「小林ひろき自作を語る」関連

「小林ひろき自作を語る」で、
“ご指摘は本当に勉強になるので、私が火だるま(笑)になっているところをSF関係で知人になった人たちやTwitterのフォロワーに見せたいですね。きっと初めてSFを書き始めた人の参考になると思います。”
とのことで、SF的な設定に対する突っ込みをぜひ公開して欲しいとの要望がありましたので、以下に公開しておきます。リンクの無い短編も、公開され次第順次リンクを張っていく予定です。
私からの指摘は、良くあるアイデアで古びていると言えば確かに使い古されているパターンなのでちとあれなのですが(汗;)
それを踏まえて、さらにひねった構成・展開が欲しいところではあります。

「SFの小箱(1)テラフォーミング」

冒頭で“土の下には石灰石が埋まっていた”という記述があるので、SFファンだと、ここはかつて海が有りCaを含有した骨格をもった有機生命体が豊富にいてその残骸が石灰石になったんだなと考えます。←読む上での前提条件ですね。
石灰岩があればその成り立ちから、水棲のCaの外骨格を持つ生命体が大量に棲息していたと推測されるという話です。海中で二酸化炭素と結合した古代生物の遺骸の集積物ですから。大理石もその仲間です。玄武岩などは火成岩なのでCaCO3成分は無いはずです。石灰岩は、半分以上がCaCO3。
でもその後「石灰石を燃やす炉」というのが出てきて、石灰石は既に酸素を含んでいるので燃えないぞ!(一酸化炭素は燃えますが(笑))、それは何だと思うんです。まあ何かを燃やす時に石灰石を混ぜて二酸化炭素を出す装置かなとは想像しますが。
かようにSFファンは面倒くさいところに拘っちゃう(笑)

SFの小箱(2)重力制御
宇宙で波乗りというと、久美沙織先生(「マザー」のノベライズで有名)の出した短編集「星のキスメット」(宇宙船の廃棄エネルギー流に乗って遊ぶサーファーというサイケなやつが主人公)を思い出した(笑)(http://sasabe.com/SF/news/kumi6.shtml)
“重力波は光速で伝播する波であるから、その曲面を滑っていくことは可能”ということなんですが、冒頭にこの文章が出てくるから「ああ、そういう雰囲気の話なのね」と思いました(笑)
ただ、同じく光速で伝播する波である電波の曲面を滑ることが可能かというと?(笑)
重力波観測所LIGO、Virgo、KAGRA等の名前を出しているので、あまりファンタジー寄りにするのは無しにすると、無難なのは「先生は、自らを情報としてデジタル化し(城ごと?)、その情報で変調をかけた重力波となり、他の重力波に波乗りする」とかなんとか(笑)

SFの小箱(3)タイムトラベル
タイムトラベラーの“トロッコ問題”。9.11を予知できたら防ぐかどうか。それが本来の歴史ならやむなきの立場を取るかどうか、難しい問題です。
著者インタビューの久永実木彦先生は、一人でも死亡者が出たら、それは歴史改変の対象になる世界を描いて(なんと人手不足で担当者は非正規職員)怖かった。
同じく著者インタビューの岡本俊弥先生は、「時の養成所」で、人類が滅んだ時間線を守るタイムパトロールの人間を描きます(遠い未来では異生命体が地球を支配している。で、件のタイムパトロールは、その異生命体が養成している)
どちらも、そりゃ職員は病みますわ(そういうタイムパトロールに私はなりたくない^^;)

SFの小箱(4)タイムパラドックス
これがちと分かりづらいかも。
進行順なのですが、/1→/2→/3……と考えると
【/1】では、主人公の息子である大海が未来からやってくる。ここでの大海は19歳、主人公は16歳。ううむ、息子が年上というのは変な気分ですね(汗;)
【/2】で、「一回だけ、過去に戻れるのか」は勇輝の言葉みたいですね。とすると過去に戻った勇輝は、どこかの時点の自分を励ましに過去に戻るのかなと考えられます。
【/3】だと、“大海の頬のほくろが僕と全く同じ場所にある”となっているので、ここでの“大海”は未来から来た勇輝なんですね。主人公が勘違いしているだけで。
【/4】で、母親=彩が登場。「ふたりの大海がいてくれた」とあるので、未来から大海がやってきたことによって改変された過去においても、勇輝が二人いてそれぞれの時間線の未来に二人の大海が居たことが示唆されている。
【/5】では、彼女=彩だとして、人生の終わりを迎えた夫婦が居る。幸せだったんだろうという暗示がある。


