話を書かせたらNo.1なのは現在でも変わりませんね。作風は違うけど、へんてこでしかも面白い話を書けるという点からいうと、英語圏ではラファティ氏、日本には北野勇作さんが居る!(笑)

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