「SFの小箱(5)質量保存の法則」

「冷たい方程式」で扱った密航者の質量がそのまま効いてくる燃料問題とは異なって、新生児の酸素必要量はそれほど増加しないと考えられます(重量もそうですが)。妊婦さんの子宮にいる状態で、母親から酸素と栄養をもらっているわけですから(元々母親の消費が胎児の分増大している)。
あと搭乗者が全部で16人いたら、赤ん坊ひとり分の酸素くらいどうにでもなりそうです。
みんな強制的に眠らせておくとか(笑)やるなら夫婦二人くらいの搭乗者にして、緊迫性を増すのが良いと思います。
「彼女が生きるために、この宇宙船は引き返す判断をした。」のところも、その判断の根拠を描いて頂く方が面白いと思います。酸素消費量という時間的なものと、引き返すという今までの運動エネルギーを無駄にする行為(燃料消費倍増)ですね。それを入れるとソーラーセイルの必然性(?)が生きてくると思います。
引き返すということは得られた速度をなくしてさらに反対方向へ加速しないといけないので、燃料消費はかなり増えると思われます。
普通というか経済的な燃料使用を追求すると、最初は加速してその推進方法で得られる最高速度に達したら、エンジンを止めて等速度運動に移行、目的地に近づいたら逆推進で減速という行程になると思います(行程の半分に来たときに最大速度に達してない場合はこの限りにはあらず)。まあ相手が惑星の場合、公転しているわけで、出発時点でどの位置に居て、到着時点ではどの位置に来ているかも加味するともっとそれらしくなります(笑)
「SFの小箱(6)エントロピーの増大」
これ、面白いです。
ただ、主人公の形態がよく分からないのが難点かなと思います。大きさも不明だし。
読み取れるところからは、どうも宇宙空間に漂うガス状生命体の様に思えますが、それにしては固い交接器官があるようだし、雄雌の別もあるようだし。
あと、題名との乖離があるように思います。エントロピーの増大をうたうからには、それについての記述がもっと欲しいところです(落ちをエントロピー絡みにするとかも)
例えば、ガス状生物なので、エントロピーの法則に従ってガスが混ざり合うのをどうやって防いでいるかとかとか(全体が均質になると生命維持は不可能と思われます)、周辺部からガスが漏れ出し薄くなるのを防ぐ生体反応はどうなっているとかです。
神を持ち出すのであれば、ガス生命体ならではの神の形態・能力の描写があるとうれしいです。まあ、ラストで「なんだ俺は神のようなものじゃないか」と悟るという落ちはありそうですが(笑)
異生命体を描写する際、人間に理解不能の存在として描く場合と、人間に模して理解しやすく描くやり方がありますが、この作品は後者だと思います。そうであれば、この存在が神を夢想し出すに至った原因を描くとか、母親もいるようなので祖先からの伝承であれば、それを描くともっとそれらしくなりませんか?
「SFの小箱(7)反物質」
ちょっと詰め込みすぎな気もしますがそれは置いといて。
粒子加速器を使った反物質生成には、対消失で得られるエネルギー以上の電力を必要とするので、エネルギー事情からいうと当然マイナスです。ただ、宇宙空間で太陽エネルギーによって反物質生成して、それを地球に持ってくるアイデアは良いのでは。
あと、反物質があれば何でもできる感じに描かれてますが、現在の技術では対消失は、核分裂以上に制御が難しいと思います。制御技術をすっ飛ばして宇宙船のエンジンに利用するのも飛躍しすぎな感があります。
あと、惑星開発がどんどん進んで帝国が出来るように描かれてますが、どうも前提に超光速航行が前提にありませんか?それなら、そこについての説明も欲しいところ。例えば
「ヨーロッパのCERNで対消滅による事故が起こり、スイスのジュネーブとフランスの一部が消失した。」→
「ヨーロッパのCERNで対消滅による事故が起こり、スイスのジュネーブとフランスの一部が消失した。しかし悲劇だけではなかった。事故の際の巨大エネルギー集中による時空の破れが観測され、それにより超光速航行の道が開けたのだ」
と入れておくと、超光速航行が出来るようになった設定なんだなと読者が思います。
「1マイクログラムの反物質をお茶漬けに注ぎ、飲み干して、」とありますが、これは書かない方が(笑)お茶漬けに入れた時点で大爆発でしょう(笑)
石原藤夫先生の短編に、ブラックホールのお茶漬けは出てきましたが(爆笑)

「SFの小箱(8)バイオテクノロジー」
本題に関係ないのですが、「各星系から送られてくるウィルスや細菌の分析を三日三晩続けて、対処法やワクチンのデータを送信していた。」とあるので、超光速通信が実用化されているんでしょうね。さらっとでも良いからその記述が欲しいところです。
最初の患者であるジョミィの店のお客は、閉店時には死んでいたのに、ジョミィは二日後に死んでいるのが見つかるということはたぶん潜伏期間に差があるということで、その原因を追及する流れになるのかと思いきや(笑)
巣→ウィルス→巣、という人間が媒介するアイデアは面白いです。とくに破綻は無いような気がします。
ただジョミィとエドの感染が唐突に終わるのがもったいないです。あるウィルスの感染がエドの鉱物化の原因で、それは人間の新たなステージ(人間と巣と鉱物のハイブリッド)への進化の前触れとなったとかなんとか。そういう理屈を付けて、全人類が鉱物人間になっていくパンデミックを描くとかはどうでしょうか?

「SFの小箱(9)生命倫理」
「SFの小箱」シリーズではもっとも好きな作品で、完成度も高いと思います。
特に、ノビェ・イエ全住民にシャーマンの能力を持たせるという発想の転換が面白かったです。ただ、その理由付けが弱いような。このままでは、ノビェ・イエ住民が嵐を予知する能力を持った代わりに全員深刻な頭痛持ちになったようにも読めるので(汗;)
ここは、「シャーマン一族は尊敬し恐れられているが、一般の民とは距離を置いた関係で恋愛・婚姻も一族同士に限られていた(差別されていた)」とかの理由のほうが良くありませんか?

雀部 陽一郎 の紹介

SF関係では、東野司さん、橋元淳一郎さん、久美沙織さん、平谷美樹さん、石黒達昌さん、上杉那郎さん、伊藤致雄さんのオンライン・ファンクラブ管理人してます。どうぞ、よろしく。また、懐かしいSFについて語ろうというメーリング・リストも主宰してます。昔は良くSFを読んだが、最近はさっぱりという方は、ぜひどうぞ!(笑) http://www.sasabe.com/SF/
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